第14話 RE:Side-OR2 臆病者ノ末路 - 1

「……ニャグ、ヒック……ボスゥ……ボスゥ……!」



 ――どうやら無意識全力の掛け声などのの内は”猫っぽい言い方”になるオルセットは、ベッドに突っ伏して泣いていた。……何故かって? それは勿論、目の前で目をまさないボスの看病をしている(つもりだ)からである。



 〜 ギィィィ……バタンッ! 〜


「何だい……お前さん、こんな真昼間まっぴるまになっても泣いているワサか?」



 ――そう言いながら入ってきたのは、オルセットが突っ伏しているベッドの”本来の持ち主”であるベルガ。

 居候いそうろうの身になっているボス達に何だかんだ文句を言いつつも、何かと世話を焼いてくれる変わった・・・・老婆である。

 ”変わった”部分は、ここまで読んでくれている”◯者の諸君しょくん”なら、分かっているであろうから割愛かつあいするが……”世話焼き”部分は新たに描写びょうしゃする必要があるだろう。


 その事であるが、ベルガの家の玄関から入ってきた彼女は、暖かな湯気ゆげを立てる2つのスープ皿をせたおぼんを持って入ってきたのだ。

 先程の一言は開けた後に振り返る事なく、器用に左足で扉を閉めつつオルセットに言ったのである。



「……ニャグ、ヒック……ニャグニャグ……」


「……ハァ、全く……」



 ――すっかり見慣れた光景なのか、軽くタメ息を漏らすベルガ。

 ボスが眠るベッドの枕元にある簡素かんそ小さなベッドサイドテーブルに、”カチャン!”と少々荒々しく置く事から、オルセットに対する内心の苛立イラだちも少なからずあるのだろう……。



「ホラ、そこのバカと……お前さんの分の昼飯だよ」


「……ニャグ、ヒック……ニャグニャグ……」



 ――見向きもせず、突っ伏したままに泣き続けるオルセット。

 彼女のそば両肘りょうひじかかえるように腕を組んで見ていたベルガは、思わず目線をらしつつタメ息を吐いてしまう……。



「……お前さんの献身けんしんさには、ある意味感心するだワサ。

 けど……流石に、ほぼロクに飯も食わず……3日もそこで泣き続け・・・・・・・・・・いちゃあ、そこのバカも心配すると思うだワサよ……?」


「……ニャグ、ヒック……ニャグニャグ、ヒック……」


 ――頭部の耳が”ピクリ”と動いた気もするが……以前として変わらず、見向きもしないで突っ伏したままに泣き続けるオルセット。


「……そうかい。じゃあ、今後からはお前さん用の飯は抜き・・にしとくワサ」


 ――再び頭部の耳が”ピクリ”と動いた気もするが、以前として……おや?

 見向きはしないが、突っ伏したまま泣き声が”突如とつじょとして止まる”オルセット……!


「アタしゃの一人暮らしだけでも大変だってのに……お前さん達を含めて3人分もの飯を態々ワザワザ、アタしゃは用意してやってるんだワサ。それなのに……アタしゃの気持ちも知らず、飯を無駄にするようなバカに今後出すような飯はなくて当然だワサ」


 ――耳がベルガの方に向いているような気もするが……相変わらず、突っ伏したままのオルセット……!


「しゃ〜ないワサねェ……。

 味見で腹一杯だったけど、ただでさえ腹を満たすのは大変な事なんだワサ。

 アタしゃの胃袋が持つかは知らんけど、お前さん達が狩ってきたあの「マグズリー」の”ウンマ〜イ肉”がゴロゴロと入った、そこのシチューを……」


 〜 パシィッ! 〜



 ――呆れ声で語りつつ、机に置いてあったスープ皿に手を伸ばすベルガ。

 だが、スープ皿に迫る魔の手を止めたのは、今まで彼女に反応を見せなかったオルセットであった……! 彼女の右手が、軽くながらもベルガの右腕を圧迫させる……!



「……ねェ、オバアちゃん?」


 ――涙声だが、抑揚よくようのなく無機質に近い声で話すオルセット。


「……ちょっと痛いワサよ、お前さん? お前さんは食べる気がないのに……」


「……こんな時に、食べ物の話?」



 ――先程と同じような声色で話すオルセット。

 一方のベルガは、若干顔をシカめつつも掴まれた腕を引き抜こうとするのだが……軽く掴まれている筈なのに全くと言っていい程、ピクリとも腕を動かす事は出来なかった……。



「こんな時……って、こんな時だからだワサ。

 そこのバカは勿論、お前さんもしっかり食って……!」


「ウソをツくのやめてよ……」


 ――オルセットの感情に、”怒り”が少々焼べられたかのように言葉に熱がび始める……!


「……嘘? アタしゃが?

 ……ハハッ、一体全体何を嘘付いたって言うんだワサ?」


 ――首を左右に振って”ヤレヤレ”と呆れた態度をしながら語るベルガ。


「……ツいてるでしょッ!

 ボスに飲ませてくれた”クスリ”なら、スグにでもボスを治せるってッ!」


 ――唐突にベルガの方へと顔を上げ、獅子のような怒り全開の表情で怒鳴るオルセット。


「ボスがボロボロになっちゃったあの日ッ!

 ボク達を助けてくれたオバアちゃんが、2個目に飲ませてくれ・・・・・・・・・・たクスリ・・・・なら……ボスが、ボスが助かるって言っていたじゃあないかッ!?」



 ――掴んでいた右手を乱暴に振り放し、人差し指で彼女を指差しながら憤慨ふんがいするオルセット。しかし、ベルガは微塵みじんも悪びれる様子もなく……再び両肘を抱えるように腕を組みながら語る。



「……確かに、お前さんらを助けた直後……あのバカは虫の息だったから、延命程度に持ち合わせのポーションを飲ませてやったワサ……。そして、【これじゃ、助かる見込みはない】――って言ったアタしゃにお前さんは【ボスを助けて!】と、必死こいて泣きついて来たワサ……。

 だからアタしゃはタメ息一つの後に、アタしゃらで必死こいて運んで家に帰った後……チャンと今も生きている程の効・・・・・・・・・・を持ったポーションを飲ませてやった……。コレの何処に不満があるワサ?」


 ――片眉を上げながら、苛立たしげにこれまでの経緯いきさつをオルセットに聞かせるベルガ。


「大アリだよッ!? ボスはズウゥゥゥ〜ッと! 寝ちゃったままッ!

 このまま起きないんじゃあ……助かってないよッ!」


「……そりゃあそうワサ。

 アタしゃは”命が助かる”ポーションは飲ませたワサが……”すぐに助かる”とは言ってない・・・・・ワサ」


 ――涙声に怒鳴るオルセットに、淡々と事実を突き付けていくベルガ。

 聞いていない事実だったのか、オルセットの表情に一瞬驚きが垣間見かいまえる……。


「……まさか、聞いてなかったワサか? ……まぁ、いいワサ。

 言っとくけど……いつそこのバカが目覚・・・・・・・・・・めるか・・・なんて、アタしゃに聞かれても知らないワサからね? 後、騒ぎ過ぎもそこのバカにとっちゃあ、毒だよ……?」


「ッ! それじゃあケッキョク、オバアちゃんはウソを……!」


ヤカマしいワサッ!

