第7話 鬼の休憩時間

 「厳しくするから」のAさんとの話である。ある日、Aさんと休憩時間が一緒の日があった。正直、私は独りで休憩したかったが、Aさんを無視することもできず、また「私、独りで休みたいので」と言う勇気もなく、結局、一緒に休憩所に行くことになった。

 Aさんは、私と向い合せの席に座って、お弁当を広げて、食べながら、実によく喋った。話の内容は、自分の夫の弟の嫁の話だ。Aさんによると、義理の弟の嫁は「鬼嫁」だと言う。

 「おいおい、鬼はあんただろ」と内心思いながら、Aさんの話は続く。

 Aさんは、いかに自分はいい嫁かを力説して、義理の弟の嫁がいかにひどいかを強調する。本当は「Aさんも私には鬼ですよね」と言いたいが、言えるわけもない。

 鬼が鬼の話をしている。

 Aさんは職場のスタッフの悪口も言う。「Ðさんは楽なしごとしかしない」とか「Ēさんは仕事が遅い」とか、ダメ出しがとまらない。どれだけ上から目線なのだ。

 貴重な休憩時間がAさんの毒舌で終わっていく。私にこれだけ話してAさんはさぞすっきりしたことだろう。一方で、私は、Aさんのストレスシャワーを浴びてしまった。

 職場に戻れば、また、鬼になるくせに、Aさんは本当に、自分が私に対して鬼だという自覚がまるでないんだなあと呆れた。まあ、こういう人は大体、自分が見えていない人が多いから、そうなるのもわからなくもない。

 でも、私は心の中で叫んだ「休憩時間返せ~」と。


 読んでいただきありがとうございました。

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