迷い込む魂とそれを迎え入れて送るものたち、その冬の情景

鳥取県東端に位置する若桜町。まさに田舎と言うよりない町の中、わずかに賑わう駅の周辺区画に「和食処 若桜」はある。ただし、その店を切り盛りするのは人間ならず、料理上手な幽霊少女コンと神狐サナ。訪れる客はこの世に思いを残す亡霊たち。そしてコンは彼らの心を癒やす、最高の一品を振る舞うのだ。

若桜町といえば風光明媚が売りの地ですね。なのに棚田映える春秋ではなく、山野青く萌え立つ夏でもなく、あえて冬を選ばれたところに趣を感じますよねぇ。やわらかい筆で綴られていく物語なのですが、死というものにもたらされる確かな重さがある。それだからこそ、この冬の持つ絶対的な静やかさや、それでもやがて訪れる春への期待がいや増す感じもあって。

こうした重いテーマにそれだけじゃない“一条”を匂わせられること、まさに筆者さんのセンスですね。諸手を挙げて、高評価と好評価を贈らせていただきますよ。

冬であればこそのやさしい物語、あったかくしてご一読ください。


(「季節、秋から冬へ」4選/文=髙橋 剛)