第8話 熊狩り 【奇襲】

となれば、準備が必要だな。

さすがに山刀一本で相手するには、荷が重そうな獲物だ。

練習がてら、幾つか魔法を試すとしよう。


先ず試したい魔法は、孫娘の考案した魔法だ。

孫娘は、ワシが教えた魔法が強力過ぎて使えんと、敢えて威力を弱める研究をしておった。

確かワシが教えた、竜巻と雷を起こしひょうを降らせる魔法陣を、二つに解体し威力を弱め、突風を起こす魔法陣と電撃を発生させる魔法陣に変えおった。

そして、その二つの魔法陣を合わせる事で、氷のつぶてを飛ばす仕掛けも。

なかなか器用な娘であったな。

その魔法を見せられた時は。いまいちピンと来なかったが、今と成れば孫娘の気持ちが分からんでも無い。


さて、奇襲と成ると、接近戦よりも飛び道具が有効だろう。

さすがに突風を起こしたとて、あの巨体、どうにも成るまい。

電撃の魔法陣は、触れた相手に電撃を放つもの、遠距離攻撃は出来ん。


成らば、氷のつぶてを飛ばしてみるか。

魔力を強く込めれば、氷柱つららほどの氷を飛ばせるだろうて。


持参した山刀をそっと地面に置き、左右の手で刀印を結ぶ。

左手でに孫娘が考案した突風の魔法陣。

右手で同じく電撃の魔法陣をえがく。


えがいた魔法陣が、結んだ刀印の指先に輝いて浮かぶ。

その刀印の左右の指先を合わせる様に、魔法陣を重ねて準備は完了。


重ねた魔法陣に魔力を込め始めると、ワシの眼前に氷のつぶてが召喚され大きく育っていく。

形も氷柱つららの様な鋭い円錐形に。


ほう、これならばヤツの胸板を貫けるやも知れん。

そろそろ、放つ頃合いか……ん?。


風向きが変わった。

不味い、こっちが風上だ!

十二分に育った氷柱つらら放つ。


刹那、ヤツが此方に気付いて、わずかに身をひるがえし、ワシが放った氷柱つららは、ヤツの背後の大木に深々と突き刺さる。


だが、無傷ではない。

放った氷柱つららは二本ある右腕の下の一本を、その根元から切断していた。

グォォーー!

ヤツが雄たけびを上げる。


一撃で仕留める積りでおったが、そうそう思い通りにはいかないものだな。


ヤツが怒り狂って雄たけびを上げている隙に山刀を拾い上げ、左手で刀印を結んで、自身の胸元に新たな魔法陣を描く。

悪魔アモンの魔法陣。

強靭きょうじんな肉体を得る権能。


どの道、この魔法も試しておきたいと考えておった。

身体能力を強化出来る魔法は、いざと言う時にこれ程心強い者は無い。


只でも猫特有の、強くしなやかな筋肉が盛り上がり、力がみなぎるのが分る。

上手く行ったか。


すかさず、怒り狂う熊の懐に飛び込む様に、間合いを詰める。

「ん、早い!」

熊がでは無い、ワシ自身がだ。

余程集中せねば、体の動きに意識が付いて行かんかもしれん。


いきなり実戦で試す魔法では無かったか……。

だが、今更せん無き事。

上手くこの体、操って見せる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る