第33話 天狗神から貰ったモノとは?

 思考が無秩序に暴れておりまとまらない。一旦ステータスを確認しよう。絶対何かしらの変化はある筈だ。

 

「........ステータス」

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 名前:二宮ケイ

 年齢:9歳と3ヶ月

 加護:天狗神の加護 NEW

  スキル:

【努力★】

 -身体操作  25542時間

 ・【精密操作】(1/5)

 ・【ゾーン】 (1/5)

 -サッカー  18011時間

 ・【空間把握】(3/5)

 -勉学     2028時間

 ・【理解】  (2/5)

 -水泳     1280時間

 ・【可動域】  (2/5)

 -テコンドー   640時間

 -合気道     644時間

 -座禅     17時間

【最先端サッカー学】(2/5)

【超器用】 (1/5)

 ーーーーーーーーーーーーー

 ステータスに新しい項目が追加されている。『加護』か。加護といえば神様からの祝福、守られるという意味だったよな。

 

 これをタップしたら意味が分かるのだろうか。


 《天狗神の加護 ###間########、##と##を最####に#####》

 

「そんな上手いこといかねーよな...」

 

 殆どの文字がボヤけている。見えているのは『間、と、を最、に』の数文字だけ。これじゃ推測すらできない。お手上げだ。

 

【理解】が成長すればステータスにて見える範囲が広がることはすでに証明されているので今後の熟練度アップに期待だ。

 

 それにしても天狗神の加護か。あの熱いマグマのような光玉が俺の体に入り込んだ時に貰ったのだろう。

 

 字の意味をそのままに解釈すると天狗神による祝福か守り。

 

 直感的に守りだと思うのだが俺を一体何から守るんだ。

 

 考えが纏まらず思考の海にどこまでも沈んで行く。何故だか分からないが先ほどから冷や汗が止まらないのだ。

 

 本当にこれは加護なのだろうか。自分の本能が警報を鳴らしている。これは俺を救うと同時に俺を苦しめるものだと。

 

 そもそも本当に俺は天狗の孫とやらを助けたのか。記憶にないから疑ってしまう。

 

 助けたなら命の恩人である俺に転生する際、挨拶くらいしに来るものではないのだろうか。

 

 何か裏があるのではないかと。

 

 色々と考えてしまい心ここに有らずを体現したかのように淡々と東京バイエンの選手と握手してピッチを去ろうとした時監督に呼び止められた。

 

「二宮。全国行きの切符を手にしたチームのキャプテンにインタビューだとさ。受けてこい」


 監督の指示に思考を切り替える。少し動揺が収まった。

 

「えー、やっぱり受けないとダメですか」


「ああ。今日ここに来てくださった二万人の観客がお前のスピーチを待ってるぞ」


「...分かりました」

 

 こういうスピーチはかなり苦手なのだが、今世は【スキル】のお陰か過度な緊張を経験したことがない。多分普通にいけるだろう。

 

「ニシシシ、キャプテン頑張って来いよ。しくんじゃねーぞ」

 

 笑いを必死に堪えてるニヤニヤした南先輩が激励してくれる。


 足には包帯ががっちり巻かれていた。本人の希望もあり閉会式後に病院行くらしい。


 FKを俺に託した時のかっこいい口調とはさよならしたみたいだ。


 普通に喋ればいいものをニシシシってどう笑えばそんな風になっちゃうんだ。

 

 怪我の具合だが同行したトレーナー曰く南先輩は捻挫らしく、靭帯を損傷しているか調べる必要はあるが多分軽度だろうとのことだ。


 胸のつかえが一つ取れた。本当に大事に至らなくて良かったと思うと同時に内心悔しさで一杯なのにそれを全く見せない姿に尊敬だ。


 俺もそれに応えて軽口で先輩に返す。

 

「インタビューの時に南先輩呼びますね。その時は壇上に来てください」


「げっ、俺は絶対行かないからな!」

 

