第14話 体育館裏での呼び出し

 アリスの様子がすごくおかしい。


「おっ、おはよう。アリス」

「…………」


 爽太が、隣の席に座っているアリスに挨拶をする。だがアリスは返事をしないで顔を逸らしてしまう。唯一救いなのは小さく頷いてはくれること。だがその後すぐに顔を下に伏せてしまう。微かに覗く横顔は、ほんのりと紅潮している。

 爽太がアリスと友達ガールフレンドになった日から1週間、こんな状態が続いていた。

 朝のホームルーム前に話しかけても返事はなく頷くのみ。授業の合間の休憩や、お昼休みの時間に話しかけようと近づくと、周りにいる女子達の後ろに隠れたりする。

これからはアリスと友達として仲良く喋ったり、遊んだりできると期待していただけに、爽太のショックは大きかった。

 これじゃあ、1週間前のときと変わらないよな……。

 アリスにお好み焼きを食べてもらって、その後の帰り道を思い返す。友達ガールフレンドになって! と必死にお願いして、アリスが頷いてくれたのがすごく嬉しかった。でもそこからのアリスは顔をずっと赤くして、俺から距離を取るばかりで……。全然喋ることができなくて……。

 

 まさか、そんな状態が続くとは思ってもいなかった。

 

 爽太はつい困惑の表情を浮かべる。

 俺、やっぱりアリスに嫌がることでもしたのかな……。

 頭の中で必死に考えるが、思い当たるふしがない。

 あ~、くそッ! 解らねぇッ!! せっかく、友達《ガールフレンド》になれたと思ったのに! これから一体、どうすりゃあいいんだよ……。


 爽太が頭を悩ましている間に、朝のホームルームが終わった。すると、


 ガタタッ!


 と、慌ただしく椅子が動く音とともに、アリスが席を立った。そして早足で去っていく。日本語がまだ不慣れなため、皆とは違う別教室で授業を受けるために。

 爽太はそんなアリスの背中を見つめ、「はぁ~……」と、小さくため息をつく。なすすべもなく、ここ1週間のルーチンワークを終えたときだった。


「ねぇ、爽太」

「へぇ? あっ……、高木?」


 爽太の席の前に、女子のクラス委員である高木が立ちはだかっていた。

 高木が両手を腰にあて、小さな胸を張る。


「あんたさ、今日の放課後、体育館の裏にきなさい」


 高木の命令口調に、爽太は眉根を寄せる。


「はあ? なんだよ、いきなり」

「そういうのはいいから。ねぇ、返事はっ?」

「いや、わけわかんねぇし。なんで行かなきゃいけないんだよ」

「どうせ暇なんだから来なさいよ。すごく大事なことだから」


 爽太の顔がしかめっ面になる。

 なんだよ大事なことって。めんどくせぇ……、てか俺は暇じゃない。高木にかまっているくらいなら、俺は――、


「アリスちゃん」

「はひっ!?」


 爽太は口から裏返った声を発してしまった。すると、高木の目がスッと細くなる。。


「ふ~ん……、その反応。やっぱり何かのね、アリスちゃんに」

「へっ!? いや、あの!?」


 動揺する爽太に、高木が冷たい視線を送りつける。

 ひっ!?

 爽太は思わず身震いした。なぜか罪悪感が込み上げてくる。

 

 いや待て待て!? お、落ち着け! 俺はアリスに何も変なことはしてないだろ! 友達ガールフレンドになってほしいって言っただけだろ!!


「放課後、待ってるから」


 高木が再度通告してきた。爽太は慌てて口を開く。


「いや、あのですね! 高木さん――」


 バンッ!


「ひいっ!?」


 高木が、爽太の机を手で勢いよく叩いた。


「話は、体育館裏で聞かせてもらうから」


 威圧的な表情で高木は爽太に言い放ち、その場から立ち去っていった。

 爽太の全身の力が抜ける。椅子の背もたれに全体重をあずけ、「はぁ~……」と、小さなため息が、また口から漏れたのだった。

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