11.帰路へ

 真っ直ぐ家に帰る気にはなれたかった。心が落ち着かないからだろう。近所の公園を訪れる。真ん中にすべり台があるだけの公園というには物寂しいものだ。あとは使い方のわからない健康器具みたいなのがある。

 すべり台の上に乗り寝転ぶ。さっきのおじさんは何者だったのだろうか。

 ああいった仕事は月に二、三回ほど頼まれる。ただメモに書いてある場所に時間通りに訪れて今日みたいなことをするだけ。それだけで生活するのに十分なお金を貰える。いつからこんなことを始めたのか覚えていない。ただ言う通りにすればいい。そうすればあの人は喜んでくれる。あの人だけが僕の存在を認めてくれる。そのためなら何にでもなろう。

 どれほどの時間こうしていただろうか。心を落ち着けるには充分すぎるほどだった気がする。もう帰ろう。

 遠くからくる足音に気づくことなく帰路へついた。

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