幼馴染な美少女天才科学者(自称)が俺と恋人になろうと迫ってくるんだが、ある日突然「お前が美少女になるんだよぉぉ!!」って言われて性転換ポッドに閉じ込められた。

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

幼馴染な美少女天才科学者(自称)が俺と恋人になろうと迫ってくるんだが、ある日突然「お前が美少女になるんだよぉぉ!!」って言われて性転換ポッドに閉じ込められた。




 突然だが、俺には同い年の超高校級の美少女天才科学者な幼馴染がいる。


 何を言ってるのか良く分からないと思うが、俺が通う高校のクラスメイトや先生たちが「頭良い上に可愛いってスゲー!」とか「この娘は我が校の誇りだ!」とか言ってるのできっとそうなのだと思う。


 何故なら中学一年生の時ちらっとニュースで見たけど、『ミレニアム懸賞問題』っていう凄い難しい未解決問題を複雑なアルゴリズム(?)の計算式を用いてたった一人で一つ解いたらしい。

 どうやらたった一つ解いただけでも世界的に衝撃な話題のようだ。


 そのおかげで莫大な賞金が入ってしばらく生活には不自由しないのだとか。現に彼女は高校生二年生の癖にこんなでっかい豪邸にたった一人で住んでいる。


 ソファに座ってる俺は、隣で何やらタブレットPCで論文らしきものを打ちこんでいる少女をじとっと見遣ると声を掛けた。



「なぁ 玖莉栖くりす、お前って実は生き別れた双子とかいる?」

「なに言ってるのあーちゃん? 新手のナンパ?」

「違うわ」

「あ、それともようやく決心してくれたのかな!? この僕、丹晴にはる 玖莉栖くりすの恋人になるって!!」

「違うわっ!!」



 スマホの画面を見ていた俺、門矢かどや 千尋ちひろは全力でツッコむ。作業を中断して隣のソファで目をキラキラさせながら身を乗り出してる玖莉栖なんぞ知らない。……いや、そんな可愛い顔しても無駄。


 ん? 俺の名前、女らしいって? ……だよなー。俺の両親、俺が母さんのお腹の中にいるとき超音波検査で「女の子だやったー!」って喜んだらしくて、結果男の子である俺が生まれてもそのまま考えてた名前付けたんだとさ。


 ま、ちょっと家事が得意で現在アパートで一人暮らし中のしがない普通の男子高校生である俺のことはどうでも良いな。


 さて、彼女の名前は丹晴にはる 玖莉栖くりす。家でも高校でも科学者みたいな白衣を着ており、けばけばしいショッキングピンク色の長髪が特徴的なテンション高めな美少女系幼馴染である。


 ―――そして、周りから囃し立てられているとはいえ自らを"天才科学者"と自称する大変イタイ子でもある。


 いやお前ただの高校生だろ。



「ふふん! この天ッ才科学者である僕に好かれるなんてとっても名誉なことなんだよッ!! さぁ、ちーちゃん、この頭脳派である僕のキュートな魅力にヤられてさっさと永久就職しちゃいなよー!! 一緒にこの家に住もうよー!!」

「それ恋人通り越して結婚じゃない?」

「細かいこたぁどうでも良いんだよ!!」

「おい頭脳派」



 俺は冷静にツッコみつつ静かに溜息を吐く。


 見ての通り、この美少女天才科学者(笑)はことあるごとに俺にアプローチを仕掛けてくる。俺も男だ。こんな美少女に好かれて嬉しくないわけがないのだが、素直に「はい付き合います」といかないのが現実だ。


 ……こんな冴えない男よりも、もっと彼女に相応しい立派な男がこの世のどこかにいる筈だろう。人格者で、お金持ちで、イケメンな……。


 と、なんだか少しだけモヤモヤしながら俺が考え込んでいると、隣にいた玖莉栖がいつの間にか俺の正面に立っていた。


 いきなり彼女はビシィ!!と俺に指を指すと、不敵な笑みを浮かべた。 ……おい、人を指差すな失礼だろが。あ、白衣の袖ほつれてんじゃん。

 ったく、あとで直してやらないと。



「ふっふ~ん! この僕にはちーちゃんが何を考えているのかお見通しなんだよ! ずばり自分に自信が無い!! 容姿も学力もステータスも、あらゆる全てがこの僕に釣り合わないと思っているから"僕と恋人になる"っていう一歩が踏み出せないんだ!!」

「は、はぁー……!? そんなわけじゃないし……!? お前っていっつも無駄にテンション高いし、そんな奴と付き合うと疲れるし、そもそも玖莉栖となんて将来的に一緒に暮らすビジョンが明確に見えないからだし!!」

「はいはいツンデレツンデレー!」

「じゃねーよ!」



 俺は軽く受け流す玖莉栖に頭を抱えると、わなわなと身体を震わせた。


 小さい頃から一緒に俺んちで育ってきて互いの性格・趣味嗜好を知ってるとはいえ、なんだコイツのポジティブシンキング!?

