第3話 同じ学校の・・・

 いきなり金属音がしたから僕は音がした方を向いたけど、それはスプーンが床に落ちた音だった。

 僕は自分のスプーンが落ちたと思ってトレーを見たけど、トレーの上にスプーンはある・・・という事は、誰かのスプーンが落ちたんだ。

 一番可能性があるのは・・・

 そう思って僕は隣のテーブルを見たけど、青色リボン、つまり2年生の女子が食事中にも関わらず女子トークに夢中になっている。丁度僕の横にあたる位置に座っていた子がスプーンを落としたんだけど、全然気付いてないのだ。


「あのー・・・スプーンが落ちましたよ」


 僕は自分からスプーンを拾って手渡したけど、その子は赤いフレームの眼鏡をかけた小柄な女の子だった。


「ありがとう!」

「どういたしまして」


 その先輩女子はそれだけ言って僕の手からスプーンを受け取ったけど、それをテーブルの上のウェットティッシュでゴシゴシ拭くと、自分のトレーの上に置いた。


(どこかで見たような気がする・・・)


 僕はその後も論寄君とお喋りしながらを食べていたけど、時々チラッチラッと右隣のテーブルを見たが、よーく見たらトークに夢中になっているのは3人だけで、さっきの眼鏡を掛けた子は適当に相槌をしているだけで積極的にトークに加わる事はしてない。たまに話を振られた時に「あー、そうねー」とか「だと思うよー」と言って、短い時間トークに加わるだけだ。なーんとなくだが1人だけ浮いたような存在になっているのは気のせいだろうか・・・


「・・・おーい、並野、そろそろ教室へ戻るかあ?」

「そうだね」

 論寄君も僕も既に食べ終わってお茶を飲んでいただけだから、論寄君に言われなくても帰るつもりだった。逆にいえば丁度いい頃合いだった訳だ。

 僕と論寄君は揃って立ち上がったが、隣の2年生女子4人組もほぼ同時に立ち上がった。

 僕は何気なくだが2年生女子を見ていたのだが、そのうちの1人、さっきスプーンを落とした眼鏡の先輩女子と偶然ではあるが視線があった。


「・・・並野君?」

「へっ?」


 僕はいきなり2年生から名前を呼ばれたから思わず間抜けな返事をしてしまったが、その2年生は両手に持っていたトレーを一度テーブルに戻した。

 そのまま赤いフレームの眼鏡を外したかと思ったら、僕の方を向いてニコッとした。


「か、河合さん!?」

「そうでーす、河合伊奈いなでーす!」


 僕は隣のテーブルに座ってたのが河合さんだとは微塵にも思ってなかったから、思わず大声を上げてしまったほどだ。

 その河合さんは眼鏡を再びかけ直すと、「よいしょ」とトレーを持ち直した。

「いやー、まさか並野君が同じ学校の、しかも後輩だとは思わなかったよー」

「僕もですよー。同じ学校の、しかも先輩だとは思わなかったですー」

 そのまま僕と河合さん、いや河合先輩は並ぶようにして食堂の返却カウンターでトレーを戻した。

「・・・じゃあ、後で会いましょう」

「ですねー」

 僕と河合先輩はそう言って互いに右手を上げて別れたけど、その途端に僕は論寄君に絡まれた。

「おい、並野!あの2年生とはどういう関係だあ!」

 論寄君は僕の顔に唾がかかるんじゃあないかという位に顔を近づけてるけど、僕は暑苦しい顔を少し避けるようにして

「同じバイト先に勤めてる人だよ」

「なにい!?お前、あーんな綺麗な2年生の先輩女子と一緒にバイトしてるのかあ!?」

「バイトしてるのは事実だけど、まさか同じ学校の先輩だったとはホントに知らなかったよ」

「くっそー、俺も本気でバイト探すぞ!」

 論寄君は本気で悔しがってるけど、僕には論寄君が何で悔しがっているのか、何で本気でバイトを探すつもりなのか全然分からないけどね。

 僕は食堂を出ようとしたけど、あちらでは河合先輩が同じテーブルで食事をしていた3人の2年生女子に囲まれていた。肘でグリグリされたりニヤニヤ顔で突っ込まれてるところを見ると、あちらも何かを言われてるようで顔を真っ赤にしながらキャーキャー言ってた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る