第9話 聖女ぶちぎれる


 将軍の1人をスライムの槍で吸収してしまった時、周りにいた人々は信じられない顔でこちらを見ている。


 なぜならこちらの顔が崩れているから。

 それはまさしくスライムそのものであったから。

 水のようなぐにょぐにょしたものがだらりと不自然に潰れている。

 そこは先程の将軍が両断した所であった。


 ようやく人々は危険を察知したのだろう。

 


「国王様こちらへ」



 老齢の将軍が国王を誘導する。

 もちろん弟も一緒だ。

 国王の弟の婚約者も一緒に逃げる。

 

 ここに残ったのは500人近くの兵士達であった。



「まったく、狭い城にどれくらいの守備兵を常備しているんだかね、外にいる人々は全滅だというのに」


 その聖女の呟きで彼らは悟っていたようだ。

 聖女スライムがここに到達した時点で外にいる者達が全滅している事など、兵士達には簡単に想像がつく内容であった。



「全員でそのスライムモドキをころせえええええ」



 その若造は指示を出すのが上手いのだろう。

 兵士達が決められたポジションでこちらに攻撃を始める。

 壁によった兵士達が弓矢を解き放つ。

 矢が体中を炸裂するもすべてぶよぶよとダメージがない。

 


「炎だあああああ」



 矢には縄がついているようだ。

 しかも油をつけてあるので、そこに松明の炎を付ける兵士達。


 いたる方向から火の蛇が襲いかかってきた。

 縄がまるで蛇のようだったからだ。




 

 リーダー格の将軍が大きな塊を投げる。

 それは火薬から作られる爆弾というものだ。



 リーダー格の将軍はこういったコンビネーションが得意だった。

 なぜなら球技とはコンビネーションが必要だったから。



 爆発が炸裂すると。

 そこには聖女スライムの姿はいなかった。


 将軍とその部下500名の功績により勝利した。 

 そう彼等は確信していた。


 しかし次から次へと水たまりのようなものに吸い込まれていく。

 水たまりの向こうには兵士達がいて、彼らは悲鳴をあげながらどろどろに溶けて行く。

 その水たまりの向こうは異次元のようだ。



「あら、もうあなただけ?」


「体があれほど爆散したのにまた元通りとはすごい事だな」

「あら、褒めてくれてありがとう、リーダーさん」



 その時2人目の将軍も聖女のエネルギーとなってしまった。



 聖女スライムはにこにこしながらスキップをしていた。

 体があるという事はそれだけ素晴らしい事だ。



 地獄と天界にいた時、聖女スライムにとって苦しみの場所でもあった。、

 永遠に拷問されていたほうがいいだろう。

 それだけに苦しい世界そのもの。



 あそこでは自我を失っていた。

 しかしここにて自我を取り戻す。


「庭園の国を亡ぼす。その為にこの王国にいる人々を皆殺しにするわ、でも雨でほとんど皆殺しだけどね、うっふっふ」



 聖女スライムは必至で逃げて行く人々を追い詰めるのが、とても楽しい。

 貴族の人々、彼等には二種類の貴族がいる。


 無能の貴族と、有能の貴族だ。


 無能の貴族は自分の生まれがすごい事ばかりを自慢して人々を支配しる。

 有能の貴族は自分に適した動きをする。自分の適材適所を理解している。


 

 だが今片端から吸収しまくっているのは無能の貴族ばかりだった。

 スライムの槍で突き刺すだけで、体が泥のように分解され吸収される。

 血や肉が聖女スライムの糧となる。


 沢山食べれば食べる程強くなる。

 不思議と嫌な感覚はない。もしかしたらここに来る前に沢山のスライムと融合したからかもしれない。

 スライムには色々な種類がいるが、貴族共には元々の無属性のスライムである聖女が止めを刺したかった。



 城の中を歩くのはとても久しぶりだと聖女スライムは認識する。

 子供の頃聖女候補としてこの城を探検させてくれた。

 その老人が今目の前にいる。



 国王とその弟と婚約者。


 国王には妻がおらず、現在独り身とされる。


 3人を守るように巨大な槍を構えている老人がいる。


 なぜスライムになってまで槍を使ったのか。それはこの老人が原因でもあった。


「聖女メイアリナ殿、本当にお主を騙した事は申し訳なく思う、それで国王が死ぬのとは別問題であり、ここから通りたくばこの爺やを殺してみよ」



 最後の将軍が眼の前に立ちはだかる。



 それはほんの一瞬だった。

 力を解き放った瞬間。全てが終わっていた。



 槍とは狭い空間では活用できないとされる。

 しかしこの廊下はとてつもなく広いのえ槍でも攻撃が出来る。


 だが槍を相手に向けてそこから矢が炸裂するなんて誰も思わないだろう。



 槍を老齢の将軍に向ける。

 その槍の穂先がまるで飛び道具のように吹き飛ぶ。

 老齢の将軍は槍を構えたまま微動だにしない。

 なぜなら額に巨大な穴が開いているから。



「うそだろ」

「いやああああ」


「しょう、将軍んんん」


 国王とその弟と婚約者は真っ青な顔をしている。

 スライムの槍が将軍を吸収してしまったからだ。

 衣服と鎧だけとなると老齢の将軍がいた形跡がなくなっていた。



「ま、まて話をしよう、お前がスライムとして蘇ったのは、わしが願ったからで」

「あなたが願ったから? なら地獄と天界の苦しみは知ってる?」


「それは知らないけど」

「それならあなたじゃない、あなたは下種な王様よ」


「じゃが、新大陸を召喚する為には協力な7つの心臓が必要で」

「魔王や災害級のモンスターを倒して来た相手にする事なの?」


「いいじゃないか沢山の民が助かれば」

「その民は皆殺しにしたわ、わたくしとても冷たいの、子供も大人も老人も関係なく皆殺しにしたわ」

「う、うそだああ」


「ならその窓からジャンプすればわかるわ。ちなみにここは3階だから落下死しないようね」



 そんな聖女スライムの助言に乗ったとばかりに窓からジャンプしていく。

 そこには湖があったようでぽちゃんと音がする。


「それ湖じゃないからね、うふふ」



 次の瞬間、3名の男性と女性は体を溶かされる激痛に暴れている音が聞こえる。



「それと雨もスライムだからね」



 悲鳴は甲高くなり、

 聖女スライムはメイアリナである事を思い出した。

 自分がこれから何をすべきかを考えていた。


 そして即座に決まった。



 新大陸とやらに行くとしようか。



 そこから人間の形をしたスライムはいなくなり、アメーバのようにぐねぐねと動くスライムとなった。


 その大きさは遥かに巨大であり、城そのものを飲み込み、国自体を飲み込む。

 ありとあらゆるものをエネルギーにして、そこに国の存在ではなく巨大なクレーターが出来た。



 その日は庭園の王国が滅びた日であった。

 地図には残っている庭園の王国、見比べるとそこには国はなかった。


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