 ちくしょう、もっと刺さる言葉言ってやろうか……!?



「この童顔!」

「ウェイ☆」

「でべそ!」

「ウェイ☆」

「チビ!」

「あ言ったついに言っちゃったねちーちゃん! 流石にそれはこの天ッ才科学者であるこの僕でも許せないなー!! だいたいこの低身長はこの僕が天才であるが故のアイデンティティですー! 可愛いロリっ娘は需要あるんですぅー!!」



 ぷんすかと綺麗な髪を振り乱して俺をポカポカ叩いてくるロリ玖莉栖。


 はっはっは、全っ然痛くない。いや顔真っ赤にして可愛いなぁ。……っていうかでべそよりチビの方が嫌なのかよ。事実だろ。


 少しだけ溜飲りゅういんが下がる。だが何故か玖莉栖は唇の端をニヤリと上げると、小さく何かを呟いた。



「―――ちょうどいい機会だね」

「……ん、なんか言ったか?」

「ううん、なんでもないぜ!! ちーちゃんに何言われても僕にとっては全部ご褒美だってことだよ!!」

「うっわ俺の幼馴染強い」



 俺は再度溜息を吐きながらやれやれと首を振る。そうだ、玖莉栖にどんなことを言っても全部前向きにとらえるだけだった。このメンタルお化けめ!


 っていうか何が刺さる言葉を言ってやるだよ俺のバカ野郎。この美少女系幼馴染がこんな俺に好意を抱いてくれてるだけでも奇跡なのに、そもそも語彙力貧相な俺がそんなことを言えるわけが無い……!


 コイツのポジティブシンキングを改めて証明しただけだった……ッ。Q.E.D証明終了



「それはともかくさっきの続きだよ!!」

「"自信が無い"ってヤツだろ。はぁ、俺の心を抉ってそんなに楽しいか?」

「ううん、全然楽しくないよ?」

「ん?」

「僕が楽しいのは、こうしてちーちゃんと一緒に過ごすことだよ」

「うぐっ……!」



 あどけない表情に真剣な眼差し、そして彼女の言葉に俺は思わず息を飲む。


 ―――困る。本当に困る。いつでも前向きでポジティブな玖莉栖だが、こういった表情や言葉を不意打ちで俺にだけ見せるのだ。

 全幅の信頼を寄せた、好意を抱く異性へと向けるこの瞳を……。


 率直に言ってとても嬉しい。嬉しいのだ。これは間違いなく俺の本当の気持ち。


 でも、それに応えることは出・・・・・・・・・・来ない・・・


 俺はどう誤魔化そうかと悩んでいると、玖莉栖はいつものポジティブさで俺の手を握ってきた。



「ちーちゃん、ちょっと私についてきてー! 見せたいものがあるんだぜっ!!」

「な、なんだよ……。また新しい発明品か?」

「そうそうそんなとこー! さぁレッツゴー!!」



 俺は彼女の手を引かれて隣の研究室へと足を運ぶ。『関係者以外立ち入り禁止!』という頑丈そうな扉の前に立つと、玖莉栖は指紋・光彩といった生体認証の他、暗証番号を打ち込んだ。


 前に訊いたら安全対策の為らしい。


 しばらくしてロックが解除、扉がウィーンと開くと、その広い空間には大量の何に使うか分からない機材や機械、研究資料、論文らしきものがたくさん置いてあった。


 ここは実験や何か小難しい研究をする為の玖莉栖くりす専用の研究室。俺もこれまで何度か来たことはあったが、何やらその中心にはこれまで俺が一度も見たことが無い、人ひとりが入れるほどのカプセル装置的なヤツが鎮座してあった。


 ……なんだこれ?



「なぁ玖莉栖。これっていったい―――」

「んっ」



 何の発明品だ?と言葉を続けようとしたが、振り向きざまに抱き着かれる感触があった。柔らかくも、ふわりと彼女の甘い匂いが俺の鼻孔を擽る。


 突然の抱擁。いつもの彼女なりの軽いスキンシップかとも思ったが、俺の背中に回される手がぎゅっと力が入っていることに気が付いた。

 玖莉栖はぐりぐりと顔を俺のお腹に擦り付ける。まるで、何かを名残惜しんでいるような……?



