あとがき




 まずはお礼を申し上げます。

 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。


『小説家になろう』の方で書いていたものを添削・転載しました。

 あとがきだけは再度書いています。



 登場人物について少し、話そうかなと思います。


 ■ノエルについて


 ずっと彼女の視点で物語を書いてきましたが、最後、彼女が死ぬということは初めから決まっていました。

 主人公が死ぬというのはバッドエンドの定番ですが、これはバッドエンドではないと思っています。


 人間、いつかは死ぬものです。(彼女は人間ではなく混血ですが)

 どのように死ぬか、選べる人は少ないのではないかと思います。

 病気で死ぬのも、事故で死ぬのも、事件で死ぬのも自分の意思ではありません。

 唯一自分で選択できるのは自殺のときだけです。


 自殺=悪いこと


 とは限らないと思っています。

 幸せの中死ぬのか、苦しみの中死ぬのか、普通は選択できないものですから。


 いつか、ニュースを見ていて

 小学生が自殺したというニュースで、遺書が読まれました。


「幸せなうちに死にたい」


 と書いてあったそうです。

 それを否定はできません。

 幸せな最期というのは、難しい。

 ノエルは自分で、自分なりに幸せな死を選びました。

 大切な人を看取るより、大切な人に看取られることを選んだわけです。

 結局、死の見えざる手を使ったときのように『あの世』でご主人様と再会し、再び世界の輪廻へと戻って行きました。

 それを一概に不幸せだったとは、私は思いません。


 ■ガーネットについて


 最期、彼はノエルの返事を聞いてから逝ったのだと思います。

 ずっと険しい顔ばかりしていたガーネットは、最期笑ってノエルの腕の中で死を迎えました。

 やはりノエルと同じで、彼も最期は幸せだったのだと思います。

 ノエルと以前交わした約束は果たされませんでしたが、ずっと解らなかった愛情というものを身をもって理解して、彼は『生きる意味』というものを考え始めました。

 ただ生きる為に生きていただけの彼は、自分の一生というものの意味をノエルに見出します。


 彼は自分の気持ちの変化について、ノエルの血のせいかもしれないという不安を持っていましたが、契約のせいではないと知って心の底から安堵しました。

 ノエルの血の甘美な誘惑もなくなり、欲望から愛情へと気持ちの変化があってからノエルに対して食事の対象ではなくなります。

 結局、その意地を通したからこそ彼は最期死んでしまいました。

 それでもそれはガーネットなりの不器用な筋の通し方でした。


 本作中一番好きな登場人物です。


 ■レインについて


 レインの最後は悲しかった。

 もうノエルに二度と会えないと解らずに別れてしまいましたから。

 おそらくノエルからいつまで経っても連絡がないことを不審に思ったレインは、魔王かリゾンにノエルのことを聞いたはずです。

 しかし、ときは既に遅し。

 どんなに望んでもレインがノエルと再会することはありませんでした。


 子供だったレインも大人になるにつれて、理解できなくて苦しんだノエルの選択を徐々に解っていったのかなと思います。

 レインはノエルをお嫁さんにしたいと言っていましたが、大人になってもレインはそう思い続けるでしょう。


 ■シャーロットについて


 特に触れませんでしたが、この世界で治癒魔術の魔術系統の魔女は迫害されています。

 魔女は強い力を持って支配したり、破壊したりすることを美徳としている中で、癒しの魔術というのは異色であって他の魔女と馴染めずにいます。

 ゲルダに無理やり従わされていますが、迫害は受けていてもやはり貴重な人材なので囲われているわけです。

 シャーロット本人は罪名持ちとは別の枠として扱われています。


 作中では物語の進行に欠かせない存在でした。

 ノエルもシャーロットを探すために旅に出ましたし、ご主人様やノエルの最期を看取ったのも彼女です。

 大切な妹と世界を別ったのも、ノエルの命がけの誠意に応える為でした。

 ノエルよりも精神的に大人なんですね、彼女は。

 何に対しても熟そうとするタイプというか。

 ノエルが破壊の魔術の天才に対して、シャーロットは創造の魔術の天才という立ち位置です。

 嫌な仕事でも、逃げずに立ち向かう真面目な性格。

 この人間と魔族、魔女との争いの歴史を絶やしてはならないと、シャーロットはこの惨劇を後世に伝える役目を誰に言われずとも始めます。


