第17話 RE:Contact-12 交差スル”辛抱”ト”覚悟”
〜 カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン…… 〜
――人工
化学が発達した現代では、実に便利で足に
〜 カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン…… 〜
――まぁ、そろそろ何を言いたいのか白状すれば……夜の闇をありったけ取り込んだかのような”洞窟の中”では、この”靴音”は”
相応しいであろう”ゴム靴”を履いていれば、まずこの”ハイヒール”を履いた時のような
〜 カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン、カツ〜ン…… 〜
――そして、外の夜の闇よりも深い洞窟の闇を晴らすには頼りない”ランプの灯り”がその闇の中を進んで行く……。だがまるで、その道順を知ってるかのように迷いのない、優雅な足取りで洞窟の奥へと進み続ける男は……”ソリの足先”ように
それは、現代の歴史から見れば……”貴族の
まぁ長々と言ってしまったが、例えるなら……そう! 立派な背広一式を着込んだ大企業の社長らしき人物が、何故か誰も寄り付かない筈の洞窟へと
そしてその背広に相応しい”白シャツ”らしき服と、
「フゥ……おいッ! 来てやったぞ!」
――タメ息一つの後、威厳たっぷりに怒りの込もった声を上げる貴族らしき男。すると、灯りのあった場所から一人の男が駆け寄って来る……。
「あっ? 何だテメェは?」
「フンッ。数ヶ月も顔を合わせてなければ……こうも容易く声さえも忘れる程に、
――そう言っては、腰辺りで照らしていたランプを持ち上げ……自身の顔を照らし出す貴族らしき男。その様子を見ていた口の悪い男は、ジョジョに照らし出されてゆく全容を見ていく内に……みるみる顔を青くしてゆくのであった……!
「げっ!? おっ、お貴族様ァッ!?」
「……フンッ。新入りか?
ならとっとと
――落ち着いた口調で話していたかと思えば……急に、ランプを持たない左手の
【ヒッ、ヒィィィィッ!? わっ、分っかりましたァァァァッ!】――振りかぶられたようとした”火球”を見て、飛び上がらんばかりに男は洞窟の奥へと走り去って行くのであった……。
「……ハァ。この付き合い、この場所、この状況……ッ! 全ては王が憎たらしいッ!」
――魔法らしき”火球”を握り潰すように消した後、片手で顔を覆うようにして俯いては”
「……全く」
――意外と奥深い洞窟なのか、数分経っても一向に姿を現す気配を見せない団長と呼ばれる盗賊。
そして、再びコートの内側から”小さな金属の筒”を取り出し、その中から”刻み煙草”と思わしき物を取り出してはパイプ内に詰めた後、マッチ箱でも取り出すかと思えば……?
〜 パチン! ボッ! ……ジジジジジ…… 〜
――おっと、マジック!? ……もとい、恐らくオルセットが見せたであろう「
【……プハァァァァ……遅い、何をしてるのだ……!?】――旨そうに煙を
「お待たぁぁぁぁ〜センセーショナルッ!」
――チッ、ウッウウンッ! 私が
……なんだこの……妙にハッチャけた、出来損ないな”自由の
「……」
〜 スッ、ボオゥゥゥッ! 〜
――無論、その芸の評価については……パイプを支えていた右手を離したかと思えば、即座にバスケットボール大の”火球”をシカめっ面で再び作り出す事から、お察しであろう……。
「おおっとッ!? 待って下さいよォォ! モバリの旦那ァッ!」
――屁っ放り腰になりつつも、両手を全力で前に突き出しては止まるように促す男。
「……知った
「連れないなぁ〜? 随分、久ッさしぶりのご来場で待たせちゃって悪いと思ってたから、こんな王様にだって爆笑な一発芸を……」
〜 ゴオォゥゥゥッ! 〜
――一瞬、魔力を多く注いだりでもしたのか……”モバリ”と呼ばれた男の”火球”が激しく燃え上がる。
「まさかと思うが……その”吐き気を
――冷ややかだったが、
「まっ、まさかまさか……! ちょ、ちょっと……片付けてただけッスよぉ〜?
ホラァ、盗賊なオレ達じゃあ……酒瓶とか散らかしたりするのは、当たり前ですしぃ……?」
――流石にマズイとでも思ったのか、
だが一言、言わせてほしい。……オルセットを襲った際の真面目さが素ではないらしいとは言え……これが副隊長の”素”なのかと言うと、どうも残念さが際立って仕方ないと思うのは私だけだろうか……?
「……フン、まぁ盗賊にしては……
――腹の虫が
「……プハァァァァ……何をしてる? さっさと団長の元へと案内しろ……!」
「はっ、ハイッ!」
――一瞬、ビシィッ! ……っと、直立不動の姿勢を取った後に、即座に回れ右をしては洞窟の奥へと持っていた松明を掲げながら進むのであった……。
途中、「タンバー」らしき棒でパイプ内の煙草を
「つっ、着きましたぜぇ……旦那ァ?」
「……さっさと団長を呼んで来い」
「……ハイィ〜」
――少々情けない声で言った後、副団長は奥の方へと消えて行くのであった……。
一方で待たされる身となったモバリ(?)と言う男は、パイプから立ち上る紫煙を燻らせながら、暇でも潰すかのように洞窟の全容を眺めていた。
簡潔に言えば、「洞窟内に建てられたスラム街」……と言った所だろうか。
良くある”
一応”鍾乳洞”である証拠に、とある小屋の側では
【野蛮だな……】――一通り見て飽きたのか、紫煙を吐き出しながらモバリ(?)と言う男は心の中で呟く。多分……”何故にこんな野蛮な奴らに頼らなくてはならないのか……!?”……的に、苛立ちつつも物思いにふけているのだろう……。
「おっ、お待たせしやした〜?」
「……団長は?」
――
「あっ、あの〜ご
「……ハァ、案内しろ……」
「へっ、ヘェ……」
――【クソッ、メンドくせェ相手だぜ……!】――こちらも流石に
そして……奥に進むに連れ、遠目には判らなかったアジトの全容がモバリ(?)と言う男の目に入ってくるのであった。木箱が雑多に積み上げられ、中には果実などが顔を覗かせている”食糧庫”らしき場所……。剣、槍、
どれもみずぼらしいの一言に尽きるが、まるで小さな"
「つっ、着きやしたぜェ、旦那ァ?」
……何か、今回は”尻切れ
んんッ! 失礼。モバリ(?)と言う男が目を惹かれたモノ……”その中のモノ”に目を凝らす暇もなく、彼は密談会場へと到着したのであった。
そこには、周囲の掘立て小屋よりも明らかに立派な”ログハウス”が存在していた。中途半端に加工した板ではなく、一本一本の幹がしっかりとした樹木で積み重ねて作られた物だ。それに、チャンと扉までも付いている……!