「く、玖莉栖……? いいいきなり抱き着いてきてどうした……!?」

「ちーちゃん……。僕、知ってるんだよ」

「は? な、なにを……?」

「ちーちゃんが、頑なに僕と恋人になろうとし・・・・・・・・・・ない・・理由」

「っ……!? な、なに言って……?」



 玖莉栖は静かに、だけど芯を持った声音で言葉を紡ぐ。


 待て。待て、待て、待て―――!?



「ちーちゃんは、僕のことを必死に守ろうとしてくれてたんだよね。―――ちーちゃんの、両親から」

「お前、なんで……ッ!! 知ってたのか……っ!?」

「この天っ才科学者である……、ううん、そんなの関係ない。この世で一番大切な幼馴染であるちーちゃんのことは何でもお見通しなんだよっ! なんていったって、僕はちーちゃんのことがだいだい大好きだからねっ!!」

玖莉栖くりす……」



 彼女はそのまま言葉を続けた。



「僕、小さい頃に事故で両親が亡くなって中学の頃までちーちゃんの家に引き取られたでしょ? 小学校から中学に上がるとき、徹夜でいくつか論文を書いて海外の著名な研究者とか教授に提出したある夜……、僕、ちーちゃんとちーちゃんの両親が話しているのを聞いちゃったんだ」

「…………!」

「―――『あの娘は将来絶対に金になる。何とかお前とくっつけてこのまま一緒に過ごせば、俺らも贅沢三昧できる!』って」

「…………っ」

「あのとき僕は悟ったよ。―――あぁ、なにかとずっと愛想が良かったのはこの為か。僕はこの人たちにとってお金を産み出す道具なんだって」



 でもね、と言葉を区切ると、彼女は下から俺を力強くじっと見つめながら口を開いた。



「ちーちゃんは違った。僕のこと、『玖莉栖はお金を産む道具なんかじゃない! 大好きで大切な俺の幼馴染だ!』ってはっきりと言ってくれた。……嬉しかった。思わず涙が溢れるほどに、すっごくすっごく、す~っごく嬉しかったんだよ!!」

「そ、そうか……。それも聞いていたのか……っ!」



 俺は思わず天を仰ぐ。きっと今の俺の顔は恥ずかしさで真っ赤になっていることだろう。そして今更ながらに、玖莉栖が全て知っていたことに身体中の力が抜ける。


 これは……安堵だ。


 苦しかった。今までずっと苦しかった。例え玖莉栖のことが好きでも、そのことがずっと尾を引いていて一歩を踏み出せなかった。

 ハッ、今まで玖莉栖のことが好きだったから、親のことがあっても諦めきれなくて何度も通ってたのはさすがに女々しいかな……。


 あのとき、まさか自分の親が俺の大切な幼馴染をお金でしか見ていなかったことに失望した。玖莉栖の両親が無くなったとき、どれだけ彼女が悲しんでいたのかを知っていた癖に……!


 だからこそ、玖莉栖が莫大な賞金を得たあと別の場所で一人で暮らすと言い出したとき、俺は心配もしたが、何よりもほっとしたのだ。

 俺の親の皮算用から……毒牙から、ようやく解放されるって。


 因みに俺の両親は玖莉栖が一人暮らしすることに……つまり自分らのもとから離れていく事に猛反対した。

 しかし彼女の論文の作成や研究に協力する海外団体チームの有権者の一人が彼女の保証人になってくれたため滞りなくスムーズに契約が進み、こんな研究室付きの豪邸を購入して一人で住み始めたのだった。



「でも僕が想定外だったのは、あの人たちがちーちゃんに暴力を振るい始めたことだったよ」

「……ッ、それも、知って……!?」

「ちーちゃんのことが気になったから、興信所に依頼してたんだ。僕はちーちゃんが写った写真を見てすぐに違和感を覚えたよ。僕の雇った人はすごく優秀でね。電気工事関係の業者に変装して、電源タップの中に盗聴器を仕掛けて貰ったんだ」

「いや犯罪じゃん!?」

「ばれなきゃへーき! そのおかげで事態が判明したしねー!」



 玖莉栖は抱き着きながら俺を見上げてにこやかに微笑む。


 確かに俺は中学のとき玖莉栖が家から居なくなってから、両親から暴力を受けていた。……もともと俺は望まれてない子だ。なにせ本来女の子が良かったらしいからな。


 だからこそ、俺は小さい頃から頑張ってきた。どうしても性別は変えることは出来ないけど、千尋っていう女性的な名前を付けてくれた親の為に、料理も、掃除も、裁縫も……女性ならば一通りできるであろうものは全部できるようになった。