 これから彼女は何百年と生きて、この話を語り継いでいくことでしょう。


 ■クロエについて


 当初の予定では、さらっと出して、さらっと退場してもらうただの悪役でした。

 私自身クロエに初めは特に思うところはなかったのですが、クロエという存在は世界観を表現する上で欠くことができないことに気づきます。


 男の魔女というのは字面からして矛盾がありますが、まさにその通り。

 男なのに魔女とはどういうことなんだと。

 しかしそこはそれを貫きました。


 あまり作中では触れませんでしたが、魔女を呪う魔族の怨嗟が魔女を狂わせる……と言いましたが、それだけではありません。

 男の魔女は数が少ないので、当然子供たちは血が濃くなっていきます。

 すると、遺伝子的な不調を起こしやすくなってしまうのです。

 近親交配すると奇形が生まれやすくなったりするらしいです。いわば、魔女全体はそういう傾向があります。


 人間の場合、Y染色体を持っているのが男性ですが、そのY染色体のテロメアがどんどん短くなっているとか。

 男が生まれなくなってしまうのではないか。のような記事を見たことがあります。

 私自身細かい部分は解らないので、深くは触れませんでした。


 クロエは貴重な男の魔女ですから、性的な暴力を小さい頃から受け続けて育ちました。

 クロエ自身はそんなこともうしたくないわけです。

 唯一クロエが許容できるのはノエルだけ。でもノエルはクロエを全然相手にしようとしません。

 でもそこで、無理やりにしようとしないのはやはり生い立ちが深く関係しているわけですね。

 彼は新世界でどのように生活していっているのでしょうか。

 彼にも幸せになってもらいたいですね。


 ■リゾンについて


 ガーネットのライバルとして、少し登場する程度だったのですが結局、大役を任せることになってしまいました。


 具体的にかきませんでしたが、リゾンは希死念慮があります。

 要するに、死にたい願望が強くあったわけですね。

 ガーネットが生きる意味なんてなくても生きているのに対して、リゾンは生きている意味が解らずに自分が魅入られている『死』に近づいて行きます。

 相手を苦しめないと興奮しないさがになってしまった。相手が苦しんでいる姿と見ると『死』を近くに感じるからです。


 そんな性的倒錯がありながらも、彼もノエルと、ノエルに会って変わったガーネットに会って変化していきます。

 他者の命など私欲を肥やす道具程度にしか思っていなかった彼は、自分の命というものを理解していった過程で相手の命というものを理解していきます。


 個人的に好きでしたけどね。

 サディスティックでバイオレンスなところは。


 ■ゲルダについて


 これは一言で「加害者だ」と言えない人物ですね。

 彼女にもいろいろあってこうなってしまいました。

 だからといって悪行の限りを尽くしても許される訳ではありませんが、誰かが止めることができたらこんなことにはならなかったのだと思います。

 努力はしていても力をそれほどに持っていない、政治能力もあるわけではないゲルダは決定的な力というものに固執することになります。


 決定打となったのは心の支えだった親友のルナが去ったことです。

 ルナは、大昔からあるシキタリである魔族と結ばれることを固く禁止している魔女の社会にいられなくなってしまったが為に、夫のタージェンと子供の為に去ってしまいます。

 強い理由としては、魔女の略樽を繰り返す生活に疲れてしまったということもあります。

 セージとタージェンと一緒にいるのが幸せになって、魔女の女王の座は親友に譲って消えてしまおうとゲルダを残して消えてしまったわけです。

 ルナはゲルダなら大丈夫だと思って譲ったのですが、ゲルダは強くルナに依存しており、結果として最悪の結末を迎えてしまいました。


 アナベルのせいでもありますが、翼の移植で強い痛みに延々と耐え続ける中、ゲルダの精神状態は日に日に悪化。

 もう半分の翼を手に入れたらこの痛みから解放されると信じ切っています。

 そんな検証データはありませんが、それに縋らないと自分の壊れかけた精神を支えることはできなくなっているわけです。

 ゲルダはまだ痛みにそれほど苛まれていない時期に、ノエルを捕獲後ずっと実験に使っていますが、ロゼッタとの事件で一時的に手放すことになります。

 ほとぼりが冷めるまで別の魔女の町に一時隔離しようとしていましたがその間に人間に魔女が滅ぼされ、ノエルも魔女除けを張ってしまったためにどこへ行ったのか行方不明になってしまいました。

