第4話 あたしは今日からラノベ部です。

「ご紹介しますね。って言っても、知っている人もいますよね! 新子友花さんです。……さ、新子さん! 自己紹介してください♡」


 ――大美和さくら先生の笑顔から始まる、今回のお話。

 先生は隣に立っている新子友花を、チラッと見つめて仰る。



 といっても――


 これは新子友花が、聖ジャンヌ・ブレアル学園に転校してきた時の、回想録の話ではない。

 彼女は学園に1年の時から入学している。2年になんとか進級できて、今ハイレベルな授業のペースについていけてないことは、すでに書いた内容の通りである。

 では、今回このエピソードは?



「…………あ、新子友花です」

 まずは、ペコリと頭を下げる。

「……き、今日から……。こちらの部活『ラノベ部』に入部することにしました。……ふ、不束者ふつつかものですが、ど……どうぞ、よろしくお願いします」

 今度は深々と頭を下げて、よろしくお願いします。


 パチパチ パチパチ


 ――その姿を見つめて数秒後にパチパチ……と、このラノベ部の部員二人が拍手した。


 えっ? と思った? 人数少なすぎじゃね?

(誰でも思いますよね……)


 その通り!

 新子友花が入部して、部員はたったの三人しかいないラノベ部――


「おう! よろしくな。新子」

 パチパチと拍手してくれた内の一人は、男子である。

「……って! 勇太があたしを、この『ラノベ部』に無理矢理に入部させたんじゃないの!!」



 勇太?



 そう! この男子部員は、忍海勇太その人である。


 今回のお話――ここまで読んで、サッパリ意味がわかりませんよね?

なに? この奇抜な展開って感じですか?


 ――教室で、新子友花の席の後ろが忍海勇太の席で。

 二人共ラッキーな教室の窓側の列の、しかも、後ろと後ろから2つ目の席で……なになに?? 部活でも、この二人なのかよ! こんな偶然あるわけないだろって。

 内心、うらやましーとかありえねーとかなんとか。思っていたり…………ですか?



『だまらっしゃい!! これがラノベってもんなんだよ!!』



 ――こほんっ。気を取り直して。


「俺はな、お前のためを思ってさそったんだ! 往生際悪すぎだ……諦めろっ」

 机に頬杖をついて、忍海勇太がぼやく。

「はぁ~? 諦めろって、勇太、意味わかんないって!」

 彼を見つめ……当然湧いてくる理解し難い言葉の疑問、それをただ提示しただけの新子友花。

「それにさ! いい加減、あたしのことをお前って言わないでくれる?」

 両手を逆ハの字にして左右に顔をフリフリ……駄目だわこりゃのポーズ。

 自分のことを“お前”って言われたら、そりゃ『何だこいつ?』となりますわな。


「なに、てれてんだ?」

 キョトンと言い放つ忍海勇太の素直な疑問?

 本気で言っているのか……それとも冗談なのか?


「んもー!! てれてないってば!!」


 でた!!

 新子友花の口癖だ――




 んもー!!




 おさらいしておこう!

『んもー!!』というのは新子友花の口癖で、自身の主義主張や反論が、正確に相手に伝わらない時に出る。

 両手をグーにして、肩幅と同じに垂直に下げて(両足の幅も同じくである)、顔と目線を上目使いにして叫ぶポーズ。対象は原則的に男子である。

 ちなみに、頬は照れていなければならない。


 もどかしさ――苛立ちさ――悔しさ――


 などの、例えばナルシストに対して、何を説明してもまったく理解されない時のような……要するに感情的な言葉である。

 RPGで、ラスボスをあと1ターンで倒せるって時に、究極魔法をぶっ放してやろうと……でも、『MPがたりない。』時にコントローラーをギュッと握って、出てくる無念の時の――である。

 ポイズン系のモンスターに毒攻撃を受けて、あっ……毒消し草買ってなかった。こりゃヤバイ……ってあるある。


 んもー!! 作者よ。あたしは、こぼしたオレンジジュースか!

