第30話:劣等賢者は評価される

 ◇


 全ての試験が終わった後、高等魔法学院では採点と合格者の選定が行われていた。

 各試験の点数を合計し、その総合点を上から順に並べて定員までの者を合格とするため毎年機械的に行われることが普通だ。


 だが、今年はある「規格外」が紛れ込んだため、この作業が難航していた。


「筆記試験の点数0点、技能試験の点数0点、実技試験の点数0点……合計0点です」


 筆記試験は全ての回答が既存の常識とかけ離れすぎていたため。

 技能試験は破壊力が高すぎて採点が不可能だったため。

 実技試験は試験官が絶対安静のため採点できていないため。


 暫定的点数は開学以来初のオール0点となっていた。


 合格者決定の最高責任者は学院長となるのだが、実技試験でのアクシデントのため学院長代行が務めている。


「しかしな……これは落とすわけにはいかんだろう」


「そうですな。筆記試験は常識破りな内容だが……全ての論理が通っている。剣と魔法の常識を根底から覆す解答だ」


「それだけじゃない。技能試験は正確性・破壊力ともに現役の魔法士を万単位で集めても不可能なレベルに達している。……受験生どころか学院生の範疇ではない。あのオリハルコンを壊すなどとても人間技とは思えん」


「実技試験に関してもそうだ。敵なしといわれた伝説の傭兵——学院長が一撃でアレだ。もはや魔法とかそういう次元じゃない」


 学院長代行を中心として採用を決める各担当者は頭を悩ませた。


「合格とするとして、どの程度の点数をつけるか——ということだな」


 学院長代行が呟くと、満場一致で首肯した。


「筆記試験、技能試験、実技試験。……どれをとっても百点では足りない。去年の受験生にも各科目で満点合格者は存在した。……となれば、比較して点数をつけるしかないだろうな。学院長がこの場にいればそう仰るだろう」


「そうですな。しかし具体的に何点をつけるか……」


 点数化するには、今からであっても基準を設けなければならない。

 百点を突破した前例がないため、他の受験生から質問責めに遭うことは必死。……となれば、納得させるだけの根拠が必要だった。


「基準はアレン・エルネストから作れば良い。筆記試験において『現状の常識を覆すような画期的な解答』、技能試験において『オリハルコンを打ち抜き破壊するほどの破壊力と正確性』、技能試験において『試験官を倒してしまうほどの総合力』。今後現れるとは思えんが、これで良いじゃろう」


「なるほど、その手がありましたか。では、その場合どの程度の点数にするか——」


「議論してもいいが、もはや議論するまでもなかろう。点数など便宜的なものだからな。例えば、こんな感じでどうだ?」


 学院長代行は手元の紙にペンで走り書きし、他の担当者に見せた。


「なるほど……」


「異議はありませんな」


「こんなもんでしょうな」


「これで決まりですな」


 こうして、アレン・エルネストの点数は確定した。

 合格証にサインが書き込まれ、仕上げに学院に一つしかない印が押された。


「それにしても、カルクス様とイリス様の息子ということで注目していたが、まさかここまでの規格外だとはな……。とんでもない化け物を送り込んできたもんだ」


 学院長代行が呟くと、「まったくだ」とばかりにこの場にいる全員が頷いたのだった。

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