 グダグダ言うなら、今すぐにでもそこのバカと一緒に叩き出すワサよッ!」



 ――唐突な怒声に、思わず両耳を抑えて顔をそむけてしまうオルセット。

 一方のベルガは、久しく怒鳴り声を上げた事がなかったのか……少々息切れを起こしていた。

 ……少しして、彼女は息を整えるように”フゥゥ〜”っと、息を吐くとこう呟いた。



「……いくら泣こうがわめこうが……そこのバカがすぐにでも目を覚ますワケじゃあないワサ。只々ただただ、アタしゃらに出来るのは……信じて待つ・・・・・事だけワサ」


「……信じて……待つ……?」


「そうワサねェ……。

 このまま待ってるだけじゃあ、つまらないだワサろうし……少し、昔話・・でもするワサ」



 ――そう言うとベルガは、ボスの足元付近にゆっくりと腰掛ける。

 オルセットもそれまで悲嘆ひたんに沈み込んでいた気分が幾分いくぶんか良くなったのか……ベッドを背にして左足を立てた片膝あぐらをしながら、ベルガの方に顔を向けて聞く余裕は出来たようだ。



「……昔々の話だワサ。このバレッド王国に、ある一人の女の子が居たんだワサ。

 その女の子は”お城”じゃあなく、”貴族様の屋敷”に住んでいた訳でもない……何処にでもいるような普通フツ〜な農民の女の子だったワサ」


「……ねェ? その子の名前は?」


「焦るなワサ、お嬢ちゃん? まだ話は始まったばかりだワサ。

 ……その女の子は、貴族様に及ばずとも……普通の農民よりは幸せな生活を送れていたワサ」


「……ねェ、名前……」


「無いワサ。……アタしゃが忘れちまったからねェ……」



 ――ボスに仮とは言え、名付けられた事に思い入れがあったのか……登場人物の女の子の名前を聞きたがっていたオルセット。だが、”ない”と答えられた以上……【……そう】と、そっけなく答える他なかった……。



「けど……毎日、毎日、同じパンやスープを食べていれば飽きちまうように、その子も”変わらない生活”に飽きちまってたんだろうねェ……? ある日、その子は突然村を飛び出して行っちまったのさ」


「”シアワせなセイカツ”……ってのがピンと来ないけど……」


「全く……そこのバカと過ごしているお前さんは、いつも幸せそうだったワサが?」


「……あぁ、そっか……!」


「聞くのは良いワサが、あまり話の腰を折らないで欲しいワサ……分かったワサ?」



 ――【あんまりキかない方がいいのかなぁ】――と、珍しく空気を読んだのかオルセットはそう思いつつ、少々歯切れの悪い相槌あいづちを打ってベルガに話の続きを話してもらえるよう、うながすのであった……。



「女の子は真っ直ぐ王都へと向かって行ったワサ。冒険者になるために……」


「……えぇ〜ボウ〜ケン〜シャ〜?」



 ――嫌そうかつ間延びした口調で言うオルセット。

 この村の冒険者ギルドで差別された・・・・・事が記憶に新しい彼女にとって、彼女の中ではある意味”最悪”と言っていいイメージが根強いのであろう……。



「おっと、悪いワサね。

 けど、お嬢ちゃん? これを言っとかないと話が進まないワサからね?」


「……分かったよォ……」


 ――複雑ではあるが、話を聞きたい気持ちが勝ったのか了承するオルセット。


「……ところで、何でオウト? に〜行ったの?」


「何で向かったワサかって?

 そりゃ〜そこは王国じゃあ、一番大きな冒険者ギルドがあるワサからねェ?」


「……一番大きい?

 この村の〜あのちっちゃくて、イヤ〜な”ボウケンシャギルド”と何がチガうの?」


「村に居た時に、その子の両親から聞かされていた冒険譚ぼうけんたんじゃあ……よく出ていた場所であり、同時に強い冒険者も一杯居るって聞かされたからだワサ」


「へぇ〜。……ボスみたいな人がたくさんイたって事?」


「……まぁ、そうだワサかねェ……」



 ――【お貴族様より体は締まってはいるが、”あの武器”を使わない限り……腕っ節は弱そうだワサけどねェ】――と、オルセットの認識がズレている事に少々困惑しつつも、相槌を打つベルガ。



「とにかく、続きだワサ。

 王都に着いた女の子は、そのまま冒険者ギルドに向かったワサ。

 そして、そこの受付に着いてはすぐ様こう言ったんだワサ……【アタしゃは冒険者になりたいんです!】――ってね?」


「……それ、オバアちゃん?」


「アタしゃが語ってんだから、アタしゃの話し方になって当然ワサ。……文句あんのかい、お嬢ちゃん?」


 ――思いもしない鋭い視線をベルガから向けられたオルセットは、【なっ、ないから……オバアちゃん……】と、若干尻込むような口調で否定する。


「……続きワサ。

 ”冒険者になりたい!”と、意気込む女の子。だけど、その情熱はあっさりと断られたんだワサ……」


「……良かったね。ボクみたいな”アジン”をイジメる、イヤなニンゲンにならなくて」


 ――ベルガに対してそっぽを向きつつ、立てた膝に頬杖ほおづえを着いては珍しく悪態あくたいを吐くオルセット。


「おや、お嬢ちゃんが”皮肉”と”悪態”を吐くなんて思いもしなかったワサ。

 けど、断られて当然ワサ。なんたってその子は……冒険者になるには早過ぎた・・・・ワサからねェ?」


「えっ? どうして?」


 ――絵本の続きが気になる子供のように、ベルガの方に向き直りつつ少々身を乗り出すオルセット。


「そりゃあ、お嬢ちゃんよりもずぅ〜っと、ずぅ〜っとっこかったからワサ。

 今のアタしゃが持っているような、弓矢も真面マトモに扱えない程にね……」


「……ボクよりも?」


「そうだワサ。けど、その子は諦めが悪かったワサ……。

 受付の人の話も聞かず、止めようとする事にも関わらず、【じゃあ! アタしゃが魔物を倒せれば、認めてくれるワサね!?】――って、家からこっそり持ってきたナイフ片手に、近くの魔物が潜む森に飛び出して行っちまったんだワサ」



 ――その女の子が森から飛び出していく様を、右手を右から左に水平に動かすジャスチャーをしながら語るベルガ。【……えっ!? あ、危ないんじゃあない?】――とコメントするオルセットであったが……?



「……何言ってるワサ?

 つい最近、そこのバカに対して似た事・・・をやらかしたお前さんが言うワサか?」


 ――少し表情が引きつり、ぐうの音も出ないオルセット。


「……まぁ、イイワサ。

 その子もいさんで森に入ったのは良かったワサが、直様すぐさま迷っちまったんだワサ。

 そして……お前さんが危ない目にあったように、森の中で魔物に追いかけ回されたワサ……」


「それって……ボクを追い回したマモノとイッショ?」


「おや、鋭いねェ? そうワサ、マグズリーだワサ……。

 無謀むぼうにも木から飛び降りて、マグズリーの首にナイフを突き立てて倒そうとした女の子を、絶体絶命と言う所まで追い詰めたんだワサ……!」



 ――ノリに乗ってきたのか、少しおどけた口調で語るベルガ。

 それに順調に乗せられているのか、期待のもった目で彼女を見つめるオルセットの周囲にただよっていた”悲痛な空気”は、驚く程に四散していたのであった……!


 だが、その似た場面でオルセットは失敗に近い体験・・・・・・・をしていた以上……次の言葉は物語に対する期待はあっても、不安は隠せなかった……。



「そ……それで……!?」


「マグズリーは二本足で立ち上がって、女の子にその剛腕を振るおうとしたワサ……。【もうダメだワサ……!】――女の子がそう思ったその時! ”ズシ〜ン!”……突然マグズリーは倒れちまったんだワサ」


「えっ、それって……!?」


「お前さん達と同じかって?