(新子友花から作者への苦情。でも、微妙に意味不明――)



「まあまあ。すっかり仲良しになれましたね。新子さんと忍海君。良かったです」

 大美和さくら先生が、二人のバトルの間にススッと入ってきた。

 先生は、ラノベ部の顧問である。

「さあ……それくらいにしましょうね!」

 パンッと、両手を胸の前で合わせて微笑んだ。


 いつもニコニコで明るい大美和さくら先生が、顧問で良かった。

 いやいや。実はこの先生って人生経験豊富でして、意外と強かで計算高いのだよ――



 ――ああ良かった。

 教師として、子供達を仲良くさせることも勤めの内。


 昨今、気弱な子供が学校に行きたくないと言い出したり、ほんのちょっとしたきっかけから始まる、教室内のイジメであったり。

 教師として、それだけは……なにがなんでも防がないといけません。ラノベ部の顧問として、これは防げそうで良かったです。安心です。


 ……という内情からくる微笑みなのだよ。

 

 でも見た目と容姿はというと……今でも初心を忘れずに教育実習を続けています。

っていう感じの初々しさの維持(意地?)


 年齢は若いけれどね。それでも推定年齢は27歳という噂?

(…………作者はセクハラ発言を、直ちに撤回)



 それから。

「仲がよろしいのですね……勇太様。そして、そこの金髪山嵐きんぱつやまあらし!」

 ……そういえば、ラノベ部にはもう一人部員がいたっていう話をしていなかった。

さっそく。もう一人は女子生徒である。


「おい! 誰が金髪山嵐だ!」

 新子友花がその女子生徒に対して、剣幕を立て噛みついた!

「あなたのことです。あなたしかいないでしょ? ここに金髪の山嵐ヘアースタイルなんて……」

 ふっ……呆れますこと。みたいに、神殿愛は彼女から視線を横に反らして、あからさまに侮辱した。


 ――確かに忍海勇太は茶髪。もう一人の部員は黒髪。

 ちなみに、大美和さくら先生も黒髪を脱色したライトヘアーだ。

 だから、このラノベ部に“金髪”というキーワードに相応しいキャラクターはというと……新子友花だけなのである。……彼女の金髪、これ地毛なんだけどね。


「金髪はいいとして……山嵐とは聞き捨てならん」

 新子友花、お前だ、そこのお前! と指をさす。

「あ~ら、ごめんあそばせ! 確かにこれでは山嵐に失礼ですよね。例えに使っちゃってさ」

 神殿愛は、反らしていた視線を再び向ける。


「…………」 ← 新子友花と神殿愛……バトル突入寸前の無言。



 ――その女子生徒。もう言わなくてもわかりますよね?

 勇太様とか、黒髪とか……そのとおり、彼女は神殿愛である。

つまり、彼女もラノベ部の部員ということになる。


 ああ! だから前回、忍海勇太のことを親しく勇太様と言って、彼も彼女のことを神殿! と言ってたんだ。

 要するに、その理由はラノベ部の部員同士だったからだ。



「ねえ? 勇太! どうして教えてくれなかったの?」

 今も頬杖をついて座っている忍海勇太に、新子友花が駆け寄った。

 そのままの勢いで机をバーン!

