きっかけはいつでもあなたのそばに

トコマカシム

第1話 夕日と背中

カキーン


「ナイスバッティ~~ン」「さぁこーい」穏やかな5月の放課後のグランドに響く高校球児たちの声


「よくやるよなー野球部も」

「いやいや、駿も野球部でしょ」

「あら、そうだっけ?」

「駿から野球とったらただの変人だよ、ただでさえ超変人で友達いないのに」

「なんか野球飽きたんだよね」

「また、そんなこといって~私はこれからバイト行くけどちゃんと部活いくのよ」

「はあ~い」(ってお前はおれのおかんか)

「なんか言った?」

「ふへっ!!いや、なにも」


紹介がわすれてたな、俺は 目黒 駿 高校の3年生になる。これでも、シニアで硬式野球を経験して、チームではエースとして活躍している。


エースなら、ちゃんと部活行けって?

実は最近、ひじの調子が悪い。多分、野球肘というやつだろう。


日常生活では問題ないのだが投げると痛みがある。というわけで、さぼっているわけではなくこれから病院なのだが、あいつにばれないようにいかねばならない。


これがばれたら、100%いや1000%大げさに心配される。要は面倒なのだ。あぁ、あいつというのは小・中学から同じで高校にも同じだる齋藤佳織のことだ。どこにでもいる名前なのにやたら画数が多いやつだ。


佳織のやつは、同じ中学から一緒の高校にきたのは俺一人のため一緒にいることが多い。まぁクラスもずっと同じなのだからおかしいことはないだろう。


「さて、俺も出発するか」とひとり呟くとそれに返答するかのように声が聞こえた

「め~ぐ~ろ~どこにいく」

俺がどこに行こうと勝手である。


「部活はどうした、部活は~どっか痛めたのか?」

「あぁ、お前にあって心をちょっと」

「おお、そうかお大事にって、そんなああああ」

「ったくいつもうるさいなお前は」

「その方が元気出るだろ。駿、しょぼくれた犬みたいな顔してたぞ」

「うるせぇ、顔の文句は親に言え俺のせいではない。じゃあ俺時間ないから」

「いやいやいや、部活は?でないの?あんなに楽しそうに毎日いってたのに」

「いまはおなか一杯なんだよ。お前も満腹だったら大好物のから揚げおいしそうにくえないだろ?」

「から揚げは別腹だいくらでも行ける」

「お前に質問して俺がばかだったよ。まぁなんだ、家の用事があるんだよ。そして、監督にも許可はとってある。」

「そうかそうか邪魔してすまなかったな」


いま話かけてきた、頭の悪そうなやつは、俺のクラスメイトである増子 陽介である。


あんな感じでもテストは学年で1番、生徒会長もやってる化け物の類ではある。

しかも、細かいところによく気付くので女子にも大人気のイケメンである。(腹立つ) いろんな妨害にあって遅れてしまった。


それから、30分ほど電車とバスを乗り継ぎ病院へついた。

今日は精密検査の結果が出る日である。緊張しながら順番を待つと俺の受付番号が電光掲示板に表示された。診察室のドアをノックし部屋に入っていく。


「そこにすわってください。最近の痛みとかはどうですか?」


「よろしくお願いします。野球以外では特に痛みとかは感じないですね。」


「そうですか。検査の結果ですが肘の外側に発生する離脱性骨軟骨炎であることがわかりました。この状態だと日常生活をおくっていいても痛みが出てくるはずです。さらに、この痛みは野球やテニスなどの肘に負担がかかるスポーツをしなければ悪化はほとんどしませんが、安静にしていても痛みはおさまりますが、完治することはなく負荷をかけ続ければ簡単に痛みが再発するでしょう。いままで通り野球するには、手術を行い安静にするしかありません。つらいことを言うようですが、このまま医者として目黒さんにこれ以上野球を続けるのを許すことはできません。」


「そ、そうですか」


「いま、安静にすれば草野球くらいはできるとはおもいます。一生投げられなくなるなって野球ができなくなるか、手術もしくは約半年安静して野球が趣味として近くにある生活を送るかです。」


「夏の予選は無理ですよね」


「出たい気持ちはよくわかりますが。無理です。投手としては勿論野手としても許可できません」




「そうですか。」

それ以外に言葉が出なかった。正直、目の前の現実を受け入れることができなかった。


病院からでると、外は雨が降っていた、傘もなく歩く。

目からは自然と涙がこぼれおちていたが、雨のおかげでよくわからない状態になっていた。



そこから、家に帰るまでの記憶はほとんどない気づいたら、家のベッドの上だった。




翌日、ある程度の事情は監督に電話で話したため今日も部活を休むことにした。

「まる2日ボール触らないなんてはじめてだな。。。」

さて、これからどうするか。


「駿から野球とったらただの変人だよ、ただでさえ超変人で友達いないのに」

俺から野球とったら、変人でしかない。


ふと、昨日佳織がいった言葉がよみがえる。


そんなこと思っていると、携帯にメッセージが届く。


【おばさんから大体聞いたよ。肘もうだめなんだって?】

【ああ】

【いまから、会えない?駅前のシャイゼでどう?】

【いいよ、何時?】

【じゃあ、11時にシャイゼね】

【り】


適当な恰好に着替え、駅前のシャイゼに向かう。

まだ、佳織のやつは来てないようだ。


「いらっしゃいませ~シャイゼへようこそ。何名様ですか?」

「2名で、後から1人きます。」

「かしこまりました~お客様ご案内しま~す。」

「「「シャイゼへようこそ~~~」」」


ほかの店員の声がきこえてくる。

ほどなくして、佳織の奴がやってきた。

入口で俺をみつけたのか、そのままテーブルまでやってくる。


「おまたせ」

「いや、いまきたとこだから大丈夫。」

「なにそれ、デートみたいなセリフ。ウケる。」

「腹減ってんだど飯たのんでいい?」

「いいよ、私もラザニアたのも」


ボタンを押しメニューをみながら、「オムライスとラザニアそんでドリンクバー2つおねがいします。」


しれっと、大好物のオムライスを注文する。


「あんた、ほんとオムライス好きだよね。」

「あれほど、完成された食べ物なんてないんだぞいいか・・・」

「もういい、もういい、駿にオムライスの話はながくなるら話さんでよろしい。」

「ええ~全然、布教していないのに。。。」

「そんで、肘、もう駄目なんだって。」


無言でおれは頷く。そこでオムライスとラザニアが届く。


「わあ~私もおなかへってたのよね。」

自然とスプーンを差し出す。

「駿はそういうところ気が利くよね。」

「家族できたえられてるからな」

「おばさん、そういうとこきびしいもんね

「きびしいなんてもんじゃない、あれが、鬼ってやつだな。」




そんなしょうもない会話をしているオムライスを味わう至福の時間もあっという間におわってしまった。

「ねぇたまには、我が中学にいってみない?」

「あ、まあいいけど」

「じゃあさっそくいこ」


なんだかんだいって、いつも佳織のペースに持ってかれる。この時は肘のショックは少し薄れている感じがした。こうやって励ましてくれているのだろう。

中学のグランドにつくと後輩たちが練習していた。


恩師の遠藤先生もご健在のようだ。俺がシニアで活動できたのも、あの先生が紹介してくれたからだ。

遠藤先生のほうも、こっちをみつけたようだ。


「目黒~そんなとこでみてないで、こっちきたらどうだ~」

グランドのはじからバカでかい声がきこえる。

「佳織よばれたからいくけど一緒にくる?」

「いくわ」

グランド大回りしながら遠藤先生のもとへ歩く。

「おお、隣にきれいな女の子は齋藤だったか。目黒も隅におけないな」

「そんなんじゃないですから。」

「そういうことにしておこう」

「しかし、目黒、部活はどうした?」

「じつは・・・」


肘のことを打ち明けるか迷ったが話すことにした。


「そうか、大変なんだな。まあ、世の中は広いからな」

「先生いってることがわからいっす。」


「まあ、肘が痛かったら、いまから高校野球をプレーすることはできないが、これから関わることならいくらでもできる。指導者になるもよし、トレーナーになるもよし。用具メーカーに就職するっていうてだってある。選択は無数に存在する。そこにひじの痛みでできなくなるような職業はない。」


おれは、無言で頷いていた。先生はさらに続ける。


「そして、野球だけがすべてではないが、今、別のことをかんがえるのは酷ってもんだ。青春のすべてをいままで野球にささげてきたお前にとって視野が狭すぎるからな。だからまずは、腐らずチームのサポートからはじめたらどうだ。そうしたら、またちがったところが見えて様々なことに感謝することができるようになるはずだ。そうなったら、一度立ち止まってこれからのことを考えたらいい。時間は短いようで長い。周りへの感謝をわすれず存分に考えればいい」


