第4話・妹? いいえ、弟です!


 そして、次の日の朝……霧雨市の西側にある住宅街のとある御宅の玄関の前に、左肩に仕込みの入った木刀を入れた竹刀ケースをかけ、右肩にサブバックをかけた制服姿の玲奈がいた。


「ここか……むぅ、いざ来てみると緊張するな……」


 そんな独り言を呟きながら「鈴羅」の表札の隣にあるインターホンを右人差し指で押す。


 ピンポーンという呼び出し音が鳴り、数秒遅れでトタトタと住人が玄関向かってくる音が聞こえる。


 内側から扉が開かれて「はい、どちら様でしょうか?」と流暢な日本語で言って出てきたのは学ランを身に纏ったサファイアのような蒼い瞳をした金髪ポニーテールの自分と歳の近そうな華奢な体つきの外国人の美少女だった。


玲奈「……」


 てっきり凪か凪の両親が出てくるとばかり思っていた玲奈は、対応に出てきた凪の妹にしては似つかなすぎる美形男装女子に呆気に取られていると、その子の後ろから学生服を纏い、蒼い焔の柄のチューブバンダナを首に巻いて、左肩にサブバックをかけた凪がヒョコッと出てきた。


「おう、玲奈! こんな朝からどうしたんだ?」


 そう尋ねる凪と美少女の顔を交互に見比べてから、玲奈は用件を思い出し、そのことを凪に伝える。


「ん? あっ! えっと……だな。実は委員長の指示でお前の登下校等を監視するように頼まれてな。それで迎えに来たわけだ」


 それを聞いた凪は、呆れた顔で「まーた「師団」の連中ふざけたことをして……」と愚痴ると、美少女がなぜ学ランを着ているのか気になった玲奈は、こんなことを凪に聞く。


「ところで……妹さんか? なぜセーラー服ではなく学ランを着ているんだ?」


 その質問に対し、凪は美少女の両肩を後ろから両手でポンッと掴んで紹介した。


「ああ、そう言えば昨日はゴタゴタしててそう言った話もしていなかったな。紹介しよう! 弟のメリッサだ」


 最早爆弾発言とも言える凪の紹介に頭の中に驚きと疑問が湧き出て、仮面の下から地面に滴り落ちるレベルの大量の汗を流しながら確かめる。


「……聞き間違いか? 妹さんだよな?」


 玲奈の質問にメリッサは、男とは思えない女性の声で「弟です」と答えた。


「いやでも声も顔も……」


 納得できなかった玲奈は、そう言いかけたところでメリッサが制するように「弟です(圧)」と今度は少し高圧的に言ったため、諦めた玲奈は片言で「アッハイ」と受け入れた。


 少し経って、2人は肩を並べて通学路を歩きながら凪は、自身の右側を歩いている玲奈に自身の身の上と家族構成を話す。


「まあ、玲奈はこの街の出身の魔祓い師じゃないから知らなくても無理はないが、メリーは俺が小学3年生の時にお袋が引き取った養子の魔祓い師で、俺の両親は揃って日本人だが、メリーは純粋なアメリカ人で性別に関してはまごうことなき「男♂」だ。学校でもよく間違われることに本人も慣れてる。言っておくが女装させると男と気づくにはさらに難しくなるぞ?」


 それを聞いた玲奈は「あれをどう見破れと?」とただでさえ本来の服装をしていることにすら気づけない自分の観察眼が決して低いものではないと願いながらそう言うと、委員長からの指令のことを思い出して大きく3歩凪前に出て立ち止まり、振り向いてこんなことを聞いた。


「そうだ。凪! お前は「師団」に入る気はあるのか?」


 突然の質問に凪は、立ち止まってから少し間を空けて答える。


「……無いな! 今まで散々、忌み子だのなんだの言っておいて、いざ自分達の戦力が欲しい時になったら勧誘を考える。そんなご都合主義なところにいてられるか!」


 凪はしかめた顔でそう答え、玲奈を追い越す。


「考えが変わる時だってあるだろう! そう悲観になるな!」


そんな凪に玲奈はそう言うと凪は足を止めて振り返る。


「お前は外様だから知らないだろうけどな。ここの「師団」は……」


 凪はウンザリした顔でそう言いかけたその時、ビュウッと急に玲奈の方から突風が吹いて玲奈のスカートが捲り上がるが、突風に驚いた拍子に「クッ!」と右手で顔を庇ったため、スカートの下のモノは見えなかった。


