No.7 直接

No.7 直接

レイドはガムシャラに走っていた。すると、案外すぐにヒメカに追いつく。

バッ

「うわっ。レイド?」

ヒメカは突然レイドが現れたことに驚く。

「ヒメカ、お前の力が必要かもしれない」

「どういうことですか?てゆうか、幻獣は??」

「幻獣はこの剣の力で氷付にして動きを封じた」

レイドは剣を翳してアピールする。

「氷付?!その剣にはそんな性質があるんですね」

「今は俺の能力のことなんてどうでもいい。そんなのはこの戦いが終わったらでいいだろう」

「そんなに急いでどうしたんですか?」

「俺が考えた結果あの幻獣能力を解除する方法にある一つの仮説が生まれた」

「仮説?」

「あの能力の目的はヒメカを連れ戻すのに邪魔な周りを排除することだ」

「!!」

「見ていれば分かる。あいつはヒメカを狙わなかった」

「うん、たしかにそうですね」

「敢えてターゲットを逸らすということは本来の目的に対して弱くなっている可能性がある」

「弱くなっている可能性…」

「そうだ。守る側からしたら、何かあると悪いからあいつから離そうとする心理がある。俺もそうだった。だが、標的は本命のヒメカでなく俺だった」

「それは当たり前ですね。守側が敵から遠ざけながら動こうとするのは」

「となるとだ、本命に対して一切の力を発揮できなく代わりに幻獣は大きな恩恵を得ることができる」

「あ、そっか!それが制約になっているかもしれないということですね!」

「その通りだ。本命に対して何もできない、それが制約となって強力な力を得ることができない。こういった制約の面白いところが本命のために創る能力なために本命意外の他に対して滅法強く出れる特徴がある。実際、あの幻獣には攻撃のダメージも全然入らなければ、奴の攻撃力は高く、すり抜け能力まで標準してやがるからな」

「わかりました。私の力が必要なら」

ヒメカはそう言ってレイドに堂々と言い切るが、少し体が震えている様子が見て取れた。

それに気づいたレイドはヒメカの頭に右手をポンと乗せる。

「大丈夫だ。震えることはない。俺が守ってやるから」

レイドは力強い声でそうヒメカに言い聞かせた。

そして、2人は幻獣の元に向かう。


その頃、幻獣は氷付の状態から脱出しようともがいていた。これが生きてる生物なら今頃生命器官がまともには働かなくなり動きを停止するがこの幻獣にそう言ったことは当てはまらない。レイドが離れているうちに警察に通報が入り氷付の幻獣の元に警官が既に2名到着して観察していた。

「これなんだろうな?」

「さぁな。でも不気味が悪いし、こんなところにあっても迷惑だ。さっさとここから退かすべきだろうな」

男の警察官2人は氷付の幻獣を見てそんなことを話していた。


一方、レイドとヒメカの2人は幻獣のいる場所に軽めに走って向かっていた。レイドには懸念すべきことがあった。

(まあ、今回の戦いは剣の出し入れが激しくなかったから多分大丈夫だが、俺のオーラ量が大幅に減って何もできなくなるなんてことは無いと思うがそう言ったことも調整しないとだな。俺の能力はオーラの消費量が激しいからな。剣出すのにもオーラを使うし、剣の力を使うのにオーラを使うしな。後は…)

レイドはチラリとヒメカの方を見た。すぐに真っ直ぐに視線を戻す。

(俺のこの理論があたってなかったもうこっちにはなすすべがないかもしれない。自動追尾型の幻獣だと思ってたら、手動による遠隔操作型で今までは全部ブラフでしたっていうのが1番の詰みだな。だから、かけるしかない)

レイドは走りながら祈った。

「ねぇ、レイド。私は何をすればいいの?」

「ただ、手で触れるだけでいい。俺がその隙を作る」

「本当にそれだけで解除されるの?」

「わからない。でも、試して見ないことには始まらない」

「うん、わかった」

タッタッタッ

そのあと、そこそこ時間を掛けて2人は幻獣の元にたどり着く。

2人は立ち止まって幻獣の様子を確認する。

「あの氷の中に…」

「ああ、幻獣はちゃんとあの中にいる」

2人は歩き出し幻獣に近寄る。その様子を見て警官が2人が幻獣に近づこうとするのを止める。

「ちょっと君たち近づかない方がいいよ。これ気味が悪いから」

警察官のうちの1人が2人に親切に忠告をする。しかし、レイドはそれを無視して歩き続ける。

「君、待ちなよ!危ないかもしれないから近寄っちゃ・・・」

「逆にあなたたちの方が危ないですよ。離れてください」

「へっ?」

警官はレイドの言葉を受けて顔が腑抜ける。彼はきっとこの少年は何を言っているのだろうかと思っていたことだろう。

そんな時だった。

バキバキ、バキバキ

バキーーーーン

氷が砕け散り幻獣が氷の塊の中から出てきた。

「うわぁぁ。なんだこいつ!」

「ヒィィ」

「だから言ったのに」

シュッ

バン

バン

レイドは自分の忠告を聞かなかった警官に少し飽きられたような顔して2人の警官を蹴り飛ばして幻獣から遠ざけた。その一瞬の隙に幻獣はレイドの間合いに入り攻撃を仕掛けてくる。

ドドド

幻獣の勢いの強い拳がレイドに向かっていく。

「お前、氷には結構弱いみたいだな」

レイドは幻獣に向かってそう一瞥し、右手で持っている剣を振り払う。

シュワヮワヮ

そうすると冷気が吹き出してくる。そして、一気に氷ができて幻獣の周りを氷付にする。それによってレイドに攻撃が届くことはなかった。

ジジジ

幻獣はもがき必死に抜け出そうとするがそう簡単には抜け出せない。

(こいつ〔幻獣〕は岩石よりこっちの方が何故かわからないが効いていた)

レイドはそんなことを思いながら、ヒメカに「カモン」と左手をこ招くジェスチャーを送る。

「こい、ヒメカ!」

「うん!!」

(本当に大丈夫かな?動いたりしないかな?)

