第19話
それからしばらくして。
OA室に帰還すると現場よりも恐ろしい修羅場が待っていた。
「何か私に言うことがあるわよね」
ゴゴゴと聞こえてきそうなオーラを纏いながら迫ってくる瀬奈。
もはや俺が安らげる場所はないのかもしれない。
「……悪かった」
「謝罪は口に出すものではなく態度で示すものよ」
そういって瀬奈は両手を広げる。
……はい?
「ハグよハグ」
「「はい?」」
思わず俺と霧島先輩から素っ頓狂な声が漏れる。
さも当たり前よね、みたいな顔で言われてもな。
「曲がりなりにも天才ハッカーを独占したのよ。それ相応の報酬というものが必要だと思うのだけれど」
「いや瀬奈さん……?」
おそらく彼女の意図は俺を困らせることで反省させようとしているのだろう。
今回は危ない橋がいくつもあった。集中していた
自戒の意味も含めて彼女の要求には応えるべきだろう。
そう思って瀬奈の身体をゆっくりと抱きしめる。
柔らかい感触が全身に広がっていく。
「なっ……!」
帰還早々、霧島先輩の前で同級生とハグ。
なんの罰ゲームなんだこれは。先輩もきっと引いていることだろう。
たしかにこれは堪える。これからは石橋を叩いてから渡ろう。
そう思わせてくれるには十分だった。
「ハグにはストレスを軽減してリラックスをさせる効果があるらしいわ」
「たしか幸せホルモンであるセロトニンやドーパミンが分泌されるんだったか」
「そういう専門的なことはいいの」
お前から振ったんじゃねえか。
そんなツッコミをするより、瀬奈は棒突きのキャンディを俺の口に入れてくる。
ついさっきまで彼女の口にあったそれをだ。
間接キスがどうのこうのと脳に流れるが糖分が俺の疲れた頭を癒してくれる。
糖分補給は大切だな本当に。
ゆっくりと瀬奈から離れる。
振り向くと今度は赤鬼――いや真っ赤に染まった霧島先輩が。
光速で棒突きキャンディを奪い取ったかと思いきやそれを口にし、両手を広げてくる。
……はい?
「私にもしたまえ」
「理由をお聞きしても?」
リラックス効果ならつい先ほど十分過ぎるほどもらいました。これ以上は悪影響かと。
特に俺の心が。
「私にリラックス効果が必要だ」
なんでだよ。どういう理屈だそれは。
「……お断りします」
「……ぐすっ」
嘘だろおい。あの霧島先輩が鼻声に⁉︎意味がわからない!
「お可愛いこと」
おいこら瀬奈!てめえも煽ってんじゃねえ。元はと言えばお前が先輩の前でハグなんかさせるからこんなことになったんだろうが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます