第21話 勇者VS勇者+魔王
巨大な城壁、その向こうには発展を遂げた砦があった。
そこには沢山の兵士達ばかりがいた。この神融合の大陸の最前線で働く彼等には、安寧の日々はなかなかやってこない。
異常と呼ばれるモンスター達の軍勢が毎回襲ってくる。
その度に捧げられた勇者の心臓のお陰で砦の内部には入ってこれないが、食べ物などを輸送してくる輸送体を守る必要がある。
その為に兵士達は戦わねばならない。
兵士の数は数千を超えており。
数える事は不可能とされる。
日々追加されたり次々と戦死したりする。
彼等が命を賭けて守っているのは勇者の心臓であった。
そこを守る最強の2人がいた。
1人は新しい勇者として任命された勇者ジンテイジであった。
彼は砦の酒場で1人の角の生えた男性と話をしていた。
彼の腰に帯剣してあるのがエンゲージソードと呼ばれる元勇者のゲンセイの相棒である。
彼の体を覆う鎧はフルケイルアーマーと呼ばれる元勇者のゲンセイの相棒でもあった。
元勇者のゲンセイが相棒としていた武器と鎧を身に着けた。ジンテイジは目の前の男性にぶつくさと告げる。
「いいか、ここで後1年死守したらお前の奥さんであるリンネイは聖女様が祝福してくれる」
「それが本当である事を祈ろう。だが、1年も我妻は生き残る事が出来るのだろうか?」
「それは神のみぞ知る話だ。間に合わなかったらここから出て行き新しい妻を探せばいいだろう」
「あのような出来た女性をこの俺はリンネイしか知らぬ」
「そうかい、まぁ今日は敵がこないだろうし沢山飲もうぜ」
「それもそうだな」
勇者ジンテイジの眼の前に座る男は魔王であった。
魔王には2本の黒いツノが生えていた。
彼には奥さんがいた。奥さんは病に倒れて魔王は奥さんの為に勇者ジンテイジと交渉した。
その結果新しき聖女が依頼を受ける事となったのだが。
この砦守り続けて3か月が経つと、ようやく1年後の約束をしてもらう事が出来た。
しかし魔王は思うのだ。リンネイが1年という長い月日を過ごせるのだろうかと。
それを上手く利用している勇者ジンテイジはにやりとほくそ笑む。
その顔は悪人の奴隷商人のような顔をしていた。
「魔王リュウガよ、まずは飲め、この時代勇者と魔王が同盟を結ぶのは初めての事ではないか」
「それは言えているのだよ、だが、なんとなしにでも言うとこの俺は騙されているのでは?」
「は、俺様がお前を騙す訳がないだろう」
勇者ジンテイジと魔王リュウガの関係は泥沼を辿るはずであった。
彼が表れるまでは、彼が表れる事により勇者ジンテイジには凶を魔王リュウガには吉を出す事になった。
けたたましい警報の音が鳴り響いた。
それは兵士が大きな銅鑼を叩いている音であった。
兵士達が1人また1人と城門に向かう。
それは勇者も魔王も同じであった。
「ったくお酒を飲む暇すらないのかい」
「酒より大事な事がある」
勇者が生意気な事を呟くと、魔王が真面目な事を囁いた。
沢山の兵士達を縫って、道を走り続ける。
城門が見えた所で。
それは唐突にやって来る。
城門自体が十字に両断される。
城門がゆっくりと崩壊すると、沢山の兵士達の首無し死体がこちらに走って来る。
「まるでゾンビだな」
「あれは、デュラハン」
魔王リュウガは即座にそれがどんなモンスターかを理解した。
「魔王よ、いるのなら出てこい、お前に現実と言う奴を見せてやる」
デュラハンが話し出した。
魔王はわくわくしているかのような笑顔になり、走り出す。
「その現実を見せて見ろ」
魔王は跳躍した。
右手と左手には魔剣シュロウガと魔剣瞬足の刃が握られている。
シュロウガは空気を両断し、俊足の刃はスピードを上げて両断する事が出来る。
だが2本の魔剣はデュラハンの右手で軽々しくガードされてしまったのだ。
そして左手に握られていた銀色の剣が魔王に振り落とされる。
それを瞬足の刃で銀色の剣を弾くと、後ろに回転しながらまるで曲芸師のようによける。
その隣には勇者がいた。
一方でデュラハンはゆっくり周りを見つめる。
周りには沢山の兵士達がいる。先程100人ほどの首を両断したので眷属にする事が出来た。
最初は兵士達もパニックになっていたが、今では眷属となった兵士達を皆殺しにする程の余裕であった。
周りの兵士達はこちらに走ってくると、勇者ジンテイジと魔王リュウガを眺めていた。
彼等は知っているのだろうこの2人が協力して戦うという事は、兵士達の力では到底及ばぬ事なのだと。
勇者デュラハンは腕組みをして2人の勇者と魔王を見ている。
「さて、お主が新しき勇者か、その装備は懐かしき」
「ま、まさか、あなたは」
「そうだ、俺様はゲンセイだ」
「やはり、そうですか」
「勇者ジンテイジよ、お前にとって人の幸せとはなんだ」
