第16話 大切な用事と恐怖な優木さん

 優木さんに励ましてもらった数日後。


 噂だったり、周囲の僕を見る目は変わらないままだった。悲しいことに、もうしばらくは鎮火しなさそうだ。それでも、僕は何も気にならなかった、優木さんのおかげだ。


 優木さんは絶対に僕の味方でいてくれる。そのことが、僕の安心感につながっていた。


「何、冴えない顔してるのよ? 運が逃げていくわよ」


まぁ、その本人は僕にすげー嫌味を言ってくるんですけどね。さっきの言葉は撤回してもいいかもしれない。


「僕のこの顔は元からだよ……」

「そうだったわね」

「おい」


 おかしそうに優木さんは笑っている。

 クラス委員の仕事が終わった後、僕たちは学生会室で一緒に昼食を食べていた。


「あ、そうだ。帰りに職員室で、テスト範囲要綱のプリント受け取ってもらえるかしら?」

「分かった。優木さんはまた用事がある感じ?」

「そんなところ。それじゃよろしく。人数分のコピー、忘れないでね。HRで配らないといけないんだし」

「へーい」


 僕の返事を満足そうに聞いた優木さんは、学生会室を後にした。優木さんはここ数日、かなり忙しそうにしていた。用件を尋ねても、用事があるからとの一点張りで何も教えてくれなかった。


(いったい、何を考えているんだろう……)


 それから、職員室によってプリントを受け取る。印刷室でコピーでしてから、教室に帰ろうとした時だった。


(……うん?)


 誰かにじっと見られているような気がしたのだ。しかし、周囲を見渡しても誰もいなかった。


(気のせいかな?)


 まぁ、ただでさえ変な噂が立っているんだし、見られても仕方ないか。そう切り替えて、僕は足早に教室に戻った。


     ※


「ねぇ、優木さん。クラス委員の仕事って欠席した人の掃除当番まで変わってやるものなの……」


 放課後。僕と優木さんはクラス委員の仕事で掃除をしていた。本来は日直の子が担当するのだが、今日は風邪で欠席しているのだ。そのため、僕らが代わりでやることになったのだ。

 正直、クラス委員がやる仕事じゃないような気がする。


「ほら、文句言わないで手を動かす! 私だってめんどくさいんだから……」


 優木さんは文句を言いながらも手慣れた様子でテキパキと掃除を進めていた。優木さんも納得いってないのか。


「一つ、聞いてもいい?」

「何よ?」


 優木さんが手を止めて僕の方に振り向く。


「一体、放課後何してるの? ここ数日はぐらかしてるけどさ」

「またその話なの……まぁ、一区切りつきそうだし……いいわよ」


 僕の用件を聞いてうんざりした表情を見せるが、すぐに切り替わった。


「聞いたあなたが、なんで驚いてるのよ」

「いや、また教えてもらえないと思ってたからさ」

「それもそうね。いい、隆弘。私は腹をくくったわ。あなたも腹をくくりなさい」

「……うん?」


 何やら非常に男らしいことを言っているがさっぱりわからなかったぞ。あと、いつの間にか僕の呼び方かが下の名前に変わっている。


「どういうこと? それに下の名前……」

「別に下の名前で呼んだっていいでしょ……一応、貴方は私の旦那なんだから。ほら焼却炉に行くわよ」

「旦那って……」


 その通りなんだけど、改めて言われると照れくさい。


 対して優木さんは、いつの間にかごみをまとめていたようで、先に歩き出す。僕も慌てて追いかける。結局、何も分からないままだ。

 ごみを捨て本日の業務も無事に終わり焼却炉から帰ろうとした時だった。


「うそ……」

「どうしたの?」


 優木さんが僕の裾を掴んで不安そうな声を上げる。不安そうな声を上げた理由はすぐに分かった。


 目の前には、


「絶対に許さないからな……真島っ!」


 僕の名前を憎しみを込めて呼びながら、血走った目で睨む松田先輩が立ち塞がっていたからだ──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る