Crossoverな夜に・・・

森沢真美

Crossoverな夜に・・・

Crossoverな夜に・・・

Crossoverな夜に・・・

ピコン・・

以前勤めてた会社の後輩君だった宇垣君からLINEが入った。

と言っても、年に数えるほどしかやり取りが無い。


『何やろ?』

スマホを見ると・・・


宇垣君

“今度ライヴやるので来ませんか?”


私、

“行きたいけど資金が・・ごめんねー”


宇垣君、

“いえ、招待状送るので、是非”


私、

“え、そんなん悪いやん”


宇垣君、

“いえいえ大丈夫です!それとバックステージパスも送りますので、楽屋にも遊びに来て下さい”


私、

“ええっ?ほんまにええの?”


宇垣君、

“大オッケーです”


私、

“じゃあ、お言葉に甘えよかな”


宇垣君、

“ほんまですかっ!あと、お願いがあるんですけど・・”


私、

“何やろ?”


宇垣君、

“あの・・LINEにアップされてた姿で来て欲しいんですけど・・”


私、

“ええ!? あの恰好で?”


宇垣君、

“はい、あきませんか?”


私、

“別にええけど・・”


宇垣君、

“やったー”


私、

“あれはSNOWで盛りまくってて別人になってるんやけど”


宇垣君、

“そんな事無いです。じゃあ送りますので、来て下さいね”


私、

“じゃあ行くから・・”


宇垣君、

“それではー”


一方的に会話は打ち切られてしまった。

承知はしたものの困った、どないしたもんかな・・。


             ・

             ・

             ・

             ・

             ・

悩んでる間に、とうとうライヴ当日が来てしまった。

準備する時間を考えると、もう悩んでる時間が無い。

覚悟を決めて、メイク等の準備をして、アップした写真と同じ姿で出かけた。


『こんな素の姿、絶対に変に思うやろなー。SNOWで盛りまくりとは言え、自身の写真なんてアップするんやなかったな・・。』

そんな後悔の念に駆られながらも、希望通りの姿で出かけてる私っていったい?


自宅から1時間足らずで迷う事も無くライヴハウスに着いた。

もう列が出来てる。

『結構お客さん来てはるんやな-。』

最後列に並んで、暫く待ってると開場した。

小さなライヴハウス。

お客さんは皆、大人の方々ばかりで落ち着いた雰囲気。

私は、目立たないように後ろの方の席に座り、小さくなっていた。

「絶対私が来てるの気付かれないようにせんとっ。」

訳の分からない決意。


暫くすると、メンバーが出てきた。

あ、宇垣君はベースなのか。

そんな事も知らなかった失礼な私。


目立たないようにしていたのに、すぐに宇垣君と目が合ってしまった・・と言うか速攻で宇垣君に発見されてしまった。

こんな後ろに座ってるのに。

笑顔で手を振る宇垣君。

私も思わず笑顔で軽く手を振った。

「は・・恥ずかしいな、もう・・。」


演奏が始まる。

落ち着いたインストゥルメンタルのクロスオーバーなフュージョン・ジャズ。

余り聴かないジャンルだけど、心地良いな。

ベースを弾いてる宇垣君もカッコいいな。


体に響く低音。

心地よいメロディー。

宇垣君を追っていた目は自然に閉じて、曲に酔っていく私。

・・・・。

長い一曲目が終わり、すぐに2曲目が始まる。

ノリの良いグルーヴ感いっぱいの曲。

自然に脚がリズムを取り、体が動く。

他のお客さんも同じ。

そして・・甘メロナンバー。

あ・・あかんやん、こんな曲・・心が蕩けるやん、涙出そう。

耳元では無く心に直接囁いてくるような甘さ。

甘メロに優しく抱かれて・・イッてしまいそう。。


             ・

             ・

             ・

             ・

             ・

アンコールの曲が終わった。

あっという間の一時間半だった。

来て良かったな。

暫く余韻に浸ってたけど、他のお客さんが引けていったので、

私も会場を出た。


『バックステージパスなんてどうしたらええのん、分かれへんやん?教えて貰ろたら良かったな。』

後悔しても始まらない。

ほんの少し悩んで、宇垣君に電話する事にした。

『出てくれるかな・・。』


「はい、宇垣です。美南さんですか?」

早っ!


