第9話 最初に歌う人

「また来たの?」

「また来たぞ。マネージャの許可も取ってる」

「じゃあ宿題手伝ってください」

「ああ」

 宿題に取り組む。高校二年の数学。どうってことはない内容。

「おまえ、なかなか数字が身に付かないな」

「え、えへへ」

「ほめてないぞ」

「あ、はい」

 手を握る。

「まだあんのか、宿題が」

「あの、へんたいさんですか?」

「言ったろ。手を握ると感情が分かるって」

 近くに転がっている鞄を探る。

「きゃああへんたいっ」

「お、あったあった」

 現代文の課題。

「これも教えてやる」

「手を握ったり人のもの漁ったり、なんなんですかあなた」

「おまえの家庭教師だな」

「やとってませーん」

 課題をこなさせる。

「お、現代文はいい感じだな」

「いつまで手を握ってんですか。警察呼びますよ?」

「今おまえは、俺に訊きたいことがある」

「う」

「手を握ってると楽だろ。会話が」

「それは、まあ」

「喋ってやるよ。俺のことを」

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