 まさか……流石に三日前のアタしゃの腕前を褒めてくれるなら別に構いやしないワサが、”都合が良すぎる”とかってのは、言わないで欲しいワサ」



 ――オルセットは「クエスチョンマーク」を頭に浮かべるばかりであったが、特に彼女の発言に対し、追求したい事もなかったため【じゃあ、誰が助けてくれたの?】――と、質問するのであった。



「……エルフだワサ」


「……エルフ?」



 ――スッとボケたような表情と一緒に、首をチョコンとかしげるオルセット。

 それに対し、少し期待していたのか【何だい、同じ亜人なのに知らないワサか?】――と、呆れ気味に言うベルガはエルフの容姿や特徴を、彼女に軽〜く説明するのであった……。


 一応、知らない◯者の皆さん向けに解説すると……大元は、”現代のドイツ”辺りで語り継がれていた”北欧スカンディナビア神話”に登場する一つの種族である。

 とある”指輪を巡る物語”をキッカケに、現代ファンタジーではかなり高い確率でキャスティングされ、様々なアレンジや特徴を付け加えられる彼らだが、大元に近い特徴は大体一貫いっかんしている。


 「知識人」、「魔法にける」、「弓矢の名手」、「大体は美男美女」、そして「長い耳」である。ベルガの説明もその”お約束”をれる事はほぼなかった……。

 因みに詳しい経緯は割愛するが、現代でよく見かける「真横方向に耳が長いエルフ」のイメージを作ったのは、意外にも”日本”であったりする。

 海外で定番なのは、普通の人間の耳の形の・・・・・・・・・・まま・・”先端だけをトガらせた”者達なのだ。



「へぇ〜ボク以外にも、アジンっていたんだね……」



 ――記憶喪失の影響もあってか、興味の薄い返事を返すオルセット。

 まぁ現状、彼女が実際に他の種族に会っていない上に、恩人であるボス以外にほとんど興味を抱けてないからなのであろうが……。



「……もうちょっと、驚きある反応が欲しかったワサねェ……」


「あっ、ゴメン……オバアちゃん……」


「……いや、やっぱりイイワサ。面倒なだけワサ……」


「?」


「ともかく、その女の子は絶体絶命の中……たった一発の矢でマグズリーをブッ倒したエルフに救われたんだワサ……。【どっ、どうしてアタしゃを助けてくれたの?】――助けてくれた事が不思議でたまらない女の子はそう聞いたワサ。そうしたら、そのエルフはなんて言ったと思うワサ?」


「……えっ? え〜っと……分かんないや……」


 ――少し恥ずかしげな表情で、軽くポリポリと頬をくオルセット。


「……【友達に似ていた】――だから助けたかったと言ったんだワサ……」



 ――いわく……そのエルフは西の教国にある”サンクチュアリ”と呼ばれる場所の出身だと言う……。

 いわく……ここに居たのは奴隷商によって誘拐ゆうかいされた”友達”を助けるために単身、その彼女がこの王国に連れて来られたと言う”不確かな情報”を元に、やっと来たばかりだったと言う……。

 いわく……しかしながら、”バレッド王国”は”教国”程ではないにしろ亜人に冷たい国であった。幾人いくにんたずねようにも相手にされず途方に暮れていた時、偶然にもその女の子が襲われる現場に鉢合はちあわせたと言う……。


 オルセットの怒涛どとうとも言える質問ラッシュのため、割愛せざるを得なかったが……そのエルフ”身の上話”をまとめるなら、前述のようになるのであった。



「トモダチを助けるために、国をコえてくるだなんて……スゴイね……」


「まぁでも、性格だか何だか知らないだワサけど……口数が少なかったモンだから、聞くのが大変らしかったそうだワサ。大体の受け答えも、【……そう】や、【……分かった】――なんて、何か喋る時には必ずと言って良い程、やたら”間が空く感じ”な上に表情の変化もとぼしいワサだなんの……」


 「……ダレかからキいたの?」



 ――”奇妙な違和感”を感じたのか、質問をするオルセット。

 それに対し、愚痴らしき事を言っている筈なのに、何故か少々上機嫌なベルガ。

 無論、彼女は一瞬、ハッとした表情を浮かべた後に……?



「……お前さんが、何でアタしゃがこの話を知っている・・・・・・・・・かなんて知る必要はないワサ。……それとも何か? アタしゃが"作った話"が誰かから聞いたみたいだって、文句でも言いたいワサか?」


「なっ、ないよ……そっ、それよりも、ツヅきがキきたいなぁ〜って……」


 ――一瞬、ベルガの迫力はくりょく気圧けおされ視線を逸らすオルセットであったが、強引ながらも話の続きを催促さいそくするのであった。


「……フン、まぁイイワサ……。

 さて、どこまで話したワサか……あぁ、そうワサ。エルフに助けられた後だワサねェ……。

 ……とは言っても、その後にやった事は単純そのもの。女の子が立派な冒険者として活躍するために、大人になるまでそのエルフが面倒を見てくれただけワサ……」


「えっ、それだけ?」


「……何だい? それじゃあ、その女の子がエルフ並みの弓術・・・・・・・・を習得するまでの経緯いきさつでも聞きたいってのかい?

 基本は森暮らし。そんでやる事と言えば……ひたすら弓を引くための体力作りをしただの……ひたすら、遠く離れた小指の先っちょにも満たない”っこい木の実”のド真ん中・・・・を射抜けるようにしろだの……ひたすら、100匹以上も居るゴブリンの巣を弓矢だけで壊滅させて来いだの……そんな同じような話・・・・・・を100回以上も丁寧にきたいってのかい?」



 ――ベルガが語ろうとする途方もない”エルフとのサバイバル生活”を前に、流石のオルセットも「……つ、ツヅきを……】と、僅かに口元をひくつかせながら答える他なかったようだ……。



「いい子ワサ。さて、その後ワサが……とにかく人間がやるには厳しい”弓をメイン”とした訓練をやり続けた末に、気づけば女の子はそのエルフに勝るとも劣らない弓術きゅうじゅつを、自覚もしない内に身に付けちまっていたワサ。

 【やっ、やったワサ! これで冒険者に……!】――ある日、あの日のエルフのように一人でマグズリーをブッ倒せた女の子は、そう言ったワサ。

 【……駄目。……約束】――傍の木の上から見守っていた、女の子の保護者にもなっていたエルフは、その女の子の背後に軽やかに着地しつつもそう言ったワサ」


「……ヤクソク?」


「そう。十分冒険者として活躍するまで面倒を見てもらう約束を、女の子がエルフにしたように……そのエルフもまた、女の子に友達探しを手伝う約束・・・・・・・・・・をしていたワサ」


「……クンレン? のアイダにサガせてたんじゃあないの?」


「……ニブいのかするいのか、良く分かんないお嬢ちゃんだねェ……?」


「?」


「ちょっと前に言ったワサ? ”バレッド王国は亜人に冷たい国”だって……。

 そんな聞き込みが真面マトモに出来ない国だからこそ、その国に住む人なら・・・・・・・・・……と考えて育てていたんじゃあないワサか? ……嫌われている筈なのに、人間を育てようなんて考える物好きなエルフが居るワサ……って」



 ――【えっ!?】――と驚くオルセット。

 「木を隠すなら森の中」――ということわざに近い発想を思いつくとは、流石エルフ! 略して「さすエル」である!



