第20話 RE:doss Battle-1 下剋上盗賊騎士 赤壁ノ”グラヴォキエ” - 3


 〜 ブワァァァンッ、ググググググ……! 〜


槌盾シールド……ッ!」


「ヤベッ!? またあの地震攻撃かよ!?」


「えっ? ど、どうするの? ボスゥ!?」



 ――団長が掲げる大盾が頂点へと昇る中……ボスは一瞬ハッとする!

 【そっ、そうだ! もうオレ一人で戦っているんじゃあねェ……! オレ一人で無理だった事が、オルセットと一緒なら出来るんだ……! あんな隙だらけの攻撃だって……!】――そうだボス! 今の君は一人じゃあないッ!



「オルセット、頼む! アイツを蹴り倒して、攻撃を止めてくれ!」


「うんッ! マカせてッ! ボスゥッ!」


 ――”何かしらのスキル”によって未だ強化され続けているオルセットは、再び彗星の如き速さで駆け出し、頂点へと掲げ至った大盾目掛け……!


裂破・クエイッ!?」


 〜 ドッガァァァァンッ! 〜


「ヌオォォッ!?」


 ――”ドロップキック”を、ブチ咬ますッ!


 〜 ドデェェェェンッ! 〜


「ウゥゥ……クッソォォ……ッ!」


 〜 クルンッ、スタッ! 〜



 ――再び”団長ダンチョイッチ”と成り果てた団長……。その大盾の上部から、僅かに覗く奴の瞳を……大盾へと華麗に着地を決めたオルセットは、猛獣のような獰猛どうもうかつ冷酷な目付きで睨み付ける……ッ!



「……相手は、ボクだよッ!」


「この……クソ獣がァァァッ! 調子に乗るなァァァッ!」


 ――団長の怒声と共に、再び大盾が青白く光出す……ッ!


波衝砲盾ショック・シー……ッ!」


 〜 ガィィィンッ! 〜


「ヌゥッ!?」


 〜 キィィィンッ! ブゥオゥォォォォォッ! クルクルクル、スタッ! 〜



 ――再び大盾から発せられる、大砲の発射炎マズルフラッシュのような青白い光の奔流ほんりゅうッ! だが、団長が目論んだような結果は起きなかった……。


 何せ、技が発動する寸前でオルセットが強烈な”両足踏み付け”を行った後……三回転近い”後方宙返り”による大ジャンプで華麗に後退した結果、奴の”波衝砲盾ショック・シールド”は盛大に天井に目掛け、むなしく衝撃波を放つだけに終わるのであった……。



「ニドも同じ技をクらっちゃうホド……ボクもバカじゃあないよ?」


 ――獰猛で冷酷な目つきを団長に向けたまま、オルセットは不敵な笑みを浮かべる。


 〜 ドコォォォォンッ! 〜


「……舐めた口をくんじゃあねェよッ! このクソ獣がァァァッ!」



 ――起き上がったと同時に、大盾を地面に叩き付けその溢れる憤怒を示す団長。勿論、それで終わりじゃあない。今も発動している”丸盾鋸シールド・バズソー”を、叫び終わると同時に間髪入れず、オルセットへとブン投げるのであったッ!



 〜 キュウィンウィンウィンウィン……バアィィンッ! 〜


「……だから、オソいってソレ」


 ――変わらない攻撃を前に、オルセットは呆れた態度で同じように”蹴り上げた”。


「……フンッ」


 〜 クンッ! フォンフォンフォン……キュウィィィィィンッ! 〜


「えッ、何アレッ!?」



 ――再び同じように……無策に急降下してくると思いつつ、見上げていたオルセットが思わず声を上げる……! 空中へと蹴り上げられ、虚しく回転していた筈の丸盾が、まるで”チェーンソーのエンジン”が再び入れ直されたかのように……”丸盾鋸シールド・バズソー”の刃と共に独特な唸りを上げつつ、空中で静止したのだ……!?



「……ヌンッ!」 


 〜 グンッ! キュウィィィィィンッ! 〜


「……ちょっとビックリしたけど、落ちてくるだけなら……ッ!?」


 ――【なっ、何コレッ!?】――そう声を上げる暇もなく……オルセットに迫る丸盾は、普通に落ちてきた・・・・・・・・訳じゃあなかったッ!


 〜 キュウィンウィンウィンウィンッ! 〜



 ――例えるのは非常にオコガましいが……”丸盾鋸シールド・バズソー”が描いた軌跡は、最早普通の”自由落下する丸盾”の軌跡ではなかった……! それはとある「光の巨人ウルト◯マン」が放つ、”切り裂く光輪”が操作されたかの如く……通常ではありえない・・・・・・・・・振り子状の動き・・・・・・・で、オルセットへと奇襲を仕掛けたのだッ!



「クッ!? ニャラァァァァァッ!」


 〜 キュウィンウィンウィンウィン……バアィィンッ! 〜



 ――だがしかし、眼前に迫った”丸盾鋸シールド・バズソー”は、オルセットにとってはまだまだ見切れる速さ・・・・・・・・・・であった……! よって、少しは驚いた物の……彼女の”回し蹴り”によって左方向にフッ飛ばされるに終わる……。



 〜 クンッ! フォンフォンフォン……キュウィィィィィンッ! 〜


 ……ハズであった……。


「ウソッ!?」


 〜 キュウィンウィンウィンウィン……バアィィンッ! 〜



 ――左方向にフッ飛ばした筈の丸盾が、再び”丸盾鋸シールド・バズソー”となり……”逆再生”するかのように彼女に飛来するッ! 無論、彼女は再び縦回転で自らを切り裂こうと迫る丸盾を、今度は”旋風脚せんぷうきゃく”と言う”跳び回し蹴り”に近い動きの蹴りで、大盾の元へと蹴り飛ばすッ!



 〜 クンッ! フォンフォンフォン……キュウィィィィィンッ! 〜


「ちょっと、何でなのさッ!?」


 ――大盾に激突する事なく、寸前で”丸盾鋸シールド・バズソー”となって止まった丸盾を見ながら、オルセットは忌々しそうに怒声を上げる!


「……言った筈だ。オレはもう、出し惜しみはしないと……」


 〜 クンッ! キュウィンウィンウィンウィン……ッ! 〜


「ちょっと……!」


 〜 バアィィンッ! クンッ! フォンフォンフォン……キュウィィィィィンッ! 〜


「イイカゲン……ッ!」


 〜 バアィィンッ! クンッ! フォンフォンフォン……キュウィィィィィンッ! 〜


「こっち……ッ!」


 〜 バアィィンッ! クンッ! フォンフォンフォン……キュウィィィィィンッ! 〜


「来ないでよ……ッ!」



 ――”踏み付け”、”ハイキック”、”回し蹴り”、しゃがみ回避からの”倒立蹴り”などなど……本当何処で覚えたのかと一言、言いたくなるような多彩な蹴りを繰り出し続け、迫る丸盾をさばき続けるオルセット……!


 だが、蹴られても急な大カーブを描く・・・・・・・・・ように戻り……蹴られても変則的な波を描く・・・・・・・・ように戻り……蹴られても下から頭を狙う変化球・・・・・・・・・・ように戻り……と、丸盾操作する団長の方も負けじと彼女を仕留めようと、変幻自在な軌道で彼女に襲い掛かり続けた……!


 その様はもう”逆再生”……と言うよりも、”テニスのラリー”をするかのような……チョッピリ奇妙だが、正に死闘と言えるような一場面であった……ッ!



「……確かに、オレが投げる盾は……獣の貴様には、欠伸あくびをする程にトロく見えるのだろう……」


 〜 クンッ! フォンフォンフォン……キュウィィィィィンッ! バアィィンッ! 〜


「ニャァ、ニャァ、ニャァ、ニャァ、ニャァ……!」


「だが、それはたった一回の時だけだ・・・・・・・・・・……。何十、何百と……一度でも蹴り返すのを怠れば、ズタズタに斬り殺される運命を前に……果たして、オレの魔力が切れるその時まで、蹴り続けられるかな……? 哀れな獣よ……?」


 〜 クンッ! フォンフォンフォン……キュウィィィィィンッ! 〜



 ――オルセットにとっては、団長の話はほぼ珍紛漢紛チンプンカンプンであったが、理解していれば恐らく図星であったろう……。ボスの懸念けねん通り、彼女は奴を圧倒する力やボスを凌駕りょうがする体力スタミナはあれど……流石に、疲労相手には勝つ事が・・・・・・・・・・出来なかった・・・・・・のである……!


 だからこその荒い息だ……。だが……その中に”焦り”は含まれていない。

 再び大盾前に滞空たいくうする、”丸盾鋸シールド・バズソー”を睨み付ける獰猛な瞳も……手負の獣のような”絶望”には追い詰められていなかった……!



「ニャァ、ニャァ、ニャァ、ニャァ、ニャァ……ゼッタイ……!」


「……?」


「ニャァ、ニャァ、ニャァ……ゼッタイ……ボクはカつ……ッ!」


「ッ!?」


「カって……ゼッタイ、オバアちゃんの所に帰るんだ……! だから、だから負けない! ボクはオマエ何かに負けるモンかッ!」



 ――どれだけ疲れ果てようとも……どれだけの絶望を突き付けられようとも……オルセットは”ボスが一緒に居る”という、その一つの事実さえあれば……その獰猛な瞳に宿る闘志とうしは、燃え盛り続けるのであろう……!


 ……そんな”覚悟”が垣間見える、叫びであった……ッ!



「……獣は獣らしく……ッ! 黙って人間に狩り殺されてろッ! このッ、クソ獣がァァァッ!」


 〜 クンッ! キュウィィィィィンッ! 〜


「ナンド来たって、こんなタテ……ッ!」


 ――数十回と蹴り続けたおかげか、そこそこ様になった構えファイティングポーズで受けて立つオルセット……ッ!


刺傷防盾スパイク・シールド……ッ!」


 〜 キュウィンウィンウィンウィン……シャキィィンッ! 〜


「ッ!? ウソッ!?」


 〜 ピタッ! キュウィンウィンウィンウィン……バッ! 〜


 ――おおっと!? ここで初めてオルセットが”飛び込み前転”による回避を行ったッ!