「うん、美南やけど、バックステージパス、どうしたらええのか分かれ

へんねんけど・・。」

他のお客さんもまだいるので、小さな声で聞いてみた。


「あっ、すみません。お教えしておいたら良かったですね。」

私とは打って変わって、元気いっぱいの声。

『ライヴ終わったとこやのに元気やなー。』


「そんな事は無いんやけど・・。」

まだ私は小さな声。


「今、何処にいてはるんですか。」

やっと普通の音量になった宇垣君。

少し心配そう。


「会場の出入り口のとこにいてるんやけど。」

私も普通の音量で話してた。


「じゃあ、今からそこに行きますから、待ってて下さい!」

うわっ!また大きな声っ!

びっくりするやん。

思わずスマホを耳から離した。


「ありがとう。なら、ここで待ってるから。」

私も大きな声を出しそうになるのを抑えつつ、普通の声で返事をした。


電話を切って、待つ間もなく宇垣君が出入り口から飛び出て来た。

早っ!!


「すみませんー。待ちました?」

申し訳なさそうに頭を掻きながらわびる宇垣君。


「会場出た後、すぐに宇垣君に電話したから、全然待ってへんよ。」

何故か笑顔で応える私。


「あっ、宇垣さんや-。また来ますね-。頑張って下さいねー。」

ファンの何人かが宇垣君に声をかける。

顔には出さないけど、何故か少しムッとなる私。


「ありがとうございます。」

一人一人に丁寧にお礼を言って笑顔で応える宇垣君。

益々、何故か私の心は、ムムムムムーーーーッ!


「人気あるんやね。」

嫌みったらしく言ってしまった。

ああ・・こんな事言うつもり無いのに・・私はダメダメやなぁ。


「そんな事無いですよ。」

さらっと応える宇垣君にも、ムムムッ!


「まんざらでも無いくせにー。」

また嫌みを言ってしまった、嗚呼、私って奴はどうしようもないな。


「そんな事無いですって。そんな事より、早く楽屋に行きましょう。」

そんな私の気持ちを気にするでも無い宇垣君は、そう言うなり私の手を握って楽屋へ歩き始めた。


「え・・あ・・ちょ、ちょっと・・。」

急に手を握られて、不覚にも動揺してしまった。


宇垣君に手を引かれて楽屋に入ると他のメンバーさん達が寛いでた。


「お疲れ様です。」

宇垣君に手を繋がれたまま、ペコリと頭を下げてご挨拶。


「あ、宇垣が帰ってきた。あれ、誰?その人。」

メンバーさんの一人が聞いてきた。


「あーーーーっ!宇垣の彼女かっ!」

別のメンバーさんが叫んだ。

は・・恥ずかしい。


「急に慌てて出て行ったと思たら、彼女が来てたんか。」

また別のメンバーさんが冷やかし始めた。

ううう・・・どうしたら・・恥ずかしいなぁ。

一方で彼女に間違えられてまんざらでも無い気持ちもある。


「彼女とちゃう。」

ええっ!?

速攻で全否定?

何でーーーーっ?

思わず宇垣君の顔を見上げてしまった。

(ちなみに宇垣君の身長は180cmちょっと、私は160cm)


