第15話 【勇者】の秘伝書Part1 side勇

 朝食を食べ終わると新一はそのままエリスさんに連れられて【大賢者】様の《研究所》に向かった。それを見て湊が鬼の形相だったのでとりあえずアイツは今度しばかれるだろう。

「にしても珍しいかな」

 アイツの単独?行動。わりと真面目だし面倒見も良いから湊の側に居ることが多かったのにその湊から離れて行動するなんてらしくない。

「…こういう場合はアイツ不自然なほどに強くなるし…あの泥棒猫め」

「落ち着いてね湊。後で一緒に懲らしめるから」

 訂正。アイツは生き残れないかもしれない。そして確かにこういう場合、新一は不自然なほどに強くなって帰ってくる。新一曰くそいう星の下に生まれたのかもしれない…がそれはそれで面白いと言うヤツだし正直に言えばアイツには元々勝てないのかもしれない。


 そしてポケットに手を突っ込むと違和感を感じた。

「ん?コレは」

 気付かない内にポケットに何かの走り書きを入れてある。字の線の均一さから見て確実にシャープペンシルが使われている。それはちょっとした巻物みたいでかなりの情報が書かれているようにも見える。ソレを見ているとひょいと誰かがその巻物を取り上げる。その人物は【天騎士】のライオネルさんだった。

「ほう。コレは…」

「あっ、ライオネルさんおはよう御座います」

「おう。…で勇だったか…これは誰が?」

 急に息を潜め小声になったので僕も小声で返した。

「いつの間にか。それも僕のポケットに」

「…一旦預かっても良いか?」

「構いませんが…」

 ライオネルさんの表情を見るにとんでもなくヤバイモノってのは分かるけどそんなに危険なモノなのだろうか。

「コレ国家機密級の情報がわんさか載ってるぞ。しかもお前の育成方針が数パターンで」

「えっ?」

「【聖騎士】【竜騎士】【闇騎士】【大騎士】【剣聖】を始めとする近接物理の上級職の就職条件そして下級・中級で培うべき土台。まるでお前のためだけに考え抜かれた秘伝書だぞ」

「騎士系統で固めてあるんですか?」

「いんや。魔法職も支援職も生産職も折り込んである。ただ勇が簡単に出来そうなものから書かれてあるのは確かだが…」

 まるで僕を完全に理解しておりなおかつそれでいてこの世界への適応の速さ。新一だろうか。でも一体何故?

「(聖女を誑かせとか半ば正気では書けんだろ)後で写しを渡しておこう。お前に託されたみたいだし」

「僕だけにですか?」

 そんなにたくさんの情報が書き込まれているのならば全員に共有した方が良いのでは?僕たちに戦える力を与えがっているみたいだし。このメモを用意した人は。

「おう。大抵は定石ってもんがあるだろ。ただ【勇者】と【英雄】はそれを簡単にひっくり返す」

「…なるほど」

 理解した。【勇者】の強さは職の量とそも相互シナジーであろう。そしてあの巻物モドキは僕に特化した職構成理論が長く書かれていると。そして普通は知られていないはずの就職条件がこと細やかに書いてあるならば罠を疑う必要があるかもか。

「にしてもこれ何処まで想定してあるんだ?」

「如何したんですか?」

 軽く最後まで見通していたライオネルさんが頭を捻って考え抜いている。最初の方は楽観的だったがもう既に僕の戦闘時と同じくらいに顔が引き締まっている。

「【聖剣召喚】のパターンに既に超級職に就かれていた場合。まるで全てを想定してるかのような…」

「そう言えばアイツTRPGが得意だったよな…」

 時々遊びを入れすぎて三日三晩掛かることもそれなりにはあった。ただ内容は濃くテンポが丁度良くバランスが取れていたので楽しくはあった。

「この国の国庫事情まで考えていやがるし」

 チラッと見せて貰った限りでは恐ろしいことも書いてあった。【死兵】【死騎】【復讐者】【復讐鬼】【決死隊】【絶死隊】による死亡後を前提とした自爆による復讐劇とも書かれてあった。…なんだろうか。何処かで現実味のあるビルドだから怖い。そして国庫事情とはこの国の宝物庫に眠る武器防具を完全に活用させる気で居るみたいだし。

「取り敢えずはそのリストのオススメから行きたいと思います」

「おう。…ただ最初は座学なんだが…あの小僧大丈夫か色々と」

「さあ?」

 どうせまた厄介ごとに首突っ込んでいるのではないか?そう思ってしまっていた。

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