「……もう、蹴れないよなぁ? そんな棘だらけ・・・・の丸盾じゃあなぁッ!?」



 ――オルセットが突如、蹴りの動作を止めて回避をするのも納得である……! 団長の丸盾は、”そこの浅い大皿”のように片面がヘコんでいる形状なのだが……大皿で言えば、テーブルに置く”出っ張り”……つまり膨らんだ方に、数十もの”魔法で出来たトゲ”が突如、生えてきていたのだッ!


 未だ防具どころか靴も履かず、素足・・で蹴り続けていた彼女とって懸命な判断とは言えるだろう……。だが……!



 〜 キュウィンウィンウィンウィン……バッ! 〜


「ニャアッ!?」


 ――避けても直ぐ様”Uターン”してくる丸盾を前に……。


 〜 キュウィンウィンウィンウィン……バッ! スパァァンッ! 〜


「ニャアッ!? ダッ、ダメェッ!? 」


 ――”掘立て小屋の残骸”に身を隠して回避しようとも……憎たらしい程の気持ちの良い音共に、ふとい丸太柱が切断され……。


 〜 キュウィンウィンウィンウィン……バッ! ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ……スパァァンッ! 〜


「ニャアッ!? こっ、コレもォォッ!? 」


 ――次に逃げ隠れる洞窟内にあった”ぶっと鍾乳洞しょうにゅうどう”でさえも、僅かに抵抗出来ただけで、あっという間に切断されてしまい……!


 〜 ザザザザザザザザザザザザ……ッ! キュウィンウィンウィンウィン……ッ! 〜


「ニャア、ニャア、ニャアハァ、ニャア……ッ!」


「フハハハッ! 幾ら逃げ隠れしようと、無駄だァッ!」



 ――【ボスゥ! ハヤくゥ! ボスゥッ!】――息も絶え絶えに、彗星の如きは速さで逃げ切ろうと賢明に走り続けるオルセット……!


 だが……隠れ場所をいとも容易く切断し、更には遅くとも変幻自在の動きによる、予測不可能な軌道によって、”先回り”や”不意打ち”を次々と仕掛けてくる”丸盾鋸シールド・バズソー”を前に……最早、完全に対抗手段を失ったオルセットは、逃げ惑うしかなかったのだ……!



「そうだ、その調子だ! 無様におびえ、恐れ、逃げまどってろッ! ”臆病な獣”には、それこそ最高と言って良い程にお似合いなんだよッ! クソ獣がァァァッ!」


 〜 プッツン 〜


 ――一向にボスからの音沙汰がなく、軽く絶望に落ち掛かっていたオルセットは一言……その一言によって、凍りつこうとしていた闘志に再び火が灯されるッ!


「……ニャア、ニャア、オク……ビョウ……? ニャア、ニャア……」


 〜 ザザザザザザザザザザザザ……ッ! キュウィンウィンウィンウィン……ッ! 〜


「ハッ! 馬鹿か! 隙間もない壁なぞに隠れようと到底無駄……!」


 〜 ガッ! ガッガッガッガッガッ……! 〜


「なっ!? 何ィィィィィィッ!?」


 〜 ……ギャリギャリギャリギャリギャリギャリィィン……ッ!〜



 ――かっ、壁だ! オルセットは壁を走っていた・・・・・・・! 右足が沈む前に左足を前に出し、それを交互かつ高速に行う事で”水の上を走る”と言う、”机上きじょう空論くうろん”の如き事を……彼女は成し遂げていたのだッ!


 そして、彼女に追尾するように動いていた”丸盾鋸シールド・バズソー”は、流石に彼女のその動きに付いて行けず……洞窟の壁を削りながら奥へ奥へと突き進んで行き……遂には止まってしまったのであった……! (……あっ、ここ激しく言わずとも……以前ベルガさんの家で、オルセットが壁どころか天井を走っていたな……。失礼、失礼……だけど、やっぱスゴイッ!)



 〜 ……ガッガッガッガッガッ……バッ! クルンクルンクルン、スタンッ! 〜



 ――考えがあったかは定かではないが……見事、”丸盾鋸シールド・バズソー”を無力化(?)させたオルセット。彼女は、駆け上がった壁から宙返りするように”壁キック”した後……数回の回転ののちに、まるで猫のように両手から両足の順に”四点着地”する事によって、無傷で着地を果たしていた……!


 そして、ゆらりと立ち上がる……!



「ボクを……ボクをニドと、”オクビョウ”なんて言うなッ! ボクはッ! ”ユウカン”な、オルセットだッ!」


「グッ、ヌヌヌヌヌヌッ!」


 〜 ギャリギャリィィィィン……ッ! ギャリギャリィィィィン……ッ! 〜



 ――睨み雄叫ぶオルセットを無視し、彼女の背後の壁に埋まる”丸盾鋸シールド・バズソー”を再起動させようと試みる団長。しかし、その怒りに歪む歯を食いしばった表情と、まるで”エンジンの調子が悪いチェーンソー”のように、壁内を削るも一向に抜け出せない丸盾を見るに……どうやら、再び形勢はボス達に傾いてきたようである……ッ!



「待たせたなぁ! オルセットッ! 疲れてるところ悪いが、急いで準備してくれェェェェ……よッ!」


 〜 ブウォン、ブウォン、ブウォン! ドゴッ! ボッファァァァンッ!〜


「ブッ!? なっ、何だ!?」



 ――団長の周辺を包み込むかのように、”白い煙”が舞い上がる……! 勿論、これを発生させたのはボスだった。……どうやら見る限り、彼は麻製らしき”サンタクロースが使う袋”に近い形状の物を、ジャイアントスイングハンマー投げの要領で奴に叩き付けたようだ。ただ、それだけじゃあ煙にはならない。


 彼は、持っていた袋に”装備しRE:Missionていた-10で購入済みのナイフ”で線状の切り込みを入れ、叩き付けたのだ。すると……袋内にあった空気が圧縮され、恐らく”でん◯ろう先生”もニッコリな「空気砲」のように、白い煙の元……”小麦粉”を噴出させたのであろう……。


 しかし……何のために?



「おい! デカブツ!」


「ゲホッ、ゴホッ!?」


「そんな、大層立派な鎧と大盾を持っているなら……”竜の息吹ドラゴンブレス”くらい、喰らった事あるよなぁッ!?」


「ゴホッ、ゴホッ……”竜のドラゴン……息吹ブレス”……?」


「……クリッカー着火ッ!」


 〜 パチンッ! ボオゥッ! 〜



 ――上げられた声にハッとした団長が、その方向へと振り向く……。するとそこには、いつの間にか奴の背後に回り込み……持っていた”松明”に「クリッカー着火」の魔法によって、着火するオルセットの姿があった……!



「行くよ、ボスゥッ!」


 ――その一言の後に、オルセットが渾身の力を込め……松明を団長に目掛けて投げつけるッ!


「ゲホッ、フンッ! 何が竜の息吹ドラゴンブレスだ!? そんな松明を投げつけても今更……!」


 ――呆れた物言いをしつつも、しっかりと大盾を構えて松明を防ごうとする団長。だが……大盾に激突しようとしたその時ッ!



 〜 ボオゥ……ボッファァァァァァンッ! 〜


「グワァァァァァァァァァァッ!?」


 ――団長の周辺を包み込むかのように、舞っていた”白い煙”が……一瞬にして、巨大な火球・・・・・へと変貌へんぼうしたのであるッ!


「なっ、何だ!? この魔法はァァァァァッ!?」


 ――全く理解の出来ない現象を前に団長は、大盾を投げ捨てるように手放し……鎧の内側から燃え出る火を全力で払おうとするしかなかった……!


「よッしゃあッ! クソ盗賊の蒸し焼き、一丁上がりッ!」


「ほ……ホントに、あんなに火が出るなんて……!? フンジンバクハツ・・・・・・・・って、マホウはスゴいね……ボスゥ!」



 ――既に巨大な火球は消え去った後だが……未だ消火活動が終わらず、地面を転げ回っている団長の姿を少し遠目に見ながら、ボスと合流したオルセットは目を見張りながらそう呟く……!


 そう、彼女が呟いた”粉塵爆発”……これこそがボスが狙っていた、鉄壁の守りを持つ「赤壁のグラヴォキエ」に、対抗するための策であったのだッ!


 まぁ……ただ、ピンと来ない◯者の諸君向けに、一応の解説はしておこう。

 ザックリ言って仕舞えば……「お茶やコーヒーを飲もうと、お湯をガスコンロ直火で沸かしていた際に、その傍で何らかの拍子に”小麦粉”や”粉末ミルククリーミングパウダー”が、煙になるようにバラ撒いてしまった時に起きる……出火原因の一つ」である。


 えっ? それでもフレンチのシェフが見せる”フランベ香り付け”程度しか、イメージが湧かないって? イヤイヤイヤイヤ……化学の授業の中、その現象を見て”キャッキャウフフ”するような物と同等なんじゃあねェの〜? ……と、舐めてもらっちゃあ困る。


 じゃあこんな話はどうだろうか……? とある”小麦粉工場の貯蔵タンク”や、海外のとある”砂糖工場のサイロ”などで……悲しくも・・・・この粉塵爆発は実際に起こった事があるのだ……。その時の被害はどれ程の物か……◯者の諸君には想像が付くであろうか……?


 ……恐縮ながら、答える時間シンキングタイムは設けてないので先に進ませて頂くが……その時の粉塵爆発の威力は、工場全体が”爆破テロ”にでもあったぐらいに端微塵ぱみじんな……それも瓦礫の山と化す程の破・・・・・・・・・・壊力・・を持つ爆炎ばくえんを生み出したのだッ! 無論、この事故で死傷者も十数人近く出た物なのだ……ッ!


 ……とは言え、ボスが扱った量では”工場破壊”にまでは決して到達しないだろう。だが……人体に対しては冗談で済まない火炎と化し、少なくない火傷を負う筈だった……。


 だったのだが、どうやら今も団長が転がっているのは、”全身鎧プレートアーマー”の弱点の一つである「熱がこもりやすい」という事も含め……更に鎧の内部で、燃えやすいインナー・・・・・・・・・でも着込んでいたのだろう。


 その性で、粉塵爆発の”瞬間的な爆炎”でも、余計な追加スリップダメージを喰らう羽目に陥っているのであろう……! ボスは気づいていないようだが、何とも”戦闘”と言う点で見れば、ラッキーなモノである……。



「『充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』……アーサー・◯・クラークは、良く言ったモンだな……。まぁ、ただ……”死体の化け物”塗れな宇宙船に、エンジニアアイ◯ック・クラークとしては行きたかないけどな……」


「えっ? ナニソレ……?」


「いや、後半は気にしないでくれ……。まぁけど、屋外じゃあ成功しにく・・・・・・・・・・って聞いていたが……まさか成功するなんてな……ッ!」



 ――そりゃあそうである。何せ、ボスがいるのは屋外は屋外でも、洞窟・・という”天然の密室空間”である。多少、穴が空いてるなどの隙間風はあれど……十分気密性はあるため、屋外よりは”粉塵爆発”は発生しやすい筈である。



「えっ? じゃあ……オきなかったって事も……?」


「言ったろ? 博打だって?」


「バクチィ?」


「……賭けだって言ったろ?」


「……もう、分かんないケド……でもッ! ジュンビ、オソスぎだったよッ!」


「いや……だって、済まないけどよ……レベルアップしても、流石に仕込み工作に加えてあの重さを運ぶのに時間が……」



 ――現代での話だが……業務用の袋に入れられた小麦粉の重さは約”二十五キログラム”らしい。ボスが扱っていた袋がそれにピッタリと言い切れないが、それでも”WW1第一次世界大戦”で活躍した重機関銃ヴィッ◯ーズに迫る重さ」を担いで来ようとしたのだから、ある程度時間が掛かっても仕方がないだろう……。



「……ウゥゥ……クソォォォッ!」



 ――うらみがましいうめき声を聞き……即座にその発生源へとボスは銃を構え、オルセットは身構える。無論、その呻めき声の正体は団長だ。うつ伏せの状態から見上げるように怨嗟えんさまなこを、ボス達目掛けギラギラと輝かす……!


 前述に語った”全身鎧プレートアーマーの弱点”上……消火後、転げ回る中でも「全身に高温で熱せられた”フライパン”を押しつけられた」に近い状態にも関わらず、何度も立ち上がろうとするのは……堕ちても流石、騎士。


 ……と言う賞賛すべき根性なのだろうが……それ以上に「しつこ過ぎるぞ、とっととクタバレ、クソ野郎ッ!」……と言うのが、ボスや◯者の諸君も共通な本音だろう。



「……どうやら、火加減が足りなかったようだな……」


 ――呆れつつも若干悔しそうな口調で、皮肉を語るボス。


「貴様ら……よくも……!」


「火に炙りやがって? それとも、そんな大魔法を何処に隠していたってか? さぁなぁッ!? ……それよりも、その程度で済んだだけラッキーと思っときな……?」


「……何?」


「テメェは一瞬で済んだんだ……。けど、こっちのオルセットは……テメェ以上に長い時間・・・・・・・・・・、火にあぶられ続けて……死ぬ寸前まで体をボロボロにされたんだぞッ!? 今だって、スンゲェポーションを使ったってのに……治せない傷が残ってんだよ! テメェとは、比べる基準にもなってねェんだよッ! クソッタレがッ!」



 ――怒りのあまりか……団長の頭に向ける銃口を、何度も突きつけるように振りカザしながら怒鳴るボス。【……ボスゥ……】――一方で、貸してもらったスポジャケの胸元を右手で強く握り締めながら、数歩前に居る彼を見つめるオルセット……。



「……獣を大事だと言うなんて……とんだ変態が居たものだな……」


「……何で獣人を憎む? それと、まさかと思いたいが……エルフとか、ドワーフとか……そう言った他の別種族は居るのか? もし居たら……まさか、”下等種族”みたく思ってねェよな?」


 ――”下等種族”下りから、呆れたような……震える声で問いかけるボス。


「……何を当たり前な事を? 獣が二足歩行し言葉を喋るのも……! 高慢な森の耳長みみなが供が我らを嘲笑ちょうしょうするのも……! 子供の背丈にも満たない老害共が、こぞって人の産業を馬鹿にし独占しようとするのも……! どいつもこいつも、人間に似た魔物供・・・・・・・・を見下さずして、人間はどうやって……!」


 〜 ザッ、ザッ、ザッ……ゲシャァァァッ! 〜



 ――団長が話す途中から、ワナワナと震えていたボス。……そのミニ演説がクライマックスを迎えようとした時に、足早に奴へと近寄り……その頬に鋭い”ローキック”を叩き込んでは黙らせた。



「……OK。複雑な事情がある事はよぉぉぉく分かった……。けど、それ以上は言うな……耳が腐るッ!」


「えっ、ボスゥ……ド〜ユ〜事?」


「……今は考えなくていい事だ。オルセット……」



 ――【……クソッ、コイツは元であっても王国の騎士……。それに”当たり前の事”って事は……あぁクソ……ッ! この世界の人間の考えは、クソな予想人間至上主義しか付かなねェな……ッ!】――これから先、今後のボスの旅路に”常につかりそうな問題”が垣間見えた瞬間であった……!


 しかし、浮かない表情を振り向いた際に見せた以上……オルセットは、どう言葉に表して良いか判らなかった……。だが、彼に対する”心配”や、この先には”困難”があると、その優れた”直感”で何となくだが感じ取っていた……!



「ハァ……ハァ……ハァ……」


 〜 クッ…クンッ! ギャリギャリィィィィン……ッ! クンッ! ギャリギャリィィィィン……ッ! 〜


「……チッ、もうお互いボロボロなんだ……。無駄な足掻きは止めて、大人しく負けを認めろ……ッ!」



 ――震える青白く光る左手で、ボス達の遥か背後にある”丸盾鋸シールド・バズソー”を再起動させようと目論む団長。だが、一向にそれは動く事なく……独特な駆動音に気づいていたボスに呆れたように一瞥された後、上記の台詞を吐き捨てられるように言われるのであった。



 〜 クンッ、ギャリギャリィィィィン……ッ! クンッ、ギャリギャリィィィィン……ッ! 〜


「……あぁぁ! クソッ! いい加減にしろよッ! 戦闘中は必死だったから、気にしないようにはしていたけどッ! あの音、やかまし過ぎるんだよッ! テメェのドタマを狙うのに、集中出来ねェじゃあねェかよッ!?」



 ――おっと、粗野な口調で目立つボスだが……意外と繊細せんさいな所があるのだな? ……まぁ、「トドメを刺す」という場面シチュエーションにおいては、非効率極まりないが……。


 うるせェ! 黙れッ!



 〜 クンッ、ギャリギャリィィィィン……ッ! クンッ、ギャリギャリィィィィン……ッ! 〜


「……ね、ねェ……ボスゥ?」


 ――直感で何かを感じ取ったのか……再起動しようとする”丸盾鋸シールド・バズソー”方をチラチラと幾度も振り返りつつも、ボスに呼びかけようとするオルセット……。


「おい、マジでいい加減にしろよッ!? 全く動けもしねェ相手に対して痛ぶる趣味を、俺は持っていねェってのに……あと数回でも続けみろ? マジでその顔面が歪むまで、蹴りまくるぞッ!?」


 ――罵声を浴びせつつ、苛立ちからか荒々しい歩調でより接近し、うつ伏せの団長の頭に狙いを定めるボス。


「クッ……ソォォォォォォォォォォォォッ!」


 〜 クンッ! ギャリィリィリィリィリィリィリィ……バコンッ! 〜


「ッ!? ボスゥッ!」


 〜 ドンッ! キュウィウィウィウィウィウィン……ッ! 〜



 ――引き金を引くよりも早く、ボスは自分が突き飛ばされ軽く宙に浮くのを感じていた……! だがそんな事よりも、もっと不味いと思った事があった……。


 コレ突き飛ばしがなかったら……現在鼻先を掠め飛び過ぎて行く”丸盾鋸シールド・バズソー”に……上半身と下半身を真っ二つされていたかと思うと、彼は冷や汗が止まらなかったのである……。



「ダァッ! ゥゥ……大丈夫か、オルセット!?」


「ぼ、ボスゥ……シッカリしてよぉ……」



 ――一瞬、尻餅を着いた痛みに顔をシカめるボス。だが顔を上げた際、突き飛ばした後に転んだのか、そのまま”うつ伏せ”となって”丸盾鋸シールド・バズソー”をかわせていたオルセットを見て、安堵するのであった……。



「わ、ワリィ、助かった……ハァ、反省しないとな……」


 〜 キュウィウィウィウィウィギャリィン……ッ! 〜


「なっ、何だ!?」


 〜 キュウィウィギャリィン……ッ! キュウィウィギャリィン……ッ! キュウィウィギャリィン……ッ! キュウィウィギャリィン……ッ! 〜


「ッ! ぼっ、ボスゥ! タイマツが次々に切られちゃってるよォッ!」


「……嘘だろ? まだ一回しかやってないのに、理解したってのか……!?」


「……刺傷防盾スパイク・シールド……ッ!」


 〜 ジャキィィンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 〜



 ――僅かな間だが気づけなかった……! 団長が立ち上がっている事に……! 大盾を拾い上げ、そこに魔法で出来た棘をビッシリと生やし、大きく振り上げている事を……! ボス達は次々に切られていく洞窟中の松明に呆気を取られてしまっているが故に、気づけなかったのだッ!



「……そうだな、そのまま松明と一緒に貴様らも潰れろ……ッ!」


「「ッ!?」」


串刺スキューワーズ槌盾・シールドォォォォォォッ!」


 ――棘だらけの吊り天井てんじょうが落ちてくるが如く、掲げた大盾を座り込むボス達目掛け、団長が一気に振り下ろすッ!


「避けろ、オルセットォォォッ!」


 〜 ブゥォォンッ! ドゴォォォォォンッ! 〜







「……ハァ、ハァ、ハァ……ゲホッゲホッ! 土煙がスゲェなぁ、クソ……!」


「だっ、ダイジョウブゥ〜? ボスゥ〜!?」


 ――間一髪ッ! 頂点で掲げた辺りで気づけたのが良かったのか……ボス達は何とか大盾の影の下から、左右に分かれて飛び出すように脱出した事で、難を逃れる事に成功したのであった!


「あぁ、何とかな〜!」


「よ、良かった〜」


「……あぁ、クソッ! 結局、振り出しに戻ちまったってトコか……!?」


 ――悪態付くボスの視線の先には、もう嫌と言う程目にした”大盾”と”丸盾”を両手に装備する影が、土煙の中に居たのであった……!


「……クソォ、クソクソクソクソクソクソォォォォォッ!」


「なっ、ナニナニッ!? ボスゥ、アイツ何サケんでるの!?」


 ――困惑しつつも素早く立ってボスの元へと向かうオルセット。一方のボスは、余裕そうに立ち上がっては尻に付いた土埃を払いつつ、ニヤリと口元を不敵に歪ませる……!


「いやぁ、喜べオルセット。オレ達ぁ、随分ラッキーだったみたいだぞ?」


 ――ジョジョに晴れていく土煙を見ていたボスは、上機嫌にそう語る。


「えっ? どう言うコト……あっ、なんかツブれてる・・・・・・・・……!」



 ――最初は意味の分からなかったオルセットだが、その疑問は少し辺りを見回すだけで理解できたのであった……! 少々ボキャブラリー語彙うとい彼女に代わって実況するなら……「装着していた胴鎧どうよろいが外れ、それが大盾の下敷きペチャンコになっていた」……と言うべきだろう。


 ボス達はラッキーであれど、その落ちた理由は知らないが……。



「クッソォォォ……! もっと早くに鎧の固定用ベルトを替えておけば、こんな事には……!」



 ――あらあらうっかりさんだな……つまり、固定用ベルトが老朽化ボロボロしていたのが、恐らく燃えて切れてしまったと……。まぁ、実況する手間がハブけた。助かったよ団長クズ君。



「……ボスゥ、何か”ベルトをカえておけば”……とか言ってるよ?」


「あぁ、って事はつまり……鎧は限りなく”自滅”って感じか……」


 ――そう言ってボスは、まだ山積みにされていた小麦粉の袋の方を見る。


「なら、もっと自滅させてやるか……!」


「ボスゥ?」


「オルセット、耳貸せ」


「え〜、また〜?」


 ――若干嫌な表情をするも、未だ自身の鎧を自らお釈迦しゃかにしてしまった事を悔いている団長を一瞥いちべつした後、渋々そうにボスに耳を貸すオルセット。



 〜 ドゴォォォンッ! 〜


「……クソォ……! 許さん! 許さんぞ、貴様らァァァッ!」


 ――ことごとく”予想外”が起き続けている性か、大盾を地面に叩きつけた後……此処一番と言えてしまいそうな雄叫びを上げる団長。


「へぇ〜驚き。じゃあ、さっきまでのオレ達は行為は、許されている余地があったって事か〜?」



 ――どうやら、作戦会議は終わったようで身構えるオルセット。その横で右手にフリピス、左手に逆手に持ったナイフを持ち……左手首を台にするように団長に銃口を構えるボス。勿論、挑発もハッ◯ーセットだ。



「貴様ら……貴様らの性で何もかも……!」


「ベルトはオレらの魔法フンジンバクハツの性だろうが、ペシャンコにした鎧の責任までオレらの性にすんじゃあねェよ……!」


 ――呆れた口調で凄むボス。そしてやはりド正論故か、ワナワナ震えるしか出来ない団長……。


「さて、単刀直入に言っちまおうか。今からオレらはそのガラ空きになった体を、集中狙いする……!」


「……だから、どうした……ッ!?」


「さぁなぁ? まぁ、鎧がなくなっちまった分の”ハンデ”って感じかな? ただ、別にテメェみたいなクズに掛ける義理も趣味もねェけど……かわいちょうでちからね〜?」


 ……何故か赤ちゃん言葉風に締めくくるボス……。


「ボスゥ……ナニ、その口調……?」


「シッ、怒らせて、判断力を鈍らせるためだ」


「……ハンダンリョク……?」


「目の前の奴をブチのめしたら、幾らでも説明してやるから!」


 ――ちょっとした茶番を繰り広げていたボスたちの目の前で、先程までワナワナと震えていた団長が憤怒な視線と共に彼ら目掛け怒鳴り散らす……!


「よくも……よくもここまでの事をヤリやがった上で……ッ!」


「おっと、随分と待たせちまっていたようだ。じゃあ思いっきり行くぞ、オルセットッ!」


「うん、ボスゥッ!」



 ――ようやく始まるボスとオルセットの本格的なタッグマッチ! まず、初撃ファーストアタックを決めたのは、御定番になりつつある彗星の如き速さで駆け出した……彼女だッ!


 〜 ザザザザザザザザザザザザ……ッ! クルッ、ドガィィィンッ! 〜


「ヌゥゥ! 今更そんな蹴りで壊せると……!」


 ――彗星の如き助走からの”後ろ廻し蹴りバックスピンキック”を大盾に叩き込むが、数メートル滑り下がらせただけで、ビクともしない!


「オラァァァッ!」


 〜 ブゥゥンッ! ……ドゴォンッ! 〜


「グヌゥゥッ!?」



 ――だが、ボス達は無策ではないようだ……! レベルアップの恩恵か、勢い良く滑り下がる団長に走り追い付く! そして、未だ床に散らばっていた”押収した戦棍メイス”の一つを、ハンマー投げの要領で奴の左脇腹にボスが叩き付ける!



「どうした? ご自慢の盾で防いでみろよ?」


「グッ、舐めるなァァァッ! 刺傷防盾スパイク・シールドッ!」


 〜 シャキィィンッ! スポン、ガッ! ブゥォォォンッ! 〜


 ――ニヤリと挑発を決めるボスに、団長は瞬時に丸盾に”刺傷防盾スパイク・シールド”を展開! 素早く丸盾の縁を掴むよう持ち替えては、”戦鶴嘴ウォーピック”の如くボス目掛けて振り下ろすッ!


 〜 ザザザザザザザザザザザザ……ダンッ! クルンッ! 〜


 「コッチだよッ!」


 ――走り詰めて来たオルセットが、未だ団長が構えていた大盾を駆け登る! そして飛び越えては、空中で一回転しつつ、”カカト落とし”の体勢に入った! 目標は勿論、奴の脳天ッ!


「ッ!? クソォォォッ!」


 〜 ピタッ、スポンッ、ガシッ! 〜


「ッ!? 無茶するなぁッ! オルセットッ!」



 ――おっと、ここで少し誤算が出たのだろう……。再び左腕に素早く丸盾を装着しては、迫る”踵落とし”に対し防御を固める! 無論、”刺傷防盾スパイク・シールド”は展開したままなので、このままだと彼女は……!



 〜 ガシィッ! ピンッ 〜


「何ィ!?」



 ――何とッ! 踵落としの体勢から素早く一回転しては、まるで鞍馬あんばの上で演技を披露する体操選手の如く……大盾のフチで、”倒立とうりつ”したのだッ! 予想外の出来事を前に、団長は目を見開き呆気に囚われてしまう!



「ボスゥ、ダイ、ジョウ……」


 〜 ググググ……! 〜


「ブッ!」


 〜 グォォォンッ! ドゴシャァァァッ! 〜


「オバべェェェッ!?」



 ――【スゲェ……! オルセット……お前、戦闘の天才かもなッ!】――何処ぞの”柱○男”とは言わないが……その素早く的確な彼女の判断に、助けられたボスは内心ニヤケ顔が止まらなかった……!


 それもその筈、”踵落とし”を断念され倒立していた彼女は、”しゃちほこ”の如く下半身を反り返らせた後……まるで神社の鐘楼しょうろう響かせるブッ叩く、”撞木しゅもく”の如き”ドロップキック”を、団長の顔面にお見舞いしたのだッ!


 これが獣人の特性なのか……常人ではまず、出来ないであろう……とんでもない柔軟性とバランス感覚であるッ! 【けど、オレだって……人間としての意地を見せてやるぜッ!】――おっと? 何をする気だ、ボス君?



「ウオラァァァッ!」


 〜 ガシッ、グォォォンッ! 〜



 ――鎧が無く重さが少なくなったおかげか……はたまたレベルアップの賜物か……。オルセットの強力な蹴りによって飛んで行く筈の団長の左手首を掴み、振り回すように軌道を変えては……?



「ウオォォッ!?」


 ――更に団長の首を右手でガッチリ掴み、そのまま地面に向けて……!


 〜 バチコォォォンッ! 〜


 ――柔道の”体落とし”の如く、地面に叩き付けたッ!


「グヌゥゥゥッ!?」


「これで終わりと思うなよッ!」


 〜 ガシッ! シャランッ! 〜


 ――そう意気込むボスが取り出したのは、腰に装着していたナイフであった! 団長が声に反応して行動アクションを起こすよりも早く、順手じゅんてに持ったナイフを彼は……!


 〜 ブスゥッ! 〜


「グハァァアアァァァァァァッ!?」


 ――左の脇の下のブッ刺したッ!


「元騎士……いや、兵隊でもあるテメェなら知ってるよなぁ……? 脇の下ってのは、プレートアーマーを着ていても防御出来ないし、そこを防御するような鎧さえもないって事を……知ってて当然だよなァァァッ!?」


「グゥゥゥゥッ!?」



 ――前話でも語ったように、現代でも脇の下を保護出来ている防弾チョッキボディアーマーは存在していない……。更に言えば、脇の下は神経が集中している”人体の急所”の一つである。刺突などによるダメージが大きく、圧迫による止血が不可能なため”失血死”を起こしやすい部位なのだ。


 もっと言って仕舞えば……左の脇の下は、若干だが”心臓に近い部位”でもある。だが幸いに(?)ボスはそんな残酷な部位を狙わず……左腕の関節や筋を狙うように垂直に刺したため致命傷には至らない。


 ……アレ? じゃあなんで、致命傷を狙わないのだッ!?