「この女、洋風座敷童子ようふうざしきわらしみたいな女が、部員だなんて……」

 新子友花の目は白々しく言う。

 そして、彼女の全体的に、『あの女、なんか嫌い』……という、ハッキリと嫌悪感を漂わせた新子友花の、神殿愛への冷たい視線――

「誰が、洋風座敷童子ですって?」

 神殿愛が、少しムッとしながら聞き返した。


 そもそも、座敷童子というのは東北のどこかの村か町かにいる、庵の火も消えてシーンと辺りも暗くて、離れの一軒家に静まり返った月夜に現れて、寝ている人物に悪戯をする可愛い妖怪。

 その可愛い妖怪が洋風と? 確かに、神殿愛が今着ている制服はブレザーだから、つまり洋風であることは違いない。


「あんた、見た目が日本人形みたいだから。それが制服を着て、姿勢よくも歩いているから洋風だって言ってんのよ!」

 あっ。

 新子友花も、やっぱり神殿愛のことをそう見てたんだ。

「よ・う・ふ・う。洋風の何が問題なの……? どういう意味ですか?」

 神殿愛は素朴な疑問をぶつける。

 自分は新子友花のことを“金髪”と言って、自分のことを“洋風”と言われても……いいんじゃね?

 そこ、別に引っかかるところじゃないと思う。


「別に~いいんじゃね?」

 新子友花は、またも白々しい口調で言って、自分の席へと着席した。

 まったく視線を合わせずに……

「…………ふんっ」

 神殿愛も、今日のところは新入部員の手前穏便にしましょうと……自分の席へ向かった。



 各自の席――

 新子友花、忍海勇太、神殿愛、そして大美和さくら先生。

 4人が給食で『いただきまーす』する時のグループ席のように、机をくっつけている。これがラノベ部の普段の活動スタイルである。


 忍海勇太は、窓側を背にした部室の前側。

 部室といっても、聖ジャンヌ・ブレアル学園で空いている、教室の一室を使用して活動している。

 神殿愛も、窓側を背にした後側だ。


 彼女の向かいの席、つまり、通路側を背にした席には新入部員の新子友花が座っている。

 そして、忍海勇太の向かいの席は顧問の大美和さくら先生の席である。



「たぶん、洋風と座敷童子の関係ってさ……こんな感じの意味なんじゃね?」

 頬杖を止め、忍海勇太が姿勢を正しながらボソッと呟いた。

 足元に置いていたカバンの中をゴソゴソ……。あ、あった! と彼の表情――口元が一瞬緩む。中からひょいっと、ラノベの文庫を取り出した。

「この『七月物語』の一節と同じじゃね? 主人公の名前を神殿にしてみたら……」

 そして、すかさずパラパラと文庫のページをめくって……探し始めた。



「じゃ、お母さん、お父さん、行くからね」

「愛、気をつけて行ってらっしゃい。東京調布のつつじヶ丘駅についたら、すぐに電話して頂戴ね。わかった?」

 なんで東京調布?

 それに、つつじヶ丘駅って微妙に便利なんだけど……微妙に不便な土地柄でしょ。でも、現在は駅前はすっかり綺麗に変わっているけれど……。



「あとさ。こういう……ところとかさ」

 忍海勇太はボソッとそう言うと、再びパラパラとページをめくって……



「ああ、そうか。愛はもう一度、今度は東京の大学に3年次編入して、卒業を目指したいんだね」

 神殿愛の両親――我が子が都会での生活になじめず、困り苦しんでいた時に、お前には東京の大都会は、まだ刺激がキツ過ぎたのかな? という、我が子への思いがあったら……。

「……うん。……そうか。…………愛、もう一度頑張ってみなさい!」

 愛の無念、大阪の学校にまで通って……なんとか。いや! そうじゃない!!

 偶然ネットで検索して見つけた、数年ぶりの東京との再会を――



 中略。

(パラパラとページをめくって……)



 東京で仲間と出会い。勉強に励み……、時間は流れて。

 ある時、彼女は、ふと……こんなことを思った……。

「ああ、私って、ただ単純に東京っていう大都会に憧れていただけなんだ。――でもさ、私って自分でも思っているんだけれど、都会の暮らしには向いていないよね?」

 空をゆっくりと見上げる神殿愛。

「……それがね、最後に、またしても東京の大企業との出会いがあって、わかったことがあったんだ。私と東京とは、神様が与えてくださったような、不思議な縁を感じずにはいられないってことが!!」


