第18話 言って欲しい・・・

 そのKYな嶺上開花リンシャンカイホーで今日の麻雀は終わりになった。


 国士くにつかさ君は論寄君の家を出て左に行ったけど、僕とあささんは右に行って県道へ向かった。僕は県道を歩いて学校方面へ歩く事になるけど麻さんはバスに乗って帰る事になるから、バス停までは僕と同じなのだ。

 麻さんは僕の右側を歩いてるけど、その距離は僕が先輩と並んで歩く距離とそう変わらない距離だ。

「あーあ、並野君のKYに二度も助けられた形になったね」

 麻さんは歩きながら僕の顔を覗き込んでるけど、言葉にはとげがあるけど顔は笑っている。つまり、麻さんは全然怒ってないのだ。

「・・・僕だって好きでKYしてるんじゃあないんですよー」

「分かってるわよー。というより、相手の手の内が分からないから適当にポイポイと牌を捨てた結果がロンの山だというのを自覚しなさーい」

「はいはい、失礼しました」

 僕はそう言ってから思わず笑ってしまったけど、それにつられる形で麻さんも笑って、そのまま暫く互いに笑っていたくらいになごやかな雰囲気だ。

 でも、急に麻さんは真面目な顔になって僕の顔を見たかと思ったら

「・・・この際だから並野君に聞いてもいい?」

「ん?いいですよ」

 僕は麻さんの態度が急に変わったから、何をしたいのか全然分からなかったけど、とにかく麻さんの顔を見ながら答えた。

 その麻さんは2、3回『ウンウン』と首を縦に振りながら僕の目を真っ直ぐに見たけど、その目は怖いくらいに真剣な目だった。

「・・・論寄先輩、並野君のカノジョなの?」

「はあ!?」

 麻さんの発言は僕の意表を突いたから、僕は思わず間抜けな声を上げてしまったけど、麻さんは表情を変える事なく僕を見ていた。

「・・・だってさあ、セブンシックスから帰って来た時から論寄先輩はニコニコ顔だったし、槓太かんた君も何も言わない。挙句の果てに二人で並んで打ち始めるし、普通に考えなくてもカノジョだと思うけど、どうなの?」

「勘弁して下さいよお。本気の本気で証子先輩は僕のカノジョでも何でもないですー。ただ単にクラスメイトのお姉さんというだけであって、それ以上でもそれ以下でも無いですよ」

「その言葉、信じてもいい?」

「当たり前ですよ、疑うなら論寄君に聞いてもいいです。僕の言ってる事が正しいと証言してくれるのは120%の確率で間違いないですから」

「そっか・・・ゴメンね、変な事を言って」

 その言葉を最後に麻さんは肩の力を抜いて正面を向いて歩き始めたけど、何かさっきまでの雰囲気とは全然違って、僕からは麻さんは緊張感ある顔にしか見えないです、はい。

「・・・いやー、僕は全然気にしてないですよー」

「あー、いや、ウチもね、ちょっと思う事があって・・・」

「思う事?何それ?」

「平たく言えばさあ・・・ちょっと表現するのが難しいんだけど・・・麻雀マージャンあいと言ったところね」

「ふーん」

「真面目な話なんだけど・・・並野君は麻雀好きな女の子というのは嫌?それとも全然平気?」

「えーとー、言葉を選ばずに言ってもいいというなら、ギャンブルとして考えるのなら本気で勘弁して欲しいですけど、健全な娯楽と言ったら失礼かもしれませんがエンターテイメントというか、その道のプロとしての健全な麻雀をする女の子は別に問題ないと思ってますよ」

「ふーん」

「麻雀にもプロがいますし、競技団体があるのも知ってます。麻さんのお父さんや従姉いとこ、論寄君の従姉いとこがプロ雀士というのは今日、初めて知りましたけど、論寄君の従姉いことはプロの雀士でグラビアアイドルという位ですから、相当可愛くてスタイルもいいんだなあというのは容易に想像つきますよ。そういう子が僕のカノジョだったら最高でしょうけど、僕には高嶺の花でしょうから、それこそ櫻山さくらやま46フォーティシックス乃木山のぎやま46フォーティシックスと同じくらいの別世界の人だと思ってます」

「ふーん」

「あくまで僕個人の感想だと先に断っておきますけど、証子先輩は櫻山46や乃木山46のメンバーになってもおかしくない位の綺麗な人だと思ってますから、その道のプロとしての健全な麻雀をする女の子というのは、櫻山46や乃木山46のメンバーと同じ位に、ルックスとプロフェッショナルを持った女の子だと思ってます。この僕の考え、何か間違ってますか?」

「ううん、別におかしくないと思うよ」

「ですよねー」

「でもさあ、逆に並野君に聞きたいんだけど、自分では櫻山46や乃木山46のメンバーになれるとは全然思って無くても、その道のプロを目指している健全な麻雀をする女の子を、という考えは並野君には無いの?」

「うーん、麻さんの質問がちょっとどころではない位にぶっ飛び過ぎて、今の僕には答えられないですー」

「そっか・・・」

 そう言うと麻さんは立ち止まって僕の方をジッと見たから、僕も思わず立ち止まってしまった。

 そのまま麻さんは一度、『ウン』と頷くと僕の目を見ながら

「・・・出来れば『麻さん』じゃあなくて『雀愛すずめ』ってなあ」

「あれっ?『麻さん』だと『さ』がダブって言い難いからですかあ?」

「へ?・・・ま、まあ、たしかに並野君の言ってる事は間違ってないわね」

「でしょ?麻さんがそう言えと言ってますから、と呼ぶようにしますよ」

「・・・そうね。今はそれでいいよ」

 それっきり麻さん、いや雀愛さんは黙って歩き始めたから、僕も何も言わずに雀愛さんと並んで歩き始めた。

 県道に出て学校方向へ歩き出せば10mもいかないうちにバス停だ。雀愛さんはここからバスに乗って帰る事になるけど、もうあっちからバスが来てるのが見えているから、ここでお別れだ。

 そのバスが止まるまで僕は雀愛さんと一緒にバス停に立っていたけど、その僕と雀愛さんの目の前でバスは止まった。

「・・・それじゃあ、また明日、学校で」

「そうですね」

、ウチはと思ってるから、返事はいつでもいいわよ」

「へ?・・・」

 僕には雀愛さんが何を言いたいのか全然分からなくて思わず間抜けな返事をしてしまったけど、雀愛さんはニコッと微笑むとバスに乗り込んだ。

 そのままバスのドアが閉まって動き出したから、僕は右手を軽く上げてバスを見送ったし、雀愛さんもニコッと微笑みながら右手を軽く上げた・・・。

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