図書委員長はイケメン先輩!

 ヨジロウがスマホに戻ってこないまま、給食が終わって、お昼休みになった。

 休み時間のたびにこっそりスマホを見たんだけど、ヨジロウはやっぱりいなくて。

 でもまあ、急に教室にキツネの姿で入ってこられても困るんだけれどね。


「わたし、図書室に本返してくるね!」

 もえちゃんにそう言うと、わたしは教室を出て一人で図書室に行った。

 小さい学校だけど、図書室は結構大きくて、小中合同で使ってるから、部屋の中には小学生も何人かいる。

 本の貸し出しは月水金。中学生と小学生が一緒に図書委員をやっているから、小学校三年生とかの、すごくかわいい図書委員さんに当たることもあるんだよ。

 ちらりと中を見る。明るい色の木材でできた机や椅子、本棚のおかげで、ちょっとだけ、保育園を思い出す雰囲気ふんいき。部屋の中央にはゴロゴロできる小上がりのたたみコーナーがあって、一番窓側いちばんまどぎわは自習席。

 そうっと静かに部屋に入って「返却図書へんきゃくとしょ」と書かれた箱に本を置く。

 本の一番後ろにはさんである、貸し出しカードには、今日の返却日を教室で書いてきたから、置くだけでOK。あとで図書委員さんがカードと中身がちゃんと合ってるか確認してから棚に戻してくれるというシステム。

 ところでこの本、タイトルは「王子さまはネコでした」っていうんだけど、主人公の女の子が助けたネコが、本当は異世界の王子さまで、主人公の女の子が自分の世界と、王子さまの異世界を行ったり来たりして、不思議ふしぎな事件を解決かいけつしていくっていうお話。

 王子さまは、異世界の魔女のわなにかかってネコに変えられて、主人公の世界、つまり現実の世界に飛ばされちゃって、主人公のキスで元の姿にもどるんだけど、この王子さまがめちゃくちゃかっこいいの! 強いし、優しいし、とにかく爽やかだし! 主人公の女の子も、元気いっぱいでかわいいの。

 それでそれで、魔女が現実の世界を支配しようとたくらんで送ってきた悪魔たちが、現実では幽霊みたいになって不思議な事件を起こして、みんなを困らせるの!

 それを解決していく王子さまと主人公を見てると、すごくワクワクするんだあ!

 幽霊はちょっとこわいけど。幽霊とかそういう話は、もえちゃんが大好きなの。この本も、もともとはもえちゃんが借りてて、おもしろいよってすすめてくれたんだ~!

 ちなみにこれは、いわゆるライトノベルってやつね。図書室には昔からあるボロボロのハードカバーの本もあれば、最近のライトノベルも置いてあるの。

 さて、続きを借りて帰ろうかな……とライトノベルの棚に向かう途中、小学生の子たちの声が耳に入った。


「聞いた? 赤ずきんちゃんの幽霊ゆうれいのはなし!」

「やだあ! こわい! なにそれ?」

「オレ、知ってるぜ!」


 ……赤ずきんちゃんの幽霊?

 やだやだ、幽霊とかやめてよ~! でも、赤ずきんちゃんってなんかちょっと、可愛くない?

 四年生くらいかな? 男の子一人と女の子二人の三人組。女の子は片方は興味きょうみしんしんだけど、もう一人はこわくて聞きたくない! って顔をしてる。

「なんかさ、メソメソ泣きながら歩いてるんだってよ! その姿を見たやつは次の日に、なんか悪いことが起こるんだってよ!」

「なあにそれ~、悪いことって何ぃ?」

「けがしたりとか……病気になったりとか?」

「なんだ、よくわかんないんじゃん!」

 興味しんしんな子が、悪いことの具体例ぐたいれいがしっかり出てこなかったことに、つまらなそうな声を出したら、男の子はむっとして、ムキになった。

「見た目だって知ってるんだぜ、オレ! 浴衣ゆかた着てるんだよ! フリフリがついた、ドレスみたいなやつで、いちごのもようが付いてるんだぜ!」

「はあ~?」

 なんだそりゃ! 思わずわたしも女子たちといっしょに「はあ~?」と言いそうになっちゃった。それ幽霊じゃなくて、普通に迷子なんじゃないの? なんかかわいいなあ。何でも変な風に考えちゃうのって。ちっちゃい子って感じで。


「ふふ」

「かわいいよね、小学生って」

「うわあっ!」

 だれっ?

 急に後ろから声をかけられて、つい叫んじゃった!

 声の主は、わたしのすぐとなりに立ってた。

 サラサラの黒髪ショートヘアにメガネ。制服の白いシャツがパリッとしてて、清潔感せいけつかん優等生感ゆうとうせいかんがあふれ出てる。

 わたしより頭ひとつ大きい高さからこっちを見て、さわやかににっこり笑ってる男子生徒……この人たしか、図書委員会の委員長さん。二年生の先輩だったはず。

「しーっ。しずかにね」

 本を片手に、人差し指をくちびるに当てて、ウインクと共に優しく注意された。

 うっ……何だろう、絵になるっていうか、テレビに出てるアイドルみたいな笑顔なんですけど……!

「小学生の子たちも、びっくりしちゃうよ?」

「はっ!」

 先輩の言葉に、うわさ話をしていた子たちを見ると、こっちを見てきょとんとしている。

「あ、ご、ごめんね?」

 小さな声でそっと謝ると、小学生たちはとまどいつつも、ぺこりとわたしに頭を下げてくれた。

「君はたしか、白羽しらはねさんだよね? よく本を借りに来る……」

「あっ、は、はい!」

「ぼくは二年生……こんなちっちゃい学校だから、ぼくの名前も知ってるかな? 立花たちばな紫苑しおん。知ってると思うけど、図書委員で、今日の当番」

「は、はあ」

 うう、先輩と話すのは緊張するよ~。

「白羽さん、もしかしてこれ、探してるんじゃないかと思って」

「え? あっそれ……!」

 先輩が差し出したのは、わたしがさっき返却へんきゃくした「王子さまはネコでした」の、続きの巻。わたしがこれから探しに行こうとしてた本だった。

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