「……だから、私の心はね。半分は東京で、半分は東京じゃないのだ!!」

 神殿愛の気持ちは、この空のように晴れ晴れとしている――



「っていう感じじゃね? 神殿が疑問に思う洋風と座敷童子の相関関係って」

 文庫をパタンと閉じた忍海勇太、隣の席の神殿愛を見つめた。



 その神殿愛はというと、しばらく視線を遠めにして――沈黙してから。

「…………ちょ、ちょっと! 勇太様? ということは、私は“集団就職の上野駅”とでも言いたいのですか!?」

 君、意味が分からんぞ……

 ……恐らく。その意味は、田舎から上京してきた学生達の、新しい人生への不安と……過去を郷愁する自分自身との葛藤だと作者は考える?


(ちなみに、聖ジャンヌ・ブレアル学園は某府内にありますよ。2つの内のどちらかですけれど、『おいでやす』の方です)




「――そ・ん・な、ことよりも! 今日は、新入部員の話題じゃないですか!!」

 決して、嫌な流れを変えたいがためのガラガラポンじゃない。

 麻雀で例えると、親リーチで聴牌てんぱい流れの東二局とんにきょくである。


「まさか! まさかです!!」

 神殿愛が隣に席に座っている忍海勇太に身体を寄せて、満面の笑みになった。

「勇太様が、このラノベ部に新入部員を入れたいって言うから、私も、それはそれは、勇太様! それ、素晴らしいアイデアだと思いますわ! と思いましたわ♡」

「神殿……落ち着け。顔が近いから少し離れてくれ……」

 彼女の両肩を両手でグイっと押しながら、忍海勇太が焦る。

「だって、この部は勇太様と愛との……ツーショット・スペースワールドなんですから!」

 どんなワールドだ?

「勇太様と愛は――この初夏。夜空の織姫と彦星、つまり七夕のごとくな関係ですからね」

 はあ~! 神殿愛は自分の両手を胸前でギュッと握って、目を閉じた。

 でもさ、部活なんだから……放課後になったら、毎日まいにち会える関係なんじゃ?

「神殿よ……。織姫と彦星はな、年に一回、天野川を挟んででしか会えないぞ」

 忍海勇太が至極正当な疑問を、隣で瞑想(迷走)状態寸前の神殿愛に呟く……。


「でも! でもでも!!」

 目をパチンと開ける神殿愛――話を聞いていない。とほほだ……。

「それじゃ~だめなんですわね。勇太様!」

 勢いよく、彼女は席から立ち上がって……しまった。

「あのさ……。ハイテンションなところゴメンだけど。……何がダメなのさ?」

 すると、被せるように新子友花は質問して――ちょいと水を差してやった。

「……………」

 身体をピタッと止めて、しばしのシンキングタイムをして、神殿愛は冷たい視線を新子友花にぶつけた。


「じーーーーーっ」

(冷たい視線を自分の口で効果音を付けて、いやこれって、彼女に対する邪見じゃん!?)


「……友花?」

 神殿愛は、新子友花をそう呼んだ。

「私達はね、織姫と彦星という哀しい関係……。その関係を象徴付けしているのは“天の川”ですよ。おわかり?」

「そう……なんだ」

 新子友花の額には、一筋の冷や汗が見える。

「そうです。天の川とは……そこにいる」

 自分の真正面の席に座っている新子友花に、右手の人差し指をさして――


「そこにいる。そこにいる。そこにいる。そこそこそこにいる! 金髪山嵐!! あ~うっとうしい限りですね!!」

 嫌味全開だ――あんたは[FF5]のギルガメッシュかい!?




