第3話 Vmax

 その巨体を初めて間近に見たのは、母と連れ立って訪れた、叔父の住んでいた集合住宅の駐車場だった。駐輪スペースの隅に青い大きな塊がバイク3台分を独占して横たわり、外したシートの下から、眠りを妨げられた猛獣のような車体が現れた。


 他にも所有しているクルマのほうは、手動運転装置を取り付けて乗れるようにするが、もう運転する事もできない二輪については処分する事も考えた。だが、せっかく手に入れた海外仕様の車両を手放すのも惜しい、と、一回だけ一緒にツーリングした事のある叔父から「預かってくれ」とキーを渡されたのは、脊髄梗塞の見舞いに訪れた入院先の病室だった。

 しばらく乗ってみて、要らないようなら処分するが、気に入ったら名義変更して乗ってやってくれと、独身の叔父は形見分けだと冗談を言い、一緒に来ていた母に怒られていた。梗塞で麻痺した部分が元に戻るかは不明らしいが、叔父の症例では見込みは薄く、残った上半身の機能だけで生活できるようにリハビリしていくそうで、退院後は在宅復帰に向けたサービスの受けられる施設に入居するのだと、明るい表情で語った。

 病院からの帰りぎわ、明るくなってくれて良かったと母は言い、最初来たときは暗い表情で泣いている事もあったと看護師から聞かされたと話していた。


 6ヵ月後、叔父の入居している障害者施設は幹線道路から急な坂道を上った小高い山の上にあったが、Vmaxは重力とは無縁かのように軽々と坂を上り詰め、知らせておいた時間よりはだいぶ早く着いた。

名義変更の書類を持ち玄関へ向かうと、車いすに乗り、手を振る叔父の姿が見えた。

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