第7話

 夜明けと共に私は死ぬことにした。


 神の恵みグレイスはもうここには届かない。


 神様、神父様、そして私。


 それらから解放されて今ここに立つ私は抜け殻のように空虚だった。それなのに私の両手の罪業は神という体のいい辯解べんかいを失った今となって、余りにも絶望的に重たかった。


 最後にあの朝焼けの中の神山をみることを望み私はここに立っている。


 周りを見渡した。折り重なった死体。焼けた家々。


 誰もが死に何もかもが失われた。


 傍らにも村人の亡骸があった。かつて親しみの込もった目で私を見た眼球はその動きを止めただ赤く血で濡れそぼっている。


 これは罰だ。


 私には自らの殺めてきた数多の命が折り重なっているようにすら見えた。


 私の視界は一瞬ぶれ耐えきれず嘔吐した。内臓がひっくり返るような感覚に私は身悶えする。


 何かひとかけらでいい。失われていないものはあるはずだ。そう思いたかった。


 だからこそ私は今こうして浅ましくも許しを請うよう、吐瀉物で汚れた地面に這いつくばり無様に朝焼けを待っている。


 ふと…その時声が聞こえた。


 その瞬間、私の身体全身が何かを予感し跳ね起きる。


 砂塵をまき散らし私はその声の元へと駆けて行く。


 地に埋もれたクローゼットの扉を開くとその中には朱く血に染まった少女がいた。


「…なきむしの…おねえ…ちゃん…?」


 掠れるような声音で言ったスカーレットは凍える様に震えていた。


 私はぶるぶると震える手でその身体を抱き締めた。


 スカーレットは怯えていた。


 だがその両手はあの日老人がしたように私の頭をぎこちなくも優しく撫でたのだった。




 ああ、ああ。


 命とは。


 こんなにもか弱く、そして気高いのだ。


 朝焼けの太陽が私の背中を照らす温もりを感じた。


 だが、私は最早振り向くことをしなかった。







 神よ。


 たった一人の神よ。


 どうか愚かな私をお許しください。







 この咎人は生きたいのです。




 数多の生命を無為に奪ってきた私は。






 それでもなお




 生きていたいのです。

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ヘレティック・ヘイト・ディヴァイン 藤原埼玉 @saitamafujiwara

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