 玲奈は慌てて両手でスカートを抑え込み、気まずそうな雰囲気で凪に「……見た?」と確かめる。


「いや? ちょうど右手で顔を庇ってたから見えなかった……まさか勝負下着?」


 凪にそう聞かれた玲奈は、仮面の頬が紅くなってそうな口調で「そんなわけないだろう! 何を期待している!」と声を荒げるが、そんな玲奈に凪はこう言った。


「別に期待してはいないがな。俺的には生足や黒ニーソよか2分丈の黒スパッツの方が好みだし、これから毎日登下校で同伴するんだったらそうしてくれると嬉しいかな?」


 凪の好みに合わせるのは癪に障るものの、スパッツなら今みたいなことが起こっても見えることは無いため、ありかもしれないと思い「むうっ」と玲奈は少し考え込みながら凪と一緒に歩きだす。


「玲奈は結構肌が色白で綺麗だから逆に2分丈の黒スパッツで肌の色とのギャップをつけるのもいいと思うぞ?」


 軽くセクハラにも感じる凪の言葉に玲奈は冗談半分で聞き流していると、凪はふとこんなことを玲奈に聞いた。


「そう言えばさ。玲奈はなんで仮面付けてんだ?」


 それを聞いた玲奈は右手で自身の仮面に触れて、少し考え事をしているかのように黙ってから答える。


「……コンプレックスがあるんだ。今はそれしか言えない」


 そう言われた凪は顔にコンプレックスを持っている友人のことを玲奈に話す。


「ふーん……俺の幼馴染に武田 幽麻ってやつがいるんだが、ソイツは小学生の時に車の爆発に巻き込まれて右目の目元に大きな火傷を負ってさ。失明はしなかったんだけど火傷の跡が今も酷く残ってて、学校以外の時はやたらとグラサンで火傷を隠したがるんだ。小学生の時はそれをネタにイジメる連中をよく締め上げてたな」


 そう言われた玲奈は逆に凪が両手に巻いている包帯が気になり「私からもひとつ聞いていいか?」と断りを入れてきた。


「おう、ひとつと言わずいくらでも聞いてくれ。まだ学校までの距離も時間の余裕もあるしな。可能な限りは答えれる」


 組織に身を置く気は無いものの、親睦だけは深めたいのか。凪はそう言ったため、玲奈は遠慮なく聞いた。


「両手の包帯は何だ? 怪我でもしてるのか?」


 玲奈の質問に凪は左手の包帯を見てから答える。


「これか? うーん……俺の努力の証だな。ここまでの事をしたから俺は今の力を手に入れることが出来た。その勲章がこの包帯の下にあるんだけど、でも人に見せるには少し恥ずかしいから普段はこうやって隠してるんだよね」


 それを聞いた玲奈は、自身を行動不能に陥れたあの一撃が関係している容易に想像できた。


「昨日……私を吹き飛ばした時に使った「能力」もそれで手に入れたのか?」


 玲奈は少し誤解をしていることに気づいた凪は説明する。


「身体連破・オーバードライブ……アレは「能力」じゃなくて「氣功術」っていうテクニックだ。魔祓い師や死神、魔法使いが現れる前から人間には未知の部分がある。俺はそれを引き出すのに「師匠」の下で7年間も鍛えまくって、才覚にも恵まれてあの技を習得した。拳の骨は何回も砕けたし、痛くて寝れない夜をメリーに日本語を教えながら何度も明かしたりもしたけど、そこまで辛いと思うようなことは無かったな」


 玲奈も刀を振るうほどの武人ではあるため、凪の武に対する姿勢が見えたような気がした玲奈は急に黙りこくってしまった。


「……」


少し間が開いて急に黙りこくってしまった玲奈に凪は「どうした? 急に黙りこくって……」と声をかける。


「いや、なに……凪の武に対する勤勉さと自身にとっての武の在り方が見えた気がしただけだ」


 そう言われた凪はなぜ武術を嗜んでいるかを話す。


「まあ、俺の家系は「魔女狩りの魔祓い師」だからな。戦闘技術の習得は基本だし、汚れ仕事をする時だってあるような家系だ。詳しくはこの街の出身である魔祓い師に聞いてみてくれ。あんまり「いい話は聞かない」だろうけどさ」


 この後、玲奈は委員長などから「魔女狩りの魔祓い師」について色々聞かされるのだが、それはまた別の話である。


そして……凪に対する「師団」の対応の真意を知ることも……

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