第49話 やはり半獣少女はイイですね!!

恐らく暴走しているであろうフィーエルを止める為、ゼスティと2人で大通りから外れ、煙が立つ薄暗い民家街にやって来ると、そこにいたのは。


 かつて俺を理不尽な理由で襲撃し、挙げ句の果てにフィーエルを仲間に引き入れる宣言をした勇者擬の男だった。


 そいつは絵に書いた様な緑のドラゴンと対峙しており、背後には舞台装置の如く『キャー直斗様カッコイイ!!』と騒ぎ立てる女2人組がいた。


 俺は踵を返してその光景に背を向けると、服の袖をゼスティの指が掴み、不安を孕んだ口調で声を放つ。


「加勢した方がいいんじゃないか?」


 力を貸すって言ったって、俺は大した戦力にもならないし。ゼスティは魔力切れで魔法が使用出来ないので、かえって邪魔になってしまうし、アイツジルとも同等の実力なので心配は無用だろう。


「大丈夫だ。アイツは多分強いからな」


 そう俺が言っている間にも、勇者様の剣は正確にドラゴンの猛攻を弾き、徐々にその巨大を壁の方へ追い詰めていっているので、ゼスティは表情を和らげ口を開いた。


「そ、そうなのか。だったら―――」


 俺の背後の光景を瞳を入れているゼスティの顔が強張ると同時に、ついさっき感じた熱気に似た様な物が背後に伝わった。


 ドラゴンと思い浮かべると炎。背中に感じるのも熱気であり。それらを結ぶと、恐らくそいつから放たれた炎が俺の方に向かって来ていると言う推理に行き着いた。


 回避しようとしても体が追いつかずに、その思考は空振りに終わってしまい、諦めを感じたその時だった。


「アルゼ!」


 背後から声が鮮明に聞こえると同時に、熱気が遮断され、本来俺の体を焼く筈だった物が届かずに、閃光花火を水に入れた時に出るような音を出し、静かに消滅した。


「大丈夫かい君達」


 アルゼと呼ばれた少女と、もう1人の少女はゼスティに近寄って怪我は無いかと質問を投げかけており、肝心の勇者様は俺の方へ足を進めており、その背後ではドラゴンが灰となり空に昇っていっていた。


「大丈夫だ。ドラゴンは倒したって……」


 俺の顔が認識出来る様になると、あからさまに嫌な顔し、再び言葉を紡いだ。


「これは街の治安を守る為であり、君の為ではないからな」


 ツンデレ的な意図は全く入っておらず、突き放す様な声色であったので、こちらも気が立ってしまうが、コイツに刃を向けられると敗北するのはこっちなので、怒りの感情は表に出さないようにするが、代わりに今の出来事での1番の疑問を声に出してみる。


「なんで街中に魔物がいるんだ?」


 そんな事を質問するが、先程起きた出来事と関連性は限り無く高いだろう。


「それは分からないな。でも、何かしらの予兆が有ったのは確かだ……。今はそれしか言い様がないけど」


「予兆って例えば、空に巨大で紅い火球が浮かんでいたとか?」


 そんな事を口に出すと、目を細め怪訝な表情で俺を見ながら、呆れた様に切り出した。


「どんな妄想か分からないが、その事を人前では口走らない方がいいよ」


 そうか。あの時はジルが魔法を発動していたお陰で街の人々には気が付かれていないのか。無闇にこんな事を口走ら無い方がいいかもしれない。


「じゃあ何なんだよ?」


 何も悟られ無い様にして、食いつく様にしながら探ると、こめかみを押さえながら語り出した。


「難敵と呼ばれている魔物が初心者ダンジョンに現れたり、中位の地震が起きたりだよ」


「そ、そうか。ありがとな」


「男の礼は受け取らない主義なんだ」


 勇者はゼスティの方へ向かい、俺とは正反対に穏和な声を出したが。


 何故かアイツ俺に対して優しくなってないか!?最初は『貴様に話す事など無い』とか言われて切り捨てられると思ったが、そんな事は無かった。


「怪我は無いかい?」


「問題ないぞ。それより蒼河の方が」


 ゼスティが俺に向けて指を差すと、存在に気が付かなかった2人の少女が冷やかな視線を向けて来たが、変に罵詈雑言を吐かれなかっただけマシだと思う事にしよう。


「なら良かった。それじゃあ僕達は失礼するよ」


 少女達はペコリと律儀にお辞儀をし、勇者が『レビー』と声を出すと、1人の少女が煙に包まれた。


 何が起こるのかと疑問を浮かべながら凝視していると、そこに現れたのは弾力が有りそうな毛並みに、鳥類独特のクチバシを持った巨大なヒヨコ?だった。


 俗に言う半獣少女と言うのだろうか。この世界にも居たんだな。


 普段は超絶美少女であり癒してくれ、それ以上に利便性が優れており移動短縮の一助になってくれる。


 勇者様はもう1人の少女をお姫様抱っこしながら、華麗な身のこなしで上に乗ると、細い街の路地を駆け抜けていってしまい、その姿は見えなくなった。


「あぁ〜すごいな〜、ゼスティは鳥になったりとか出来ないのか?」


「出来るか!私は純粋な人間だ」


「そうか。案外フィーエルとか変身出来そうだよな」


「まあ、それは否定しないが……」


「それじゃあ、我が家に帰還しますか」


「それで蒼河……」


「なんだ?そんな慈愛に満ちた表情して」


「その、大丈夫なのか泥は」


 そう。あの鳥の発進した時、丁度蹴り上げられた後ろ脚の位置に俺が突っ立っており、その足元にあった砂利や泥がまとめて背後の俺に降りかかったのだ。


 そのお陰で身体中泥まみれであり、口の中にも砂が入ってジャリジャリと不快な音を立てている。


「ハハ、大丈夫かって?……や、やっぱりアイツらは俺の敵だ!俺の子孫にまで語り繋いで呪ってやる!!」


 俺が闘志をメラメラと燃やしながら、野望を掲げていると、肩に手がポンと置かれたのでそっちを見てみると。


「安心しろ!蒼河が末代だ」


「はい、そうですね」

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