「けど……オレは油断しねェぞ? テメェの盾がUFOみたく一人でに飛んでビックラこいたように……このままテメェの心臓にトドメを刺しても、何事もなく蘇る・・・・・・・かもしれねェからなぁ……?」


「……ッ!?」


 ――【えぇ!? ちょ、ちょっと待てッ!】――とでも言いたそうに、激痛にもだえていた団長が目を見開き、冷や汗を掻く……!


「と言うワケで……オルセット!」


「ニャア、ニャア、ニャア……ニャアニィ、ボスゥ……?」


「疲れてるトコ悪りィが、小屋の残骸から松明を探してきてくれないか? 念には念を入れて……さっきの魔法フンジンバクハツでトドメを刺す」


「……ッ!?」



 ――【まっ、待て、待てってッ! たっ、松明はもうないのに出せるのかッ!?】――とでも言いたそうに、激痛にもだえていた団長のかいていた冷や汗が増していく……!



「エェ〜でもゼンブ、切られちゃったんじゃあ……?」


「ないとは言い切れないだろう? それに、コイツの左腕は既に無力化むりょくかしといた。もうあの”殺人丸盾”をブン投げられる事はねェだろうし、ゆっくりでも良いから探してくれ! アレは火がないと絶対出来ね・・・・・・・・・・んだよ〜!」


「エェ〜しょ〜がないなぁ〜分かったよ〜」


「おう、ゆっくりで良いぞ〜オレも準備しに行くから〜!」



 ――疲れの蓄積からか若干、フラつきつつも掘立て小屋の残骸へと向かうオルセット。勿論ボスの方も、冷酷な目付きで団長の顔を一瞥した後に……”フンッ!”と鼻を鳴らしてはナイフを勢い良く引き抜き、血払いしつつ小麦粉の山の方へと向かうのであった……!



「なっ、何なんだ……アイツらは……ッ!?」



 ――思わず団長は呟くように声を漏らす。だが……その声にはもう、仲間を殺された”怒り”も、散々己を馬鹿にし続けるボス達に決して負けないという”意気込み”さえもなかった……。


 奴の心を支配し始めていたのは、恐怖……! 【何故、敵であるオレにトドメを刺す絶好の機会を、見す見す逃すのだッ!?】、【何故、盾の操作が出来るだけで、復活出来ると思うのだッ!?】、【何故、松明を全て潰したのに……あの”上位階”以上は確実な……火魔法を出せるのだッ!?】


 ――分からない、理解出来ない……! そんな、人間が太古から抱き続けてきた”感情”に、奴は飲まれ始めていたのである……!



「どうだ〜? オルセット〜?」


「う〜んダメ〜。どれもボロボロ〜」


「ゆっくりでいいぞ〜良く探せ〜。そこのザコ団長さんは、相当怪我が酷いみたいだからな〜? まだまだゆっくり出来るぞ〜?」


「……クヌヌヌヌヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!」



 ――だが、団長が完全に恐怖に飲み込まれる事はなかった……。目の前に、「悠長ゆうちょうにトドメを刺す材料を探す敵」と言う異質な恐怖があったとしても……それ以上に、やはり仲間を殺された怒りが……! 誇りをボコボコにされた怒りが……! そして何より……!



「これ以上……! これ以上……ッ! 騎士として恥ずべき、死に様を晒してたまるかァァァァッ!」


 ――団長は……対立する敵に、敵として認知されず……無様に殺されそうな現状に、我慢がならなくなったのであるッ!


「ッ!? ボスゥッ!」


 〜 ザッ、ドテンッ! 〜


「フギャァッ!?」



 ――【フンッ! ザマミロ獣めッ!】――なっ、何て事だ! ボスを助けに行こうとしたオルセットが、掘立て小屋の残骸の一つに足を取られ、スッ転んでしまったぞ〜ッ!?


「おっ、オルセット〜!?」


 ――そして、激しく左脇の下から血を垂れ流しつつも、大盾を引っ掴んで向かった先は……?


刺傷防盾スパイク・シールドッ!」


 〜 ジャキィィンッ! ズンッズンッズンッズンッズンッ! 〜


「ッ! 嘘だろ、まだ動けんのかよッ!?」


 ――小麦粉の山から、呑気に小麦粉を移していたボスであるッ!


串刺スキューワーズ……ッ!」


 〜 ズンッズンッズンッズンッズン……ズゴンッ! 〜


「おい、マジかよッ!? 何で跳べる……ッ!?」


破砕槌盾・クラッシュシールドォォォォォォッ!」


 〜 ヒュゥゥゥンッ! ズドゴォォォォォォンッ! 〜



 ――重厚な鎧を無くしたとは言え、それ以上に重いであろう大盾を持ったまま……脅威の”三メートル”近い跳躍ちょうやく……ッ! そこから大盾に身を任せ、全体重を掛けての急降下攻撃スープアタック……ッ!


 その威力は、瞬く間に小麦粉袋の山をこの世から消し去り、そこを中心に軽いクレーターが出来上がっていたのであった……!



「ブハッ! ゴホッ、ゴホッ! 馬鹿としか言いようがねェ攻撃だな……全く……!」



 ――目の前に広がる”巨大な白い煙幕”を見つめながら、そう悪態付くボス。団長が見せつけた”規格外な一撃”に驚くも、何とか回避しきったようだ。


「……ク、クククッ、クハ〜ハッハッハッハッハッ!」


 ――なっ、何だ!? ボスを倒し切ってもいないのに、笑ってる? 巨大な小麦粉で出来た煙幕の中で……笑っている!?


「ゴホッゴホッ! 負けだ負けだ! オレの負けだッ!」


「……えっ? 何言ってんだ?」


 ――恐らく煙幕の所為でボスが見えず、大声を張り上げる団長を前に思わずポカンとしてしまうボス。


「ゴホッ! 悔しいがオレの負けを認めよう、名無し野郎……。この……ゴホッ! このオレの……ゴホッゴホッ! 最強の一撃を……ゴホッ! 躱しきったのだからなぁッ!」


「……」


「ゴホッゴホッ! そしてこの脇の下への的確な一撃も見事だった! オレの命もあと僅かであろう……ッ!」


「……」


「だがッ! だがだッ! ここまでは貴様らへの素直な賞賛あっても、貴様らへの恨み辛みは消えた訳じ・・・・・・・・・・ゃあない・・・・ッ! 貴様らの切り札であろう、この謎の魔法は潰してやったッ!」


「……」


「貴様らには負けた! だが、この戦いッ! 最後に貴様らの誇りを道連れ・・・・・・・・・・として、オレの勝ちとさせて貰うぞォォォォォォォッ! クハ〜ハッハッハッハッハッ!」



 ……端的に言って仕舞えば……”追い詰められたが故の、最後の足掻き”と言う奴なのであろう……。団長の言動を聞くに、回復薬はおろか回復魔法も持っていない以上……生存は絶望的。だが、最後まで負けを認めたくないがために……この”負け惜しみ”を言っているのであろう……。


 だが、未だ晴れぬ巨大な煙幕を離れて見つめていたボスは……盛大なタメ息を一つ、吐いたのであった……。



「……クッッッッソッ! 無駄な話だなァッ!? オイッ!?」


「……え?」


「突然笑い出してビックリしたけど……最後の情けと思って話聞いてりゃあ、ど〜でもいいわ! ホンットど〜でもいい話で、聞いて損したよッ! クッソ、無駄ッ! 無駄無駄ッ!」


「……なっ、何を言って……!?」



 ――最後の意地と言っていい宣言さえも、とことんこき下ろされた団長はついにボスに対して”恐れ”を抱く……! そして、煙幕から僅かに見えるシルエットからもう反射的と言っていい程に、素早く大盾の後ろに身を潜めるのであった……。



「むっ、無駄だッ! その弓矢モドきで、この大盾を貫けないのは分かりきっているだろうッ!?」


「そうだなァッ! だが、その煙の中にいる時点で……テメェは完全に敗北してるんだ・・・・・・・・・・……ッ!」


「なっ、嘘だ!? 松明は全て壊した筈だ! ……そっ、それに火魔法などを使ってみろ! それこそ本当に貴様もあの魔法で道連れに……!」


「いや……これで……」


 ――僅かに晴れ始めた煙幕の中、ボスは大盾に隠れる団長目がけ狙いを定め……。


チェック結局テメーは盗メイト賊に過ぎないんだよ」


 〜 キンッ! シュボッ! ズバンッ! 〜



 ――【おっ、落ち着け……! トドメは刺せない! 奴にトドメをさせる余地なんて一切……!】――そう必死に心を落ち着かせようとする団長目がけ、乱回転する六十口径約15.24mmの鉛玉がスッ飛んで行く……ッ!






 〜 ……チュインッ! ドボッファァァァァァァァァァンッ! 〜


「グワァァァァァァァァァァッ!? 何故だ!? 何故なんだァァァッ!?」



 ――フリピスの銃弾が大盾に弾かれた瞬間ッ! 洞窟の天井全体を覆う程の巨大な爆炎が巻き起こり、団長の前身をこれでもかと焼き尽くしていくッ! 一方のボスは、フリピスの銃口から立ち上る硝煙しょうえんに、軽く息を吹きかけた後にこう語るのであった……。



「……”知らない事”が、テメェの敗因だよ……」


 ――そう言っては、フリピスをズボンの後ろポケットへと収めるのであった。


「ぼっ、ボスゥ〜!」


 ――その声にボスが振り向くと、鼻の頭を押さえつつ……駆け足で彼の元へと近づいて来ていたオルセットの姿があった……。


「おう、お疲れ、オルセット! 名女優も顔負けな、いいコケっぷりだったぞ〜」


 ――軽く揶揄カラカいつつも、どうやら演技だったらしい彼女のコケっぷりを誉めつつ労うボス。だが、彼女の顔色は優れなかった……。


「……」


「おっ、おい? 何で……そんな」


「……ヒドイ。イヤなカンジしたから、ボスを助けようとしたのに……!」


「おいおい……オレに冗談で勝とうなんざぁ、100年早ェぞ?」



 ――ボスのスポジャケの裾を破れんばかりに引っ張りながら、プク〜と両頬を膨らませるオルセット。その様子を見たボスは、若干の冷や汗を流しては……?