 ゲルダは更に追い詰められていき、精神状態も極限に。

 ついには正気を失い、ただの肉の塊になってしまいました。後戻りができなくなってしまったゲルダは、翼の呪縛からずっと許されなかった『死』という形でやっと解放され、安堵したのだと思います。


 ■セージについて


 全く触れなかった三賢者という立場でしたね。

 セージは争いというものに疲れ果て、争いのない場所を求めていました。とにかく争いごとは嫌いです。

 魔族も、人間も、魔女も争いが絶えないことに頭を痛めていました。だからその三者がいない静かな場所で、人間でいうところの『世捨て人』をして生きているわけです。


 セージは争いからひたすらに目を背けていましたが、ノエルの両親が殺されたときにノエルに生きる術として魔術の使い方を教えています。

 本当はノエルに争うようなことはしてほしくないというのが本心ですが、身を守るために必要だと教えていた時期もありました。ノエルは先天的に魔術に対する才があったため、そう手がかかることはありませんでした。

 しかし、できるだけ人間に紛れて生活できるように魔術を使わないように教えるのは物凄く苦労しました。

 人間の方法ではものすごく効率が悪いですから、ノエルは魔術を使いたがります。でも、それでは人間に紛れて生きていくのは到底不可能です。

 セージは自分がいつまでも守ってあげることはできないと解っていました。

 セージがあっけなくゲルダに翼をもがれたのは、「ノエルを人質にとられている」と思わされたからです。

 セージは抵抗できなくなり、ゲルダたちに殺されました。


 セージはノエルに「お父さん」とは呼ばせませんでした。

 自分の娘のようにかわいがっていましたが、二度とノエルが「父」を亡くさないように、あえてそう呼ばせてはいませんでした。

 最期、ノエルと再会を果たし、輪廻の輪に戻って行きます。


 ■アナベルについて


 一言で言うなら、死体愛好家です。

 本人はゲルダをあそこまで追い詰めた責任を強く感じています。それもあってどんどん性癖が歪んで行ってしまいました。

 だから最期、ゲルダと一緒になって死んだことについては、彼女の本望だったのではないかと。

 なんというか、変わってますがどこか憎めないような。そんな魔女でした。

『受け入れられないということを受け入れている』という意味では、ノエルと同じだったのかもしれません。


 自分の身体というものに執着がなく、自分の脳の代わりになる『核』というものを形成していました。

 だから身体をとっかえひっかえでき、よほどのことがない限り死なない身体を手に入れたわけです。

 アナベルはもともと美しくない容姿に生まれ、コンプレックスを強く抱いていたから、自分の身体を捨てたいという欲求がありました。

 だからリサに虐められていたんだと、本人は思っているわけです。大人になってからは怖いもの知らずのアナベルですが、小さい頃についた心の傷は簡単には癒えないわけですね。


 ■キャンゼルについて


 再現魔術が使えるキャンゼルがアホの子で本当に良かった。

 ノエルが危惧していたように、人類を破滅させるためのウイルスなんかを再現できたら大変なことになっていましたから。


 目の前の欲に弱く、ノエルを二度も裏切っていますし、ガーネットにもかなり嫌われています。

 なんというか、下位の魔女らしい魔女というか。

 欲に忠実でそれを優先させてしまって、結果として最後は自分が損をするタイプ。


 ノエルに恋心を抱きますが、ガーネットとクロエにことごとく阻まれて結局どうすることもできない状態でした。

 特に、クロエがノエルについて真剣に考えているのを聞いてしまってから、ノエルとクロエの間に入ることができなくなってしまいます。

 ただ、クロエが怖いからという単純な理由でもあります。

 結局、ノエルが暴走したときの呪詛で魔道孔が焼き付いてしまい、二度と魔術を使うことは出来なくなってしまいました。

 しかし、再現魔術を悪用されることがなくなったので、ある意味本人にとってはよかったのかも知れません。


 ■ご主人様について


 さて、この話の要の彼についてですが……改めて読み返してみたら結構嫌な奴キャラでしたね。でもそれを貫き通させました。

 彼は魔女に育てられた人間で、特に魔女から気に入られていました。容姿も美しい彼は魔女の恰好の玩具だったわけです。名前はもしかしたら両親からつけられていたかもしれませんが、彼は覚えていません。