「んもー!! んもー!! んもー!! 愛……あんた意味わからないって!!」




 新子友花は、神殿愛を愛と呼んで……。

 そう! 再び見ることができた新子友花の『んもー!!』だ!! 条件反射的に自分の席から立ち上がって、神殿愛に向かって『んもー!!』で猛抗議。

 彼女は背が低いから『んもー!!』ポーズがしっくりとくる。


「だから、この際ハッキリと言っておきますね。そこの金髪山嵐の新入部員! ちなみに中途入部野郎!!」

 神殿愛が右手の人差し指を新子友花にギッと向けたまま……(さっきからずっとである)言い放った。

 でもさ……ちょっと言い過ぎなんじゃない?

「あなたは、このラノベ部の“天の川”として、織姫と彦星である勇太様と私を、しつっこくさ、しつっこく……」

 地団駄を踏んでいる神殿愛。お嬢様には相応しくないジェスチャーを繰り返す。

「こんなにね……! こんな、こんなんだからね! …………はっ!」

 彼女が我に返った。


「…………あら? ……ご……ごめんあそばせ。私としたことが、私的な妄想で皆様を引かせちゃったかしら??」

 新子友花と忍海勇太を交互に見る神殿愛。……ちなみに、二人は無言で見ている。聞いている。

 あら? 大丈夫みたいねと……神殿愛はすかさず!


「勇太様と私の、ねちょんねちょうんな関係を裂こうなんて……。友花って! ばーか! ばーか!」

 最後に“あっかんべー”をして、ふう~と大きく深呼吸をして、神殿愛は着席しました。

 君は御嬢様なのに……はしたないとは思はないのか?


 ――作者は久しぶりに“あっかんべー”という表現を書いちゃったなと。


 新子友花も着席した。

 ……すると、勿論、ここラノベ部の部室で、現在進行形で新子友花と神殿愛の、バッチバッチな視線合戦、お互いを睨みつけている構図ができ上がる…………ことは、まあ必然だわな。




「神殿も、お前もさ。落ち着けって……」

 女子部員二人の犬猿な関係を目前で見ていた忍海勇太、仲裁に入った。

「大体さ、このラノベ部って俺達が2年になるまでは先輩も数人いてさ。神殿も覚えているだろう?」

 忍海勇太がそう言って神殿愛を見ると、彼女は自席でHP(ヒットポイント)を減らしすぎてしまったのか、肩の力が抜けた状態、だらーんと……しかし、新子友花へのバッチバッチの視線は忘れていない。

 一方の新入部員の新子友花は、勿論、自分が入部する前のラノベ部のことは、わかるはずがない。彼女もバッチバッチの視線は継続している……。


「勇太様……はあ~。おいたわしい」

 いや、君が痛々しいぞ。

「ええそうです。この聖ジャンヌ・ブレアル学園で部活を維持継続するためには、部員は最低でも3人いなきゃいけませんから……」

 そういうことか。

「廃部までの猶予期間は、1学期の終了式まで。……でも、私は、勇太様!」

 水を得た魚――“emeth”の文字を与えられて命を吹き決まれたゴーレムのごとく!

「私は! 勇太様と織姫と彦星の関係でいいんです。もうこれ以上……ラノベ部のことよりも、これからは御自身のことを、……私のことを考えてくだされませんか?」


「いや、それはできん。だって俺はラノベ部の……」

 首を振って、神殿愛からの提案を否定する忍海勇太。


「私は、勇太様のことを…………好き♡ ……あはは、あひゃ! どさくさまぎれて言っちゃいなって?」

 神殿愛の自席で再び自分の両手を胸前で握り、身体をクネクネさせて……。

 その御嬢様らしからぬ光景――RPGのふしぎなダンスで、みんなのMP(マジックポイント)を奪おうとしている……みたいだ。

 それにしても、お昼休みの時の新子友花のふしぎなダンスといい……。


 このラノベ部、なんだかいろんな意味で、凄まじいぞ!!