 捨て台詞を吐き、もう操作に慣れた松葉杖を使い早歩きで逃げてしまった。ケンケン走りに似ているな。

 

 半分くらい本気で先輩に任せようと思ったのに。

 

 でも本当に南先輩は面白い人だ。

 

 南ルイ先輩はジャマイカ人の母を持つハーフだ。


 彼は遺伝的なものもあり、スポーツに適した筋肉に骨格を小学5年生にもかかわらず顕著に示している。

 

 身長だけで言えばあの伊藤佐助と同じ高さがあり、同世代の中でも頭一つ抜きん出ている。

 

 余談だが人種別の筋肉量の差の一つで大腰筋という深層筋肉、インナーマッスルがある。上半身と下半身をつなぐ役割を担っており短距離において爆発的な瞬発力や腰の力、姿勢に影響を与える部位だ。

 

 そして黒人は白人に比べその大腰筋の太さが驚異の3倍あるという研究結果が残されている。にわかには信じられない結果だが、若い人から中高年に到るまで調べた結果だそうだ。

 

 もちろん訓練によって鍛えることはできるし、大腰筋がアジリティの全てではない。しかしながら大きなアドバンテージであることは確かだ。

 

 そのため南先輩は自分の身体能力でごり押しする傾向があり、自分でもそれを改善したいらしくよく居残り練習に付き合ってくれる。


 マイ居残りバディだ。

 

 先ほどの松葉杖姿の先輩を思い出して少し笑ってしまう。笑いを抑えてちらりと横目で客席に目を向ける。試合中、会場を揺らしているのではないかと思うほどの歓声は無音と変わり、静寂。

 

 簡易的にピッチに設置された壇上には壮年のリポーターが待っていた。働き盛りの血気盛んな雰囲気を醸し出している。ジェルで固められた7対3の髪型。

 

 熱そうな人だなーと失礼な事を考えながら数歩しかない階段を登り登壇。

 

 二万人の視線が今ここに向けられており、俺の一挙一動に注目している。なんだか新鮮だ。注目されるのもあまり悪い気分ではないな。

 

 マイクが渡されインタビューが始まる。

 

「二宮君、まずは全国大会進出おめでとうございます」

 

「ありがとうございます。チームメイトに支えられてここまで来れました」

 

「素敵なコメントありがとうございます。さて今日は数多のリポーターからインタビューする権利を勝ち取ってきました。少しこちらも緊張していますがよろしくお願いします」


「はははは。僕も精一杯、失礼が無いように受け応えできればなと思います」


  会場には笑いが溢れ、個人的にもこの人面白いなと思いながらインタビューは進み、終わりが見えてきた頃こんな質問が飛んできた。


「全国大会への意気込みありがとうございました。そして最後の質問になります。二宮選手の将来の夢はありますか?」


「はいーーーー僕の夢は日本人初のバロンドール受賞者になり、最多受賞記録を塗り替えることです」


 日本人特有の謙遜や出来るだけ起伏があまりない内容の受け応えではなく、これだけはバカ正直に返事した。


 なぜかここで今日一番の大歓声が会場から湧く。失笑ではない。その事実が本当に嬉しい。


 だがネットでは後で実現できないビックマウスと叩かれるだろう。


 今は笑いモノでもいい。ネタだと思われてもいい。実現させて手の平を返させてやる。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  浦和レッドドラゴンズ 練習場


 関東区決勝戦やインタビューも終わり1週間が経った。皆疲れも完全に取れており、全国大会に向けてより完成度の高いチームを作り上げるために日々精進している。

 

 最近とことん思うのが浦和に所属するメリットの一つとして選手一人一人の質が高いため、組織的な動きを叩き込むのが比較的容易なことだ。

 

 特に守備陣の成長は目を見張るものがある。攻撃から守備、闇雲にボールを追わない組織的守備の完成度が最初の頃と比べると月とすっぽんだ。

 

