第10話 イケメン騎士団長!?

あー疲れた、寝みぃ……」  


 持っていた槍を脱力した様に離すと、金属が地面を叩く音と同時に、ジルはその場にへたり込んでしまった。


 寝るな!寝たら死ぬぞ!的な雪山でよく聞く常套句が頭に浮かぶが、ここは冬山でもないので、今は安静にする為に寝させておいてやろうとしたが、思いの外傷が深いので、何かしらの措置が必要だろう。


「あれ?犬はどうしたんだ?」


 俺が隠れていろと言った所から、ゼスティが遅すぎる登場をする。


「ジルにぶっ殺された」


 俺はオブラートに包まず、ド直球でその事を言う。


「そうか、店のマスコットキャラにしたかったが残念だ」


 ゼスティがしょんぼりと肩を落とす。


「なあゼスティ、この辺に医者はいるか?」


「分からないな、でもパールザニアからは近い筈だから、街の医者なら……」


 と、ジルをどうするか悩んでいると、獣耳の攻撃で不器用に開けられた隙間から、馬車がこっちに向かい走ってくるのが見えた。


 敵の増援などだと思い、ジルを抱えてどう逃げるか考えるが、それは杞憂だった。


「あれパールザニアの馬車だぞ」


「え!?地元民ならぱっと見で分かんのか?」


 遠目から見てみるが、特徴になる様な物も無く、全部同じ様に見えるが……。


「いや長年の勘だ!あの馬車からは殺気を感じない」


 殺気とか曖昧な物で判断しているのは頂けないが、そうい類の物もこの世界にはあるのだろうと割り切る。どの道出口はここしかない筈だし、相手は俺達の存在を認知している様なので、逃げられても草原のど真ん中で逃げ切るのは不可能だろう。


 馬車はスピードを落として工場の前に停止すると、中から、ここで作業をしていた労働者の男が出てきて、こっちに向かってくる。


「皆さんは僕達の命の恩人です」


 突然男は俺達に向かって、九十度に頭を下げた。


「あの、えっと、どう致しまして」


 こんな真っ正面から謝礼を述べられた事が無かったので、返事が曖昧になってしまう。


「あの、他の奴らは?」


「もうパールザニアに到着して保護されました。なんでも私にお申し付け下さい!出来る事ならなんでもします!」


「ムッ!なんでもいいのか!?」


 と、そんな事を言うゼスティを払い除け言う。


「じゃあ、この死にかけの奴を病院に連れて行きたいからパールザニアに送ってくれ、あと看守を縛ってあるから増員頼む」


 俺との会話で気がつかなかったのか、地面に転がっていたジルを見ると、途端に顔を青ざめさせた。


「と、とりあえずパールザニアに向かいます、馬車に乗ってください、あと増員は手配済みです」


 手配済みという所に関心しつつ、俺が地面に寝ているジルの体をおんぶして、馬車に向かい重い足を進めると、ゼスティが横をテクテクとついてくる。


「お爺ちゃんに怒られるぞ〜」


 ゼスティが今の状況とそぐわない程呑気な事を言うので、こっちも緊張が解れる。


「だな、馬車の中でしっかり覚悟決めとけよ」


 そして馬車の前に来ると、白金の鎧に身を包んだ、パールザニアの治安を守る女性騎士さんが立っていた。


 工場の中を荒らした事によって器物損害を訴えられるとか、そんな落ちか!?と、そんな事を思って身構えると。


「申し訳ございませんでしたぁ!!」


 さっきのより随分とレベルの高いお辞儀であったので、背骨の心配をしたい所だ。


「あなた方一般町民の方々を危険に晒してしまい、挙げ句の果てには偽貨幣工場の―――」


 このままダラダラと話が始まりそうな予感がするので、割り込んで言う。


「まずジルを馬車に乗せてからでいいですかね?」


 女性はジルの事を見ると、ハッとした表情を浮かべ、馬車の中から小瓶を取り出し、それの中に入った液体をジルの口に中に注ぐ。そうするとジルの体が優しい緑色のオーラに包まれて、傷が回復した。