「……それに、奴隷が流れ着く行き先ってのは……大体、”お貴族様”や”王族”が相場ワサ。

 「冒険者にさせる」ってのを建前に、実はそう言った”もしも”にも備えて、女の子に力を付けさせたんじゃあないかと思うワサねェ……?」


「もしも……って?」



 ――これまた記憶喪失の影響もあるかもしれないが……ボスによって未然に防がれた性か、オルセットは奴隷にされた先の悲劇・・・・・・・・・・的なお約束・・・・・に関して、ほぼピンと来ないようであった。



「……その”お偉いさん”をブッ倒しても……って、考えだったかもしれないワサねェ……?」


「……」


「何、ニヤついてるワサ?

 本当なら、そんな事を考えるのは普通じゃあ無いワサよ?

 事実を知ったら諦めて、すぐにでも”明日の飯の種”をどうするかと悩むのが人間だワサ」


「ッ!? 何でそんな事を言えちゃうのッ!?

 ボスは違ったよッ! ボスはボクを……」


「……助けた。損得ナシに、何も考えず……。

 そんなのが普通じゃあないこの世・・・・・・・・・・だからこそ……アタしゃがコイツを”バカ”って呼んでんワサ……」


「……」


「……言っとくが、お前さんも同類だよ?

 怒り狂ったマグズリーを前に、このバカを置き去りにせず……連れて帰った時点でね?」



 ――理解できなかった。

 いや……理解したくなかった・・・・・・・・・……と言うのが正しいだろうか。

 ベルガが話す物語が、オルセットに対する”メッセージ”だと彼女は薄々勘付かんづき始めていたのだが……その”結末”までも、おぼろげながらも直感によって気づき始めてしまった事を、彼女は理解したくなかったのだ……!



「……良いモン。ボクは助けない方が、ゼッタイにコウカイしてた……」



 ――対面していたベルガの視線から目を逸らし、背後で眠るボスの顔を見つめながら話すオルセット。そんな彼女を見つめるベルガの視線は、果たして”あわれみ”なのか……はたまた”羨望せんぼう”なのか……。



「……続きワサ。

 その後、二人は生活費のために冒険者ギルドのクエストをこなしつつ、女の子の師匠となったエルフの友達を探し続けたワサ。ある時は森に……ある時は山に……そしてまたある時は”迷宮”に……」


「……ダンジョン?」


「なんだい、コレも知らないワサか?

 この世界のあちこちにポツポツと存在してるって言う、”魔物共の住処”だワサ。

 大抵は、そんなに広くも地下深くも無いワサが……一番奥には”財宝”が良くある事から、冒険者たちの間じゃあよく探されているワサ。

 まぁ、たまに”変な仕掛け”を解かなきゃいけない、頭を使う面倒なモノ・・・・・・・・・もあったるするワサが……」


「へぇ〜……でも、何でそんなのが出来てるの?」


「そんなん、アタしゃが知るワケ無いワサ。

 ただ”迷宮ダンジョン”は、放置しておくとその迷宮の入り口周囲に迷宮内の魔物が湧き出し始めてたむろにしていくワサ。そんで一定の数が集まると……これまた何故だが、村や街なんかの人里を襲う・・・・・んだワサ……」


「……だから、ボウケンシャがサガしてる……?」


「そっ。基本は財宝目当てだワサが、冒険者の依頼としてはブッチャケ”迷宮の退治くじょ”みたいなモンだワサ。ただ……潰しても、潰しても、どっからともなく遠い場所とかに湧いてくるワサから、正直アタしゃは鬱陶うっとうしくて仕方ないワサ……」



 ――まるで、台所などに湧き出てくるカサカサした”G”を彷彿ほうふつさせるような語りをするベルガであったが、その表情は何故か眉間にシワが寄って行くなど……ジョジョに険しくなってばかりであった……。

 無論、いくらオツムが足りないオルセットでも流石に気づき、疑問を口にする……。



「……ねェ、オバアちゃん? 大丈夫……? 顔……コワくなってるよ?」


「……ッ!? あっ、あぁぁ……すまないワサね……」


 ――何を思ったのか、急に俯いては口をつぐんでしまうベルガ。


「……昔、ダンジョンでイヤな事でもあったの?」


「……」


「……ねェ……!」


「……解説終わり、続きワサ。

 そんな”迷宮ダンジョン”を潰す仕事も含めて色々とこなして行く内に、いつしかエルフと女の子には”仲間”が出来ていたワサ。筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで、悪人面あくにんづらなのに気弱で料理好きな”盾持ちシールダー”の「ポテイジ」……。

 そして、王国内で幼いのにも関わらず迫害を受けていたのを助けて、仲間になった獣人で”戦士ウォーリアー”の「プワン」……。

 二人が加わってからの4人は、以前以上に様々な大冒険を繰り広げてきたワサ……」


「……ねェ、その「ポテイジ」も”アジン”なの?」


「……んっ? 人間ワサよ? 言ってなかったワサか?」


「うん……」


「……そう、悪かったワサね。けど……気にしないワサか?」


「……何を?」


「お前さんと同じ”獣人”が出てきたんだワサよ?

 同族意識とか……そういった興味はないワサか……?」



 ――【意外だ】――と言いたそうな表情でオルセットを見つめるベルガ。

 しかしながら、オルセットは特に関心も思い入れもないといった感じに、体操座りに体勢を変え、両膝に顎をもらせると……?



「……別に。ボクはキオクがないらしいし……。

 それに、今はその”ドウゾクイシキ”とか……ワケがワカらない事よりも……ボクを助けてくれた”ボス”が、大丈夫かどうか・・・・・・・……それが今はイチバン、大切だから……」


 ――と何処か哀愁あいしゅうの込もった口調で語るのであった……。


「そっ、そうだワサか……。

 ……因みに、「プワン」は”狼”の獣人ワサ。

 チンチクリンで、目がクリッとして可愛い癖に、助けたエルフ達を守りたいってしきりに前に出たがっていた困ったチャンだったワサ」


 ――【いや、種族じゅうじん以前に、生物学的犬科、猫科的に違うだろ】――とツッコむ”◯者の諸君”もいるだろうが、騒ぎ立てないで欲しい……!


「……ねェ? それ、ボクの見た目とどうチガうの?」


 ――何せ、オルセットもその「プワン」の特徴が知れたにしろ、本格的に(ボス以外)どうでもいいと思ってたらしいのだから……!


「……ツ・ヅ・き・ワサ」


 ――軽く目を逸らした後に、少々自暴自棄気味じぼうじきぎみな口調で言うベルガ。

 【……クセなのかなぁ……?】――と、思い始めるオルセットはさておき……。


「エルフと女の子は、その二人の仲間達を迎えた後……更に数多くの冒険をこなして来たワサ」


「……それは分かったけど、どういうボウケンをしてきたの?」


「……語りきれないワサ。余りに多すぎてね……?

