第31話:劣等賢者は合格する

 翌日、俺はアリスと一緒に高等魔法学院へ向かった。

 合否は校庭に設置された掲示板で告知されるのが毎年の流れになっているとのこと。


 俺たちが着いた頃には、既にたくさんの人だかりができており、喜び騒ぐ者と泣き叫ぶ者で混沌としていた。


「不安になってきました……。私、もう帰りたいです」


「昨日帰るって言っていた俺がいうのもなんだが、ここまで来たら確認するだけしてみた方がスッキリすると思うぞ。なんなら俺が代わりに見てきてもいいが」


「ありがとうございます。でも、アレンも自分のことでいっぱいのはずです。私も頑張って確認します」


「そうか。……幸運を祈ってる」


 俺はアレリアから一歩離れて、掲示板の上から順に確認していく。


 一位から順に合計点数と名前が書かれている。

 さて、俺の名前はあるんだろうか。


 2位……300点

 3位……278点

 4位……259点

 5位……240点


 あれ……1位が抜けてる?

 っていうか2位の300点ってのは満点だったはずだ。同率1位ならまだしも2位というのはよくわからない。

 まあ、俺はさすがにこの辺の上位陣には縁がないのでどちらにせよ知ったことではないのだが——って、んん!


 3位……278点 アリス・ルグミーヌ


 これってもしかして……。


「私、合格してたみたいです……!」


「すごいなアリス。余裕の合格じゃないか。それに対して俺は……」


「最後まで確認したのですか……?」


「いや、まだ途中までだが感触が悪くてな」


「もしかしたら最後の一人に入れているかもしれませんよ! ちゃんと確認しましょう!」


「あ、ああ……」


 正直、アリスのこのテンションについていけていない俺がいた。

 合格者は総数で二百名。

 掲示板前にはその数倍の数の人が涙を流している。


 希望は薄い。

 だが、アリスに確認するだけしてみようと言った手前、ここで目を背けるわけにもいかないか。


 199位……147点


 と、最後の一人を残し全て確認し終えた時だった。


「どうして私が二位なのよ!? 納得できないわ!!」


「ん……? 誰だあれ」


「わかりませんけど、多分二位っていうことはフィア・エルミーラさんかと……」


「二位ってことは優秀なんだろうけど関わらない方が良さそうだな……」


 そんなことをコソコソと話していると——


「ねえ、ちょっとアンタもおかしいと思わない? この私が二位って絶対おかしいわよね!?」


 肩を掴まれ話しかけられてしまった。

 さすがに無視をするわけにもいかない。


「いやー、確かに満点だし変だなとは思うけど何か理由があるんじゃないか?」


「どんな理由なのかしらね! 高貴な私の顔に泥を塗るに値する理由が気になるわね!」


 ……なんか高飛車なやつだなぁ。

 合格なら何位でも良くないか? ……というのは僻みだろうか。


「アンタ、名前は? 合格したの?」


「アレン・エルネスト。残念ながら——」


「あ、あ、あ、アンタがアレン……」


「俺のこと知ってるのか……?」


「知ってるも何も、掲示板見てないのかしら!? 私はアンタを認めないから!」


「いやいや、掲示板ならほぼ全部確認したぞ。まだ最後だけ確認してないけどどうせ……」


 と、最後の一人を確認してみる。199位の次だから200……って、あれ?


 1位 0点(+1000点) アレン・エルネスト【★特待生】


 ——俺の名前があった。


 入学試験一位の者は首席合格者として特待生の地位が与えられる。特待生は在学中の学費が無料になり、特別奨学金が支給される。


 信じられなかった。まさか、本当に最後の一人に入れるなんて。それどころか、特待生として合格できるなんて。

 いやいや、そんなことよりも……。


「0点……? 1000点……? どういうことだこれ」


「それは私が聞きたいわよ! こんなの聞いたことないわ。説明して頂戴!」


「そんなこと言われてもな……。俺も戸惑ってるんだ」


「採点ミスはないとして……特殊なコネか、あるいは何らかの不正か。いえ、ここでグダグダ考えるより手っ取り早い方法があるわ」


「理由が分かったのか? ぜひ教えてくれ」


「ええ、教えてあげるわ——」


 フィアは俺を指差した。


「私と決闘しなさい。それで白黒つけられるわ」


「へ……? 決闘? なんで?」


「あら、私と戦うと何かマズいことでもあるのかしら? 例えば化けの皮が剥がれるとか」


「べつにそんなもんはないが……」


「じゃあ良いわね。私と決闘して、どっちが本当の一位か皆の前ではっきりさせるの。ちなみに、負けた方は相手の命令になんでも一つ従うの」


「なんだそのルール!?」


「古来から伝わる清く正しい決闘の掟よ。知らないの?」


「そんなの聞いたことないぞ」


「あら、私の故郷では常識よ? 大都会エルミーラではね!」


 エルミーラ……?

 あそこって大都会なんだろうか。

 隣のアカバーネは大きな商業都市だったはずだが……。


 そんなことはともかく——


「決闘を受けるのは構わない。だけど、もしフィアが負けた場合は俺の命令に従うことになるが、それはいいんだな?」


「ええ、私が負けるはずがないもの。なんならアンタの奴隷になってあげても良いのよ?」


「それ、言質取ったからな……?」


 やれやれ、面倒だが相手をしてやるとするか。

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