第三章 ふふっ! 青春ですね~。 新子友花よ。今を生きようぞ――

第25話 「ぼんじゅ~る! ですね~神殿!!」


 ――これは、もう一つの新子友花が過ごす『聖ジャンヌ・ブレアル学園』のサイドストーリーである。



「ぼんじゅ~る! ですね~神殿!!」

「……? ああ新城・ジャンヌ・ダルクさん!!」


 ガラガラ!っと、ラノベ部の扉を開けたその人物。

 国籍フランスの女子、そう! ――新城・ジャンヌ・ダルクその人である。

「? ……新城さん。ところで、どうして唐突、ここにいるの?」

 神殿愛は、後ろを振り向きながら新城・ジャンヌ・ダルクに尋ねた。


 ラノベ部のいつもの部室の机――

 給食でグループ分けされて、机を各自引っ付けていつ感じの配置。

 その配置の上に、散らばっている書冊を、神殿愛は幾冊か手に取っている。

「――もしかして? 今回も聖ジャンヌ・ブレアル学園の見学に来たのですか?」

 当然のこと、神殿愛が新城・ジャンヌ・ダルクへ質問することといえば……これだろう。


「うぃ!」

 新城・ジャンヌ・ダルクが、軽快に返事した。


「神殿ビンゴーです。ボンジュールですね〜」

 左手をフリフリ……。新城・ジャンヌ・ダルクが神殿愛の席まで歩み寄ってくる。

 ところで、君はフランス人なのだから、もうちょっとフランス語を正しくね。

「……なーんて、ウソぴょん!」

 来るなり……今度は両手でラビットの耳を真似ての、アイドル並みのぶりっ子ポーズである。


「……あの新城さん?」

 勿論、首を傾げるのは神殿愛。


「……あははっ、神殿! びっくりくりくりじゃん!!」

 左手の人差し指を神殿愛へと指して――大笑いした。

「あははっ。神殿の顔って、こういうのを狐に摘ままれた天気雨って言うんでしょ?」

「……狐に……天気雨?」

 成績上位者の神殿愛だけれど、ついでに日本人。

 初耳な慣用句まがいな表現を聞いて、戸惑った。

「私、ジャパンの絵本で読みました! トンビが油揚げを担いでくるって言う絵本です」

「油揚げ? 担いでくる……?」

 続けざまにくる新城・ジャンヌ・ダルクの謎々めいた日本語表現に、神殿愛はついて行けない……。


 ――作者が解説しよう。

 まず、『狐に摘ままれた顔』と新城・ジャンヌ・ダルクは表現したいのだ。

 しかし、その慣用句に何故か『狐の嫁入り』という天気雨の古語が混ざっていて――更には、油揚げ繋がりだろうけれど、『トンビが油揚げを担いでくる』という一石二鳥の慣用句を言ったのだった。

 どれも微妙に間違っているけれど……。


 要するに、新城・ジャンヌ・ダルクの言いたいことは『私、神殿にしてやったり!』である。


「ウソってどういうことですか? 新城さん……見学に来たんじゃ?」

 神殿愛は、もう一度同じことを尋ねた。


 ゴソゴソ――


 新城・ジャンヌ・ダルクは、制服のジャケットのポッケに手を入れて何やら弄っている。


 ――ちなみに、彼女が今着ている制服は聖ジャンヌ・ブレアル学園の制服である。

 気が付いた人もいるだろうから、書いておこう。

 前回のマリー・クレメンス理事長室で着用していたのも、聖ジャンヌ・ブレアル学園の制服であった。

 でも、その時は見学しに来ただけだった。……けれど制服は聖ジャンヌ・ブレアル学園。


 はて、どうしてか?

 

 それは、彼女が着たいと願い出たから――ということもあったけれど、実際は制服の寸法合わせのために着用していたのであった。

 なんだか、試着室で試着したまま、ちょっと私出かけてきまーす! というおてんば感覚である。


 じゃじゃ――ん!!


 新城・ジャンヌ・ダルク――ポッケから何かを手に取って、それを神殿愛の顔の前に持ってくる。

 両手で大切そうに掲げて。

「――新城さん。それって?」

「はーい。これ聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒手帳ですよー」

 新城・ジャンヌ・ダルクが手に持っているそれは、正真正銘の聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒手帳であった。

