もうこの国はこれ以上の進歩を望みません!

ちびまるフォイ

現状維持を追い求めて・・・

「えーー、これより我が国は、日本国をやめて

 "日本村"として新たなスタートを切るわけであります」


オーバーテクノロジーに悩まされていた日本国は、

ついに国という称号を捨て、村として名乗ることが決まった。


同時に村化三原則というものが定められた。


1、新しい技術を開発・使用してはならない

2、新しい技術や文化を持ち込んではいけない

3、常に日本村民は現状維持を追い求めること



最初こそ大きな反発はあったものの、

いざはじまってみると日本村の風土にあっていたのか

あっさりとなじんだことに誰もが驚いた。


「それいつのスマホ?」


「3年前」


「結局これでいいよね」


「なんで必要以上の機能を盛るんだろうね」


日本村の人たちは毎日ひっきりなしに入ってくる

海外で起きる技術革新のニュースを鼻でせせら笑っていた。


街へ出るとプラカードを持った人が叫んでいた。


「このままでは日本村は侵略されてしまう!

 海外の最新兵器に対してなすすべがないぞ!

 重火器に竹槍で戦うというのか! 今こそ海外に学ぼう!」


「おい! 非村民だ!」

「現状維持を破壊するやつだ!」

「追い出せ! 調和を乱すやつはいらない!」


「な、なにをする! このままでは村が滅びるぞ!」


「お前が一番滅ぼそうとしているんだよ!」

「新しい技術なんていらない!」

「今で十分なのになんで求めるんだ!」


「ばかもの! この現状維持がいつまでもできるとは限らん!」


「この進歩に脳を毒されたやつめ!」

「そんなに新しい技術がほしいなら外へいけ!」

「そうだ! 日本村から出ていけ!」


日本村の人たちはしっかりと現状維持を守っていた。

現状維持に反対する人は冷たくあしらわれ、しだいに反対の芽は摘まれていった。


日本村が長くなっていくにつれ、ますます反対する人は減っていった。

当時反対運動をしていた人もすっかり牙を抜かれていた。


「おい。お前、プラカードを振り回していたやつじゃないか。

 もう新しい技術がなんとかって言わないのか?

 一度怒られてすっかりやる気なくしたのか?」


「そうじゃない。無駄なだけだ」

「無駄?」


「すでに日本村と海外の国とでは技術の差に開きがありすぎる。

 文字が読めない人に、辞書を与えてどうするというのだ」


「武器には使えるだろ」


現状維持を乱す人は厳しく罰せられ吊るし上げられる。

自分に悪評の十字架を背負わされることを嫌う日本村の人たちは必死に現状維持を守り続けた。


海外では車が空を飛び、秒で宅配が届き、宇宙エレベーターまで完成していた。

けれど、日本村はうらやましがることもない。


「宇宙エレベーター? なんでそんなものが必要なの?」

「今もこうして十分に幸せなのに、なぜ宇宙?」

「村外の人の考えることはやっぱりわからんなぁ」


あまりに文化と技術の差が開きすぎてきたので、

日本村はしだいに外の情報を仕入れなくなっていった。


日本村で起きるささいなことや、楽しい情報を仕入れて

村外で起きることなど知ることもなかった。


そんなある日の日本村でのことだった。


「おい! 人が倒れているぞ!!」


波打ち際に傷ついた人が倒れていた。


「この髪、この肌……これ村外の人間なんじゃないか?」

「現状維持でこのままにしたほうがいいような……」

「なに持ち込まれるかわかったものじゃないし……」


「バカ! 人の命と新技術を一緒にするな!!」


村外の人間は熱心な治療のかいあってすっかり回復し口も聞けるようになった。


「オー。ニホンムラのミナサン。

 助けてクレテ、カンシャ、カンシャデス」


「しかし、いったいどうしてあんな場所に倒れてたんですか。

 村外の人間がやってくるなんて失くなったのに」


日本村と海外との差が開くにつれて訪れる人も少なくなった。

海外旅行するといっても未開のジャングルに足を踏み入れる人なんていやしない。

それだけに村外から人が来るなんて考えられなかった。


「ジツハ、ワタシの国デハ、宇宙人トノ大戦争起きてマーース」


「なんだって!? そんなの聞いたこともない!」


「デモダメデーース。宇宙人強スギマース」


村外の人間から聞いた話はどれも初耳だった。


スキャンダルと楽しい話題には事欠かなかったが、

日本村の外の情報にはとんと疎かった。


よもや行き過ぎた宇宙開発が宇宙人のひんしゅくを買い、

人類の存亡をかけて大戦争が起きているなど知るよしもない。


「そんなことが起きていたのか……」


「ワタシの国、すでに乗っ取ラレマシタ。

 ダカラ、この国逃げてキタンデーース」


「言っておくが、そんな宇宙人と仲が悪くなったことは

 我々、日本村とは無関係だ。あくまでも現状維持。

 ケンカをするならよそでやってくれ」


「コレは人類全体の問題デス。

 地球という同じ村をモツ仲間じゃないデスカ」


「村の外の事情に俺たちを巻き込むんじゃない!

 困ったときだけ頼りやがって! これだから村外の人間は!!!」


日本村の外にある国がどんどん侵略されていても知ったことではなかった。

破滅しようが、乗っ取られようが自業自得だと誰もが思った。


それより問題なのは国を失った人たちが日本村にやってくることだった。


「え? ここってワールドWIFI使えないの!?」

「宅配衛星の配達対象外って……信じられない!」

「今どきホバーブーツ使わずに徒歩!?」


「やめろ! 新しい文化を持ち込むんじゃない!!

 我々の美しき現状維持文化を破壊するな!!!」


「ふざけるな! こんな不便な場所でどう暮らせというんだ!」

「便利さを味わったら、あんたたちもきっと理解できる!」


村外の発展した技術と文化に馴染んだ人たちにとって、

過去を切り抜いたような日本村はカルチャーショックを与えた。


どんどん失われる現状維持の風潮に日本村の人たちは焦っていた。


「どうしよう……このままでは悪しき新技術に汚染されてしまう」

「村は滅びるぞ。追い返すことはできないのか」

「追い返す先がそもそもないんだよ」


「「 どうすれば現状維持を取り戻せるんだ…… 」」


日本村の人たちは帰路に立たされていた。

現状維持を保つため作戦を決行した。


「ニホンムラのミナサン。

 この度は助けてクレテ、アリガトウデシタ。

 私は宇宙人が消エタノデ、国へ帰りマス」


「そうですか。それはよかった」


「ヨカッタデス。でも不思議ナノハ、新兵器も新技術もナク

 いつの間にか宇宙人消エテマシタ」


「コレで現状維持が出来ますね」


「もしかして、コレも日本村のミナサンが

 私達のために宇宙人をやっつけてクレタデスカ?」


「はい。実はそうなんですよ。

 相手にさとられずによそ者をぶっ殺す作戦をやって

 海外を乗っ取っていた宇宙人をやっつけたんです」


「オー! 忍者! 忍者デスネ!

 本当にアリガトウゴザイマス! 感謝しかアリマセン!」


「我々もこの村を現状維持させるためですから」


別れの言葉を告げると村外の人は、最後にひとつ訪ねた。




「ソウイエバ、私のアトに日本村へやってきた人たち

 もうマルデ姿を見ていませんが、ドウシタノデショウ?」

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