甘酸っぱい恋の裏に潜むはちきれそうな危うさ

 転校してきたばかりの少女が、願いを叶えてくれるという『学校の神様』に出会うお話。
 どこかノスタルジックな光景の中に、ふんわり神秘的な雰囲気の漂う優しい百合物語です。いやノスタルジックというのは少しニュアンスが違うのですが、ある種の懐かしさのようなものをくすぐられる風景。田舎の女子校という環境と、そこに持ち込まれた『学校の神様』という存在。校内限定で願いを叶えてくれる小さな神様。このまるで世界の半分以上が学校だけで完結している感じというか、内部に神様すら生み出してしまう価値観の中に生きている感覚に、胸の奥の忘れかけていた記憶を揺り起こされるような思いがしました。
 この物語は少女ふたりの恋のお話であると同時に(あるいはそれ以上に)、彼女たちの生きる『世界』そのものを非常に強く意識させてくれるお話です。世界が学校と家庭だけで成り立っている年代の、でもそのうちの片一方をなげうってでも成就させたいと願う恋。あるいはなげうつことそのものが目的でもあるのか、つまりはある種の逃避行——俗世から聖域へ、または現実を捨てて理想の先へと、あちらとこちらの境を飛び越える行為としての恋。絶対に後戻りのきかない選択であり、同時にきっと一種の禁忌(だって実質この世ならざるものとの契りですよ!)。彼女のその決断をただの逃げと言えるのは、それが無責任な第三者の、それも大人の目線から見ているからこその感想であって、だいたい恋なんて大抵逃避行みたいなものですよねと(いうのは言い過ぎにしても偉そうなこと言えるほど立派な大人でもないよねわたしと)、脳の中に蘇った『あの頃の自分』の立場で彼女たちを応援する感覚が楽しかったです。
 とはいえ、危なっかしいのはそれはそれで事実ではあるのですけど。恋は盲目というよりも盲目であるが故の恋というか、紛い物ではないにせよどうにも不安定さのようなものを孕んで見える、その想いの純粋さ故の危うさがとても好きです。基本的には綺麗で爽やかなハッピーエンドで、でもその裏にいくらでもヒリヒリしたピーキーさを読み取ることができる、擦り切れるような青春の迸りが嬉しい作品でした。