SS 先輩の悩み

第23話 SS ホントに省エネなんですか? 前編

 時間は進み放課後、場所はタイソー平凡坂ショッピングモール店。ようするにバイト中です。

 えっ?

 明日から中間テストだから勉強しろ?バイトより学業優先?

 あー、それはですねえ・・・小説の設定に細かいツッコミは勘弁して下さーい!


 タイソーは何でも100円(税別)が歌い文句とはいえ、100円では買えない高額商品も存在する。30年くらい前は何でも100円だったらしいけど、今では200円、300円、500円などという商品も普通に存在する。もちろん、他社製品もあればタイソーオリジナル商品の高額商品も当然ながら存在する。


 その高額商品の1つに・・・


「・・・すみませーん」

 僕はお客さんに声を掛けられたから振り向いたけど、そのお客さんは50歳前後と思われるオバサン(失礼!)だった。

「・・・はーい」

「電球はどこにありますか?」

「あー、はい、こちらですよー」

 僕は電球や蛍光灯、その他の電気関係の物が並んでる棚にお客さんを案内したけど、丁度先輩が品物を補充している最中だった。

「・・・こちらですよー」

「ありがとうございますー」

 そのお客さんは僕に丁寧に頭を下げてから商品と向き合ったけど、その棚から2つの品物を手に取って、再び僕の方を振り向いた。

「あのー・・・」

「あー、はい、どうされましたかあ?」

「これって、LEDの電球ですよねえ」

 そう言ってお客さんが僕に見せた電球は、たしかにLED電球で右手に40ワット型、左手に60W型の物を持っていた。

「・・・そうですよー、どちらもLED電球ですー」

「うちのリビング、なんですけど、使えるんですか?」

 そのお客さんは首を傾げながら僕に聞いてるけど、だいたい、僕には『チョーコーライト』の意味が全然分からないのだ!

 僕はホントに偶然だけど、たまたま通りかかった先輩の服の袖をグイグイと引っ張った。

「・・・ん?並野君、どうしたの?」

「せんぱーい、『チョーコーライト』って何ですか?もしかして、物凄く硬い電球があるんですか?」

 僕は超がつく程の真面目な顔で先輩に聞いたけど、その先輩は「はーー」と軽くため息をついたかとおもったら僕の脇腹を肘で『ドン!』と突っ突いたから、僕は思わずむせてしまった程だ。

「並野くーん、『超硬ライト』じゃあないわよ、『調光ライト』。明るさを自由に調整できる器具の事だよ」

「あー、ナルホド」

 先輩は僕に軽くツッコミを入れた後、そのお客さんの方を振り向いてニコッとした。

「普通のタイプのLED電球は、調光用の器具に対応してないからダメですよ」

「あれっ?そうなんですか?」

「昔ながらの電球は全然問題ないですけど、LED電球は『調光用』と書かれている物でないと使えないんです」

 先輩はそう言うと自分から『調光用』という表示が書かれているLED電球を手に取って、「どうぞ」と差し出したから、そのお客さんは先輩に丁寧に頭を下げながらLED電球を受け取った。その調光用LED電球はタイソーのLED電球の中では最も高い500円のものだ。


 そのお客さんを見送りながら先輩は僕に

「・・・並野君が仕事中にボケをかますとは私も全然思ってなかったよー」

「勘弁して下さいよお。僕だって知らない物は知らないですからー」

「ま、1つ勉強になったでしょ?」

「そうですね」

 でも、先輩は僕と話しながらLED電球を1つ、右手に持ってしみじみと眺めた。

「・・・並野君」

「ん?まだ何かツッコミがあるの?」

「ツッコミというか、素朴な疑問なんだけど、LED電球は本当に省エネなの?」

「せんぱーい。先輩のボケを僕にツッコミさせる気ですかあ?」

 僕は先輩の顔を覗き込んで揶揄い気味に話してるけど、先輩は超大真面目な顔だ。

「・・・例えば、この40ワット型LED電球の場合、消費電力は4.4Wワットしかないのに寿命は15000時間と書かれている。白熱電球の寿命は1000時間から2000時間と言われてるから、1割ほどの消費電力で10倍も長持ちする、まさに夢のような電球だけど、半導体の精製に使われる電気は半端ない位に多いんだよ」

 先輩は相変わらず真面目な顔で話してるけど、僕は先輩が何を言いたのか全然分からないから、と言った表情で先輩を見ていた。

「・・・LEDに使われている物質はシリコンなのは並野君も知ってるよね」

「ええ、知ってます」

「シリコンは豊胸手術とかで使われてる物だというのも知ってるよねえ」

「せんぱーい、そんなに巨乳に憧れてるんですかあ?」

「冗談よ、冗談。肩が凝るだけだから私は遠慮したいです。この程度で十分ですよーだ」

「はいはい、それは分かりましたけど、豊胸手術とLEDがどう結びつくんですか?」

「シリコンを紹介するのに使っただけだよ」

「それだけですか!」

「はいはい、ツッコミありがとう!」

「はーーー・・・」

「まあ、話を元に戻すけどシリコンは日本語では珪素けいそ、元素記号は『Si』で地球の物質の中では酸素に次いで多い物質になるけど、そのシリコンを使って作られる半導体は高純度のシリコンが必要だって事を並野君は知ってる?」

「高純度?」

「そう、高純度。自然の中にあるシリコンは、酸素やアルミニウム、マグネシウムなどと結びついているし、特にIC(集積回路)などの半導体に使われるシリコンでは『99.999999999%』、つまり9が11個並ぶまで純度を高めた、通称『イレブン・ナイン』という超高純度が要求されてるから、その精製に物凄い電気が必要なの」

「何で9を11個も並べる位にまで純度を上げるの?」

「その、残った0.00000001%にシリコン以外の物質を混ぜると、混ぜた物質によって半導体の特性が変わる」

「うっそー!」

「ホントだよ。まあ、イレブン・ナインほどの高純度はLEDには要求されてないけど、シリコンに何を混ぜるかによって色が変わる。LEDは『発光ダイオード』の略称だけど、青色に光る発光ダイオードは以前にはなくて、これの発明でノーベル物理学賞を受賞した日本人がいた位に画期的な出来事によって、初めてフルカラーディスプレイが実用化された位だよ。その話をすると本題から逸れてしまうから止めておくけど、とにかく、シリコンの精錬には大量の電気が必要だから、電気料金が比較的安価な海外で精錬された金属シリコン、つまりインゴットとして輸入しているのが実情なんだよね」

「へえー」

「電球のように電気エネルギーを熱に変えないから、LEDそのものは高効率なのは間違いない。でも、単体としての光量には限界があるから、幾つものLEDを並べて光量を確保しているのは信号機を見れば明らかだよね。それでも消費電力は電球よりも遥かに少なくて寿命は長い。使う事だけを見れば省エネで、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量を減らす効果があるけど、作る時に使われる電気を考えたら、本当に省エネなのか、本当に二酸化炭素削減なのかと悩みたくもなるよ」

 先輩はそう言うと「はあああーーー・・・」と長ーいため息をした。


 僕は先輩が言っていた事を何となくだが理解したけど、先輩に何と答えれば正解なのかが分からない。頭の中ではボンヤリと答えが出ているけど、それが正解なのか、それで先輩が納得してくれるのかは分からない・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る