 ……結局、どんなに頑張っても仮初かりそめの愛情しか貰えなかったけどさ。



「因みに高校入学と同時にちーちゃんが住むアパートを手配したのも僕だよ」

「そうだったの!?」

「うん、僕の資金でアパートごと購入してちーちゃん家のポストにチラシを入れといたんだー! 『一月住むたびに百万円贈与』って好条件好待遇でね!! 僕にとってそんな端額、痛くも痒くもないし!!」

「な、なるほど……。ははは、金にうるさい親がとびつくワケだ……」



 いつも不機嫌そうな顔をした両親が一転、にこやかな笑みで俺をアパートに放り込んだのはそういうことだったのか……。もうずっと家に帰らないでそのアパートで暮らしていなさいとも言われたな……。


 俺は力無く笑う。今までずっと俺を見て欲しいと頑張ってきても、肝心の両親は俺なんかを見ていなかったといまさら分かってしまったからだ。


 ―――あぁ、どうしよう。急にどうでも良くなってきた。なんとか頑張ろうと張り詰めていた糸が、ぷつりと切れたこの感覚。無気力感。


 思わずある言葉が口から洩れる。



「死にたいな……」

「絶対にダメ」

「……!」

「ダメだよちーちゃん。残される方は、けっこー辛いんだからね……?」

「っ! ご、めん……! そうだよな、そうだよな……!」



 彼女は俺を励ますかのようにくしゃりと笑みをつくる。久しぶりに見る、下手くそな表情。


 そうだ。玖莉栖くりすの両親は、ある日突然交通事故に巻き込まれてこの世を去ったのだ。いきなりたった一人ぼっちになったのだ。


 そんな彼女の前で、言うべき言葉ではなかった……!


 でも……!



「でも、俺、これからどうしたら良いんだろう……?」

「―――なら、僕と一緒に結婚を前提にここで暮らそうぜ!!」

「え……? で、でももし俺と結婚なんてしようとしたら、親は絶対お前にお金を無心しようと……っ!」

「大丈夫。そこでこの僕の発明品の出番だよっ!」

「は、発明品って、このカプセルみたいなでっかい装置……? これっていったいなんだ?」



 玖莉栖は俺から離れると、いつものテンションでどやぁとしながら小さな胸を張る。一方の俺は彼女のテンションの変化に戸惑いながらも目の前にある大きなカプセル型の装置を見つめた。


 何かの入れ物っぽいけど、なんだ?



「ふふん! これは天っ才美少女科学者であるこの僕が、世界中のあらゆる最先端科学の粋を結集させて作ったポッド型性別変換適合装置、名付けて! ―――『性転換ポッド』だよ!!」

「な、なんだってー!?」



 このカプセル型装置の正体が判明して思わず変な声が出てしまった……! これまで実用性のある発明品をたくさん作り出してきた玖莉栖だけど、これは流石に予想外だ。


 別に彼女の実力を信用していないわけじゃない。こうして俺に見せてくるということはマジで性転換が可能なのだろう。

 問題はどうして玖莉栖がこの性転換ポッドなるものを俺に見せてきたのかってことなんだが……。



「―――さ、ちーちゃん! 僕と一緒に暮らすために、圧倒的美少女になってよ!!」

「はぁ!?」



 我が幼馴染ながら何を突拍子もないことを言ってるんだ!?



「いやいやいやいや!! それってつまり俺の性別が女になるってことだろ!? どうしてそんなことする必要があるのさ!?」

「うーん、理由はけっこーあるけどしいて言えば僕のためだね!! 女の子になれば絶対にあの人たちはちーちゃんだって気が付かないだろうし、それにちーちゃんが女の子になったらすっごく可愛いと思うんだ!! 大丈夫、僕はちーちゃんの性別が変わったとしても"好き"っていう感情だけは絶っ対に変わらないから!! 好き! 大好き! 愛してる! あいらぶゆー! ちーちゃんぞっこんラブ!!」

「~~~っ! こんなときに限って等身大以上の愛情ぶつけてくんな!!」



 俺は思わず顔が真っ赤になる。恥ずかしさと嬉しさで身体が火照るように暑い。


 あぁ、ダメだ……。やっぱ俺おかしい。普段の俺なら絶対に拒否してる筈だ。だってこれまで十七年男として生活してきたんだ。今まで男として暮らしてきた価値観が崩壊してしまうと思うとたまらなく怖いし、性別が変わるということはすなわち"人生のやり直し"ということに他ならないだろう。


 でも……俺の大切な幼馴染であるコイツなら、俺の大好きな玖莉栖なら、俺のことをいつまでも必要としてくれる確信がある。

 大切な思い出も、これまで何度も積み重ねてきた。あの人たち・・・・・とは、違う……!