「……えっ、マジ?」


「……マジ」


「あぁ……その……何だ……スマンな、オルセット……」



 ――ぎこちなく言い淀みつつ、オルセットに近寄った後……赤々とした鼻先を見て、申し訳なさそうに彼女の頭を撫でるボス。少しの間、頬を膨らませたまま目を逸らして彼女だったが……どうやら根負けしたようで、その手の心地よさに、目を細めていた。



「……へへッ」


「……満足したか?」


「……うん、ところでボスゥ……? 何でタイマツもナシに、フンジンバクハツ? がオきたの?」


「あぁ、アレか? あれはだなぁ……手っ取り早く言っちまえば、”摩擦熱”による火花で発火させたんだ」


「……マサツネツ? ヒバナ?」


「あぁ……そうだな……オルセット、まず両手を合わせてみろ」


「? こ〜お?」


 ――コテンと首を傾げた後、ボスがしているのと同じように両手を合わせるオルセット。


「んで、こうやって……激しく擦り合わせてみろ」


「うん……こ〜お?」


 〜 サカサカサカサカサカサカサカサカ…… 〜


「……そっ、そうだ。じゃあ、オルセット。両手を擦って何か変わった事はあるか?」


 ――【はっ、早ッ!? 手の動きオレより速すぎないか!?】――と内心思いつつも、丁寧なレクチャーを続けるボス。


「う〜ん、ちょっとアタタかい……かなぁ〜?」


「そう、ソレ。その擦り合わせて”暖かい”ってなってるのが”摩擦熱”だ」


「ヘェ〜、これが”マサツネツ”かぁ〜!」


「金属と金属が激しくぶつかりあっても、摩擦熱は起きる。しかもその温度が高いと火花……”火のもと”も飛び散る。それを、あのクソ野郎の大盾と、俺が撃ったフリピスの銃弾の間で起こしたんだよ。オルセットがまだ寝ていた時……アイツの大盾に初めて弾を弾かれた際に、火花が散ったのは確認・・・・・・・・・・済み・・だったからな……」



 ――ボスが言った事をより簡潔に言えば……「火打ち石」と似た原理で、火花を発生させたのである。


 また、別のイメージで言えば、包丁などを研削盤グラインダーを用いて”金属を削る作業”の時。または、ドラマや映画などで”機関車や電車が急ブレーキで止まる際に映る車輪”など……その際に激しく飛び散る光・・・・・・・・も、同じ摩擦熱によって発生した”火花”なのである。


 そして、前述した砂糖工場での粉塵爆発が起きた原因……それは、”静電気”らしいのだ。粉塵爆発は、そんな”小さな発火原因”にも、条件さえ揃っていれば・・・・・・・・・・敏感に反応してしまう・・・・・・・・・・のである。これをボスは知っていた訳だが……実際は博打にも等しいこの現象で、危機を脱してしまうのは……ボスの”LUC”の高さ故だろうか……。


 詳細に見れば、運否天賦うんぷてんぷな結果と言えど……ボスの勝利はほぼ・・確実となったのである……ッ!



「……へぇ〜、けどボスゥ……気を付けて。アイツ、まだ生きてる・・・・・・よ」


「ッ!?」


 ――その一言に、反射的に銃とナイフを抜いては背後を振り向き、構えるボス。


「……ウゥ、アヅイ……アヅイィィ……!」



 ――最後まで”誇り高き騎士(笑)”であろうとした末、二度の爆炎に焼かれて敗北した団長の姿は、それは無惨な物であった……。


 胴鎧がお釈迦になった後、騎士以前に軍人として鍛え上げていたであろう、立派な腹筋シックスパックは赤々と焼けただれ……初老に近くもフサフサとしていた髪は跡形もなくなっており……さらに最も酷いのは、仰向けに見せていた顔であった……! 


 全体的に”溶けたソフトクリーム”や”スライム”のように顔の輪郭が跡形もなく、ドロドロと焼け爛れて酷い物であった。……だが更に、その顔を醜悪しゅうあくにさせていたのは、顎下がっかの皮膚が首や鎖骨付近の皮膚と網状になるかのように、熱によって癒着ゆちゃくしてしまい……一眼見て”悍ましい化け物ゾンビ”と言って良い程に、悲惨な顔面崩壊を起こしていたのであった……。


 また、”アヅイ”と、癒着した口から漏れ出ていたのは恐らく……奴の身体中のほとんどの”汗腺かんせん”が、火傷でダメになったからであろう。人間などの一部の動物は、汗をかく事で体の熱を逃して”体温調整”を行う。


 だが、今回の火傷のように汗腺がダメになれば、体温調整できないが故に体に熱が溜まっていく……要は、「地獄とも言える熱中症」に罹患りかんしたのと大差ない状態に、奴はなっていたのだ……!


 ただ、ここは異世界である。二度も粉塵爆発を喰らって生きている以上……奴の体が”汗腺を持たない犬”のように……舌を出して呼吸するだけで体温調整できるなら、話は別になるだろうが……。



「……ハァ、驚かすなよ……」


 ――この一言に尽きる。モガく芋虫にも満たない程に、団長は微塵にも動きを見せないのであった……。


「どうするの? ボスゥ……」


「……アイツは虫の息だ。ほっといて帰ってもいいが……」


 ――そう言ったボスは、ゆっくりと団長へと近づいて行き……。


うれいは残さなねェ……! だからここでキッチリ、トドメは刺しておくぜ……!」


 ――一メートル近い近距離で止まり、もう視線も分からない団長の頭に狙いを付けるのであった……!


 〜 ……グラッ! カランッ! 〜


 ――突如、フリピスを支えていた左腕がダランと下がり、持っていたナイフも落としては……ボスは体の体勢を大きく崩してしまう……! 


「ウッ!? ……クソ、ここに来て疲れが……!」



 ――いくらレベルアップを果たしていたとは言え、ボスの体に蓄積できる疲労は……もうとっくの昔に限界を超えていたのであろう……。今だってそうだ。左腕に力を込めるも上がらず、定めている筈の照準も腕と手の震えによって既にブレブレ……! 気力で誤魔化し続けたであろうツケが、今になって……!



 〜 ……ガシッ! 〜


「ッ!?」


「……ボスゥ、しっかりして。ウツんでしょ?」


 ――おおっと!? 後ろで見ていた筈のオルセットが、少々フラついた足取りで近づいてきたかと思えば……ボスのフリピスを、左手で掴んで安定させたぞ!?


「オルセット……何で……!?」


 ――銃を握る指に触れる、オルセットの指の腹やてのひらにある肉球の不思議な柔らかい感触と共に、戸惑いを隠しきれないボス。


「ボクは、ボスのナカマになりたいから……!」


「おっ、おいッ! 戦うのは嫌だったんだろうッ!? オルセットッ!? 手を離せ! ここから先は……殴る蹴るだけじゃあ、済まない領域……戦う以上に嫌な事になるぞッ!?」


「……ダイジョウブ。ボクだって……マグズリーの時に、ウッタ事はあるから……ッ!」


 〜 ガタッ、ガタガタッ、ガタガタガタッ……! 〜


「おい、無理すんじゃあねェよッ!? お前の手、震えてるぞッ!?」


「……イヤだ」


「無理すんな、離せ! 撃つのは……汚れるのはオレ一人で大丈夫……」


「イヤだって言ってるでしょッ! ボスゥッ!」



 ――洞窟に一瞬、木霊こだまする程の叫びを放つオルセット……! 驚愕しつつボスが見ていた彼女の横顔からは、一筋の涙が流れ出ていた……!



「もう……イヤなんだよ! ボスが……ボスがボクのセイで……あんな、あんなシんじゃいそうな目にアうのは……ッ!」


「おっ、おい……アレはオレの不注意で……」


「チガウよ! チガウってッ! ”タタカうのがイヤ”……って、ボクでもワケ分かんないワガママ言ってないで……ボスとイッショにタタカっていればって……ッ! ボスがネてる時……ボクが何回思ったと思う? ボクが何回イヤだと思ったと思うッ!?」


「……オレを助けられなくて、とことん後悔したって事か……」


「……そう。たぶん、その”コウカイ”ってヤツだとオモう……。それに、チョット前まで……ここまで、ボスを助けるために……ボクもここまでタタカえたって分かると……ホント、ホント……! あの時のボクは何をしてたんだって思って……ホント、イヤで……ホンット、イヤでイヤで……ッ!」



 ――ボスが寝ている間……ずっと胸の内に秘めていた後悔を語っていたオルセットは、いつのまにかなく涙を流していたのだった……。その真横で口を結び、渋い表情で彼女の横顔を見ていたボスは、何か意を結したのか語り出す……!



「……オルセット、なら覚悟を決めろ」


「……カクゴ?」


「”何かを絶対にやり遂げるって言う、強い気持ち”の事だ」


「ツヨい……キモチ……」


「オルセットはオレを守りたいんだろう? 助けたいんだろう? なら……もうこの先は、殴る蹴るだけじゃあ済まない道……”人殺し”としての道を歩んで行く事になるぞ……?」


「……ヒトゴロシ……」


「あぁ、殺す相手は極力選ぶが……殺す度、オルセットにとって嫌に思う事が増えていく事になるハズ……それでもいいのか?」


「……よく分かんない。けど……ボスがケガして、ネているアイダ……ずっと感じていた、あのイヤな感じ……! ボクはもうアレを感じたくない……! それはゼッタイ言える、そのためだったら……!」


 ――ボスの右手の指に覆い被さる、オルセットの左手に力が入る。


「うっ、ウゥゥ……!」


「「ッ!?」」



 ――ここまで動きどころか声も発さなかった団長が、呻き声を上げる。僅かに顔を向かい合わせていたボスとオルセットの視線が、奴の顔に集まる中……焼かれた後で、最も長いであろう声を発する……!