ヒメカの中には覚悟を決めたとしても不安は拭い切れていなかった。それを察してレイドは叫ぶ。

「大丈夫だ!俺が絶対に守ってやる!だからこい!」

ヒメカはその言葉を聞いて頷き、賢明に幻獣に向かって走る。

(よしっ)

レイドはヒメカの様子を見て、そう呟き次の準備に移った。

ヒュゥゥゥ

氷の剣を翳して階段型の氷塊を出して、ヒメカの渡綱を造る。

「さあ、いけぇ!」

「うんっ!!」

ヒメカは階段を駆け上がる。目指すのは幻獣の頭部と思われしき場所である。

幻獣は頭部の周りを残して氷で動きを固められている。そのため、身動きが取れない。2人はそこを狙った。

タッタッタッ

(頼むぞ。これがダメなら…)

レイドはヒメカが走り抜けていく様子を緊張しながら眺める。

タッタッタッ

「これでどうだぁぁ」

ペシッ

ヒメカは幻獣の頭部を右手で触れた。

その瞬間にオーラが錯乱し、幻獣は消えていった。

「や、やったぁ!」

「よぅしぃ!」

2人は声を出して幻獣を消した成功を喜んだ。

その様子を見ていた2人の警官は状況の整理がつかなかった。

2人は同じことを思っていた。

((何が起きていたんだ??!!))

この警官の2人が状況を飲み込めず混乱している中、当事者本人達は冷静だった。

カツカツカツカツ

ヒメカが氷の階段から降り地に着く。

「ふー。取り敢えず、一件落着だな」

「はい…」

レイドは思っていた。

(こんな生きた感覚を味わうのはいつぶりだろう…)

レイドは一度空を見た後、ヒメカの方を見る。

(もしかしたら、こいつによって俺の人生は大きく変わっていくのかもしれない)

レイドはヒメカを見つめながら感傷に浸り、そんなことを考えていた。

「じゃあ、ヒメカ家に帰るか」

「はい…ですが、この氷はどうするんですか?」

「あ、忘れてた」

(面倒くさいな。また、あの炎を扱う剣を出さないといけないのか。この氷を処理するよりもう1度あの剣を出さないといけないことが。出る前にオーラ切れなんてこともあるな)

ヒメカに言われ氷に対しての処理を考えていた時だった。

トントン

「ちょっといいかな?」

「はい?」

レイドは肩を叩かれ誰かに声をかけられる。レイドが振り返って見てみると警官2人がレイドとヒメカの2人を見ながら立っていた。

「君たちさっきここで色々してたみたいだね」

「え、そんなことないですよ。偶々通りかかっただけですよ」

あせあせ

(やばい。警察官に絡まれた。面倒くさいな。どうにか誤魔化せないか)

チラッ

レイドはヒメカの方をチラッと見る。

スッ

ヒメカは戸惑った態度を見せて俺の後ろに隠れる。

「流石に周りの人達の目撃証言もある。それで逃げることはできないよ」

チッ

とレイドは心の中で舌打ちをした。

「それじゃあ、事情聴取をさせてもらいたいから2人とも署まで来てもらおうか?」

警察官1人にそう言われ、2人は署に引っ張られて行った。


俺、レイドがその後のことを語らせてもらう。あの後、俺達2人は長い間警察署の方で今回の幻獣の件について聞かれた。目撃者も多いことを俺達は考慮して敢えて嘘で誤魔化す事をせずに真実をありのまま話した…ヒメカが父から逃げてきて俺がそれを匿っていることを除いて。まず、警察には嘘を見抜く能力者が在中しているため、嘘をついても逆に怪しまれる可能性が高いために真実を話さざるをえなかった。1番大事なヒメカのことのついて伏せながら話したから問題は無いと思う。この幻獣は実際俺達2人は何が起きたのか突然すぎてよくわかっていなかった。そのまま話すだけでも十分俺達が伏せたいことは隠せたのだ。

俺達が警察署に拘束されて時間が経ち、夕方頃に解放された。俺もヒメカもうんざりした顔をして署を後にした。俺はヒメカの腹の音が鳴ったことに気づいて、さっさとマンションの自宅に戻って夕食を取った。あの氷塊については警察が対応してくれるとのことなので俺は放って置いた。取り敢えずは幻獣の件はこれで終わった。


そして、夜になった。

「あ、やべ。ヒメカの寝る場所どうしよう。この家、お客さんが泊まる予定なんてないから備えがない」

レイドはヒメカの寝床について悩んでいた。

「母親の部屋には許可*がないと勝手には入れないから寝させられないし、リビングで寝てもらうのもなー」

*共有の部屋やスペース以外の個人の各部屋は部屋の使用者の許可がないとそこの部屋に入ることができない。

レイドがそんなことを呟きながら考えていると、

「私は…レイドと一緒のベットでいいです」

彼女がそう申告した。

「いや、流石に狭いだろ。俺は別にいいけど、1人でゆったり寝れた方がいいだろ?」

「いえ、あなたと一緒に寝たい」

彼女は少し頬を赤く染めて言った。この様子はレイドの視点からは見えていない。

「いいのか?」

「はい」

俺達2人は1つのベットで同じ布団に入って一緒に寝た。




なんとか戦いを終わらせることができました。

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