わたしの力?

「じゃあな、ありがとう! オイラ、川の底にもどるけど、いつでもここにミントさまたちが来たら、オイラにはから、ちょっと待っててくれたらすぐに上がってくるよ」

 そう言うと、川にぽちゃんと飛び込んですいすい泳いで、川の真ん中あたりまで行って、水面から顔を出して、こっちに手を振った。

 わたしともえちゃんがぶんぶん手を振っている横で、ヨジロウはむすっとしていた。

 カッパさんと仲悪なかわるいんだ?

 まあ、大昔にたたかった仲みたいだし、今回もケガさせられたから仕方ないか……って! ああ!

「ヨジロウ! 腕! ケガしたんでしょ? 大丈夫?」

 忘れてた!

 あわててヨジロウに駆け寄る。

 ずぶ濡れなせいか、上着がやぶけて少し赤くにじんでるのはわかるんだけど、傷口とかはよく見えない。

「ああ、どうしよう……痛くない? 大丈夫?」

 オロオロしているわたしの足元に、メロリがとことこと歩いてきて、もえちゃんとナツメさんのことも手招きした。

 よくわからないまま、集合したわたしたちの周りに、メロリがまたシャボン玉バリアをはった。

「よじろう、かぜ」

 メロリがそう言うと、ヨジロウは不満そうな顔をした。

 その目が、金色に光って、突然わたしたちの足元からふわりと風が起こった。

 そう思った直後、うずをまいた、小さなつむじ風のような風に包まれた。風がつよくて、思わず目を閉じる。

「うわわわ」

「ひえええ」

 わたしともえちゃんはお互いの肩を支えあった。髪の毛も、制服も、ふわりと下から上に持ち上げられる感覚があったたと、風がやんだ。

 そっと目を開けてみると、わたしたち全員、びしょ濡れだった服も髪も、すっかり乾いていた。

「すご! 便利……!」

 もえちゃんが目を輝かせてヨジロウを見た。

 ヨジロウは面倒くさそうに手をパタパタとふった。

「あっそうだケガ見せてケガ!」

「だから、かすり傷だっつったろ」

 ものすごく面倒くさそうに腕を差し出してきた。

 恐る恐るのぞいてみる。とりあえず、もう血は止まってるみたいだけど、どうしよう、消毒とかしなくていいのかな……。

 悩みつつヨジロウの腕を見ていると、下から小さな手がのびてきた。

「わああっびっくりした!」

 メロリだった。

 メロリったら、無言だし、本当にそろ~って感じで動くんだもん!

「あっ」

 メロリの指先がぼんやりと虹色に光って、ヨジロウの腕の、傷口のあたりに触れる。

 ほんの数秒のことだったのに、メロリが手をおろしたあと、腕の傷も、上着についた血も、きれいに消えていた。

「えっ? すごい……メロリ、治してくれたの?」

 メロリを見ると、ちょっとほっぺを赤くしてうなづいた。

「ええ~! すごい! ありがとう!」

 メロリがそっとわたしにすりよってきた。なんとなく、頭をなでてほしいのかなと思って、なでなでしてみたら、パアアアアア! って音が聞こえそうなくらい、にっこりうれしそうな笑顔になった。

 何この子……かわいい……!

「メロリちゃんすごいね!」

「自分で歩いてくれたらもっとすごいな」

 もえちゃんとナツメさんが言った。

 ヨジロウは治してもらったくせに、特におれいも何も言わずにさっさと歩きだした。警察官さんのところに歩いていったみたい。

 後を追おうかと思っていたら、メロリがわたしの服のそでを、またくいっとひっぱった。

「なあに?」

「さっきの、カッパの。わたしにもやって?」

「え?」

「そのおふだから、ひかりがでてたの」

 あれ? どど、どうやるんだろ……さっきは必死だったからなあ。

 とりあえずスマホを取り出して、ミントの葉のアイコンをタップする。すると、ビックリ! 神社では真っ黒だった画面が、ゲームのメニュー画面みたいに変わってた。

 田んぼがあって、畑があって、わらみたいなのでできてる屋根の、昔話とかに出てくるような小さなお家があった。ぜんぶ、ゆるっとしてぷにっとした、かわいいイラストで描かれてる。

 画面の右上に、本みたいな、ノートみたいな、どことなく和風な表紙の本のアイコンと、キラキラの光の絵文字みたいなアイコンがあった。

 えーと、さっきキラキラ光ってたから、もしかして……

「あっ出た!」

 思い切ってタップしてみたら、画面は真っ暗になったけど、ライトのところからキラキラの光りが出てきた。

 そうっとメロリを照らしてみると、画面の中にメロリが映った。

 そして、キラキラの光に包まれたメロリが、画面の中でも外でも、ニッコリ笑う。

 うっカワイイ……!

 画面のメロリはキラキラの光の玉に変わって、画面右上の本の中に吸い込まれていった。

「えっ?」

 実物のメロリを見たけど、こちらはゴキゲンで立っていた。

 何が起こったんだろう?

「ふわ~! すご! すごいねミント!」

「その本タップしてみたらいいんじゃないか?」

 いつの間にか、右肩にもえちゃん、左肩にナツメさんの頭がのってた。

 ビックリしたよふたりとも……!

 ナツメさんに言われて本をタップすると、本がアップになって開くアニメーションが流れたあと、一覧表いちらんひょうみたいなものが出てきた。

 空欄だらけだけど、七つあるアイコンのうち、二番目にメロリが入ってた。あとの、六つはただの白い四角。

 次のページをめくってみると、今度はまっ白なページの一番左上に、カッパさんのアイコンがあった。

 タップしてみると、カッパさんの全身図のアップが映った。

 出没場所しゅつぼつばしょ:川って書いてある。

「えー! なにこれ、図鑑みたいな? おもしろーい!」

 もえちゃんがはしゃいだ声で言った。

「ミント、ありがとう」

 メロリが言った。

「え? なになに? わたし何にもしてないよ!」

 ブンブンと顔を左右にふるわたしに、メロリは小首をかしげて言った。

「ミントは、カッパをしたがえて、さとをまもってくれた。わたしは、さとを、まもりたかったけど、そんなちからはないから、なきながら、あるくことしかできないから」

「そんなこと……! それに、このアプリは杏姫の……」

「ううん」

「え?」


「それはもう、ミントのちからだよ」


 メロリはそう言うと、真っ白い光の玉になって、ヨジロウがするみたいに、スマホの中に吸い込まれていった。

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