「ほんまに彼女とちゃうのん?」

今度は私に聞いてきた。


「ええ、お友達です。」

なんて答えたら良いのか分からず、思わずそう答えてしまった。

アホアホアホーーー、私のアホーーっ。

ネタにして“彼女DEATHっ!”って答えたら良かったのに-。

いやそんな問題や無かった・・。


「前に働いてた会社の先輩ですよ。」

宇垣君は平然とした顔で、さらりと回答を出してしまった。

いや、その通りなんやけど・・。


「ただの先輩に招待状やらバックステージパス、渡したりするかー。そーれーにー、何でずっと手ぇ繋いでるんや?」

鋭いツッコミ。

メンバーさん全員の“怪しい”って視線が突き刺さる。

これはこれで絶体絶命状態。


「あ・・しゃーから、それは・・。」

繋いでた手を放して、平然としていたのに急にしどろもどろになる宇垣君。

頑張れ、メンバーさん♪

何の応援してるんやろ? 私。


「やっぱり彼女? ああ、お前の片想いかー。なら納得やー。」

おおっ、そんな変化球でツッコミ入れるとは-。

やり手さん♪


「勝手に話作り上げて、納得すなっ!」

平然としていた宇垣君が大きな声を上げた。

いや・・しゃーから・・全否定せんでもええのに。。


「はは・・」

私は苦笑いしか出来ず。(一番情けない奴)


「っちゅーわけで、今日はこれで上がらしてもらうから。」

身支度を始める宇垣君。


「打ち上げはどーするんや?」

メンバーさんが引き留めようとしてる。

私は・・どちらでも・・嘘、宇垣君と二人で話したい。それに、知らない人がいっぱいの中に入るのも苦手。


「今日はパスー。」

そう言いながら、私の元に戻ってきた。


「なんでや?彼女も連れてきたらええやん。」

嬉しいけど、やっぱり・・・。


「彼女とちゃうって言うてんのに。あ、ベースとエフェクターボードは車に積んだままでええから。」

早く楽屋を出ようとしてるのが分かる。

わざわざ、私を楽屋に呼んだのに、彼女にされたのが嫌なんかな。

もしそうならちょっと悲しいな。


「ええっ!ほんまに行くんかー。」

最後の引き留め。


「行きましょー。」

メンバーさんの引き留めの言葉に応えようともせず、促すように私の両肩を両手で軽く押す宇垣君。


その時、差し入れ持ってきたのをすっかり忘れてたのを思い出した。

「え・・あ・・これ、皆さんでどうぞ。」

踵を返して、精一杯の笑顔でメンバーさんの一人に渡した。

個別包装されたクッキーの詰め合わせ。


「え・・そんなん、持って来はらんでも良かったのに・・。」

少し困った顔の宇垣君。

余計な事やったかな。。


「でも、折角やから・・。」

私も少し困り顔。


「ほれ、宇垣は無し。もう行くんやろ。」

メンバーさんが、包装をはがして箱を開け、笑いながら宇垣君にバイバイと手を振る。

二人が気まずくなってるのを和らげてくれてるのが分かる。


「俺も貰うわっ!」

そう言うなり、箱に手をかけ一掴み。

え!?

まさかの暴挙にでるとは、びっくり。


「ああーーーっ!いっぱい取りやがった!。こら!返せー!」

メンバーさんもびっくり。


「返せへんわー。」

先程とは打って変わって悪戯坊主な表情。

私は少しホッとした。


「はは・・・。」

そんなやり取りを見ながら苦笑するしかない私。


「んじゃ、お疲れー。」

また私の両肩に手をかけながら、ドアまで行こうとする宇垣君。


「彼女、またライヴに来てねー。」

メンバーさんが優しい言葉をかけて下さった。

嬉しいな。


「はい、また来ます。」

笑顔で応えた。

本当にまた来たい。


「宇垣は、送り狼になるんやないでー。」

メンバーさんが笑いながら、宇垣君に釘を刺す。

他のメンバーさんも笑い出す。


「な・・なれへんわっ!」

否定しながら照れてるしー。

なんで?


「それじゃ、失礼します。」

宇垣君に背中を押されせかされながら、ご挨拶。


楽屋を出て外に。

「私は打ち上げに参加しても良かったのに。」

宇垣君がバンドメンバーの一員として打ち上げに参加した方が良いのなら、それでも良かった。

でもでも、二人になれたのは嬉しい。


「知らん人だらけの中に入るのは、しんどいでしょ。」

優しい笑顔で答えてくれた。

あ・・・私の事分かってくれてたんや。


「うん・・まあ。」

何故か胸がどきどきする。

この胸の高鳴りは・・・?