……まぁ、海外の方が日本のトイレに”ウォシュレット”が完備されていた時のような
小屋内は意外にも今まで雑多に様々な物が置かれていた道中とは違い、こざっぱりとしていた。丸太の壁を平らに削らずにそのままにしていたり、”片付けていた”事が本当だったように散らかっていなかったからだろうか?
後は……所々に
だが、ここに来るまでの道中に嫌と言う程に浴びた”形容し難い悪臭の数々”や、”ポツポツと
「……待たせたな」
――その一言と共に、初老のように”深い顔のシワ”と”
待たされた
〜 バンッ! 〜
「ッ!?」
「まぁ……待たせてしまった詫びだ。短気なアンタにも満足できるよう、できる限り手短に話そう……」
――そう自信満々げにテーブルに右手を叩き付けた男……。
一方、モバリ(?)と言う男は何が何だか分からない様子で苛立ちをより募らせていたが……そんなのはお構いなしにと、男は右手を滑るようにテーブルから離すのであった。
するとそこには、我々には
「……どうです? こんな”武器”、見た事もないでしょう?」
「……堂々と見せるのは良いが……その前に、貴様はいつから私の名前も
「ハイハイ、分かりましたよ……。
――何とッ!? ”大企業の社長”と形容していたが……まさかまさか、この国の
もうこの時点で、ただの「会社に不満を持つ役員」から、「横領か会社の乗っ取りなど企む悪徳役員」に確定してしまったようだ……!
「……フンッ、それで良い。あくまで計画の中心は私なのだ。
私への敬意もなしに……貴様らだけで再び”軍の兵士”や”騎士”に返り咲けると、
――一瞬、モバリティアと対面している男の口元が歪みそうになるが……何とか堪えたようである。
「……それで? それの何処が武器なのだ?」
「まぁ、焦らないで下さい……。おい、マッセ。用意しといたアレを持って来い」
「ヘイヘイ、団長様ァ〜。
――ようやく名前の判明した副団長……もとい、マッセは【たっく、何で副団長のオレがこんな小間使いみたいな事を……!】――的な事を呟きつつも、団長の背後にあった部屋の奥へと消えて行く……。
少しの後、ズリズリズリ……と副団長は何かが詰まった麻袋を引きずって来るのであった……。
「……何だそれは?」
「まぁまぁ、見て下さいよ。マッセ、中身を」
「ヘイヘイサ〜」
――やる気のない返事の後に、マッセが麻袋を縛っていた
「ウッ!?」
――袋の中身が出された途端、モバリティアは慌てて鼻を
「なっ、何だそれはッ!?」
「何って、モバリティア様……”ウルエナ”ぐらい、定期的に魔物狩りをしている貴方の
「そ〜ッスよ。従軍経験もある閣下様なら〜森の中で、一匹や二匹くらい見た事あるんしょ〜?」
「おいッ、マッセ!」
「ヘ〜イヘイ、スミマセ〜ン」
「貴様らの茶番なぞどうでもよいわッ! ウルエナだと言う事も、その卑しい
――その臭いの
この時に袋から頭だけを出されたウルエナの状態は流石に”良い子は見ちゃダメ!”……という感じにモザイクが掛かる程の酷さなので割愛させてもらうが……基本的に死体と言う物は、おおよそ死後十日以降に体内に溜まっていた”ガス”が噴出し始めると言われている。
これが臭いの元になるのだが……それ以前の話、このガスには”
「すみません、モバリティア様。何せ、一週間近く前の獲物ですからねェ……」
――先程からブレない態度と鼻を摘んだまま話す団長。一応、マッセも袋を両手で支える性か……袋から顔を背け”一刻も早く鼻を摘みたそうな感じ”の辛そうな表情をしていた。
「……それは分かった。だから何なのだッ!? これを見せつけているのはッ!?」
「まぁまぁ落ち着いて……。ここ、見て下さいよ?」
――そう団長が指を刺すのは、ウルエナの眉間。
【……何だ? この傷は……?】――イヤイヤながらも近づいて見た際に、見慣れた”矢傷”出ない事に気づいたのか、そう疑問を口にしてしまうモバリティア。
「これが、その傷の中から出てきた物です……」
――そう言う団長がズボンのポケットから取り出したのは、”
「……帝国製の武器か?」
――近くで見たかったのか、団長から引ったくるように摘み取ると、天井から吊り下げられたランプのあかりの元で、舐め回すように見つめるモバリティア。
「……私に聞かないで下さいよ、モバリティア様ァ?