きづいたら、おれは泣いていた。自分でも知らずに自分を追い詰めていたのかもしれない。


先生に深々と頭をさげ、その場をさっていく。佳織は無言でついてきていくれた。

しばらくして、佳織がはなしかけてきた。


「遠藤先生のとこいって正解だったね。」

思いつめていたような顔がいつもの 顔に戻っているきがする。

「そうだな、さすが遠藤先生だ。って最初から遠藤先生に合わせようとおもったてたのか?」


「ん、ひみつ~~」

「あ、このやろ~」

「あの、もう一か所だけ行きたいところがあるんだけど。いい?」

「ああ、どこでもいいぜ、そんでどこだ。」

「朝日山の展望台」

「おう、いこうぜ」


それから、約40分かけ朝日山の展望台にのぼった。

ここは、地元民しかしらない穴場スポットだ。町が一望できて夕日がきれいに見える。


展望台についた、どうやら先客はいないようだ。展望台に設置されているベンチに腰掛ける。


「私、ここから見える景色意外と好きなんだよね。あんまりこの町は好きじゃないけど。でも、この町も段々好きになってきた。」

「おお。そうか」そんな返事しかできなかった。

「私ね、大学が東京の方に行こうと思うの。そうしたら、この町ともバイバイ。駿とも会えなくなるね。」

「ああ、そうだな。変人が近くにいなくていいんじゃないか」

「・・・・・・・ばか」

「ん、なんか言ったか?」

「んん、なにも!!いってないよ。」


「じゃ、帰ろっか!」


そういって腰掛けていたベンチを立ち佳織は俺に背中を向けた、その背中は夕日に照らされ物悲しくも神々しく俺の目には映った。


「きょうはありがとな。」

佳織に聞こえるか聞こえないかの声で俺はつぶやいた。


それからの日々は早かった、俺は野球部のみんなに事情を話し、夏までの間マネージャーとして、支えることを告げた、ベンチの枠には今まで頑張ってくれたマネージャーを選んでくれとも監督に頼んだ。頑張ってきたのは選手だけではない。


唯一こころ残りなのは、2回戦で負けてしまったことか。まあそれも俺がいなかったからしょうがないとでも思っておこう。


そして、文化祭、大学受験、合格発表、卒業式と慌ただしくすごした。

あれから、お互い忙しくなり佳織とは会えば挨拶はするが、それ以外はしゃべらなくなっていた。メッセージでましあいながら勉強をしていたことを除いては。


お互い、第一志望の大学に受かり、佳織が東京有名私大のK大、俺は地元国立のT大にいくことになっていた。


そして、春休みに突入し佳織の引っ越しが予定が近くなったある日、意を決して佳織にメッセージをおくる。


【おはよう、今日少しだけ会えないかな。16時に朝日山展望台で・・・】

【うん、いいよ】

それだけ返ってきた。


時間は長くあるようで短い。ようやく目的地についたときには、約束の時間まであと10分になっていいた。そこには夕日に照らされる佳織の姿があった。


「おそいよ、駿が呼んだんじゃん」


「悪い、悪い」


「そんで、なにか話したいことでもあんの?」


「まあ、去年の春のことを改めてお礼が言いたくて、あの後いろいろ忙しくなってちゃんと時間とれなかったし。」


「なんだ、そんなこと?」


「そんな、ことってなんだよ。佳織に遠藤先生のところつれてってもらって本当に感謝してるんだよ。今までの道がすべて閉ざされたときに、新たな道を示してくれた。一緒に探してくれた。それがどんな、険しく困難な道でもそこに道はあるんだよって。そして、どの道に進むかは立ち止まって考えればばいいって。おかげで自分の進みたい道がみつかったんだから。そして、一歩踏み出すまでみとどけてくれた。ほんとにありがとう。」


「そっか、じゃあ、駿は私に存分に感謝しなきゃね」

「そうだね。」

「話したいことはそれだけ??」

「いや、それと。ずっと好きでした。付き合ってください。」






「遅いよ・・・」






「ごめんね、別に好きな人がいるの。だから、駿の気持ちには答えられない」

そういって、佳織は帰っていった。俺はそんな背中が夕日に照らされ物悲しくも神々しく俺の目には映った。



それから、7年後

俺は俺みたいなケガで野球人生を棒に振る子供が少しでも減るようにという念願を叶え、地元から程ちかい街で野球専門のトレーナーをしながら、母校である中学のコーチもしている。大学で何度か彼女は作ったが、なぜか長続きしなかった。というわけで、絶賛彼女募集中であるが、それ以外は満足した生活をしている。

佳織はというと高校の時の同級生である。増子と結婚したと母親ネットワークを介して聞かされた。


あのとき、卒業したあとじゃなく、あの時に思いを打ち明けていれば未来が変わったのかなと今でも意味のない妄想をすることがある。

しかし、そんな経験があったからこそ、今の自分が作られてるののだと思い前を向いて歩いていこうと思う。いつか、またあったと時に”ありがとう。佳織のおかげで充実した人生になったよ”といえるように。

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