「それに、折角来てくれはったのに、放ったらかしは失礼ですし。」

どんどん優しい声に聞こえてくる。

ああああああ・・・。


「ありがとう。」

私を笑わす為に言ってくれたであろう言葉に、はにかみながらお礼を言うことしかできない私。


「いえいえ。お腹空いてません?どこか、食べに行きませんか?」

どきどきしてる私をスルーするように普通に話しかけられた。

あれ?あれ?あれー?

気遣ってくれてたんとちゃうの?

笑わそうとしてくれてたんとちゃうの?

現実に引き戻されてしもた・・。

あれ?


「ええけど。どこ行くん?」

私も普通に応えてしまった。

二人で話が出来るなら、どこでも良いんやけど。


「近くに美味しいお好み焼き屋さんがあるんですよ。そこに行きませんか?」

明るい声で、お店の方に指をさす。


「ええね、そこ行こ♪」

お好み焼きと聞いてテンション上がる私。

ああもう、関西人ってば。。

『もう少しお洒落な飲食店の方が、雰囲気盛り上がるのに-。』

と思いつつも、お好み焼きの魅力には勝てない私♪


2分ほど歩いたら、お店に着いた。

「ここです、入りましょう。」

ドアを開けて宇垣君が先に入る。

後ろから付いてはいる私。

お店に漂う、焼けたお好み焼きソースの匂いが・・・たまらないっ☆

食欲が湧いてくるやん♪


「いらっしゃいませー。お二人ですか? こちらへどうぞ。」

店員さんに案内され席に着く。


席に着いてからメニューを見ていたら、店員さんがお水を持ってやって来た。

「御注文、お決まりですか?」


「んーっと、じゃあ私は、豚玉モダンお願いします。」

お好み焼き屋さんなんて久し振り。

私の大好物を注文。

もうこれは鉄板メニュー、間違いない♪


「あ、僕も同じので。あと、生二つお願いします。」

宇垣君も私と同じのを注文。

嬉しいけど、違うのを注文して二人で分け分けしたかったな・・とも思ってしまった。

・・けど・・生二つって・・嬉しー♪


「かしこまりました。お待ち下さい。」

店員さんが注文をメモして奥へ下がられた。


「少しだけ飲みましょ。」

ニコッとしながらアルコールを勧めてくる宇垣君。


「うん。」

淑やかに答えるものの不安が過ぎる。

女の子やから、女の子やから、女の子やから・・・。


不安とは関係なく店員さんが生ビールを運んできてくれた。

「お待たせしました。生中です。」

テーブルの上に置かれる生・・

“ごくり”・・思わず生唾を飲み込んでしまった。


「それじゃあ」

グラスを持った宇垣君の言葉で私もグラスを持った。


「お疲れ様ー、かんぱーい♪」

二人のグラスが、“カチン”♪

頭を過ぎった不安なんぞ完全に吹き飛んでいた。

“グビグビグビ・・・・”

一気にグラスの半分以上飲み切ってしまった私。

「美味しいーーーーっ☆」

思わず声に出していた。


「何時もながら、いい飲みっぷりですねー。」

グラスの1/3ほど飲んだ宇垣君はニコニコ顔。


「え・・あ・・しまった、女の子やのに、グビグビ飲んでしもた。恥ずかしー。」

宇垣君の言葉で我に返った。

ああああああ・・いつも通りに飲んでしまった・・。

後悔後に経たず。

次は気をつけよう・・きっと、たぶん・・でも、無理な気がしてきた。


「俺は気にしてないから、大丈夫です♪」

笑いながら答える宇垣君。


「そう言う問題やないねんけど。」

ああ、恥ずかしいなあ、もう。


「で、どうでした?ライヴ。」

いきなり話題転換。

でも、そうやんね。気になるやんね。


「うん、凄い良かったよ。来て良かった。ずっと目を閉じて曲に酔ってたもん。」

正直な感想を伝えた。

こう言う感想を真顔で言うのは恥ずかしいな。

でも、ちゃんと伝えたい。


「それは良かったです。それにそんな感想いただけるなんて、嬉しいです。」

グラス片手に、ニコニコして嬉しそうな宇垣君。


「ほんまやもん。」

その笑顔に当てられて胸がきゅっとなる私。

人からこんな笑顔向けられるのなんて久し振り・・だから?