 けど、その数ある冒険の中でしっかりと語るなら……この話が最も印象的だろうかワサねェ……」


「……どんなの?」


 ――急に少々穏おだややかな口調に変わって語るベルガに対し、彼女の方へと座ったまま少し身を乗り出すオルセット。


「……ある日、一週間近く遠くにあった場所で冒険者ギルドからの依頼を終えた”女の子達冒険者一行”は、長く辿たどってきた道のりを歩きに歩いて、ようやっとの思いで王都に戻って来ていたワサ」


「……そのイッシュウカン近い”イライ”って何?」


「……そこは重要じゃあないワサ。重要なのは、帰ってきた後の事・・・だワサ」

 

「……?」


 ――疑問のあまり、首を傾げるオルセット。


「【一週間ぶりのエールは身にみるだろうなぁ……!】と、感慨深かんがいぶかく言うポテイジや、【ぼくもぼくも〜! 一週間ぶりに、冒険者ギルドでデッカいお肉食べるの楽しみ〜!】と、無邪気にはしゃぐプワン達にエルフと女の子は、ヤレヤレな感じに微笑みながらも和やかに帰って来ていたワサ……」


「……ボクも、お肉を食べさせてモラえるなら、そこに入りたいなァ……って思うぐらいフツ〜だけど……?」


「”後”って、言ったワサ。まだ話していないワサよ?」


「……ゴメン」


 ――素っ気無い感じにオルセットが謝ると、ベルガは軽い咳払いの後に話を続ける。


「……王都には数十人が横に並んでもまだ通れる程の大きな”大通り”があるんだワサ。様々な人が大勢行き交うその道を、帰って来た女の子達御一行は歩いてたんだワサ。……そんな中で、事件は起こったワサ……」


「……ジケン?」


「女の子御一行が歩いている正面から、馬車が走ってきていたワサ。

 当然、”かれたい”……なんて馬鹿な考えを女の子御一行は持っている訳じゃあなかったワサから、見かけてすぐ道のワキれて行ったワサ」


「……バシャ?」


「……お嬢ちゃんは、そこのバカと行商人に会わなかったワサか?

 そん時に行商人が乗ってきたハズの”乗り物”が、あったんじゃあないワサ?」


「……あぁ、アレね……!」


「……フゥ、そして只々その馬車の横を通り過ぎて行く筈だったワサ……女の子御一行の目の前に、子供が飛び出して・・・・・・・・行くまではね……」


「……えっ?」


 ――何のひねりもない話から一変、急に不穏さを感じたオルセットは戸惑いを隠せなかった。


「その子は、空中を飛び交う”一枚の羊皮紙ようひし”を追っかけていたみたいだったワサ。

 けど、夢中で走っていたのか……真横から近づく”馬車の音”にも気付かずにまだ紙を追っかけようとしていたワサ……」


「……えっ、でも……それが何かアブない事になるの?」


「全く……どこで暮らしていたんだワサか……。

 お前さん達”亜人”は知らんかどうかワサが、鍛えてもいない人間の子供なんて……馬や馬車にかれれば、助かる事なんてまずないワサよ?」


「えっ、じゃあ……!?」


御者ぎょしゃの怒鳴り声で、ようやく近づいてくる物に気づいた子供は何故か”馬車の通る道”で立ち止まってしまったワサ。その光景に気づいていた周囲の人達は、息を呑むばかりだったワサ……」


「タイヘン! ダレか助けようとしなかったのッ!?」


「……誰もワサ。周囲でビックラこいている連中以外・・を除いてね……?」


「……イガイ?」


「迫り来る馬車を名一杯見開いた目で見上げていた子供は轢かれる寸前、突然真横に転がっていったワサ。……横から駆けて来た、女の子に抱き抱えられる形でね?」


「……その女の子って……!?」


「……そうワサ。

 あのエルフと一緒の女の子……いや、この後まぎらわしくなるワサから……その成長した・・・・女の子は仮に”ラフベル”と呼ぶようにするワサ。

 そしてお嬢ちゃんの予想通り、ラフベルはその子供を助けたんだワサ。……ただ、後先考えず……」


「……えっ?」



 ――オルセットのボキャブラリー語彙がもっと豊富であれば、こう言っていたであろう……。

 【何で、そんな不吉な事が起き続けるの!?】――とうの本人はもっとシンプルであるが、彼女の心境はそんな感じであった……。



「急に目の前を横切られたら、人間でなくても驚くモンワサでねェ……?

 ラフベルが子供を助けた性か、驚いて興奮した馬車の馬がとっくに馬車の通る道から逸れた筈の彼女達目掛けて、馬車ごと突っ込み始めたんだワサ」


「ニげて! ラフベル、ニげて!」


「コラコラお嬢ちゃん、そう熱を込めたくなるのは分かるワサが、落ち着きワサい。意外かもしれないワサが、”もうダメだ……!”と思い目をつむっていたラフベルは助かったワサ」


「えっ!? どっ、どうして!?」


「ラフベルが目を瞑っていた時、”ヒュ、ヒュ、ヒュンッ!”……って、彼女には聴き慣れた・・・・・”風切り音”が聞こえていたワサ」


「カザキリ……オン?」


「矢を放った後なんかに聞こえる、物が空中を飛ぶ際に出る音みたいなもんだワサ」


「ヤ? ……ヤって……あっ」


「気づいたワサ?

 まぁ、当たり前かもしれないワサが、ラフベルを助けたのは彼女の師匠でもあるエルフだったワサ。そのエルフが、馬車を引いていた二頭の馬を射殺した・・・・上に……止まらない馬車の車輪も弓矢で射抜いて・・・・、強制的に馬車を止めてくれていたんだワサ。どれもラフベルが目を瞑る”またたく間”……と言って良い程の速く、正確な弓術だったワサ……」



 ――オルセットを含め、○者の皆さんもビックリな”スゴ技”を語るベルガであったが……実に奇妙だった。このようなスゴイ場面話の見せ場では”意気揚々と語る”のが語り部としては普通そうなのだが……そうじゃあない。”作り話”だとベルガは語っていたが……まるで”事実”を語るかのように起伏のない、淡々とした感じに話をつむぐのであった……。



「すっ、スゴイねェ……じゃあ、子供はダイジョウブだったって事だね?」


「……これだけで”冒険”になると思うワサか?」


「……えっ?」


「エルフに助けられたラフベルがホッとしたのも束の間……彼女は気絶したワサ」


「……ええっ?」


「しばらくして……目を覚ました彼女が居たのは、この国の”お城”だったワサ……」


「……エエエェェェッ!?」


 ――安心して欲しい。先程から【エッ!?】――などの連続だが、オルセットはこの短時間で恐ろしい程に”バカ”になった訳じゃあない。


「おっと、端折はしょり過ぎたワサね……。

 まぁ、簡単な話……その馬車に乗っていたのはこの国の「お貴族様」って、奴らだっただけワサ。

 子供を助けるためとは言え、無理矢理馬車を止めたラフベル達を”何もしないで”見逃す訳にはいかなかったワサだろうから、馬車を止められた後にその中に居た”護衛”か何かに気絶させられたんだろうねぇ……」


「そんなぁ……」


 ――無知であるが前に、純粋じゅんすいなのだろう。納得のいかない面持おももちで、オルセットが呟く。


「ラフベルを含め、ポテイジ、プワンに、師匠のエルフまで……み〜んな縄でグルグル巻きにされて、床に転がされていたワサ。そしてその周囲には、今まで見た事もないような数のお貴族様が、右や左にズラ〜りズラり……。

 居た部屋も、しっかりとした真っ白な石造りの床に何本も柱が立っていて、どれも豪華な金の細工がしてある上に、首が痛くなる程に見上げた天上にはキラキラとした透明に近い水晶クリスタル照明シャンデリアらしき物までも、デデ〜ンとあったワサ……。

 そんな状況で、一番に気絶させられていたラフベルは疑問に思ったんだろうワサねェ……。嗚咽おえつを上げるプワンや、黙って俯いたままのポテイジに元々表情の変化にとぼしい師匠のエルフに聞こうとしたワサ……」


「……それで……?」


 ――緊張を隠せない面持ちで、オルセットが問う。


「……答えなかったワサ。

 ……いや、答える前に……傍に居た師匠のエルフに突然、頭を床に押さえ付けられた上に……みんなの視線が一斉にある音の方向に向いたワサからねェ……?」


「……どんな音?」


「重い木製扉の開く音……そこから出て来て、玉座に座った【面を上げよ】――って、声だワサ」


「……ギョクザ? ツラをアゲヨ?

