あの日のこと

僕が5歳のときに父親と母親は離婚した。父親のギャンブル中毒が原因だったらしい。僕は母親に引き取られ、母は女手一つで僕を育ててくれた。裕福ではないがとても幸せな日々を送っていた。そんな母を12歳の時に亡くした。赤信号を猛スピードで通り過ぎていくトラックにはねられ、病院に着く前に死亡は確認されていた。その光景は今でも目に焼き付いている。偶然か必然か、トラックの運転手は離婚した父親だった。目の前を赤い血が流れていくのが脳裏に焼き付いて離れない。

 中学のときの友人関係、部活などの思い出は一切覚えていなかった。おそらく何かがあり、忘れてしまったのだろう。

 つまり、最後に覚えている母親の記憶が涙解離性障害のきっかけということになる。そのことを正直に青葉に話した。

「そっか」

さっきまでの彼女とは思えないような優しい表情。その優しい表情を消さずに彼女は口だけを動かした。

「私はね、お母さんが死んだ次の年に友達がいじめにあって不登校になったの。友達のSOSに気づかずに平然と過ごしていたの。バカだよね私」

僕は何も言わなかった。今、何かを口にしたらそれこそ青葉を苦しめてしまう。ここは見守るのがいい。

「はい!暗い話はおしまい!」

僕の優しさを一瞬で消し去る青葉の明るい声が店内に響き渡る。

「それでさ!考えたんだけど、これから私たちの合った出来事を日記に書かない?」

「いいけど、どうして?」

「日記に書いてたら、忘れてもまた再開した時に気付けるかもじゃん」

普通に感心した。彼女はそこまでバカではないのかもしれない。いい考えなので僕もその案にのることにした。

 その後連絡先を交換し、二人で日記を買いに行った。

 高校生になってからのはじめての友達。同じ苦悩を知る友達。一番気が合う友達。そして、いつかは消えるかも知れない友達。

 いつか、後悔すると知っていてもこの関係は嬉しかった。

 
















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