「んなもん蹴落とすだけだ。自分だけが幸せならそれで良いんだよ、だからあんたらは心臓を奪われたって聞いたぜ」
「よろしい、お前はここで死ね」
勇者デュラハンの冷たい発言に、勇者ジンテイジははっと笑った。
しかし異変はすぐに生じた。
エンゲージソードとフルケイルアーマーは魂を持つ装備なのだ。
持ち主を選ぶ為に存在するその装備は。
即座にこの世界に舞い戻ってきたゲンセイを選んだ。
まず勇者ジンテイジの右手からエンゲージソードが飛んでいく。
次に全身を覆っているフルケイルアーマーが外されて、鎧だけで飛んでいく。
デュラハンの銀色の剣とエンゲージソードが融合を果たすと。
そこには銀色のエンゲージソードがあった。
全身の白銀の鎧がフルケイルアーマーと融合をすると。
白銀のフルケイルアーマーとなった。
勇者ジンテイジはパニックになっている。
現在彼はパンツ一着状態であり、武器も防具もない。
ぶるぶると震えながら逃げようとするが。
「逃がさない」
地面を思いっきりジャンプしたデュラハンは勇者ジンテイジの前に到達していた。
そして思いっきり銀色のエンゲージソードを振り落とす。
次の瞬間には勇者であったジンテイジの首が落ちて、コロコロと転がった。
悲鳴をあげる暇もなく首を両断された彼は眷属となった。
その光景をじっと見ていた魔王リュウガはこちらを凝視している。
その瞳には絶望しかなかった。
その絶望は自らの死ではない何かを感じさせていた。
「これで妻は助からない、最後の命が散るまで」
「散らなくていい、どうやら大切な人がいるみたいですね」
勇者デュラハンの呟きに魔王リュウガはこくりと頷いた。
彼は死を悟ったかのように目を瞑り、次の瞬間には、頭を撫でられている。
「やはりあいつの息子だな、時には烈火の如く、時には愛情の如く、よし誰を助けて欲しい」
「え、あ?」
「だから誰を助けて欲しい」
「妻をです。病で」
「なら聖女に見せるのがいいだろう」
「その聖女様との交渉をあなたが断ちました」
「たぶん、そっちの聖女じゃなくて前任者の聖女のほうだ」
「死んだのでは?」
「俺様が生きてるのだから生きているのだろう?」
魔王リュウガは笑顔を向けていた。
「この命に代えましても勇者ゲンセイ殿をお守り通す。父上を倒したあなただから出来るのでしょう」
「その父を殺したのは謝っておく」
「は、はい?」
「俺様は無知であった。お主の父上はとても心が綺麗で彼こそが生きるべきだった」
「あなた様に言われると、とても涙が」
「涙は取っておけ、さぁ、ここにいる兵士達を滅ぼすぞ」
「御意」
その時だった首無し馬に追いかけまわされて沢山の兵士達がこっちに走って来る。
その首無し馬に乗っているエルフ少女は大きく笑いながら。
「勇者、こいつら面白い」
「はは、首無し馬が怖いのだろう。よくやったぞテイル」
「うん!」
風がゆっくりと吹くと、銀色のエンゲージソードを構える。
次の瞬間、空間自体が両断され一太刀の元に200人近くの兵士の首がずるりと落ちる。
次の瞬間、死体達は眷属になっていた。
「どうやらこの俺は恐ろしい人の仲間になってしまったようだ」
「ではゆくぞ魔王リュウガよ」
「はい、勇者ゲンセイよ」
2人は走り出した。
その後ろからは首無し馬に乗った幼女エルフがついてきた。
四方を兵士達が囲い、あらゆる攻撃を仕掛けてくる。
魔法、弓矢、槍、手斧など、だが全ての攻撃を2人の猛者は避け続ける。
首無し馬グリーはエルフ幼女のテイルを守る為に、巧みに敵の攻撃を避け続ける。
風が止まったと思った瞬間。
眼の前から数えきれない騎兵隊が突っ込んでくる。
勇者デュラハンは指で合図を送ると、首無し死体の眷属達が走り出す。
その数は400体を超えている。
一番先頭になっているのが勇者ジンテイジの首無し死体であった。
あれで勇者を名乗っていたのだからある意味すごいと勇者ゲンセイは思った程だ。
あれだけの力でよく勇者と名乗れたものだとそう思ったのだから。
2つの勢力がぶつかった瞬間。
神融合の大陸に落下した1つの星が輝いた。
それは生命であった。
それは未確認生命体であったのだから。
その星の力は首無し勇者ジンテイジに捧げられたのだから。
そこを支配する眩い光。
2つの勢力がぶつかる瞬間。
1人の首無し死体が自我を取り戻す。
右腰に自らの頭を取り戻し。
けたけたと笑う。
「どうやら俺様もデュラハンになってしまったようです」
その光景を見ていた勇者デュラハンは唖然としていた。
そして奴は周りにいる首無し兵士をその大きな口で吸いこみだした。
それはゼリーみたいにだ。
400体の首無し死体が吸収されると。
そこにいたのはパンツ一枚のムキムキデュラハンであった。
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