第30話 気付けば大量殺戮
聖女メイアリナは2人の神官の事について知っている。
スライムの力で吸収してしまったキラビアナは白髪で老婆というあだ名を付けられていた。
老婆というあだ名は悪口ではなく、天才という意味だった。
キラビアナの隣には金魚のフンのように金髪のリリアンナがいた。
いつも2人は協力しあって聖女になる為に回復魔法と武器全般の訓練をしていた。
神官学校では武器全般の扱い方を学ぶ為にある程度訓練する必要がある。
それは聖女となった時に勇者をサポートするはずが、足手まといになってはいけないという事からだった。
キラビアナはレイピアを扱う事が得意であり、リリアンナは斧が得意であった。
2人は槍術で達人級にまで上り詰めた同学年のメイアリナにターゲットをしぼった。
回復魔法を間違って発動させ、攻撃魔法によりメイアリナの椅子を破壊したりした。
数え上げれば数えきれない程の虐めに耐えてきた。
老婆というあだ名になっているキラビアナは皆を情報操作により、怒った皆がメイアリナを虐め始めた。
しかし結果として聖女になれたのはメイアリナであった。
メイアリナは命を賭けて、精神崩壊も賭けて、全てを賭けて聖女になったのだ。
そして一度死に、蘇り、聖女の心臓の周りにいる兵士達を皆殺しにして、心臓を手に入れるはずが、まさか2人の仇敵と出会う事になるとは、しかも雑魚と一緒に1人を殺してしまい、もう1人は突然狂った男が殺した。
人生の出会いとは突然で、何が起こるか分からない物だとこの時感じたのであった。
そして時間は現在に戻る。
先程からおかしな口調になっているその男を誰かは知らないが、先程リリアンナがジョディス青年騎士と叫んでいた。
つまりこの部隊の統率者である事は明白、メイアリナ聖女はスライムの体を変形させ。
槍を作り出した。
それはスライムの槍と呼ばれている武器で、突き刺したものを吸収するという技だ。
先程兵士達をパニックに貶めたのは無数に広がったスライムの水たまりにより、片端から足に触れた人間を吸収したのだ。その数は1500人を超えるし、ここまでくるのにモンスターを吸収したりもしたし、庭園の王国でも沢山吸収する事に成功している。
体力も頑丈さも魔力もありえないくらいになっている。
そんなチート状態でありながらも目の前の男には油断出来ない。
2本のククリナイフを両腰の鞘から引き抜いた。
まるで盗賊のようなスタイルに驚きを隠せないが。
青年騎士と言えば長剣とかレイピアとか槍だとかのイメージが強かった。
「これが拙者の戦闘スタイルってやつだ。今からお前を斬り刻んでやるぜ」
メイアリナ聖女はジョディス青年騎士を即座に観察した。
白銀の鎧を身に纏っている事と長身で痩せ型。
どうやら白銀の鎧に振り回されない程の筋力はあるようだ。
メイアリナは取り合えずは槍を動かす事にした。
そうしないと頑丈なスライムでも両断される恐れがある。
まぁそれで死ぬ事はないのだが。
「ククリナイフの扱い方はわたくしより上手いわね、でも、まだまだ青二才だわ」
メイアリナ聖女は右に左にと槍を動かす。
そこに導かれるようにククリナイフが飛来する。
メイアリナ聖女は槍を引き抜きざま、突き出した。
その衝撃で白銀の鎧は粉砕され、後ろに吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたのは白銀の鎧だけではなく上半身の衣服もだった。
そこに出現した傷跡にメイアリナ聖女は絶句していた。
ジョディス青年騎士の全身には無数に斬り刻まれた後があった。
何よりその傷は最近出来たものと昔に出来た物があった。
「怒りが拙者を強くさせる。痛みが拙者を冷静にさせてくれる。爆発しそうなこの気持ちをお前に分かるか、毎日のように父親から剣術の手ほどきとばかりに全身を斬り刻まれる。ほんの5歳の子供がだぞ」
ジョディス青年騎士は怒りを爆発させる。
そして彼はククリナイフで自らの肉体を斬り刻む。
血が噴出する光景を見ながら、彼はどんどんと冷静になっていく。
「ふぅ、まずはあなたをどのように料理してくれましょうかね、スライムは確か炎に弱かったはずですね」
「なるほど、痛みにより冷静になる事が出来るという事ね、考えたわね、炎は確かに弱点だけど、止めて置く事をお勧めするわ」
「そんな事は分からないだろう?」
ジョディスは右手と左手に装備されているククリナイフを鞘にしまうと、右手と左手に何かを集中させ、魔法の祝詞を上げている。次の瞬間、ファイアシャワーが発動された。
一方でメイアリナ聖女は口から大量の黒い液体を吐き出した。
それは火薬そのものと色々な物を配合させたものだ。
素材はこの丸平の建物のあちこちに残されていた。
蝋燭の燃料になる液体もあったりした。
ファイアーシャワーによりその吐き出された黒い液体がぶつかりあい、爆発した。
それに吹き飛ばされたジョディス青年騎士とメイアリナ聖女であった。
メイアリナ聖女は体が破裂して、ぐちゃぐちゃになったが、あちこちで炎が燃えていた。
それでも彼女はスライム達を集めて、ゆっくりと目の前の青年を見ていた。
不思議だった。彼はきっと沢山の人々を殺して来たのだろう。
しかしそれが悪い事だとはとても思えなかった。
村人達を殺したのだって、口減らしで殺されそうになって殺し返したのだろうし、父親を殺したのだって口減らしもあるのだろうけど、虐待されていたからもあるだろう。
だが弟と妹は大事にしていたのだろう、それには悪い事をしたが、もしかしたら生きている可能性はある。
メイアリナ聖女は全てを殺したと言っているが、結局は全てを殺しつくせる事は出来なかった。
どこかの村にいてくれれば生きているだろうし。
今は聖女としての力を使おうと決めた。
全身が焼けただれており、痛みを通り越して危険な状態になっている。
回復魔法を発動させるが、自分だけの魔力では足りない、だから10人分くらいの魔力を発動させた。この魔力は吸収してきた敵たちの力だ。
まずは焼けただれた皮膚をゆっくりと再生する。傷口に入ったゴミや砂などをゆっくりと浄化させながら、ようやく右胸の皮膚が完了した。次は左胸をやり腹部をやり、顔や首、背中や腰などありとあらゆる場所を治療していった。
数時間が経過した頃、炎は止まり、血も止める事に成功した。
1つの問題点とすれば頭蓋を貫いている鉄の棒であった。
これは引き抜いたら血が噴出して回復が間に合わず死ぬだろう。
見た所右脳と左脳の真ん中をまっすぐ貫いており、脳に損傷はない。
そんな力を使う方法は1つしかない、聖女の心臓を取り戻す事。
そしてそれはここにある。
メイアリナ聖女は走り出した。
心臓がばくばくしている。スライムの足がべちゃべちゃしている。
塔を必死で登った。体の形をイメージしながら階段を上るのは結構しんどかった。
なのでスライムになってずるずると登っていく。
なぜだろうあの青年を見殺しにしてはいけない、そんな気持ちにさせる。
悪だから悪ではない、彼は悪にさせられたのだから。
それを正すのが人生の先輩としての役目、まぁ報復しようと人間を滅ぼすつもりの自分達が言えた義理ではないのだが。
最上階には宝箱があった。
四方には色々は呪文が張り巡らされている。
そして宝箱を開くとやはりハートの心臓が出て着た。
皆の心臓の形はなんだったのだろうかと気になる。
きっと心臓の形は皆も同じなのかもしれない。
心臓をあるべき場所に戻すと、階段から窓を開いてそこから墜落するだけ。
地面にびちゃっと嫌な音を響かせながら、メイアリナ聖女は人間の形になり走り出す。
そこに到着した時。魔法を発動させる。
傷口を治療しながら、鉄の棒を引っこ抜く。
血が噴き出る瞬間には傷口が治療されていた。
もちろん頭の中も治療されている。
「最低限の事はしたわ、後は彼の運命ね、いつか会える事があれば、会いましょう、その時は沢山話してさしあげるわ」
殺人鬼のジョディスはすやすやと眠る中、メイアリナ聖女は絶対防御の魔法を発動させ、テントの中だけモンスターが入れないようにした。
後は今後どのように生きるかは彼次第だという事だ。
メイアリナ聖女は集合場所に移動を始めた。
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