第2話 Vino

 Vinoには女子高校生が似合う。

もちろん男子高校生が乗っても良いのだが、個人的にはVinoと言えば朝夕の通学時間帯、フルフェイスのヘルメットに一列縦隊で連なって国道脇を突き進む女子高校生Vinoのイメージだ。


 部活のチーム名の入ったスタジャン、チェックのスカートに紺か黒のハイソックスにローファーで、コンビニの駐車場で飲み物を手に談笑する光景はまるで江口寿史のイラストを見ているようだが、あれがスーパーカブではああは決まらない。ジョグやズーマーもちょっと違う感じだし、やはり最適解はVinoなのだ。


 女子高校生の持ち物として、かわいいが正義のご時世にヤマハのデザイン戦略は見事に成功していると言えるが、当の女子高校生ご本人にとってはそういった事よりずっとずっと愛着のある(本人弁)存在なのだそうだ。


 高校生時代にVinoで通学、乗り回していた元女子高校生に聞いてみたところ、当時自転車には乗れるにせよ、免許取得の為に交通法規なるものを知り、教習所での実技講習で初めて触れた"原付バイク"は、自転車なんかよりずっと重たく、原付とは言え排気音とともにエンジンの振動がビリビリ伝わる感触は、その可愛らしい外見に見合わずカバーの内側に隠された訳の分からない"機械"の存在を強く感じさせ、"げっ!"(本人弁)と思わせるしろものだったそうだ。


 だがそういった近寄りがたさも、二輪ショップで悩みに悩んだカラーリングの自分用Vinoが納車され、アクセルを開けるにつれ"漕がなくても進む"ラクチンさ、ぐんぐんのびるスピード、あっという間に別の場所に移動できる利便性、に感激したり、給油する度みるみる減っていくお小遣いの現実に直面したりする頃には、日常生活に無くてはならない道具として馴染んでいたという。


 取り分け、後日クルマの免許を取りに教習所通いして気づいたのが、四輪では感じられない二輪の楽しさだったと言う。Vinoとは言え立派な二輪、開放感や機敏さはクルマの比ではない。ましてや身体能力人生最高期の高校生にとって車体を倒してカーブをクリアするような二輪の運転は、そのスピード感も加わってほとんどスポーツの一種であり、エンジン付き乗り物の楽しさ、怖さをVinoで知ったのだそうだ。


 友人と走った海辺の景色や風の匂い、冬の雨の日に信号待ちで先に右折させてくれたダンプのオッチャン、一人で訪れた夕方の公園ですり寄って来た野良猫を置き去りにできずバックパックに詰め込んで連れ帰った事、そんな感じで大事な相棒として高校生活を支えてくれたVinoには特別な思い入れがあるそうで、高校卒業後もしばらく置いてあったが誰も乗らなくなり処分することになり引き取られる際は、その多少傷の入った車体がとても愛おしく、ちょっとしたVinoロスに陥ったそうな。


ちなみに彼女の現在の愛車はMT-07で、とても気に入っているそうである。

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