計画の中心である貴方の方が、よっぽど詳しいハズでしょう? これが……ドワーフの間で作られているかどうかも……?」
――苦笑いするも、先程のお返しと言わんばかりの”したり顔”で、モバリティアに質問する団長。
「……いや、見当もつかない」
「……でしょう? しかも、これ以外に一切の外傷はなかったんですよ?」
「……何ッ?」
「切り傷も、刺し傷も、打撲の
数人掛りでようやっと仕留められるウルエナを……その一発だけで、殺せているんですよ……ッ!」
――一瞬信じられないとでも思ったのか、周囲をキョロキョロと見渡しつつも冷や汗を流すモバリティア。
「……他に誰が知っている?」
「えっ?」
「この武器を……他に誰が知っているッ!?」
「そ、そんな近くで怒鳴らないで下さいよ……」
「では、サッサと言えッ!」
「分かりました、分かりましたよ……。
「そっ。その武器はオレが見つけてきた……!」
「「お前は黙っておけッ!」」
「……ヘイヘ〜イ、仰せのままにっと……」
――【全く、オレが
「それで、団長? いや……
「
「……報告に良く上がるのは”壁”なのだ。
それに……盗賊に成り下がった”騎士の誇り”なぞ、誰が聞きたいものか……」
――ドンッ! と、唐突に拳を机に叩き付ける団長改め、グラヴォキエ。
その表情は、先程のモバリティアとお揃いの”悪い笑み”が嘘のように怒りに染まっていた……。
「……従軍経験よりも椅子に座る時間が長い
「我が領軍に加え、他の領軍にも狩られる事なく……のうのうと生き延びてられるのは
――歯にヒビが入らんばかりに噛み締めるグラヴォキエ。それと同時に睨み殺す勢いでモバリティアの事を見つめていたが【……モバリティア様のおかげです】――と叱られた犬のように、ションボリと力なく答えるのであった……。
「それで良い。それでこそ、騎士として、兵士としての賢い考え方だ……」
「……」
「では改めて聞くが……団長? その武器を私に
――
「……いずれ、帝国での地位を
「フム、まぁ考慮しておこう……
「……えっ?」
――思わず間抜けな声を出しつつ、
その視線の先にはいつの間にか彼へと興味を失い、机に置いてあった”フリピス”を撫でつつ、ランプの灯の元で隅々まで眺め回していたモバリティアの姿があった……。
「この一つを献上しても……だ。
あのズングリムックリの髭モジャ供が、すぐにでもこれを真似て生産できるとでも……? 数日も待たずに、この素晴らしいとお前が言う武器を、軍隊全てが運用出来るまでに、揃えられるとでも言うのか……?」
「えっ、いやぁ……それは……」
「直ぐだ! 直ぐッ! 直ぐにでも戦争に貢献できる数が揃わなければ、
――どうやら思った以上に、この”モバリティア”という男は抜けてはいないらしい。
経緯が不明とは言え、”国を裏切る”と言う一見無謀に思える事
「ちょ、チョッピリ……
「私達だけじゃあないのか……?」
「えっ?」
「
「……あっ」
「貴様は
「もっ、申し訳ありませんッ!」
――服の
その片隅で、
「ハァ……もういい。なら、製作者は? この武器の制作者はッ!?」
「いっ、今……その製作者と一緒に居た
「……何故、言い
「そっ、その……三日も口を割らないんですよ……!? 飯を抜いたり、拷問でボコボコにされても、逆に部下が仕返されたりする始末で、進行……しないと……いうか……」
「……
――モバリティアは道中の
意外な発見を前に、右手を顎に当てて思案顔になっていた彼だったが……そんな彼にも脇目を振らず、未だ机に平伏していたグラヴォキエは、脂汗を流しながら決死の思いで顔を上げては、口を開こうとしていた……!
「でっ、ですがッ! モバリティア様ッ!
必ずッ! 貴方様の決起の日までには、あの
「……今すぐ連れて来い」
「えっ?」
「……度重なる戦いの末に、耳が腐ったか? ……今すぐ連れて来いと言ったのだッ!」
「でっ、ですが……」
「戦うだけしか能のない者供が、使い方も分からないこの武器を見つけてきたからと、偉そうな口を
――己が抱える部下達の頼りなさを前に、ついに
「三日だ! たった三日であろうと、三日も掛かっているのだぞッ!?