 彼が覚えているのは自分を呼ぶ番号だけ。

 魔女に気に入られていせいもあって、略奪される側なりに、人間たちから略奪する側でした。だから町の人間に嫌われているというのもあります。

 そうする他に生きる道がなかったと自分に言い聞かせながらも、ずっと彼は後悔していました。

 そんな生活に終止符を打つべく町の人間たちに暗に働きかけ、魔女の殲滅作戦を実行し、成功させました。


 そうしてノエルを暗い牢の中から拾います。

 初めはただノエルを恣意的に使用しようという安易な目的でしたが、予想以上に怯えるノエルの姿に憐憫を感じ、世話を焼くようになります。


 ノエルの近くにいると、彼はどんどん身体を壊していきます。元々の持病のせいもありますが、ノエルの魔力中毒に陥っていきました。

 徐々に具合が悪くなって度々寝込むけれど、誰も町の人間は彼のことを気にかけない。ノエルはそれを自分と重ねて「彼を助けよう」という気持ちになります。

 それから徐々にご主人様に精神的にノエルは依存していって、ご主人様の方もどんどん横暴になっていって、最終的に取り返しのつかないことになってしまいます。


 いなくなってから初めて大切さに気付くというのは月並みですが、実際体験しないと解らないものです。

 ノエルが世界を隔て去ったあと、ずっと彼はノエルのことだけを想い続けます。

 女癖が悪かったのも直し、ノエルがずっとつけていた首輪と手枷をずっと戒めとしてつけ続けます。

 世界が魔女の脅威から解放された後、残された唯一の魔女であるシャーロットを知る人間は彼だけになってしまいました。


 身体に変調がその後あっても、シャーロットに頼ることなく寿命を全うし、ノエルの元へと逝きました。

 ノエルが最期、託した未来を放棄して自殺することだけはしませんでした。

 命をかけてまで守った世界が、いい方向に進んでいくかどうか50年もの間ずっと見守っていました。


 結果として、世界は魔女の脅威から解放され、徐々に良くなっていきました。

 毎日毎日、ノエルの心臓のない亡骸を見るためにシャーロットの作った協会を参拝し、毎日毎日シャーロットが話す、もう過去になってしまったノエルの話を聞き届けるのでした。


 魔王の言っていた通り、ずっとノエルを想い続けて死の世界でノエルをずっと待たせていました。

 何とは解らずとも、彼は死後の世界でノエルと再会し、輪廻の輪に共に戻って行きました。



 さて、延々と話をしていても語り切れないので、これくらいにしておきます。

 何もかもが説明されている物語というのは、なんだか考える余地がなくて味気ないなって感じてしまいますが、

 かといって全然何にも解らずに「え? え?」ってなってしまうような話は飲み込みづらいというか。難しいです。

 長い話だっただけに、適度に説明するのは結構大変でした。


 ドラッグオンドラグーンシリーズのようにどこまでも救いがない話が好きなのもありますし、明るい雰囲気の話は別の人が沢山書いてますし、それでいいと思います。

 それに、こういうドロドロしていて暗い感情が付きまとうのが世の常。

 明るい話が読みたいのなら、他の人の話を読めば良いだけのこと。


 自分の正義を貫いた結果、それが社会悪だとしても、信じた道を突き進んでいくことは罪なのでしょうか?


 ノエルのように大義の為に自分を犠牲にすることが正しいのでしょうか?


 それとも


 世界が滅びると解っていても、ゼロのように私欲を貫くことは悪いことなのでしょうか?


 自分の認知如何では正義も変わり、罪も変わります。

 それを一概に「良い」とか「悪い」とか、言えませんが、それでも自分の良心の呵責に苛まれたときに『罪』をやっと自覚するのだと思います。



 長くなりましたが、ここまで読んでくださった方には深く御礼申し上げます。


 それでは。



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罪状は【零】 毒の徒華 @dokunoadabana

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