9.衝動

 食器を片付けてソファに腰掛ける。テレビを付けると特番がやっていた。十七年前の連続殺人事件の悲劇について。当時私はまだ幼かったから詳しいことは何も知らない。ただ未だにこの事件についての番組があるからそれほどのことだったのだろうとは思っている。確か犯人の男が無差別に人を殺していったらしい。犯人は結婚していて二人の兄妹がいたらしい。大手企業に勤めるエリートで誰が見ても憧れる幸せそうな一家だったと。この事件のせいで責められた奥さんは自殺してしまったらしい。子供を残して死ぬなんて責任感がなさすぎる。残された子供が可愛いそうだと思う。そこまで同情するわけではないがこの一家の妹は生きていれば多分私と同じ歳ぐらいだろうか。生まれてすぐこんな目にあってとは思う。人殺しの子供は一体どんな人生を送るのだろうか。

 そんなことを考えていると母がテレビを回してしまった。

「そういえばもうそろそろ進路希望調査やるんだって。」今日のホームルームでの話をした。

「もうそんな時期なのね。まああなたはしっかりしてるから何の心配もないわ。そこそこの大学に行って、そこそこの企業に就職してさえくれれば大丈夫よ。何よりも心配なのは明のことよ。部活ばっかで勉強なんなしやしない。本当にどうするつもりなのかしら。あなたからも何か言ってちょうだいな。」

「うん。そのつもり。明も何かしら考えてるだろうから大丈夫だよ。」

「そんなこと言ってもね。」

「あ、私まで宿題あったんだ。もう部屋戻るね。」

 扉を閉めて息を吐く。本当は宿題なんてなかった。ただ部屋に戻りたいと思ってしまった。

 ベットに仰向けに倒れる。さっきのニュースの子供は今どうしているのだろうか。どんな気分で日々を送るのだろうか。天井を見つめてふとそんなことを思う。

 夢を見た。二人の子供が自由に芝生の上を駆けていた。兄と妹だろうか。それともただの友達だろうか。手を繋いでいる。男の子が何か手渡した。女の子が泣きながらそれを受け取っている。二人の背中に羽が生えて空を飛んでいった。

「私も連れて行って。」少女が手を伸ばした。そこで目が覚めた。何故か涙を流していた。涙を拭ってベットを出る。時計はまだ一時を指していた。窓を開けて新鮮な空気を取り入れる。目の前に公園が見える。こんな時間に誰もいるわけないのに、何故か気になって仕方がない。よく目を凝らしてみるとすべり台の所に誰かがいるようの見える。

「まさか人が倒れているの?それとも幽霊か何か?」

 目を擦る。もう一度見てもやはり何かいるような気がする。見なかったことにして窓を閉ようとした。半分ほど閉めて手を止めた。

「よし。見に行こう。」

 衝動に駆られてしまった。椅子に掛けてあったパーカーを羽織り静かに階段を降りる。みんな寝ているようで家は静かだった。玄関をそっと開けて外に出た。

 公園に向かって走る。普段の清香だったらこんなことはしないで理性で抑えていただろう。。気にせずに寝てしまっていただろう。しかし何故かこの時だけは衝動に身を任せてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る