「この……クソ…野郎…供が……! よく…も……オレの…夢と……王国への……復…讐を……邪魔…しやがって……ッ!」


 ――ガラガラ声から発される恨みごと……。だがその言葉には、もう威厳が”シボりカス”のようにかわき切っていたのであった……。


「一応聞くが……銃を離して引き返すなら、最後のチャンスだぞ? オルセット?」


 ――オルセットの目線に合わせながら、意気込むように尋ねるボス。


「何度もキかないでよ、ボスゥ。ボクは、ボスを守りたい……ッ!」


「フッ、いい覚悟だ。ならオレの人差し指に指を掛けろ」


「ウン」


「お…い……ッ! 無視…すん…じゃあねェ…よ……ッ! この……クソ野郎…共が……ッ!」


「……クソ野郎? 悪いが、テメェが燃えカスになる前に言ってた、「名乗る程の名前もない」って話……ありゃ嘘だ。だから、オレはクソ野郎なんて名前じゃあないんだよ、燃えカス野郎……ッ?」


「そ〜だよ! ボクだってクソヤロウじゃあないし、ケモノなんて名前じゃあない!」


「オレは……!」

「ボクは……!」


 〜 キンッ! シュボッ! 〜


 ――ボスとオルセット……この二人の言葉が、同時に重なる……!


「……ボスだ!」

「……オルセットだッ!」


 〜 ズバァァァァンッ! 〜



 ――静寂であったが故に洞窟内に大きく木霊する銃声。騎士団の再起と共に、ささやかな王国への復讐を企んでいた……元忠臣であろう悲しき落ち武者は、ここにて生涯に幕を降ろすのであった……!






「……フゥ、終わったな……」



 ――発砲後、オルセット共に握るフリピスを降ろしてはそう呟くボス。ふと、オルセットの方を振り向くと……団長を真っ直ぐ見つめていた彼女がボスの気づき、微笑みを見せる。


 その表情に奇妙な感覚を覚えるボスだったが……おかしな変調がないか心配に思って、声を掛けるのであった。



「オルセット、大丈……」


 〜 フラッ…… 〜


「ッ!? ウオっとッ!?」


 〜 ガシィッ! 〜



 ――まるで急に電源を切られたロボットかのように、オルセットは突然その場に倒れ伏してしまう……! だが、倒れる直前にボスが何とか彼女を抱き寄せる事に成功したため、頭を打つと言った負傷は負わずに済んだのであった……。



「ハァ、ビックリした……。オレより相当疲れてたって事なのかなぁ……。それによく見りゃあ、スキルの効果が終わったのか……いつの間にか”顔の模様の色”も、元に戻ってる・・・・・・しな……」


 ――気絶しつつも、満足そうな表情のオルセットを見ながらそう呟くボス。


「けど……オレを守りたい……か……」



 ――しかし、微笑ましく思っていたボスだったが……どうやら本人の胸の内としては、あまり嬉しく思っていないようだ……。


 【容姿に加えて、性格も……まぁ、素直なモンだしオレ好み。それに戦闘に関しては、オレの格闘技の知識とかを教えていけば、今後”頼れる仲間”になれるのは間違いない……。そんなオルセットの申し出は嬉しい。けど……嬉しいけど……! オレの……オレの本性? 本性なのか分かんないけどな……そんなオレだって、後に知ったら……】


 ナルホド? 団長との戦いをおっぱじめる前に語っていた、「紛争地帯で育てられた少年兵のような感覚」の事であるか……。確かに、そんな”殺人鬼”とも言えるような感覚や考えを持つ人物を、積極的に好きになろうとする異性は現代なら・・・・いないであろうな……?



 〜 ……ゴトン……ッ! 〜


「ッ!?」



 ――心の中では深刻に考えつつも、近くの掘建小屋の廃材を上手く使って”簡易的な寝床”を作っていたボス。そこにようやくオルセットを寝かせた所で、上記の奇妙な音に気づくのであった……!



「……何だ、あのたまは?」



 ――音が鳴ったのと同時に素早く銃を構えつつ立ち上がったボス。無防備になっているオルセットの元を離れるのは心配だったが、その視線の先にあった「団長の遺体近くに転がっていた球」を無視する訳にはいかなかったのだ。


 本音としては、オルセット共に少し休むか、今すぐにでもこの盗賊団のアジトから離れたいと思ってたのだが……。もしかしたら……生き残った盗賊団の誰かが、虎の子で出した”爆弾のような魔法兵器”であるなど、”危険な可能性”を拭いきれなかったからだ。



 〜 ポイッ! キィィン……ッ! 〜


「……見た目は水晶玉みたいで綺麗だけど……地雷とかセンサー感知式爆弾の類はない……かな?」



 ――銃を構えつつ、五メートル程離れた地点から、小石を球目掛けて投げ当てるボス。しかし、一切爆発するどころか、傷すらも付かなかったのは内心驚いていたようだ。


 だが、これで安全が確保されたと安易に喜べないと思ったのか……意を決して彼は”水晶玉”らしき球へと近づく……!



「うわぁぁぁ……! マジで綺麗だな……ッ!」


 ――まるで汚泥のように積もり重なった疲れが、一瞬吹き飛ぶような感動を……その時ボスは感じていた。


「何ていうか……まるで銀河を閉じ込めたかのようなと言うべきか……。魔法? で、この水晶球の中に、光か何かを閉じ込めているのか……?」



 ――【……どこに隠してたか知らないけど、これからの旅の資金も考えると、慰謝料いしゃりょうとしてこのお宝を貰っておくの悪くないかもな〜】――久々に”冒険”と言えるような要素に出会い、心躍らせるボス。


 しかし、完全に”お宝”と決めつけるのは早とちりだと思ったのか、久々に「スキャン」のスキルを発動させる。



 ~ ウィィ~ン、ビビビビビ! ~


「……ハッ? スキャン不能ッ!? えっ、一部解析データを表示? ……ウワッ、何だこの文字化け……ッ!?」



 ――いつもとは異なる”否定的な音”が脳内で響き渡った後……名前はおろか、解説の隅々まで表示される”文字け”の数々……! もしこれが何かの”暗号”だったとしても、ボスには読める筈もなかった。


 だがそれ以上に……彼は目の前に転がる球への得体の知れなさ・・・・・・・による、”警戒心”が再び上昇していくのを感じていた……!



 ~ ソロ〜コンコン ~


「う〜ん、やっぱ爆弾とかじゃあないみたいけど……」



 ――フリピスの銃口を使い今度は直接、”正体不明の水晶玉”を叩いてみるボスだが……やはり、その得体のしれなさに反して何も起きなかった……。


 だが、何故か「これ以上関わらない」という気になれなかったボスは……ついに銃を仕舞っては、右手でガッチリとその水晶玉を掴み上げる……!



「でも、やっぱ綺麗なんだよな〜。何と言うか……引き込まれるというか……。宝石に詳しくないのに、何故か懐かしさを感じる・・・・・・・・というか……」



 ――眼前まで持ち上げた水晶玉を前に、恐怖を押し殺したいのか……次々と独り言が滑らかに出てくるボス。だが、成人男性の手にスッポリと収まる程の水晶玉は……その内側にある”渦巻く銀河のような輝き”をきらめかせるばかりで、ボスに答えようとはしなかった。


 ……しなかったのだが……。



 〜 ズッキィィィンッ! 〜


「ヴッ!? 何で……頭が……ッ!?」



 ――本名も言ってないのに再発する、強烈な頭痛……!

 【クソッ! 精神作用とかする魔法の兵器か!? 近くで見てたら発動するとかなら……!】――痛みに耐えつつも、そのように答えを導き出したボスは……!?



「砕け散れェェッ!」


 〜 ブゥオンッ! パリィィィンッ! 〜


「ハァ、ハァ、ハァ、呆気あっけねェなぁ……何だったんだよ、クソが……ッ!」



 ――大き振り被っては、地面へと水晶玉を叩き付けるボス。だが……爆発も、魔力的な攻撃もなく、安物のガラスが割れるかの如く、水晶玉は呆気なく粉々に砕け散ってしまったのである。


 だが……それで終わった訳じゃあなかった……ッ!



「……ッ? 何だ、割れた水晶から……?」


 〜 モワワァワァワァワァワァ……ボアッ! 〜


「ッ!?」


 〜 バッ! ゴロンッ! ジャキッ! 〜


「なっ、何だテメェらは!? ダークフェアリーとか、闇の魔法を使う何かかッ!?」



 ――そういうボスの目の前には、ボスの頭ぐらいの高さで浮遊し続ける”無数の黒い光”が浮かんでいた……!


 上記のように、割れた水晶からにじみ出た後、飛び出すように出現したのだが……彼はその異変に気づいた際、素早くその場を”飛び込み回避ローリング”で離れつつ、今はフリピスをその光目掛けて構えているという所だ。



「おい、変な気を起こすなよ? こっちに危害を加えようものなら、容赦なく撃つからなッ!?」


 ――だが……ボスの問い掛けに、黒い光達はらめくだけであった……。


「それと……質問に答えろ。お前らは何なんだ? 何で、オレの頭に何かしようとしたんだッ!?」


 ――だが……ボスの問い掛けに、黒い光達はらめくだけであった……。しかし、見つめるボスには僅であったが再び”頭痛”がぶり返してくるのであった……!


「おい! 聞こえてんだろッ!? 質問に答えろよッ! お前らは何なんだッ!?」


 ――だが……ボスの問い掛けに黒い光達は……






 ……お前は……私だ……。


「……えッ?」


 〜 ギュゥゥゥンッ! ドポポポポポポンッ! 〜


「ウッ!?」



 ――いっ、いや……私も思わず驚いてしまった……! まさか、喋るとはね……。そっ、それはともかく……その一言の意味を理解しきれず呆然としてしまったボス。


 そして、それが狙いだったのか……黒い光は、目で追えない程の光速の如き速さで、彼の頭目掛けて一直線に飛来し……そしてそのまま頭の中へと吸い込まれてしまったのだ……ッ!


 だが、入られても特に異常はなかったが……彼は戸惑いを隠せなかった。



「なっ、何だったんだ……今の……ッ!?」


 〜 ズドッキィィィンッ! 〜


「グワァァァァァァァァァッ!?」



 ――あの無理して名前を言いかけた時の、言葉も出せない程の”壊滅的な痛み”……! それを余裕で上回る程の痛みが、ボスの頭の中を駆け巡る……ッ!


