第30話 呪われちゃったぜ!

俺が以前に死にかけた場所を越え、未知の世界へ辿り着くと、丸い部屋の真ん中に情報通り魔物が待ち構えていた。


 俺達は魔物から見えないように、その空間へ繋がる場所の陰にあった岩に隠れると、ゼスティに耳打ちする。


「絶対あれだよな?」


「ああ、あれだな」


 鏡の様に無機質で、ガチャガチャとしている見た目をしているのだと思っていたが、あくまでそれはおまけであって、待ち構えていた奴は緑の体で俺と体格も俺より小さく、そして肝心の鏡は自分の身を守る盾として携えていた。


「そんでどうするんだ、倒せんのか?」


「私の魔法を直撃させたら倒せるが、そんな事をしたら鏡ごと消炭になってしまうからな」


「だったら蒼河さんが魔物の背後に近づいて羽交い締めにしている間に、私が魔物の鏡を奪い取りまして、ゼスティさんが『許せッ!』と言いながら蒼河さんごと消し飛ばしちゃいましょう!」


「成る程、俺は尊い犠牲ってことだな……って嫌だよ!?」


「いつの時代も成功には犠牲は付き物ですよ、だから今回は蒼河さんにバトンが回ってきたんです」


「でもフィーエルが今出した提案も悪くないかも知れないな」 


 ゼスティが真剣な表情で灼熱の地面を見つめると、あっさりと俺の犠牲を許容してしまった。


「お前も俺の事を犠牲にするのか!?」


「声の音量を下げろ、奴に見つかるぞ」


 俺は『すまん』と小声で言うと、3人で岩陰から離れて普通の声量で話す。


「んで、さっきの続きを話して貰おうか」


 俺はゼスティに向かってピッと指を立てる。


「さっきの通りだ、蒼河を亡き者にする以外はな」


「あいつはこの階層で1番強いんだろ?」


「別に倒す必要は無いぞ、目的は鏡だからな」


「もしかして鏡を奪ったら3人で走って退散するのか!?そんな事したら背中からサクッと逝かれちまうぞ」


「そこに蒼河の魔法だ」


 ここに来て俺の魔法が挙がるなんて思いもしなかったので、豆鉄砲をくらったような表情をする。


「それはつまり、逃げる前にスモークを焚いて撹乱しろって事か?」


 決闘でスモークを数回使用したが、余りにも簡単に切り抜けられてしまったもので、それ以来信用を無くしてしまい、唱えていない。


「確かにそんな感じなら行けそうな気もする」


「それじゃあ作戦の確認だ、まず蒼河が隠密で魔物の背後にいって羽交い締めをし、フィーエルが鏡を奪い取る。そしてスモークを使って3人で逃げる」


「ゼスティさんはなにするんです?」


「私か?私はここから2人の勇姿を見守っておくことにするぞ」


 ゼスティは普通に戦力になるので、最後の切り札として取っておくことにしよう。


「あれだ、もしもの時の為にいつでも魔法を使える状態にしておけよ」


「了解だぞ」


「そしてフィーエルは、俺が魔物を羽交い締めしたら直ぐにこいよ」


 俺はこの作戦の要になるであろうフィーエルに向けて言う。


「もちろんです、大船に乗ったつもりで任せて下さい!」


「うん、なんか頼りないけど……」


 俺がレイグさんに教えてもらった技を魔物に掛けるのは、これが初めてだが、ヒョロヒョロだし大丈夫だろうと安易な考えを浮かべ、俺は息を殺して大回りで進んで回り込むと、鏡を携えた魔物の真後ろまで来る。


 そして魔物の脇に手を入れて魔物の動きを封じ込めるが、魔物は何故か無抵抗であった。それは技を掛けたからではなく、単純に力が抜けた様に俺の腕で脱力していた。


 力尽くで抵抗されるよりかは楽だが、諦めたようにしているのが逆に不気味だ。


 フィーエルは俺の様子を見ると、すぐさまに魔物の鏡を奪い取って直ぐに退いた。そして俺も退散する為に魔法を唱える。


「スモーク!」


 瞬間、辺りに煙が充満して視界が不明瞭になると、俺は手を離して2人の元へ向かうが、恐ろしい程にあっさりとしており、目的の物が予想外に簡単に手に入ったので波に乗り、直ぐに足を進める。


 煙を抜けてフィーエルが俺に向けて鏡を向けているのが見えたが、どんな意図があるのかが伝わらない。


 小走りで近づき『どうした?』と尋ねると、至近距離に近づいた鏡に衝撃的な光景が浮かんでいた。


 俺の体が紫の禍々しいオーラを放っており、鏡に映る俺の肩には血の通っていない手が添えてあり、首筋には誰かも分からない生気を失った顔が噛み付いていた。


「うわ!!なんじゃこれャャャャヤ!?」


 俺は首と肩を叩きながら、混乱と困惑を極めた叫びを上げる。


「蒼河さん呪われてます。今の魔物と触れた時に付与されたんでしょう」


 魔物に目を向けてみると、眠るように地面に倒れ込んでおり、ピクリとも動いていなかったので、恐らく自分の生命エネルギーを全て使い果たす程に、俺にかけた呪いの効力は強いのだろう。


 デロデロデロデロデロデロデロデロデンデロンと、そんな効果音が頭の中で鳴り響くのを感じた。


「割とヤバくない!?呪いとか絶対死ぬじゃん!」


「そうですね、可哀想に」


「他人事の様に言うなし!」


 俺が言うと、フィーエルは首を傾げて『私達血縁ありましたっけ?』と頭にハテナを浮かべたので『意味合いが違う』と言って補間する。


「蒼河あの魔物に呪われたのか」


 俺がパニクっているのを見て不安に思ったのか、ゼスティがやってきたが、大声で話していたので、大方の内容は知っている様だ。


「どうしよ、教会とかで治せたりしないのか?」


 某RPGのせいで呪いという単純を聞くと、ここを思い浮かべてしまうが。


「無理だな」


 残酷に俺の希望は切り捨てられてしまい、八方塞がりになってしまう。俺は2人はこの事態を脱する方法を考える為に目を閉じると、少女の嗚咽が聞こえた。


 目を開けてみると、ゼスティとフィーエルが俯いて震えていおり、フィーエルに限っては地面に雫が落ちていた。


 2人が何を考えているのか、どんな鈍感でも分かるだろうからな、あえて言葉には起こさない。


 俺の事をこんなに大事に思ってくれていたなんて、俺が諦めてムードでどうする、俺が探さなくちゃいけないんだ。


 そうやって自分を鼓舞した後、いつも以上に明るいテンションで言った。


「とりあえずこんな暑苦しい所から出るぞ、占い師に聞けば何か分かるかも知れないしな!」


 そう言うが、2人は頑なに俯いたままであってので、仕方なく暗いテンションのままでダンジョンの長い道を戻っていくのであった。

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