「えと・・でも目を閉じてたと言うことは、俺の演奏姿見てはらなかったとか?・・ですか?」

宇垣君が疑問をぶつけてきた。

そりゃそうだ、目を閉じたままなら彼の演奏は見てない事になるし。


「そんなことあらへんよー、ちゃんと見てたから。カッコ良かった。宇垣君って背が高くて痩せ型やし、ロングネックのベースがよく似合っててカッコ良かったよ。」

ああああ・・こんな感想を臆面も無く言ってしまった自分が恥ずかしい。

本当に思った事だけど・・。


「うわー、そんなに褒められたら恥ずかしいです。」

恥ずかしそうに頭を掻く宇垣君。


「楽器を演奏できる人って凄いなって思うもん。」

本当にそう思う。


「そう言うたら、ベース持ってはりましたよね。」

さらっと過去の恥ずかしい傷を抉られた・・。


「うん、大学時代に買うたんやけど、モノにならへんかった。」

バイトしたお金を貯めて、意気揚々と楽器屋さんへ行って買ったベースだった。

家庭用アンプもエフェクターも2台買った。

でも、結構練習したけど、ダメだった・・。

おまけに体小さいのにロングネックなんて買ったから、手が第一フレットに届かないというお間抜けさ、完全にあほな私。

握力が無いのも致命的だった。


「また練習しはったらええのに。」

またまた、さらっと難易度が超高い事を言ってくる宇垣君。


「無理無理、私には楽器を演奏する才能が皆無やと言うのを悟ったし。しゃーから、ベースも今は狭い自室のインテリアと化してるしー。」

苦笑いし、両手を振りながら無理無理さをアピール。

ほんと、ベースくんには悪い事したなと思ってる。


「はは・・でも、メンテぐらいやったら、いつでもしますから言うて下さいね。」

優しいなあ。

本当に今度ネック調整とか、お願いしようかな。


「うん、ありがとう。」

自然に笑顔になりながら応えた。

ほんと、こんな自然に笑顔になれるのも久し振り。


会話も一段落したところに、店員さんがやって来た。

「お待たせしました、豚玉モダン焼き、二つお持ちしました。」

テーブルの鉄板の上にできたての豚玉モダン焼きが二つ置かれた。

焼けた鉄板の上にソースが落ちて、ジュージューと音を立てて焼け、食欲をそそる匂いが立ちこめる。

口の中に唾液が出てくる。

嗚呼、早よ食べたいー♪


「ありがとうございます。」

店員さんにお礼を言った。


「ありがとう。あと生中、二つ追加お願いします。」

宇垣君もお礼。

そう言えば、二人のグラスはモダン焼きが来る前に空になっていた。

私に聞かずに注文してくれるのは嬉しいな。

『うん、飲む飲むっ!』

とか言うのも、今は避けたいし。


「ありがとうございます。すぐにお持ちしますね。そちらの空のグラス下げますね。」

店員さんが空のグラスを下げてくれ、すぐに追加のグラスを持ってきて下さった。


「さあ、食べましょう。」

宇垣君も待ちきれない様子。


「うん。」

私も、もう待ちきれない。

コテを手にモダン焼きを切り始める。


「あつあつ・・でも凄い美味しい。」

何時もはコテのままで食べるけど、今日はお皿に取って、お箸で頂く。

本当はコテで食べる方が美味しいのだけど・・。

それでも口の中に広がるお好み焼きソースとマヨが混ざり合う味がたまらない。


「でしょー。」

宇垣君はコテのまま食べてる。

ええな、ええな、ええな。

私もしよかな、しよかな・・。

ああ、でも、やっぱり今日は止めておこう・・残念。


「泥ソースも使ってるんかな、ピリ辛で美味しいね。ビールも進むやんー。」

本当に美味しいソース。

確かに粉を溶く時の出汁の加減等も大事やけど、お好み焼きやたこ焼きはソースが決め手!