 ……何そのエラそ〜でイヤそ〜な、ボウケンシャみたいなヤツ……?」


「……王様だワサ。

 王冠を被ってヒゲを生やした……この国で一番偉〜い奴だったワサ」



 ――イマイチピンと来ない表情をしていたオルセットに、ベルガはジェスチャーで髭と王冠を表現して伝えようとする。だが……それでも”種族の違い”というのは深いようで、オルセットにはまだ見ぬ”未知の魔物”……という感じに、”クエスチョンマーク”を付属した大雑把なイメージを浮かべる事しか出来なかったようだ。



「……だった?」


昔の話・・・だって言ったワサ? 今はたぶん、墓の下だろうワサよ……」


「……フゥン……」


 ――良くない表現だとは思ったのだろうが、興味は湧かなかったようで聞き流すオルセット。


「ビックリもしていたラフベルがエルフをハね除けようとするかたわら、他の仲間も言われた通りに顔を上げたワサ。そこからはまぁ、色々と言われたワサが……」


「……ねェ、何言われたの?」


「……あぁ、済まないワサね。

 質問ばかりのお嬢ちゃんにも分かりやすい言い方を考えてたんワサが……」


「……」


「簡単に言っちゃえば……轢かれそうになった”子供”も一緒に、ラフベル達は死刑・・って事だワサ……」



 ――右手の人差し指で、首を一文字に撫でる動作をするベルガ。

 ハッキリとした意味は分かっていなかったオルセットだが、ベルガのジェスチャーから彼女の直感が”度を越した不吉さ”を感じ取り、彼女の表情を驚愕でこわばらせていた……。



「なっ、何で……何で、子供も……!?」


「……そう言われて当然ワサ。

 何せ、止めた馬車はただの”お貴族様の馬車”じゃあなかったワサ……。王国の北東……そこにある王国よりもデッカい国の”帝国”との、大事な大事な”会談”のために行くための馬車だったからワサね……」



 ――そう語るベルガであったが……この後失念していたのか、再びオルセットの”質問ラッシュ”に再びってしまのだが……。その内容を簡潔に要約すれば下記のようになる。

 

 ラフベル達が勇敢にも止めたその馬車は、長きに渡り続いていた帝国との”停戦条約”を結ぶため、国を出ようとする真っ最中の馬車であったのだ。しかしながら、その勇敢さによって数日後の会談に王国は、間に合わなくなって・・・・・・・・・しまったのである。


 これにより、王国と帝国の戦争は続行……! と思われたが、何とこの国の王様が皇帝こうていの目前でかしずくような形で謝罪しつつも、【そちらの条件を呑む。だから停戦条約を結んで欲しい】――と、直談判じかだんぱん(土下座)に近い形で、何とか停戦条約を結ばせて貰っていたのだ。


 ここまで見ると、【戦争回避できたし、ラフベル達は関係ないんじゃあない?】――と思う人も少なくないだろう。……だが、よく考えて欲しい。

 ”黒船来航くろふねらいこう”という”予想外の出来事イレギュラー”によりすっかり腰を抜かし、ヘコヘコと米利堅メリケンとの不平等な”日米和にちべいわ親条約しんじょうやく”を結んでしまった”江戸幕府”……。

 その弱腰な対応に納得いかず、”尊王攘夷そんのうじょうい”や”倒幕とうばく”をかかげ、幕末の時代を奔走ほんそうした”幕府に仕える武士達”……と言った史実・・がある。


 この史実に近い事が、首の皮一枚に近い形で”停戦条約”を結ぶ事の出来た「バレット王国」で起きていたのである。つまりは……だ。

 「停戦条約の結び方に”納得”出来ない家臣達に”納得”して貰うため、ラフベル達は王城に引っ張られた」と言うのが、彼女達が生涯体験する事のない筈の”王城に来る”という事実を実現してしまった理由である。


 ……もっとも、彼女達にはそんな”本音”ではなく……「お国のために」という、実に綺麗にボカされた事情を、死刑の理由・・・・・に言われたのであるが……。



「……ッ!?」



 ――数十回相当のベルガの応答の内容を何とかつまみながら、事の大きさを理解したオルセットは今まで以上に驚愕していたのか……文字通り、開いた口が塞がらないでいた。



「……フゥ、お嬢ちゃんへの説明もやっとこさ終わったトコで話は戻すけど……その後、王様はこう言ったワサ。【……すまない、これだけはどうしてもくつがえせない事なのだ】――って、頭を下げながらね……?」


「……ヒドイよ……ケッキョク、アヤマってないじゃん……!」


「お嬢ちゃんがその場にいたら、さぞかしラフベルは心強かったワサだろうねェ……?」


「……えっ?」


 ――抱えていた両膝の上で拳を握り締め、俯いていたオルセットがふとベルガの方に顔を向ける。


「王様が謝った事に、周囲のお貴族様達の一部が嫌な顔をしつつも、大半以上は嫌な笑みを浮かべていたワサ……。けど、ラフベルの仲間達がこの世の終わり的に意気消沈するばかりの中……彼女だけは違っていたワサ。

 【何でワサッ!? 何で子供を助けただけなのに! アタシャらどころか、その子供も殺されなきゃいけないワサッ!?】――獰猛どうもうになったウルエナの如く、噛み付くように叫んでいたワサ」


「そうだよ……。何でなの……?」


「まぁ、さっきの質問でも十分じゃあないトコもあったワサねェ……。

 けど、その後にもう一回叫びそうになったラフベルをグイッと強く引き寄せて、師匠のエルフは彼女の耳元でこう言ったワサ……。

 【……確かに、子供を助けた……偉い事。けど……助けた代償……王国のたみ……。私達は……”戦争の種”に成り掛けてた】――そうさとすように言ったワサ……」


「……つまり……ドユコト?」


「まぁ、コレも難しいワサからねェ……。

 ムチャクチャ簡単に言っちまえば……”ラフベル達の命”と”バレット王国の命”……二つを比べて王様は国を守るために・・・・・・・、”王国の命”を優先にしたって事だワサ……」



 ――【ヒドイよ……ヒドイよ……】――再び膝に顔をうずめるオルセットは、そう呟くのであった……。純粋な彼女には大変こくではあるが……本当に仕方がないことなのだ……。

 何せ、そこでラフベル達の命を国にささげなければ……戦争という”外部”からではなく、今度は王様の謝罪に嫌な顔をした貴族達・・・・・・・・・などによる”反乱クーデター”によって、”内部”からバレット王国が崩壊ほうかいする可能性があったのだから……。



「お嬢ちゃんのように、ラフベルも気持ちは抑えられなかったんだろうねェ……。

 その後も、エルフの師匠の制止を振り払っては、王様達に色んな罵倒を飛ばしまくっていたワサ……」


「そうだよォ! ボクだって叫びたいよォッ!」


 ――急にガバッ!