「あれですよね、それ、ポーションですよね!」


 俺はゲームで適当に得た知識を自慢げに披露するが。


「いえ、エリクサーです」


「は!?もったいないもったない!」


 ラスボスの時に使おうと取っておくが、結局余る程の高級品を戦闘中でも無いのに目の前で使われ、本音が出てしまいう。ゼスティと男と女性騎士が俺の事に軽蔑の視線を送る。


 伝説の霊薬を目の前で使われたので、戦闘中でも無い今、ポーションとかを10数個使った方が良いのではないかと最低な事が頭に過ってしまった事を後悔する。


「とりあえず乗って下さい」


 と、女性騎士が言うので、言われるがままに乗り込む。


「失礼します」


 騎手席に女性が座り、その横に男が座ったので、ジルを荷台にあったベッドに寝かし、俺達は後ろの空いた席に腰を下ろすと同時にパールザニアへ向けて走り出した。


「着いたらお爺ちゃんになんて言い訳すればいいと思う?」


 ゼスティが頭を抱えて質問をしてくるので、疲れ切った俺は適当な返しをする。


「いや、言い訳する必要がない、単純に魔王軍幹部を倒した!って言えばいいだろ、そう言えば流石に許してくれんだろ」


 と、吐き捨てる様に言うと、驚く様に馬車が激しく揺れる。


「ま、魔王軍幹部を倒した!?」


「それ本当ですか!」


 前に座っている二人がこっちに身を乗り出し、興味津々に言う。


 正直魔王軍がどのくらい凄いのか分からないし、その上に真魔王軍もいるかもしれないが、ジルが大苦戦していた所を見ると、かなりの強敵なのが分かる。


「私は何もやってないし、蒼河はただ槍を投げただけだけどな」


「あの粗末な槍で幹部を撃破したんですか!?期待の新人って枠に収まらないですよ!!」


「いや俺じゃなくてジルがな」


「でも凄いですよ!幹部の前だと激しい魔力の前に動けなくなる人もいるんですよ!」


「あ、そりゃどうも」


 俺は予想外の出来事に、内心やれやれと思うが、案外悪くない感じだった、こんな感じの噂はすぐ蔓延するからな、だが変に派生してしまい、幹部を俺が倒した事になり、ヤバイ奴らから命を狙われるのだけは御免だ。




 外を見ると、広大な草原に草を貪る魔物達、割とバレてるだろって距離にいるが襲いかかってきたりはしない。


「魔物って無差別に襲うと思ったが違うんだな」


 心の声が口に出てしまい、それにゼスティが反応する。


「地上の魔物は刺激しない限り襲ってこないが、ダンジョンの魔物は問答無用で襲ってくるぞ」


「ダンジョンなんだそれ?」


「冒険者達が潜る迷宮の事だ、そこで魔物を狩り、手に入れた素材を売って生計を立てるのが冒険者だぞ」


 ゲームでイメージするダンジョンと齟齬が無く、即座に頭で思い浮かべていたものと同じだった。


「この辺にもあんのかダンジョン?」


「街の中心に行けば地下へ続く入り口があるぞ」


 街の中心って、確か噴水があった場所のその先か。


「なあ暇だったら今度小遣い稼ぎも兼ねて行ってみないか?」


「俺達二人でか?俺は攻撃手段とか無いぞ」


「じゃあ、仲間を増やしたり、お爺ちゃんに稽古をつけてもらえよ!」


 確かにレイグさんには強キャラ感があるし、俺も隠密以外何も出来ないので、少しは体術や剣術をかじっておいた方がいいかもしれない。


「ああ、機会があればな」


 そんな話をしていると案外早く、パールザニアに到着した。


 街の門を潜って馬車を止めると、ジルがタイミング良く起きる。


「どこだここ?」


 ジルが目を擦り辺りをキョロキョロする。


「パールザニア」


 俺達全員が馬車から降り、大通りへ歩みを進めると、いつもより人が少なく、代わりに金髪のイケメンがスタンバッていた。


「君か、確かにそれだったら納得がいくな」


「エルダーさんッ!」


 女騎士がスキップをしながらイケメンの元へ行くと、その腕に抱きつく。


「エルダーテメェ!今更俺に何の用だッ!」


 ジルがイケメンに向かい噛みつくと、イケメンが少し悪い笑みを浮かべる。


「どうやら魔王軍幹部のディッグを撃破したようだね、だが君の力では退けるくらいがやっとだ、そこの君の存在が大きかったのかな?」


 イケメンが俺の事をガッチリと見ると、俺は威圧感によって動けなくなる。


「蒼河は関係ねェ!隠密以外の能力は滅茶苦茶弱いからな、魔王軍に太刀打ち出来るはずがねェだろ!」


 イケメンに目をつけられない為に善意で言っていると思うし、全然間違ってはいないのだが、直球過ぎて目から涙が!?まぁ、出ないけど。


「今日は事務作業で眠いんでね、帰らせてもらうよ。また会おうね蒼河君」


 気の抜けた欠伸すると、一瞬、瞬きをするとイケメンと女兵士の姿は消えていた。


「あれ?あいつは?誰だよ知り合い?」  


 ジルにその事を問いかかると、苦い顔をしながら俯く。


「パールザニア直属の騎士の団長、そして俺が入っていた昔のパーティメンバーだった男だ」


「おーすげーな友達か」


「そんなんじゃねーよ」


 拳を握りしめるジルを見ると、実は故郷を滅ぼした張本人でしたとか、実の親を殺されたとか、そんなものが出てきそうな感じがする程に雰囲気が出ていた。


「なあ蒼河、俺さ魔王軍に感情を奪われた妹を助ける為に冒険者をやって力をつけてきたんだ。だけど、あの時お前がいなきゃ死んでた。自分の無力さに気がついたんだ。だから俺の相棒として魔王を倒す為に力を貸してくれないか」


 なにこれ!?ここで分かったと言ったらシリアス路線にいってしまいそうでならないし、といって、周りの奴らがジロジロ見ているので、いいえと答えてもいい雰囲気でも無い。


 どうする!海外でよく見る手の掛かったプロポーズをされ、引くに引けないなく、仕方なく婚約を了承する女性の様な感覚。そして俺が考えて捻り出した答えは。


「俺じゃ無くてよくね?俺ただ槍を渡しただけじゃん?」


 そして周りの空気が凍った。

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