出場する意義

第28話 ぴんぽーん

「・・・という訳で、私とペアを組んで大会にエントリーして!!」

「そういう事だったんですかあ・・・」


 あらあらー、先輩もある意味、嫌がらせで困っているという事ですかあ?

 でも、困っている人を見て見ぬフリをするのは良くない!いつもお婆ちゃんが言ってたから、ここで先輩を捨てるのは絶対にダメです。それに、困っている時はお互い様の精神が大切ですよね。


 あれっ?


 でも・・・リング・デ・ポンに釣られてエントリーしたとも解釈できるし、それ以上に、先輩も見栄っ張りじゃあないのか?嫌なら嫌だと正々堂々主張して、賭けそのものを蹴れば済んだ話だぞ!?


「・・・せんぱーい」

「ん?」

「結局は先輩も見栄っ張りという事ですよねえ」

「ギクッ!」

 先輩の顔が一瞬のうちに引き攣った!やれやれー、先輩は隠し事が苦手のようですねえ。

「・・・その顔は、ズバリ正解ですよね」

「ごめんなさい・・・」

「せんぱーい、謝らなくてもいいけど、どうして僕とエントリーしたいのか、それは聞かせて下さい」

「そ、それは・・・」

 先輩は顔を上げて「はーー・・・」とため息をついたかと思ったら話し始めた。

「じ、じつは・・・私、男子の友達が全然いないに等しくて」

「はあ!?どうしてー?」

「多分なんだけどー、私、入学して早々にラグビー部の3年生に『付き合ってくれ』と言われたんだけど、並野君も想像できると思うけどラグビー部だから筋肉モリモリの、いわゆるマッチョだったのよねー。だから、私の好みじゃあなかったから速攻断ったんだけど、それでもシツコク何度も言ってくるから私もキレて、大勢の人がいる前で『私、男に興味がないです!』と言っちゃった・・・」

「せんぱーい!何でそんな事を言ったんですかあ?」

「あのさあ、私だって本心で言ったんじゃあないよー。本当は『マッチョに興味ないです』って言うつもりだったけど、言い間違えちゃって・・・」

「で、それ以降、逆に誰も男子が近寄らなくなった・・・」

「そういう事・・・」

「言い換えれば、僕以外にアテが無いって事ですよねえ」

「それは・・・認めます」

 先輩は再び「はーーー・・・」とため息をつくと沈黙してしまった。


 やれやれー、自分とペアを組んでくれそうな人がいないから、やむなく僕に声を掛けたという事かあ。

 たしかに今回の先輩はある意味、自業自得だし、アテも無いのに見栄だけで賭けに乗ったとも解釈できるし、先日のエッキーの件と違って今回は同情できる余地はないなあ。

 でも、実際、先輩が困ってるのも事実だ。『消費税はいらない!』とか言って必死だったけど、それはちょっと不思議ちゃんの思考という事で差っ引いて考えても切羽詰まっているとしか思えないぞ。

 となると・・・雀愛さんには申し訳ないけど、同じタイソーでバイトしている間柄でもあるから、良好な関係を維持する意味でも先輩とペアを組んで出場するしかないよなあ、とほほ・・・


「・・・分かりました、いいですよ」

「ホント!」

 先輩はショボンとして顔を下に向けてたけど、一瞬のうちに顔を上げて血の気が戻ってる!おいおいー、変わり身が早すぎるぞー。

「ホントにホントにいいの?」

「いいですよー。でも、1回戦負け確実ですよ。それでいいですよね」

「全然OK!エントリーしただけで『リング・デ・ポン』が手に入る!半分、いや、全部あげる!!」

「せんぱーい、この際ドーナツは別にいいですからー、とにかく、エントリーすれば先輩としては問題ないんですよね」

「うん、ありがとう!」

 先輩はそう言うと僕の右手を両手で握ってきたけど、心なしか泣いてるように思えるのは僕だけじゃあないですよねえ・・・

 となると、来週の月曜日はバイトを休むしかない。二人同時に休むと店長がブーブー言うかもしれないが、学校行事優先なのはバイト契約事項にも書かれているのだから配慮してくれるはずだ。


「・・・せんぱーい、卓球のルールは知ってるんですかあ?」

「ぜーんぜん」

「卓球のラケットを握った事はあるんですかあ?」

「ぜーんぜん」

「ピンポン玉を触った事はあるんですかあ?」

「ぜーんぜん」

「という事は、卓球はド素人ですかあ!?」

「ぴんぽーん」

「ここでクダラナイ駄洒落だじゃれを言ってどうするんですかあ!」

「まあまあ、気にしない気にしない!」


 こうして僕と先輩の2回目の契約(?)が成立して、来週行われる『混合ダブルス卓球選手権』、通称『コップヌードル卓球大会』にペアを組んでエントリーする事になった。

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