その制作者が、いつまでも呑気にこの周辺に居続けるとでも思ってるのかッ!?」
「しっ、しかし……ここで吐かせようとしても……!?」
「何を言ってる? 私がするのだ」
「えッ!?」
――本当に予想外だったのか、少しオーバーなリアクションと供にグラヴォキエの体が
「しっ、しかし……モバリティア様のお手を
「……いいぞ? サッサと連れて来い……」
――何を思ったのか、両手に
「ただし……連れて来た後に貴様らがやった場合は、今までの話は無かった事になるがな……?」
――ログハウスから飛び出そうとする寸前、不意を突くように言われた一言に……グラヴォキエは一瞬足を止めて脂汗が増すのを感じていた。しかしながら、【後、いつまでこの部屋にこの腐った臭いを充満させる気だ……ッ!?】――と、続けてモバリティアからの静かな怒りを背中に受けた奴は、慌てて”ウルエナの死体袋”を引っ掴んだ後、足早にログハウスから出て行くのであった……。
〜 バタンッ! 〜
「イヤッ! ハナしてッ! ハナしてよッ!」
「オラァッ! 暴れんなッ! このッ、獣野郎がッ!」
〜 ブゥゥンッ! ドサァッ! 〜
――数分後、グラヴォキエが連れて来たのは、私達にとっては”案の定”と言えるであろう……”オルセット”であった。現状、どのような経緯でこのように捕まったのかは知る
着用していた深緑色のチェニックワンピースは、村の中央広場での戦いによって”薄汚れ”程度だったのが、現状”
そんな痛々しい状態の彼女であったが、テーブル越しに足を組んでは優雅にパイプの煙を燻らせていたモバリティアは、とにかく冷ややかで……見下した視線で地面に転がる彼女を見つめていた。そして尋問を始めるためか、席を立つと彼女の元へと近づくのであった……。
【気を付けて下さい。近づき過ぎると、脚の骨とかを蹴り砕かれますよ……?】――今度は冷や汗を流しつつ、彼女の背後に立つグラヴォキエが彼女に近づく彼にそう忠告するのであった。
それに対し、より近づこうとしていた彼は歩みを止めつつ【成る程。通りで……】――と思うのであった。近づいてからハッキリと分かったのだが、彼女の腕は両手首を
だが何故か見つめる縄に対し、
「……何故
「いやっ、それが……」
「先月も十分に支給しただろう? 数が足りていないとは言わせないぞ……!?」
「その……奇妙な事に、ハマらないんですよ……”奴隷の首輪”が……!」
「……何ッ!?」
――何とッ!? ”異世界物のライトノベル”をよく読む”◯者の諸君”とって、馴染み深くも聞き飽きたであろう
一応、馴染みない”◯者の諸君”に説明しておくと……「奴隷の首輪」と言う物は読んで字の如く、奴隷に嵌める首輪の事である。
現実では「古代ローマ」や「
とにかく、首輪の話に戻るが……大体色んな異世界で共通している事は、”何かしらの魔法など”で「奴隷の首輪」を嵌めた相手を、
主に、主人への”反抗的な態度”や”殺害行為”……奴隷達による”反乱の抑止”などなど、それらを未然に防ぐための”足枷”となっているのが主な役目である。そして……大抵は無理矢理外す事は出来ず、外そうとすれば”魔法による苦痛”は勿論、最悪には”首輪が爆発”するなんて物もあったりする……!
そんな”人の自由を奪われる”
だが……このウォーダリアは勿論、何処の異世界でも
「ウゥ、イタタ……! もうッ! コンドはナニする気ッ!?」
「……おい、獣女」
「……ダレェ?」
――汚物を見るような目で地面に転がっていたオルセットに呼びかけるモバリティアに対し……地面に這いつくばったまま、
だが、その態度が気に喰わなかったのか……背後に居たグラヴォキエが彼女の髪をむんずと掴み、眼前近くまで上げると彼女の耳目掛けて怒鳴るのであった。
「イタタタッ!? やめてッ! カミ、ツカまないでよッ!」
「オイッ! 獣女ァッ! 獣なテメェは知りもしなくていいが、敬う事だけはしとけッ! 未来の帝国貴族の
……先程までの失態を僅かにでも
「……モ”ブ”リティア?」
――首をチョコンと傾げながら、サラリと言い間違うオルセット。
〜 カツン、カツン、カツン、スパァァンッ! 〜
「ブッ!?」
「失礼。話をする前に
――そうは言うが、彼女の元へ近寄っても相変わらず汚物を見るような目のままであるモバリティア。一方でその
「フン。おい、団長」
「ハイッ?」
「万が一だ。しっかりと抑えておけ……」
「はっ、ハイッ!」
――そう言っては、右片手で掴んでいた髪の他に、拘束した両手首部分もしっかりと掴み取り押さえようとするグラヴォキエ。
「さて女、話をしようか……?」
「……オルセット」
「……む?」
「ボクのナマエは……オルセットだ! 女なんて、ナマエじゃあ……ないッ!」
〜 スパァァンッ! 〜
「またも失礼。どうもこの洞窟には、虫が多いようでしてなぁ……?」
「フゥゥゥゥゥゥッ!」
「それで? 話をするにあったって、二つ程質問があるのだが……」
「……イヤだねッ! 居もしないムシをリユウに、ボクをイジメるヤツなんかと……ッ!」
〜 スパァァンッ! 〜
「まず、一つ目。何で、お前は、首輪を、付けられない?」
――ジョジョに増していく威嚇音に
〜 スパァァンッ! 〜
「……
「……タマシイ? コダイマホウ? ナニそれ?」
〜 スパァァンッ! 〜
「……虫に刺され過ぎて集中できないのか? それとも、毒性のある虫にでも刺されて頭がおかしくなっているのか……? まぁ、どっちであろうと私にはどうでもいい事だが……質問にだけは、ハッキリ、答えろッ!」
「フゥゥゥゥゥゥッ!」
「では再び問おう……何で、お前は、首輪を、付けられないッ!?」
――オルセットのあまりの無礼さを前に、手を出さずにはいられない尋問を続けるモバリティア。その様子を団長のグラヴォキエや副団長のマッセは、【おいおい……いつか噛み付かれるぞ】――などと冷や汗を流しながら眺めていた。そんな空気も知らぬオルセットは、このまましらばっくれても
「……シらない。シ・ら・な・い・か・らッ! 分かったッ!?」
〜 スパァァンッ! 〜
「
「シらないからッ! これ以上、ボクをナグってもコタえはカわらないよッ!?」
「……クッ!」