 前面に見えるのは清々しい表情の彼女の上半身の写真。

 横には名前――ちなみに英字と、ジャンヌ・ダルクを神格化している校風だからか? 仏語でも表記されている。

 下には生年月日とか住所とか――彼女の住所は日本の現住所である。


「私、新城・ジャンヌ・ダルク! 晴れて、ここ聖ジャンヌ・ブレアル学園に転校しましたー。神殿、メルシーです」

 と言うなり、彼女はポッケに生徒手帳をしまった。


「――ウソ」

 唖然とした表情の神殿愛である。

 ちなみに、いまだ後ろを振り返ったままの状態は継続中。


「ウソじゃないピョーン。あははっ……神殿の表情ってまさに『狐に嫁入り』ですね~」

 しまうなり、再び左手の人差し指を神殿愛に向けて大笑いした。

 それにしても――今度こそ慣用句になってない。

 しかも『狐の』が正しいから――狐が狐に嫁入ることは哺乳類として何も間違ってはいない。

 まあフランス人だから、助詞の扱いは難しいのかもしれないけれど……。



「……ああ、そうなんだ。転校しちゃったんだ」

「はいな! すでに神殿と同じ2年生でーす」

 口角を上げて、ハキハキと喋る新城・ジャンヌ・ダルク。

 そんな彼女をしばらく見つめてから――

「でも……。マリー・クレメンス理事長の話では確か? 私と同じクラスに転校するはずじゃ?」

 そう。マリー・クレメンス理事長室での話を思い出すと、新城・ジャンヌ・ダルクは神殿愛と同じクラスになるはずだ。

 神殿愛には、彼女が見学してきた時に逸早くマリー・クレメンス理事長から教えてくれた。

 また、学園内をエスコートする役も任されたのだった。


「――まあ、正確には今日ホヤホヤの転校でーす」

 肩上までの金髪をパサっとなびかせた、新城・ジャンヌ・ダルク。

「今日、手続きを済ませたって話ですよ。神殿!」

 と言うと、なびかせ終わるなり右目を閉じてウインクを見せた。


「ああ、そうなんだ。でもさ……新城さん?」

 神殿愛も気が乗っている時はテンション高めで突っ走るタイプであるけれど、新城・ジャンヌ・ダルクはそれ以上に始めからハイテンションである。

 彼女が今日転校してきたことを聞いて、神殿愛は少し口元を緩めて愛想良く見せた。


「でも? 何ですか……神殿?」

 新城・ジャンヌ・ダルクはテンションを下げて、真顔になって神殿愛に尋ねた。

「……確か、すでに日本には引っ越してきていたって。そう勇太様の家の隣に」

 そうである。

 新城・ジャンヌ・ダルクは、すでに日本に引っ越してきていることは前回のサイドストーリーに書いた。

 それも、忍海勇太の隣の家に――


 それを聞くなり、ラノベ部で一悶着あったっけ……


「はい! ダーリン勇太ちゃんの隣の家ですよ♡」

「……あはは。……ダーリンねぇ」

 振り向いたままの神殿愛、額に一筋の汗が見える。

 自分も忍海勇太のことを『勇太様』と言っている手前、多分フランスガールにとってダーリンと付けるのは朝飯前的なフレンドリー感覚なのかな?

 と、自分なりに納得する神殿愛である。


 ――彼女はどこかの星から来た鬼娘が、主人公のことをそう呼んでいたように……特に深い意味合いはなさそうだと判断したのである。


 そう少し安心? してから神殿愛は、

「……その生徒会選挙の前にお会いして、学園祭までの約2ヶ月くらい。どうしてたんですか?」

 と、頭の中のカレンダーを見つめ日数を計算して新城・ジャンヌ・ダルクに尋ねた。

「もしかして……ずっと自宅にいたとか? ……はないよね? さすがに」

「はい。その話でしたら――」

 再び……今度は反対の手で髪をパサっとなびかせて。

「その話でしたら、その間ずっと、日本語を彼に教えてもらっていました。なんだか家庭教師みたいでした」

 と新城・ジャンヌ・ダルクがあっさりと、遠慮もせずに答えた。


「――彼? 家庭教師??」


「はい。なんていうか国際的な書類の整備が色々ありまして。中々ですね……転校するタイミングが難しかったんですね。だから、その間に彼に日本語を教えてもらっていましたよ。神殿!」

 両手を腰に当てて、新城・ジャンヌ・ダルクは笑顔で言い放ったのであった。



 満面の笑みで、遠慮せずにである――



「――あの新城さん。その彼ってのは、もしかして?」

 神殿愛が恐る恐る尋ねる。

 聞かなくてもいいと思うけれど……。

 というより、聞かなくてもすでに気が付いてんじゃない?


「はい。ダーリンで~す!」

 ダーリンとは勿論こと、忍海勇太のことである。


「ああ……ダーリンなんだ。そうなんだ。日本語を教えてもらってたんだ。2カ月も……」

 新城・ジャンヌ・ダルクからの言葉を聞くなり、神殿愛は振り向くのを止めて顔を机に向ける。

 そして、散らばっている書冊のいくつかを手の取り、再び整理し始めた――



「2人っきりでね……」

 神殿愛は、それっきり何も聞かずに口を紡いで書冊を整理したのであった。





 続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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