第6話 まだまだ傷心中です

ども……鈴木葵です。

え、元気がない?

そりゃ……ね。

ため息のひとつやふたつ、出てくるってハナシですよ。

というのもね……皆さん、昨日リリースされたシナリオ、もうプレイしました?

ええ、ついにね……リリースされたんですよ……上司ルートが……。

つら……ほんと辛すぎだわ……

それでも私、がんばったんですよ。

たとえば、このシーンとかね。


   ■□■□■□


「主人公の上司・本編3話」より一部抜粋


○背景:カフェ


私「えっ、上司さんとふたりで出張!?」

主人公「そうなの。それも2泊3日で……」

主人公「でも、私、上司さんってちょっと苦手で……」

主人公「だから、今から緊張しちゃって……」

私「今からって、出張は来週でしょ?」

主人公「それはそうなんだけど……」

私「……わかった。だったら、まずはさ」

私「明日、主人公から上司さんに話しかけてみなよ」

主人公「えっ、どうして?」

私「あんたが上司さんを苦手なのは、上司さんのこと、あまりよく知らないからでしょ」

私「だったら、その苦手意識を克服しな!」

私「そうすれば、ふたりきりの出張もなんとかなるでしょ」



   ■□■□■□


はーーーやだやだ!! 

いくら親友とはいえ、こんなの言いたくなかった!!!

だってさ!

このあと、主人公は、私のアドバイスに従って、自分から上司に話しかけるわけですよ。

で、上司は、最初こそ素っ気ないんだけど、主人公が熱心に仕事のことを聞いてくるから、それに応えるようになって、ふたりの距離がどんどん縮まって──

そ・の・あ・と・で!

お待ちかね「ふたりのお泊まり出張」がやってくるっていうね!

は──便利だよね、お泊まり出張!

まだ付き合っていないふたりが、堂々と「お泊まり」できるんだもん!

しかも、どうせアレでしょ。

このあと、お約束の「総務の手違いでふたりが同じ部屋に泊まる」ってイベントが発生するわけでしょ!

あ──まじ辛ぁぁい!!!

だってさ、私のアドバイスがなければ、このお泊まり出張は「他人行儀なふたり」のままでさ。

きっと「手違いで同じ部屋になっちゃった」イベントが発生したとしても、主人公と上司はずーっと無言だったはずだし、なにより、ここね! このシーンね!


   ■□■□■□


「主人公の上司・本編5話」より一部抜粋


○背景:旅館


上司「……とりあえず、俺は別のホテルを探す」

主人公「えっ、今からですか?」

上司「仕方ないだろう。君と同じ部屋に泊まるわけにいくか」


選択肢:

1「べつにかまいませんけど」

2「だったら私が出ていきます」

3「でも、ホテルが見つからなかったら…」


   ■□■□■□


こんな感じで、選択肢が3つ用意されるんですけどね。

もし、私が事前にアドバイスしないで、主人公と上司の距離が開いたままだったら、おそらく選択肢にすらたどりつかないはずなんですよ。

たぶん、会話の序盤で……


   ■□■□■□


上司「……とりあえず、俺は別のホテルを探す」

主人公「あ、はい……」

主人公(よかった、同じ部屋に泊まらなくて)


   ■□■□■□


に、なっていたはずなんですよ!

あの子、本気で上司のことが苦手っぽかったから!

なのにさー!

ああ、しんどい! ほんと悲しい!

もうね、今回ほど、自分の「親友=アドバイザー」って役割を恨んだことはなかったから!

だってさ、だってね?

私がいい働きをすればするほど、私が悲しい状況になっていくって、どういうことよ? ねえ?


実は、ここだけの話、主人公の名前を「鈴木葵」って入力してプレイしようかとも思ったんですよ。

そうすれば「鈴木葵」と上司の恋物語になるわけでしょ。

ハッピーエンドのキスシーンの前では、上司から「葵」って呼んでもらえるわけで。

でも──やっぱり私はあの子じゃない。

私は、あくまで「主人公の親友の鈴木葵」であって、ちゃんと立ち絵もある重要なキャラ──って、少なくとも私自身は思っているわけですよ。

なので! 親友の意地にかけて!

涙をのんで、断念しました。

はぁ……ほんと辛すぎる……

まあ、でも、主人公の名前を「鈴木葵」でプレイしたら、「鈴木葵」がふたりでゴチャゴチャになっちゃうからね。

これで良かったんだと思います。


ちなみに、先ほどの「お泊まりイベント」での3つの選択肢、私が主人公ならどれを選ぶかというと…

まあ、決まってますよね。

もちろん「1・べつにかまいませんけど」一択──

……え、それだと「−1」点?

上司は、そういう積極的な女性が苦手?

あー知らない知らない、今のは聞かなかったことにしまーす!

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