「へッ! オレにアッサリと騙されたクセに、良く大層な嘘を吐けるモンだなァ?」
「うるさいッ! ウソつきッ! この”アジト”ってバショに、”ボスのジュウがたっぷりある”って言ったオマエの方がウソつきでしょッ!」
「せっかくオレをヨユ〜で捕まえられたクセして、アッサリと騙される方が悪りぃんだよッ! 言っとくけど、恨むんならオ・レェ! ……じゃあなくて、テメェの頭のバカさ加減を恨みなァッ! へッへッへッへッ!」
「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
〜 スパァァンッ! 〜
「
――現状、オルセットが話す事は限りない”真実”ではあるが……それと同時に判明した彼女の捕まった理由としては、「ボスへの思い」が
【私の尋問の邪魔をするのなら、そこの隊長以上の”粛清”を貴様にやってもいいのだぞ……ッ!?】――募る苛立ちが臨界点に達しようとでもしているのか、壁に暇そうにもたれかかるマッセに怒気の孕んだ声で忠告するモバリティア。
【……すみませんね。隊長もダンナも、本筋から外れた事を急に聞き出すモンで……暇で暇で仕方ありませんでしてねェ】――ここまで、とことんないがしろにされた事を根に持ってるのか、皮肉たっぷりに言うマッセ。その一言に一理でもあったのか、彼女を尋問する二人は眉間のシワを緩めなかったものの、マッセへと向けていた視線を彼女の元へと戻すのであった……。
「……チッ、仕方ない……! 管理が面倒だが、次だ……ッ!」
「……覚えとけよ、マッセ?」
「そら、ド〜モ」
――軽い仕返しが出来て満足しているのかは知らないが、横目に放たれたグラヴォキエの鋭い睨みに
「さて、話は
――優雅な足取りで背後の机に置いていた”フリピス”をモバリティアは掴むと、髪を掴まれている痛みからか、時折顔をシカめつつも怒りの表情を崩さないでいたオルセットの眼前へと突きつけた。
「こ……」
「アァァァァァァァァァァッ!」
――”尻切れ蜻蛉”ならぬ”首ハね蜻蛉”という言葉が出来そうな勢いで、オルセットは声を上げていた。思わぬ大声に、モバリティアは咄嗟にたじろいでは耳を塞いでしまう。
「それッ! ボスのジュウッ! 返してッ! 返してよッ!」
「おいッ!? ……暴れるなッ!」
――髪が引っこ抜けても構うモンか! ……そんな心の声が聞こえてきそうな程に、オルセットは少し後退したモバリティアに突撃でもしたいかのように、必死にもがいていた……!
〜 スパァァァァンッ! 〜
「ブヘェッ!?」
「この獣がッ! 貴様の飼い主は、貴族の会話に大声で割って入るように
――この予想外の行動に、モバリティアは相当頭に来ていたのだろう……。放たれた”ビンタ”も”怒声”も今まで以上であった……!
「シラないよッ! それよりも返してッ! ボスのジュウを返してよッ!」
〜 スパァァァァンッ! 〜
「獣の分際で、貴族である私を差し置いて大口を叩くなッ!
いいかッ!? 話して良いのは私だ。質問して良いのも私だ。だが貴族や平民以下である”獣”な貴様は、黙って、私の、質問にだけ、答えろォォォォッ!」
「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
〜 スパァァァァンッ! 〜
「それ以外は喋るなァァァァッ!
そして、唸り声も上げるなァァァァァァァァッ!」
――流石にこの時点で、モバリティアはオルセットに対する
……ただ、その目は度重なる暴行によって
「……」
「……フン、ようやく黙ったか……」
――束の間の一服の後、たっぷり口に含んだ紫煙をオルセットに
「ほぉ? 随分とお利口さんになったものだな……? では、機嫌が変わらぬ内に聞こうか……?」
――相変わらず見下した口調を崩さないモバリティア。パイプを吸う際に身体ごと
「……この、武器の、製作者は、今、何処にいる……ッ!?」
――上流階級特有の威圧感を惜しげもなくジョジョに強めながら尋問するモバリティア。だが……オルセットは、”アーチ橋”の如き不満げな口を
〜 スパァァァァンッ! 〜
「失礼、また虫の所為で話に集中できていないと思いまして……つい……」
「……」
「ウゥンッ、ではもう一度聞こうか……? この、武器の、製作者は、今、何処にいる……ッ!?」
……だが喋らない。その逆に、オルセットの目の輝きと鋭さが増してゆく……!
〜 スパァァァァンッ! 〜
「……この、武器の、製作者は、今、何処にいる……ッ!?」
……だが喋らない! その逆に、オルセットの目の輝きと鋭さが増してゆく……!
「……クッ、何なんだ……ッ! その
……だが喋らないッ! その逆に……。
〜 グッ、バキャァァッ! 〜
「ニャホッ!?」
――ッ!? ぐっ、グーパン……だと……ッ!?
「ハァ……ハァ……いっ、いい加減にしろッ! 何故だッ!? 何故、貴族である私の前であろうと、喋ろうとしないのだッ!? 何故にそんな”偽善者ぶった輝きの目”なぞが出来るのだッ!?」
……どうやらモバリティアの”怒りメーター”は、臨界点を
【こんな荒れ模様……初めてだな……】――と、赤壁盗賊団の”団長”と”副団長”が冷ややかな目つきで見守る中……数分間のシェイクの果てに疲れ果てたのか、息切れを起こしていた彼に対して呆れた口調で、こう言うのであった……!
「……
「ッ!?」
「……ちゃんと守ってたのに、何でそんなオコってるの?」
――おっと、いつの間にどこの誰かさんの”
「……貴族である私を、よくもさっきから抜け抜けと……ッ!
私を……本気で、怒らせたいのか……ッ!?」
――先程とは”全く違う怒り”が沸々と湧き上がり、モバリティアの体をわなわなと震わせる……! だが、彼女は再び口を噤むのであった……。
しかしながら、明確な変化はあった。青なじみの片目を
一瞬、ポカンとしてしまうモバリティア。貴族の社交会では一切お目に見えない動作なのであろう。だが……数秒経っても一向にその態度を崩さない彼女に、
ボスとの出会いが、芽生えさせるキッカケだったのかは定かではないが、この行動を起こした
まぁ、それさえも彼女は”理解し自覚しているか”は知る由もないが……それを抱き続けられるかどうかの試練が、今まさに始まろうとしていた……ッ!