「まあまあ、みなさ~ん。落ち着いて、落ち着いてくださいね」


 大美和さくら先生の顧問の一声が、ラノベ部の空気を変えた――

 先生の言葉を聞くなり、新子友花も忍海勇太も神殿愛も黙る。

「先生は今! とっても嬉しいのですよ~」

 とニコッと微笑んだ。

「先生が、どうして嬉しいのかわかりますか?」

 部員三人を一人ずつ、ゆっくりと見つめながら部員に聞く大美和さくら先生。


「それはね! 廃部になっちゃったら、部員がそろわなければ部活動できないからです。それは、わかりますね!」


「……はい。大美和さくら先生」

「……はい。先生。仰る通りだと思います」

「……はい。先生。俺も理解しています」

 

「――さあ! みなさん!! 部活を始めましょうか。席に座ってくださいね……って座っていましたね」

 大美和さくら先生流のジョークである。



「今日の先生からのおすすめは……これです!」

 大美和さくら先生、手に持っている文庫のしおりの挟んでいた箇所を開いて、

「――あたしはスマホで、友達にね。大学のすぐ近くに玉川上水という上水道がってさ」

 先生が小説を声を出して読み始めた。

「鷹の台駅から歩いている時は、東京らしい風景だったけど、玉川上水は違った! そこだけ森なの!! あたしはびっくりしたんだから」


 忍海勇太と神殿愛は姿勢よくして、先生の朗読を聞き入る。

 その二人を見て、新入部員の新子友花も真似た。


「――あたしなりに東京のことはさ、知っていたつもりだったけど。こんな大都会のど真ん中に森で囲まれた、こ~んな遊歩道があるなんてさ……。あたしは、この大学でやっていける気がした。やって行けそうだと思ったんだ!!」

 読み終える。

 ――大美和さくら先生は目を静かに閉じて、感動の余韻を味わった。それから、ゆっくりと文庫を机にページの個所を下にして置いた。


「先生が今読んだ『さくら記念日』どうでしたか? さあ! 新入部員の新子友花さん!」

 刹那、大美和さくら先生が目をパッと開けて、隣の席に座っている新子友花をグイっと見つめる。

「は、はい……?」

 恐縮する新子友花――

「あなたが、このラノベ部に入部することを決意した、本当の動機を私達に教えてくれませんか? 勿論、忍海勇太君が誘ってくれたから……だけじゃないでしょう? 先生は、もうお見通しですよ」

 ニコッと……新子友花を見つめながら、また微笑んだ先生である。



「…………はい、先生」



 ゆっくりと起立する新子友花。 そして――


「あたし……2年生には無事に進級できたけれど。でも授業にはまったく……ついていけてなくて。このままじゃ3年生に進級できないかもしれないかも……あたし落ち込んじゃって。……で、この前の放課後、ベンチで一人座って色々と悩んでいたら、そしたら、大美和さくら先生が現れて……」


 新子友花が先生を見つめる。


「…………せ、先生は『そんなことはありませんよ。新子友花さんは、ちゃんと聖ジャンヌ・ブレアル学園の入試に合格して入学できたのですから。ちゃんと卒業できます』……って、あたしを励ましてくださって」

「そうでしたね。そういうエピソードがありました」

 大美和さくら先生は、深く頷いてくれた。


「…………まずは、国語に慣れるところから始めませんか? と仰ってくれて」


「この学園が採用している国語の教科書は、進学用の難しい教科書だから……。勉強について行き辛いのは当然だからって……」

 見つめていた視線を、少し下げた新子友花、

「……だから『ライトノベル』という、あたし達のような年齢層向けの読みやすい小説から、国語の勉強を始めて行きましょう! 先生からの提案です……と仰ってくださって。あたしは、はい……わかりましたと」

 だったけれど、もう一度、先生の目を見つめ直した。



「…………これが答えです。大美和さくら先生」


「大正解です! 新入部員の新子友花さん。ラノベ部へようこそ!!」





続く


この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

また、[ ]の内容は引用です。

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