 集団プレー戦術の他に選手全員のモチベーションをキープするため、最近はフットサルに少なくない時間を割いている。

 

 ん?競技が違くないかと思うかもしれないがフットサルはサッカーで必要不可欠な能力を効率よく養うことができるのだ。

 

【最先端サッカー学】の論文を現代で再現した一つにフットサルと個人技の関連性というものがある。

 

 読み解くと実に簡潔にまとめられている研究結果。なんでもフットサルは個人技を鍛えるだけではなく、選手のフィニッシュする力、判断力向上等の利点が記載されている。

 

 ちなみに自称IQ140の阿部マモル君のお父さんのツテで今回の論文の実証に付き合って貰い、マモルパパに関連資料を浦和レッドドラゴンズに送ってもらった。

 

 元々欧州でもこれと似た研究がすでに実施され、ユースにて導入されている所もある。


 浦和トップチームの監督であるアルバロさんもこの訓練方法には太鼓判を押しており、実験の一環として先月から始めている。

 

 さてフットサルの利点だが、サッカーに比べると1分間でボールに触れる時間が約7倍多い。そのため実戦の中で細かな足裏のテクニックなどを養えることができるのだ。

 

 またピッチがとても小さいため、DFのプレスも早く瞬間的な判断力や1対1のシチュエーションの練習としても適している。

 

 最後に攻撃陣にとっては一番大切なフィニッシュに持って行く練習として最適だ。

 

 フィニッシュとは簡単に言うとゴールに向かってシュートし点を挙げる一連の動作だ。


 そしてフットサルはフィニッシュ時のGKとの駆け引きを短時間の練習で数十回も学べる。


 コンマ数秒でGKの動き、DFの動き、味方らの動き、それらすべてを見極めなくてはならないのがサッカーだ。


 これらの要素を鍛え上げるのに丁度いい訓練だなと個人的にも好きだ。

 

 それに地味な訓練は志高いジュニア生でもきついものがあり、フットサルは大歓迎だ。練習の最初と最後にそこそこの時間を割り当ててくれたコーチ陣には感謝の念に堪えない。


 因みにこのマモルパパのくれた資料をまとめ、近々論文として発表するつもりだ。英訳はすでに出来ており正直反響が気になっている。


 なんせ9歳児達が大部分を書いた論文だ。どんな反応が来るか楽しみじゃないわけがない。頭の固い学者どもの反応を考えただけでも....


 おっと、また性格が悪いところが出て来てしまったな。抑えなければ。


 論文にまとめる理由としては世界一のサッカー選手になるために多角的に攻め、その地位を確固たるものにしたいからだ。


 想像してみて欲しい。サッカー選手としての功績だけではなく、サッカー理論を数十年分進めた人間を。今後その大業を越える選手は出てくると思うか?


 答えは否だ。正確にはほぼ確実に現れないだが、歴史に名前を刻む方法としては王道だと考える。


「今日は特別に14時集合な。練習きつめだったからゆっくり飯食って休めよー」


「「はい、ありがとうございました!」」


 午前の練習が終わり、タオルで汗を拭くジュニア生。


 そんな中俺は意気揚々と汗を拭き、臭いを確認していると南先輩とジュンが話しかけて来た。

 

「お疲れ様。ニシシシ、キャプテンは今日も例の場所に行くんだろ」


「ケイ君....僕は正直羨まし過ぎて時々...これ以上は言わないでおこう。僕らの友情にヒビが入る」


「南先輩にジュン....なんで...いや、そうですけど」


「ヒューいいねぇ。でもあまり大胆なことはしないほうがいいぜ。すぐにバレるし」


「まさかとは思うけど、ケイ君ここはサッカーをするところだからね!」


「だーかーらーしませんよ!」

 

 軽口を二人と言い合っているが昼休憩は俺が浦和で一番好きな時間なんだ。


 それになんたって今日は.....

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2度目の人生をガチャで貰ったスキルで世界最高のサッカー選手を目指す話 梅雨前線 @Max555

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