〜 ……ポンポンッ……スッ、パチッ、パチッ、パチッ、パチッ、パチッ…… 〜
「……?」
――モバリティアは何を思ったのか……パイプ煙草に溜まった吸い
「……ブラボー……! おお……ブラボー……ッ! 貴女の
「……」
「だからこそ、私は貴族として……
〜 ……パチッ、パチッ、パチッ、パチッ、パチッ……ボオォォォッ! 〜
「ッ!?」
――輝きに満ちていたオルセットの瞳が、急激に光を失う……! それもその筈、モバリティアは今まで拍手していた両手を急に合わせたまま止めたかと思えば……数秒の後、右手から再び”バスケットボール大の火球”を出現させたのだ!
火球によってより鮮明に浮かび上がるその顔は、火球の
「団長、もう少し彼女の体を上に上げろ……」
「はっ、はッ!」
――少し慌てるも、グラヴォキエはオルセットの両手首を両手でガッチリ掴んでは持ち上げる……。【……止まれ。……フム、丁度良い高さだ……】――ある程度の高さで、モバリティアはストップを掛ける。それは……丁度、彼の”腰の高さ”と彼女の”腹の高さ”が同じぐらいになるモノであった……。
「ところで、もう一度聞くが……この武器の製作者は今何処にいる?」
――沈黙するオルセット。だが……彼女はコメカミに汗が
「……そうか、なら……貴女への褒美は……
〜 ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ! 〜
「フギャァァァァァァアァァァァァァァァァアアァァァァァァァァァァァッ!?」
……これは……酷い……!
モバリティアの表情が”
押し当てられた部分はゆっくり……しかしジョジョに激しく、彼女の着ていた緑のチェニックワンピースを燃やし尽くしていき……数秒後に彼が火球を離した時には、複数の”大きな
「ニャァァァ……ニャハァァァァ……! ニャハァァァァ……ッ!」
――途方もない激痛であったのであろう……オルセットの息は絶え絶えとなっていた……!
「……本当は心苦しいのだよ? 私は私の
――目の前のオルセットの
「……お、オマエ……なん……か……に……!」
〜 ドジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ! 〜
「フギャァァァアァァアァァァァァァァァァァァアァアァァァァァァッ!」
「もう、お利口さんではなくなってしまったか……誰が勝手に喋って良いと言った……!?」
――躊躇なく、再び右手に出現させた”火球”でオルセットの腹を焼いた後……後半は、ドスの効いた静かな口調で威圧するモバリティア……ッ! 再び襲い掛かる激痛を前に彼女は気を失いそうになるが、驚くべき気力で何とか顔を上げ……猛獣の如き睨みを彼に浴びせる……!
「フゥゥゥゥ……ッ! フゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!」
「……」
〜 ドジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ! 〜
「フギャァァァアァァァァァアァァァァァァァアァアアァァァァァッ!」
――無言で火球をオルセットの腹に押し付け、彼女を黙らせるモバリティア。
「……仕方ない、ここでハッキリ言っておこう……。何故、勝手に喋ってはいけないのか? それはだなぁ……? ”質問”は既に”拷問”に変わっているからだ……! 分かったか……? この獣がぁぁぁぁぁぁッ!」
〜 ドジュゥゥゥアァァァァァァァァッ! 〜
「フギャァァァアアァアァァァァァァァァァァアアアァァァァァァッ!」
……既にオルセットの腹にあった水膨れは焼き潰れ……中心から波紋状に、
「言えッ! 言うんだッ! この武器の制作者の居場所をぉぉぉ!」
〜 ドジュゥゥゥアァァァァァァァァッ! 〜
「フギャァァァアアァアァァァァァァァァァァアアアァァァァァァッ!」
――オルセットに一息
「喋らないなら、喋らないで一向に構わないぞ……!? そうすれば……今すぐにでも、お前の忌々しい顔付きを”焼き過ぎて食えない肉”のように、真っ黒に焼き尽くしてやれるからなぁッ!?」
〜 ドジュゥゥゥアァァァァァァァァッ! 〜
「フギャァァァアアァアァァァァァァァァァァアアアァァァァァァッ!」
「言えッ! 言えッ! 言えェェェェェッ! 何処に居るんだァァァァッ!」
――そこからは、何度も何度もモバリティアは彼女の腹を焼き続けては、罵倒を飛ばすのを繰り返し続けた……。しかしながら、壊死というのは”細胞が死滅する事”……。故に、痛覚を伝える神経細胞も死滅していく訳で、焼かれる彼女の反応もジョジョに鈍くなっていく訳である……!
しかしながら、そうなったとしても彼は諦めなかった……! 腹が駄目なら、”脇腹”を……! ”脇腹”が駄目になったら”胸”を……! ”胸”が駄目になったら”両腕”を……! 己の魔力が続く限りに、彼は拷問を続けるのであった……ッ!
