日常

 学校での青葉は普通の女子高校生だった。友達と喋り、笑い合っていた。常に本と向かい合っている僕とは真逆だった。青葉を見ていると自分の弱さに気づかされる。そして揺れた携帯を見て、彼女の強さをまた感じてしまう。

『今日は空いてるよね?焼肉行くよー!』

そんなメッセージが送られてきた。数秒携帯を見つめて、そっと電源を落とした。



 放課後になると僕は焼肉店に連行されていた。授業が終わり、真っ先に逃げたがスポーツをしていない僕が元陸上部の彼女に勝てるわけがなかった。席につくなり、食べ放題のメニューを注文する彼女は今日もハイテンションだった。

「春樹は学年主席だったよね。なんでそんな頭いいの?」

「友達もいないのに、成績下位って恥ずかしいじゃん」

「ぐふっ、耳が痛い。」

「あー、それは申し訳ない」

「なんてね、私一応8位ぐらいだよ」

この世にこんな無意味な嘘があったとは…。赤い牛肉が運ばれ、青葉は赤い牛肉を焼きはじめた。


「やっぱり肉といえば牛肉!」

とタレをじゃぶじゃぶ付けながら彼女は言った。

「太るよ」

「本当にデリカシーってものがないね〜。そんなんだから女の子が寄ってこないんだよ?」

自分が女子で、自分から寄ってきたという真実を忘れていた青葉。

「そっか、やっぱり青葉は女子じゃなかったのか」

「なぬっ、やっぱり取り消し!」

と言いながら僕の皿に肉を多く入れてくる。

「ちょ、こんなに食べられないよ」

「男の子だったら食べれるよね。あれ?男の子じゃないのかなぁ?」

笑いながら彼女はやり返しをしてきた。そんな言葉に耳をかさないように、入れられた肉を食べる。

 そしてふと思った。一度焼かれた肉は再び赤身戻ることできるのだろうか、と。


 


「学校って気持ち悪いよね」

店を出てすぐに彼女はそう言った。基本ポジティブな彼女から吐き出されたかの様に出てきたその言葉には嘘偽りは無いように見えた。

「自分が偉いと思っている人がいて、みんなその子についていく。あの子が絶対、あの子が言うから、歯向かったら友達じゃなくなる。そういうの見ていたら空気っていうのは本当にあるんだって感じる。だからそんな関係を全部失くしたい。空気を読むことが絶対に正解だとは限らないってことを知ってもらいたい。」

青葉はすぐ顔に出る。真面目な話のときは真顔で話す、楽しむときは笑う。今の青葉の表情は初めてみた。『きっかけ』を思い出しているのだろう。ひどく冷たく、悲しい顔をして泣いていた。











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