 勿論、ボスは抵抗出来ずにその場で転げ回っていた。それと同時に、奇妙な事にだが……彼は頭の中で走馬灯の如く、何かの記憶をとんでも・・・・・・・・・・ない早送りで見ていた・・・・・・・・・・のだ。


 少し詳細に言えば……初めは脳細胞の中を、高速で深く深く潜って行くような映像だった。その後に、小説で言えば”起承転結”がバラバラに描かれた文章を読むような……脈絡のない断片的な映像が、次々に再生されていたのだ。


 更に流れる音声のほとんどは……聖徳太子でもないのに、複数の人物が一斉に喋っているかのように混濁こんだくしたもので、ほとんどハッキリと聞き取れる物じゃあ無かった……!


 無論、こんな状況では、彼の”心の声”を私が拾う事も出来ない。出来なかったが……おや、どうやら再び脳細胞の中を駆け戻っては、こっちに戻って来たようだ……!



「ハァ、ハァ、ハァ……! 何…だよ……! コレェ……ッ!」



 ――涙や鼻水を顔に撒き散らし、息も絶え絶え……そして俗に言う”失意体前屈orz”で、その映像を見ていた際の痛みや苦しさを体現するボス。だが……その映像には全くの収穫がなかった訳じゃあないようだ……。



「何かの……施設で……暮らして…た!? 嘘だろ、そんなハズはねェ……! なら、何で……オレは”家族三人”で、ショッピングモールに買い物なんて……あぁ! 痛ェ! 頭が……ッ!」



 ――通常か、スロー再生になっていた場面でもあったのか……自身の”本当の記憶”を取り戻したらしいボス。だが、何かの”記憶の齟齬そご”の影響か……彼は立ち上がるも両手で頭を抱えながら、ぶり返した痛みに呻いてしまうのであった……。



 〜 ガリィッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……! 〜


「プハァ! ハァハァハァ……クソオォォ……! 後チョットで……ヤバかった……!」



 ――何と驚き! ボスが頭を抱えている間に、死体であった筈の”副団長”が息を吹き返していたのだッ! 恐らく鳴った音からして、奥歯か何かに”回復薬”らしき物を仕込み、それを噛み砕いては飲んだのであろう……。


 ただ、戦棍メイスに頭を殴られる、即死な出来事にあった筈なのに生きているなんて……ある意味”謀撲ぼうぼく”という異名は、伊達ではないのかもしれない奴である……!



 「イテテ、クソォォ……! オレがスキルで仮死状態になっている間に、団長の戦闘でここまで追いやられたのか……」



 ――痛む全身に鞭を打ちつつ、上半身を起こしては周囲の掘立て小屋の残骸を見回す副団長。だが、冷静であったその視線は、ある一点を見た時に一変する……!


「だ、団長……!? そ……そんなッ!?」



 ――ひたすらに叫びたい気持ちを抑えつつ、息を呑む副団長。抑えた理由としては、丸焦げに近い団長の遺体の近くに立っていた男……名前も知らぬ、あの男ボスである……!



「クソォォ……! 騎士団は……終わりなのか……? オレ達の夢は……!」



 ――その事実を前に、副団長の心は途方もなく打ちのめされるのであった……。 ……だが、”失意体前屈orz”をする彼の心は折れ切っていなかった……。近場に転がっていた”ナイフ”から視線を逸らしたのだ。



「……いや、死ぬには早いか……。このままだと、団長にも申し訳ねェだろうしな……だから……!」



 ――そう呟いた副団長は、再び体を透明化させる……! この時、奴の体はボスの視線に全く入らない背中側……更には、掘立て小屋の残骸に隠れて完全に”死角”となっていた。ここまで発した台詞セリフも、どれも声を押し殺した物であった。


 つまり……今も頭を抑えて呆然としていた彼には、奴の存在は全くと言って良い程気づかなかったのである……! 思わぬ伏兵ふくへいの存在に彼は気づかぬまま……奴は彼に近づきつつ、洞窟の床に散らばっていた戦棍メイスを手に取ると……?



「テメェの首を……団長への土産にッ!」


 ――真後ろで、大きく振り被った戦棍メイスを、ボスの脳天目掛け振り下ろすッ!






 〜 スカッ、ガシッ! 〜 


「ッ!?」



 ――おおっと!? 声を潜めていた筈なのに、ボスが体を素早く横向きにして躱してしまった! そして空振りに終わった右腕を戻す暇もなく、彼の左脇にガッチリと手首を挟まれてしまう〜ッ!


「オラァッ!」


 〜 ゴシャァンッ! 〜


「ウワァァゴッ!?」


 ――そして訳も分からぬ内に、ボスから素早い”右アッパー”で顎を殴り上げられ、軽い脳震盪のうしんとう状態になってしまう副団長。


 〜 バッ、クルン……ガシィ! 〜


「オラァッ!」


 〜 ゴキィッ! 〜


「ウギャァァァァァッ!?」



 ――更に軽くグロッキーなった副団長に間髪入れず、戦棍メイスを握る右腕をピンと伸びるように、両手でガッチリと掴み……伸び切った”肘”目掛け、強烈な”右膝みぎひざ蹴り”を叩き込むボスッ! 嫌な音の正体は勿論、骨折の音であるッ!



「う……腕が……! オレの腕が……ッ!?」


「オラァッ!」


 〜 グオォォンッ! ゲシャァァッ! 〜


「ヘボシィィッ!?」


 ――二度と戦棍メイスを握れないであろう右腕への悲しみに暮れる暇もなく、ボスからの”右回し蹴り”を側頭部に叩き込まれ、副団長は地面に倒れ伏してしまうッ!


「ウゥゥゥ……! チキショウ……ッ! 何で……ッ!?」


 〜 ……ポワァァァァァァ……バシュンッ! 〜


「何の音……グヘッ!?」


「ハァ、ハァ、ハァ……よう、随分男前な顔になってるじゃあねェか……エェェ!?」



 ――数十分前の再現か……再びボスにガッチリと胸を踏み付けられ、身動きが取れなくなってしまった副団長。一方のボスは息も絶え絶えだったが、大雑把な水玉模様の如く顔に戦棍メイスの棘の跡が残る、(とても)男前とは言えない顔を見つめていた……。


 無論、確実に撃つためか……新たに供給サプライしたフリピスを右手に携えていた……。



「なっ、何で分かったんだ……?」


「……知りたいか?」


「あっ、あぁ……」


「……あの世で考えてろ」


 〜 キンッ! シュボッ! 〜


「ッ!? まっ、待てッ!」


 〜 ズバァァァァンッ! 〜



 ――ボスに対して非常に有利であったにも関わらず、”謀撲のマルセル”と畏怖されていた筈の副団長は……このようにして、あっけなく人生の幕引きを迎えたのであった……。



「……服の小麦粉ぐらい、チャンと落としとけよ……バ〜カ」


 ――眉間から血を流す副団長の骸を見つめながら、吐き捨てるボス。

 ……スマン、謀撲は撤回だ。この理由だと”間抜けのマルセル”がお似合いであろう……。



「ハァ……クソッ、もう限界だってのに……余計に疲れたな……」


 ――そう体現するかのように、その場に座り込んでしまうボス。


「けど、何で……あんな動きが出来たんだ? あんな動き……練習どころか本で読ん・・・・・・・・・・だ事すらない・・・・・・のに……」


 ――片足を抱え込みながら、そう考えるボス。


「いや……それよりも、寝てぇなぁ……魔物とか来ないならこのまま……」


 〜 テケレレテケテケテレレレレェェェェ〜! 〜 


「うわぁぁぁッ!? なっ、何だ!?」



 ――両膝を抱え、膝に顔を埋めようとしたボスは、飛び起きるかのように驚いてしまう。そりゃあそうだ、彼の脳内で突然、「”銀河最強のバウンティハンサ◯ス・ア◯ンター”が装備品を入手した際のファンファーレ」に近い音が流れたかと思えば、眼前の虚空に次のようなメッセージが表示されたのだ……!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おめでとうございます。

スキル「CQC」を奪還だっかんしました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……”CQC”? 奪還? えっ、じゃあ……オレは……本来持ってるハズのスキルと一緒に、誰かに記憶を奪われた・・・・・・・・・・……のか……!?」


 ――しかし、考えたくても何故か強烈な眠気と疲労感が、彼の全身に襲い掛かって来たのだ……!


「もう……ダメだ……少し……寝よう……」



 ――そうしてボスは、肘を枕にその場に横たわり……寝てしまうのであった……。静寂に包まれるも、倒した盗賊達の死臭に……少し鼻を歪ませながら……。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

下剋上盗賊騎士 赤壁の”グラヴォキエ”……

――頭部への銃撃ヘッドショットにより、完全敗北……死亡。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 <異傭なるTips> キ□九纏蚊帥羅

 名前ですら、詳細不明の物体。ボスが遠目にスキャンした際にも上記のような”文字化け”が出ていた。見た目は中に眩いばかりの光が、”銀河”のように渦巻く形で放出されている、野球ボールサイズの”水晶玉”である。


 だが……ボスが眼前にまで持ち上げ、中を覗こうとした瞬間ッ! 痛烈な痛みがボスの頭に駆け巡るッ! そして驚いたボスは水晶玉を砕き割った訳だが……予想外にも、内包されていた光とは正反対のドス黒い無数の”闇色の光”が出現しては、ボスの頭に吸収されて行った……。


 「お前は……生まれるべくして、生まれたんじゃあない」


 走馬灯そうまとうのように、目紛るしく頭の中で再生されていく映像の中で……ボスがハッキリと認識できた言葉である。そして、ボスはこの「ドス黒い記憶の一節」を思い出すのを引き換えに……いつ間にか手に入れた「CQC」のスキルによって、窮地を乗り越えていた。


 記憶と共に、胸にも蘇り始めた……「痛み」にチョッピリ、苦笑しながら……自身が強化されているのを実感していたのだった……。

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