「ハァ……ハァ……ハァ……こっ、ここまで……強情とはなぁ……!?」
――罵倒を浴びせ続けてきたモバリティアの声が
ここまで来ると、生きているのか疑問に思えてくるだろうが……
「かっ、閣下……?」
「何だッ!?」
――オルセットを拘束し続けるグラヴォキエを、血走る目で睨み付けるモバリティア。
「さっ、流石に……今日はもう、
「……帰る? 帰るだとッ!? 三日も掛かって聞き出せなかった貴様らが、”私が出来ますから”と……! 貴族である私に、帰れと言うのかッ!?」
「いっ、いや……そんな差し出がましい事は一切……!」
「じゃあッ! 何だッ!?」
――今まで余裕に余裕を重ねた優雅な振る舞いは何処へやら……。意外と「帝国への亡命計画」は”
「さっ、流石に……これ以上はこの捕虜が持ちませんよ……! 何とか……回復するのを待ってから……」
「……ハッハッハッハッハッハッ……」
――右手を額に当て、項垂れるように不気味に笑うモバリティア。
「面白い冗談だ。
「……」
「では聞くが……団長? 貴様は何日も食わずに
「どっ、どう言う事で……」
「口答えせずに答えろ」
「はっ、はい! えぇと……」
――考えあぐねるグラヴォキエ。
【それ以前にそんな肉、とっくの昔にコゲてんじゃあ】――と、二人のやり取りを見ていたマッセが不満げにボヤいていたが……寄りかかる壁の傍で、火球が飛び込んできては
【貴様には聞いていない】――火球を投げた張本人であるモバリティアが、一瞥するように言っては、再びグラヴォキエに視線を戻す。そして、爆ぜた火球の近くに居たマッセは、下半身に
「さて……答えを聞こうか、団長?」
「たっ、食べるしか……ないと思います。
そっ、その! 作戦行動から外れたとしても、隊と合流するためには……」
「あぁ、違う違う……。その後の能書き的な事なぞ、どうでも良いのだよ……!」
「どっ、どうでも……?」
「では改めて聞こう……?
団長、貴殿は飢え続けた末に、肉を食べると言ったな……?」
「はっ、はい……?」
「では何故だ? 何故に貴様は、そこに居る……”
「「ッ!?」」
――嫌悪はしていた、人間ではないが故に……。
それが盗賊団の
「生きていくために殺す必要のある”獣”に……! 食らう必然のある”肉”に……! 誰が
「……」
「……焦げて腐り掛けるまでやってしまったのだ……なら、腐り切るまでに聞かなくてはならないだけの話だ……」
「……」
「言っておくが……これ以上、選び間違えるな? 団長……? 選択を間違えたからこそ……
「……はい」
「これ以上間違えたくなければ……黙って、その獣を、抑え、続けてろッ!」
――グラヴォキエは、黙って頷くしかなかった……。心の中で……何かが”プッツリ”と、途切れるのを感じながら……。一方のモバリティアは、心を落ち着けるためか……再び懐からパイプ煙草を取り出しては、一服をしていた。そして、紫煙を吐き出しつつ優雅な足取りでオルセットへと歩み寄って行く……!
「……ボスゥ……ボスゥゥ……ボスゥゥゥ……!」
「さて? もう聞こえてないかもしれないが……その”ボス”とか言う、名前も明かさぬ主人のために
「……ボスゥ……ボスゥゥ……ボスゥゥゥ……!」
「……クッ!」
〜 グッ、ボコォォッ! 〜
「フギュッ!?」
「何とかハッキリ言ったらどうなんだッ!?」
「……ボスゥ……ボスゥゥ……ボスゥゥゥ……!」
〜 ボコォォッ! 〜
「ムギュッ!?」
「無意味な事を言い続けるなッ! 三日だッ! 三日以上も経っているのだぞッ!? 何処の馬の骨かも分からん”ボス”などと言う奴がッ! 三日以上もお前を助けに来ない
〜 ボコォォッ! 〜
――再三に渡る、モバリティアの左フックと左裏拳による暴行。
だが、オルセットは屈しなかった。いや……むしろ、殴られた影響か……
「……ニャホッ! ニャホッ! ……ク…ズ……?」
「……ん?」
「……ボ…ス……が……ク…ズ……?」
「ほぉ? 下賤な獣の亜人風情は、”
「……ヨく……分かん…ない……ケド……ボスを……バカに……して…るの……?」
「フン、今直ぐ黙れと言いたいが……特別に答えてやるとしよう……。そうだ。屑で、馬鹿で、価値のないッ! 道端にへばり付く家畜の糞のような物だろうなッ! ……お前以下のような……ッ!」
――自慢げにも見えるが、最高に忌々しい表情で言い切るモバリティア。
その発言を前に、オルセットはワナワナと震え始める……!
「……ボスを……!」
「……ん?」
「……ニンゲン……じゃあ…ない……ボクを……! 助けて…くれた……ボス…を……!」
「……助けた? ハッ! 馬鹿馬鹿しいッ! 何の価値にもなりもしない獣を助けるなんて、
「……ボスを……ッ! バカに……するなァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
――猛獣の如き叫びッ! 直後にオルセットの体は動くのであったッ!
〜 グンッ! 〜
――残る力を振り絞り、オルセットは拘束された下半身をグラヴォキエ目掛け、大きく揺り動かすッ!
「ウグッ!?」
――一瞬だが、その肉体を足場として
「ニャァァラアァァァァァァッ!」
「そっ、そんな!? 何故、まだ動け……」
〜 ゲッシャアァァッ! 〜
「ルンダァァァァァァァァァッ!?」
〜 ヒュゥゥゥ〜ンッ、バキャシャァァァァンッ! 〜
「ッ!? かっ、閣下ァァァァァァァッ!?」
――ミノムシのように吊り上げられていた事を活かし、振り子の動きからの”ドロップキック”ッ! 両脚を縛られていようと、オルセットの蹴りの威力はまだまだ健在だった! 散々、彼女を罵倒し続けていたモバリティアを、いとも容易く宙へと蹴り上げ……見事なU字を描きつつ、背後にあった机を破壊する程であったのだ……ッ!
