アヤカシ

 ちょっと悩んだけど、もえちゃんとナツメさんに、ヨジロウのことを説明した。

 おばあちゃんの家の向かいにあった小さなおやしろにいたこと。シキガミだって本人は言ってること。スマホに入れたり、キツネの姿になったり、くわしいことはわからないけど、不思議な力があるみたいってこと。


「ミントったら! どうしてもっと早く教えてくれなかったの?」

「ごめんもえちゃん。こんな話、誰にも信じてもらえないと思ったから」

「信じるよ! ミントの言うことだもん! 信じるに決まってるじゃん!」

「ありがとう、もえちゃん!」

 もえちゃんの言葉がうれしくて、思わずだきついちゃった。

「信じるよ。俺も」

 ナツメさんも、何だか真剣しんけんな顔でそう言ってくれた。はは、昨日いとことか変なこと言ってごまかさないで、全部話しちゃえばよかったな。

「そうか、よくわからないが、いいこころがけだ」

 ヨジロウがえらそうに胸をはってそう言った。なんでこう、えらそうなのかな。

「そんなことより、お前、さっきアヤカシって言ったよな? それなんだよ」

 ナツメさんがヨジロウに向かって聞いた。

「やっぱり、赤ずきんちゃんの幽霊ゆうれいが……」

「赤ずきん? 何だそれは。そんなかわいいものではないぞ」

「え?」

 赤ずきんちゃん、関係ないのかな?

「アヤカシとは、お前たち人間が、古い時代にそう名付けた、怪異かいいだ」

「カイイ?」

 わたしが頭の上にはてなマークを浮かべている横で、もえちゃんは目をキラキラさせて拳をにぎった。

「怪異! 不思議なこと! 科学じゃ解明かいめいできないことでしょ!」

「カガクというのはよくわからないが、お前たち人間の力では太刀打ちできないものだ。怪異に立ち向かうなら、俺たちシキガミに頼るのが一番だ」

「ヨジロウは、アヤカシじゃないの?」

 ふと思って聞いてみると、ヨジロウは少し動揺どうようした。

「うっ……まあ、もともとはアヤカシと同類だが……今の俺はちがう。俺は、シキガミだ」

「シキガミとアヤカシってちがうんだ?」

「ああちがう。大ちがいだ! とにかく俺はシキガミだ。いいな」

「う、うん、わかった」

「それで?」

 わたしとヨジロウの間に、真剣な顔のナツメさんが割って入った。

「父さんのケガは、その、アヤカシをなんとかしなくても、治るのか?」

「ふむ、良い質問だな。多分、治らない」

「えええっ!」

 おどろきの声をあげたのは、わたしともえちゃん。ナツメさんは、何だか納得したようなようすで、うつむいた。

「やっぱりな。今朝、すごく痛がって、熱もすごくて、やっぱり店休みにして、今日も病院につれてくって母さんが言ったんだ。そしたら父さん、大丈夫だって怒り出して……怒らなくてもいいのにさ」

「朝のケンカ、その声だったんだ」

 もえちゃんが心配そうな声で言った。もえちゃんが心配になっちゃうくらいだから、きっとすごいけんかだったんだろうな。

「アヤカシの怪異に当てられた人間は、一様いちよう攻撃的こうげきてきになる。そのせいで、いつもより大きな声を出したりするようになる。それに、お前の父親を襲ったアヤカシは、ひどく人を憎んでいる。アイツの攻撃でやられたなら、その恨みが、憎しみがこもっているからな。傷はずっと痛み続ける」

「じゃあ、どうすれば」

 ナツメさんが落ち込んだ声でつぶやく。もえちゃんもうつむいてしまう。


「アヤカシを退治たいじすればいい」


 ヨジロウがドヤ顔で言った。

 もえちゃんとナツメさんが、目を見開いてヨジロウを見た。

 退治たいじって、なにするの?

「俺がついている。アヤカシは必ず退治してみせる」

「ほ、ほんとかよ」

 ナツメさんが一歩前に出たとき、予鈴が鳴った。

「あっ! もう行かなくちゃ」

「詳しくは、放課後だね。ナツメくんも、それでいいよね?」

「ああ。部活は休む」

「なんだ、どうした」

「また授業があるの。ヨジロウはココで待ってるか、スマホに戻って! 授業が終わったら、どこかに集合しよう」

「ならば、となりの神社にしろ」

「へっ?」

 ヨジロウの提案にわたしはおどろいた。学校のとなりにあるけど、初詣でしか行ったことないんだよね。何だか、森の中で、夏でも、日中でも真っ暗で少しこわいし……。

「いいねえ! ついでにおじさんのケガが治りますようにってお参りしていこう!」

 もえちゃんが明るい声で同意した。こわいけど、仕方ない……!

 ヨジロウが、また光る玉になってスマホに戻ったので、わたしたちも教室に戻ることにした。

 うう、放課後、何だか緊張する!

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