 それに、事情を知った上で好きな娘にこんなこと言われたら、なんでも応えたくなっちゃうじゃんか……っ!

 


「あーもうっ、わかった。俺、女の子になるよ……!」

「ふっふっふ、覚悟は決まったようだねちーちゃん。―――それじゃあ、中に入って!!」

「あ、あぁ……。な、なんか緊張するなこれ……!」



 俺は背中を玖莉栖に押され、その性転換ポッドとやらの中に入る。どういう原理かは分からないが内部の側面にはチューブやら配線やらがあって、何故かキラキラしたシールなどが貼ってあった。

 実に彼女の発明品らしい。


 やがてガラスでできた扉が閉まると、俺はゆっくりと深呼吸する。改めて覚悟を決めているとガラスの向こう側にいる幼馴染を見つめた。


 玖莉栖はなにやら赤いレバーに手を添えながら口を開いた。



「これで準備オッケー!! じゃ、定番のセリフ言ってみようかっ!!」

「? そんなのがあんの……?」

「―――お前が美少女になるんだよぉぉ!!」

「なんだそれ!?」



 レバーをガコンッ!!と引きながら玖莉栖がそのように叫んだ瞬間、性転換ポッド内部がシュゥゥゥゥッ!!!と白い煙に包まれた。


 そのまま、俺の、意識が、途切れ…………。




 ――――――――――――――。


 ――――――――――。


 ――――――、





「……ちゃん、おきて、ちーちゃん!」

「う、うぅん……」



 頭の奥に響き渡る、彼女の声。


 寝ぼけ眼でありながらも、その声に反応してベッドからゆっくりと身体を起こした。



「気分はどうちーちゃん? 覚醒するまでに丸一日かかったね。―――でも、ちゃんと成功したよ!! ジャーン!!」

「こ、これって……、…………?」



 玖莉栖がガララッと車輪で移動してきた姿見を覗くと、そこには美少女の姿があった。


 腰まで流れる艶やかな黒髪。あどけなくも整った顔立ちに、スタイル抜群の身体。そこには、私じゃないが映っていた。


 こ、こんな綺麗な女の子がなの……っ!? って、え……!? な、なんで口調まで女の子になってるの!?


 ね、ねぇ、どうしてなの玖莉くり…………っ! ――――――。



「ふふん! 天っ才美少女科学者であるこの僕の力ならば口調まで女の子にすることなんて造作も無いからね!! どうだいちーちゃん!! 今度こそ僕と恋人に―――!」

「―――なります」

「へ……?」



 ―――きゅんっ。



「玖莉栖、大好きよ。結婚してこれから一生私と二人だけで暮らしましょう……!!」

「へぁ……っ!? は、初めて直接ちーちゃんから好きって言われた……! う、うん……よろしくね!!」







 ―――実は千尋が女性へと性転換を行なったことで、男性として今まで抑えていた玖莉栖への好意のリミッターが外れた。その結果、千尋はこれまで以上に玖莉栖のことが大大大好きになっていたのだ。


 もう、千尋は玖莉栖がいなければ自らの存在価値や存在意義を示せない程に。



 それから千尋と玖莉栖はラブコメを繰り広げ―――数年後、二人は結婚した。はじめは女性としての身体に不慣れだった千尋だったが、パートナーである玖莉栖に女性のことを手取り足取り教えて貰うことで普段の生活に支障が無いほどまで成長。もとから炊事掃除洗濯裁縫など完璧だった千尋は、玖莉栖の身の回りを支えることで研究や論文を頑張る彼女を支えていった。


 千尋は玖莉栖のために、玖莉栖は千尋のために。彼女たちは幸せで充実した日々を送っていった。


 身も心も深く深く愛し合った二人には、もう障害と呼べるものなど存在しなかった―――。








ーーーーーーーーーーーーーーー

「面白い!」と思って頂けたら、是非ともフォローや★評価よろしくお願い致します!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染な美少女天才科学者(自称)が俺と恋人になろうと迫ってくるんだが、ある日突然「お前が美少女になるんだよぉぉ!!」って言われて性転換ポッドに閉じ込められた。 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