「放せッ! 放せェェェェェェェッ! ボスをバカにしたオマエなんかァァァァァァァッ!」
――が、相当頭に来たのだろう……。先程までの
「クソッ!? オイッ、コラッ! 暴れんなッ!」
――先程までは余裕で拘束していたグラヴォキエだったがこの時ばかりは、オルセットのブチギレ
「あぁぁ、クソッ! おいッ! マッセッ! 何ボケっとしてやがるッ!? サッサと閣下の
「へっ? へっ、へいッ!」
「放せッ! 放せェェェェェェェッ! 放……ッ!」
〜 グオォォンッ、ゴッ! 〜
「フギャッ!?」
――【閣下に手を出したんだ。もう生きてここから出られると思うなよ……ッ!?】――そうグラヴォキエが呟くと共に、オルセットの後頭部から奴の右手が離れて行く……。恐らく、彼女の暴れっぷりを前に”無傷のまま”取り押さえるのは不可能と判断した奴は……彼女の後頭部を掴み、
この一撃には、ブチギレた末に”アドレナリン”がドッバドバに満ち溢れていた彼女でも、
【……ボスゥ……タスけ…て……】――意識が途切れる寸前、彼女が最後まで思っていた事であった……。
〜 ……ズバァァァァァァァァァンッッ! 〜
「……ッ!? ボ…スゥ……?」
――どれだけの時が経ったのであろうか……”とある音”を感じ、意識を取り戻したオルセットは両目を勢い良く開く……! ……しかし、一向に体は言う事を聞かず、必死に目を凝らしては周囲を確認するが……彼女が望む”ボスの姿”は全くと言って良い程に見えなかった。
見えたのは、広い空間である事……そして、目の前には盗賊達のネグラらしき、いくつかの掘立て小屋が立ち並んでいた事……。そして彼女が次に出来た事はと言えば……頬に涙が伝うのを感じつつ……ただ静かに、両目を閉じる事だけであった……。
〜 バシャァァァァッ! 〜
「……ニャホッ! ニャッ! ニャホッニャホッ!」
――どれだけの時が経ったのであろうか……次に意識を取り戻したオルセットがまず初めに感じた事は、”大量の液体”と”
「へっへっへっへ、お目覚めかい? 獣野郎? 昨日の残飯から出来た”
……”残飯スープ”……立ち上る臭いから、何が入っていたかは想像したくはない物だ……。
それはさておき、
まぁ、恐らく……”赤壁盗賊団”の一員である事には、間違いないのではあるだろうが……。
「……」
「ッ? おいっ、お〜い? 何とか言ってみろよ〜?」
「……」
「も〜しもぉ〜し? 聞こえてる〜?」
――度重なる火傷の末、限界に近かった体に無理を働かせ過ぎたのであろう……。彼女は指一本どころか、指先ですらも動かせない状態であったのだ……! 一応、喋ろうと思えば喋れたのだが、常に頭が
今も眼前にいる盗賊に足蹴にされ、耐え難い程の嫌悪感を感じるのだが……それでも、全く動けないのであった……!
「……あ〜あ、こりゃあマジでダメだな……。
昨日の団長とお貴族様……どんな拷問をしてたんだよ……?」
――土俵に入った後の力士が取る”
「しっかし、何でこの広場なんだろ? 別に”ゴミ捨て場”に移送してから、
――そう言いつつ男は周囲を見渡す。そこは男の言う通り、洞窟の中で宴などで
「まっ、どうでも良い事かぁ〜。これやれば、珍しく団長から”
……んっ? 今、
「……じゃあね、獣野郎? オレは別に恨みを持ってないけど……俺の生活のためだ……悪いが、死んでくれや……ッ!」
……ッ!? あっ、ちょッ、待って!? そんなッ!? 懐からナイフを出して、オルセットの頭目掛けてブッ刺そうとしたら……ッ!?
〜 キンッ! シュボッ! ズバンッッ! 〜
……ここまで、
〜 カランッ! ドッ、バタンッ! 〜
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。そんな、金額貰うなら……ハァ、ハァ、
――このアジトに辿り着くまでずっと走り通しだったのか、ボスはかなり息が上がっていた。しかも……衣服のあちこちや、両手にベッタリと”返り血”が付着した状態で……! だが、それにも関わらず……二、三十メートル先から命中率の悪いフリピスを用いての、片手のみの狙撃で”ヘッドショット”を決めたのは、凄いとしか言いようがないだろう……!
強行突破してきた疲れからか、彼は時折チョッピリ
当然だが、そうなるのも無理はない……。親しき友人や家族が、見るに耐えない”凄惨な姿”になっていたとしたら……◯者の諸君は、冷静でいられるであろうか?
無論、ボスは”NO”であろう……。急いで近寄っては蹴り飛ばす勢いで、彼女にのし掛かった死体を退かすと……彼女の上体を彼はそっと抱き上げる。
「……待たせたな、オルセット……」
――次々と込み上げて来る、悔しさや悲しさ……そして途方もない怒り……! 今すぐにでも叫び、断罪したかったのであろう……。だが、それよりも先に
「……ボスゥ……キてくれたんだ……ね……!」
――絞り出されたようなそのか細い一言を最後に、オルセットは今まで張り詰めていた気が”プッツン”したのか……そのまま意識を失うのであった……。
<異傭なるTips> 赤壁盗賊団
バレット王国内で主に”マケット領”を根城とする、総勢約100人規模の盗賊団。
口減らしなどを理由に集落から追放され、盗賊や山賊に身を落としたゴロツキとは一線を
あくまで噂に過ぎないが……このような組織力の高さを持つのは、この盗賊団をマトめ上げる団長が元は帝国との戦争で落ち延び、部隊長も勤めていたという”元王国の騎士”だかららしい……。
盗賊団の発足から数十年と満たない内にこの規模まで上り詰めており、その勢力はマケット領だけでなく近隣の”レボルバル領”や”アーキバス領”などの他領にも及んでいる。
毎月に近い被害の多さから、各領地からの
余談だが、現実の中世には騎士の身分を持ちながらも、盗賊家業や傭兵をしていた”強盗騎士”という「それでいいのか!?」と言うような奴らも居たらしい……。
また、盗賊団の名前の由来は”団長の得物”が、
……だそうだぜ? ボッヨヨ〜〜〜ン! (by,噂話が大好きな奇妙な石)
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