 ……と、顔と声を上げたオルセットの顔には、僅かながらも涙が溢れ始めていた……。


「国を動かす”貴族や王族”に、”平民”が何を行っても無駄だったんだけどねェ……。でも、ラフベルは必死だったワサ。

 苦楽を共にしてきた仲間達を、そして何より、バカだった自分を助けてくれた上に、立派な冒険者にしてくれた師匠のエルフを……”失いたくない一心”で叫び続けてたんだろうワサね……」


「……」


「そうして少し経つと、ラフベルに感化されたのか……彼女をしたっていたプワンや、黙りこくっていたハズのポテイジまで、彼女と一緒に怒鳴り始めたワサ。……彼女らの無礼さに怒り狂った、周辺の貴族達の罵倒を押し退ける勢いでね……?」


「……えッ?」


「余りの必死さに、ラフベル達の近くに居た衛兵が彼女達を殴ってでも止めようとした時……【静まれいッ!】――って声が上がったワサ」


「……その声って、オウサマ?」


「いや、”サイショウ”とかって言う……この国で王様の次に偉い奴だったワサ」



 ――警戒していた筈なのだが……”宰相さいしょう”の単語を皮切りに、再三さいさんオルセットの質問攻めが始まってしまったため、再びで恐縮きょうしゅくだが、私がこの後の話の顛末てんまつをできる限り簡潔に語ろう。


 まず、結論を行って仕舞えば……宰相の一言により、「ラフベル達の死刑はなくなった」と言う事である。勿論、何の条件も無し・・・・・・・にではない・・・・・が……。

 ある意味”国家反逆罪”に近い”ヤラかし”をしてしまった彼女達が、贖罪しょくざいのために課せられた条件とは……「とある迷宮ダンジョンの攻略」であった。


 その一言を聞いて、拍子抜けしたかのようにキョトンとなるラフベル一行。

 まぁ、そんな反応になるのも無理はない。なんせ、彼女達はチームを組んでから数十近い迷宮・・・・・・を攻略・・・しつつ、師匠のエルフの”友人”も探していた腕利き冒険者チームであったのだから。

 自分達の実力と実績からコンコンと湧き上がる”自信”と、助けた子供を再び”助けたい思い”から、彼女達はその条件を【やってやるよッ!】――と勇ましい思いで快諾かいだくするのであったが……。



 【……恐縮きょうしゅくですが宰相閣下かっか。……宜しければ、その迷宮ダンジョンに挑む前に……その迷宮に関する”情報”を……お聞かせ願えませんでしょうか……?】



 ……その中で一人、そう聞いたのはラフベルの師匠であるエルフであった。

 彼女……おっと、コレは既に「オルセットが質問していた」――と言う事にして欲しい。

 んんっ、その彼女はラフベル達「冒険者チーム」の”司令塔ブレイン”でもあり、”管理者マネジメント”も兼任していたため、そう言った”情報”に敏感びんかんであったのだ。

 故に、ラフベル達が”生き抜く”ためにいつもと変わらない情報収集ルーティーンワークをしただけであったのだが……?



 【……図に乗るではない、亜人風情ふぜいが。

 貴様の目は節穴ふしあなか? ……冒険者ギルドに”王宮からの依頼”が張り出された事があったか? んっ? ウワサに名高い”森の賢者けんじゃ”と言うのも、”秘匿ひとく性”という言葉も知らない、名ばかりの”世間知らず”であったか……?】



 明らかに侮蔑ぶべつが込もった冷笑せせらわらいを浮かべながら、そう語る宰相。

 ラフベル達は、ほとんど理解できなかったようだが……”バカにされている”というのは感覚的に理解できたので、誰もが歯を食い縛り拳を握りしめていた。


 ラフベル達が叫び出しそうになるのを何とか説得して抑えつつ、師匠のエルフは再度冷静に情報の開示を頼み込むのだが……【まだ分からんのか? この迷宮は”秘匿性の高い”モノだ。よって、詳細は後日に話す。下がれ】――と、はぐらかされてしまったのである。

 その言葉を聞き彼女達の傍に居た衛兵達は、彼女達を王様達が居る”謁見えっけんの間”から退出させるために連行するのであった。


 謁見の間から連行される束の間、ラフベル達は再び【この野郎! 絶対攻略してやるワサよッ!】――などの罵倒を発しながら息巻いたのだが……師匠のエルフだけは黙ったままだった……。

 【……嫌な予感がする】――自分達への扱いや、宰相の人種差別へのいきどおりよりも……”情報を開示出来ない程の迷宮ダンジョン”の存在に、感じた悪寒おかんの方がまさっていたのだ……。


 連行後、城の地下牢らしき場所にブチ込まれたラフベル達。

 ”清潔”という言葉からかけ離れた、ジメジメとして不衛生な空気とニオいが充満じゅうまんする石造りの部屋は、複数の頑強がんきょうな木製の牢によりいくつかの小部屋に分割れていた。

 勿論、彼女達の武器はおろか、私物も取り上げられていたため……脱走したい思いがあっても出来なかった。


 しかしながら、そこで彼女達はブチ込まれた小部屋の向かい側の牢で、思わず息を呑む光景を目にしてしまう……! それは、この一連の騒動の元凶ともなった”子供”であった……! ……えっ、性別? いい加減はぐらかさず教えろや! ……だって?

 いやぁ……教えるもなんも、こうやって語っているのはこの物語を語る”ベルガの主観”からのモノを、私が”代弁”しているのに過ぎないのだ。それに話したとしても、彼女は男か女だったかハッキ・・・・・・・・・・リしなかった・・・・・・上に、呼びかけにも応じれない程”無惨な程にボコボコに痛め付けられていた”そうなのである。


 この一連の描写びょうしゃに、オルセットは悲痛な声で【ヒドイよ……ヒドイよ……】と壊れたかのように繰り返していたのは、そのボコボコにされた子供含め、可哀想かわいそうとしか言いようがないだろう……。

 しかしながら、その後の展開はもっと非情であった……。大体のラノベだと、ここで何らかの能力を使って主人公一行がその子を救うために頭を捻らすであろう。勿論、チートはなくても”助けたい”思いは同じであった彼女達はそうしようとした・・・・・・・・……。


 だが、出来なかった……。


 魔法による脱走を考慮したのか、その部屋には”魔力阻害そがいの結界”が張られていたのだ……! 師匠のエルフが、絞り出す勢いで”回復魔法”を遠隔えんかく発動させようとこころみても……。

 頭に血が上ったラフベルが、必死に牢の隙間から腕を伸ばそうとも……。

 チーム一番の俊足しゅんそくで足技に自信のあった獣人、プワンの蹴りの連打ラッシュでも……。

 盾持ちシールダー以前に、チーム一番の怪力を自慢していた大男、ポテイジの鉄拳による一撃でも……。


 ……その子供に、彼女らの”救いの手”が届く事は、一切いっさいなかったのである……。


 翌日、胸糞悪い光景を見せられたせいか……ラフベル達はほとんど寝付けないまま朝を迎えていた。【おら、起きろ! 罪人共が!】――荒げた看守かんしゅの声と共に乱暴に牢屋のドアが開く。

 【うるせ〜ワサッ! なんでアタしゃらが罪人なんだワサッ!?】――怒鳴り声を上げながら、看守へと飛び掛かるラフベル。

 しかしながら、昨晩の寝不足もあってか彼女の仲間達が一歩遅く彼女を止められなかったように、彼女も”いつもの力”を万全に発揮は出来ず……看守に腹を蹴り上げられ、一旦牢屋の奥へと叩き戻されてしまうのであった……。


 【お姉ちゃん! 大丈夫ッ!?】――両手で腹を抱えてうずくまるラフベルに、慌てて寄り添うプワン。【この野郎ッ! 冒険者とは言え、女だぞッ!? なんて事しやがるッ!?】――彼女への扱いに怒りを隠せないポテイジ。

 師匠のエルフも急いで近寄るが、特に声を荒げる事はなかった……ただ回復魔法を行使しようと奮闘中、看守が内心ビビる程の”冷たい眼差まなざし”を片手間に向け続けていたが……。


 【うっ、うるさいッ! 罪人が生意気な口を叩くなッ! それとお前らッ! 陛下へいかがお呼びだ! この”目隠し”をして速やかに移動せよとのお達しだ!】――そういう看守は、腰のポーチから襤褸ボロ切れを数枚取り出し、ラフベル一行の前に放り投げる。

 【何でそんなものをッ!?】――声を荒げながら尋ねるポテイジ。【詳しい事は知らん。ただ俺は昨日、宰相閣下かっかが何を聞かれても”秘密厳守げんしゅ”にしろとしか通達されていない】――シカメっ面で答える看守。


 【そして、お前達が言う事を聞かない場合は……後ろの罪人の処刑や、お前達を痛め付ける事も俺の独自裁量で決めて良いと、宰相閣下から仰せ付かっている……!】――そう言いつつ、今度は憎たらしい笑みを浮かべた。

 そして、腰に下げていた棒状の簡素な”棘付き棍棒メイス”を右手に持ち、彼女達を品定めするかのように……短い間隔を空けながら、先端の根本部分を何度も軽く左手に打ち付けるのであった……!


 無論、そんな事を言われても、ラフベルの仲間達の中で素直に従おうとする者はいなかった……。誰もが拳を握りしめ、ニラみを利かし、丸腰ながらもどうやってあの看守を倒すかを考え始めていた……! 

 【まっ、待つワサ……!】――腹の痛みが収まってきたのか、唐突にラフベルが絞り出すような声を上げる……! 【さっさと……連れてけワサ……! 迷宮ダンジョンにッ! とっとと……攻略してやるワサ……ッ!】――周囲の【む、無理をするな!?】と言う言葉を気にせず、彼女は言葉をつむぐ……。


 【ただ……攻略中……その奥の子に……何かでもしワサら……お前らに、容赦しないワサ……ッ!】――踞ったまま半分顔を上げる彼女の目は……まるで獲物を狙う獣の目の如く、爛々らんらんと輝いていたそうだ……。


 女とは言えど、男に迫るような鬼気とした迫力に看守は再びビビりつつも、声を荒げて目隠しをするようにラフベル一行に催促する。一方のラフベルの仲間達も、ラフベルの一言に何かを感じたのか……それ以上の反抗的な態度を取らず、渋々ながらも目隠しを受け入れるのであった……。


 そして、一列に連行される最中……奇妙にも彼女達の心は一つになっていた。

 【絶対に、迷宮を攻略してあの子を助けるッ!】――彼女達はケツイに満ちていた……!



「……デッカいトビラ……?」


「そう、連れられた先でラフベル達を待ち受けていたのは、デッカい、デ〜ッカい、頑丈そうな金属の扉だったワサ」


 ――と、私が語っている間に、ちょうど良い塩梅あんばいにオルセットへの説明も終わったようなので、彼女達の話に戻すとしよう……。


まれなんだワサけどね、迷宮の入り口にはそこらの村や街じゃあ見かけられないような、”デッカい金属の扉”が付いているワサ。大抵、その中には普通の”扉ナシ”の迷宮よりもヤバい魔物・・・・・がワンサカいたりするんだワサ……」


「……えっ、ダイジョウブなの?」


「……そんなワケなかったワサ。

 今までの迷宮攻略で”扉アリ”の攻略を少しばかりやってきたラフベル達も、誰もが目を見開く程の大きさだったワサ……」


「……つまり?」


「……初めての事だったワサ。

 ……全く、”目を見開く”って、もうちょっと想像力が働かんワサかねェ……?」


「アッハハハ……ゴメン……」


 ――可愛らしくも情けない笑いをしてしまうオルセット。

 ……◯者の皆さんは、どうか末長く”あたたかい目”で彼女やボスの成長を見守って欲しい……!


「そんな呆然としていた彼女達の後ろに、「ようやく来たな……?」って声がしたワサ」


「……あっ、分かった! ”サイショ〜”ってイヤな奴でしょ?」


「そうワサ。昨日、偉っそうにラフベル達の死刑を取り下げたサイショウ様だったワサ。

 そのサイショウ様は後ろに連れてきていた数人のエイヘイに、視線で何かの合図を送ったワサ。すると、そのエイヘイ達は抱えていた物を、彼女達の前に放り投げたんだワサ……!」


「……オバアちゃん、またコワい顔してるけど……何を投げられたの……?」


「……ラフベル達の装備ワサ。

 ……長年大切かつ丁寧に使ってきた、大事な大事な冒険者の”もう一つの命”と言える物がね……?」


「……返してもらったんでしょ? 何でそんなコワい顔してるの……?」


「……ハァ、お嬢ちゃんはもしもそこのバカが”マグズリー”連れ去られた後……拐った奴が、急に”返してやるよ”なんて言いつつ、そこのバカを今以上に”ボロボロな姿”にした上で、返してきたらどうするワサ?」


「ケリトばしたい」



 ――ジト目かつ明確な怒りが込もった口調で即答するオルセット。

 ”臆病”と自嘲じちょうしていた彼女の、この心境の変化には驚きなモノだが、ベルガの”彼女への扱い”に手慣れてきている事も、驚きなものである……!



「フゥ……そう。その感じを、乱暴に装備を返されたラフベル達は感じていたワサ」


「……ヒドイね。けど……オバアちゃんも”ボウケンシャ”だったの?」


「イヤァ? アタしゃは”60年近く”この村に住んでるけど、王都なんて両手の指の数だけ行ったかどうかも覚えてないワサァ……」


「……そう」


 ――何やらオルセットの”直感”が働いたようだが、突き詰める材料もなく質問は終わってしまう……。


「続きワサ。

 装備を返されたラフベル達が怒り出すよりも早く、サイショウ様は偉そうに話し始めたワサ。

 【さてショクン諸君、装備を返し終えたところで手短てみじかにこの迷宮についての”情報”を、そこの”世間知らず”の森のケンジャ様と小汚い獣君ケモノくん達も含めて……特別にお教えしようか……】――そんな感じに言ってやがったワサ……」


「……ラフベルタチ、ガマンしてたんだろうけど……ボクがそこにイたら、ケットばしてやりたいよ……!」


「……フッ、ついに彼女達についてハッキリ言い始めたワサね……?」



 ――軽く口元をほころばせながら語るベルガに、意味が分からず首を傾げて三度みたび”?マーク”を浮かべるオルセット……。

 さて、突然で申し訳ないがこの後の宰相による”説明モドきの演説”により、またまた”オルセットの質問”が頻発ひんぱつしてしまったようなので、私ができる限り簡潔に語るとしようか……。





<異傭なるTips> お詫び文


 皆さん、お久しぶりです。ノーズトラベラーです。

 今回は、予想外にも話が大幅に膨らんでしまい……【アカン、5万字に近いって……!?】……となってしまったため、泣く泣く分割させて頂きました。


 一部の読者の皆さんにはご不便に思うかもしれませんが……日にちをかけた分、濃密な話が書けたと思うので、どうにかそっぽを向かずにお読み頂けると嬉しい限りです……。

 また、気づいている方もいらっしゃるでしょうが、日々、記号などの執筆方法の”精進”をしている関係上、読みづらくなっていましたら申し訳ないです……。


 今後も不定期、亀の子並な更新速度ですが……。

 ご愛読は勿論、”評価”や”感想”も頂けると有り難いです……。


 何卒、今後も宜しくお願いします……。

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