そう思ってる私にはたまらない。

ほんとにビールが進む♪


「どんどん呑みましょー。」

宇垣君もグラスを手に取り、グビグビ飲んでる。


「そんな酔わせて、どうするつもり?送り狼?」

チラッと探りを入れてみる。

ああ・・何を期待してるんや私はっ☆

まあ、ビールの2~3杯で酔えへんけどぉ。


「何もしませんって。」

何故、また全否定するのん?

そこはそれ、少しは期待を持たせるような言葉が欲しいやんっ☆


「それで・・宇垣君のお願い通りの格好で来たけど・・どう?」

今度は私が、いきなり話題を変えてしまった。

でも、私としては聞いておきたい事。


「え・・あ・・すごく似合ってますよ、可愛いです♪ 」

食べる手が止まり、どぎまぎしてるのが分かる。

答えに困ってるんかな。


「言葉に詰まってるけどぉ。それにSNOWで盛りまくった写真と違うから幻滅したんとちゃう?」

内心不安がいっぱいやけど、悪戯っぽく指摘&思ってる事の核心を突いてみた。

たぶん、幻滅したんやろな・・・。


「ほんまに似合ってます。可愛いです♪ 会場でもすぐに分かりましたし♪」

思いっきりの笑顔で断言。

なんだ、この爽やかな笑顔は。


「え・・・あ・・、な・・なら、信じとこ。」

今度は私がどぎまぎしてしまった。

そんなに広くないハウスやったけど、後ろの席に座ってたのに、ほんとに直ぐに気付いてくれたのは嬉しかった。

ニコニコしながら手を振ってくれたのは恥ずかしかったけど・・。


「それにしても、ほんまに美味しいね、このモダン焼き。」

自分の気持ちを誤魔化す為にまた話をモダン焼きに戻す私。


「此処にして良かったです。」

まだ笑顔の宇垣君。


「あ、またライヴ来て貰えますか? また招待状お送りしますから。」

少々不安げな声で誘ってくれる宇垣君。


「うん、行きたいけど招待状では・・。ちゃんとチケット買って行きたいな。毎回は行かれへんと思うけど、少しずつお金貯めて行きたいな。」

宇垣君の言葉は嬉しいけど、やっぱり毎回、招待状参加じゃ気が引けるし、宇垣君やメンバーさんに申し訳ない。

そう、毎回は行かれへんけど、自分が貯めたお金で参加してまた演奏に酔いたい。


「そうですか・・。美南さんがそう思われるのなら、そうして下さい。また来てくれるの待ってますから。」

宇垣君も私の真意を悟ったのか、静かな声で了承してくれた。

なんだ、今度は落ち着いた大人の顔は。


「うん、それに売り上げに貢献せんとあかんし。」

宇垣君の表情にドキドキしながら、悟られないようにネタ的な事を言ってみる。


「なんですか、それ。」

二人で笑ってしまった。

             ・

             ・

             ・

             ・

             ・

「ありがとうございましたー。」


「ごちそうさまでした。」

お礼を言って店の外に出た。


「ふぅーー、た・・食べ過ぎてもた。」

大きく息を吐きながら、お腹をさすった。

ほんとに食べ過ぎた。

でも美味しかった♪


「モダン焼きの後、二人で一人前とはいえ、大盛りの焼きそば、頼んでしまいましたもんねー。」

宇垣君もお腹をさすりながら、大きく息を吐いていた。

そう、モダン焼きも大きかったのに、食べ終わった後に宇垣君は、大盛り焼きそばと生中を注文したのだった。


「滅茶苦茶、量、多かったやん。美味しかったけど♪」

量が多いと思いつつも、二人でぺろりと平らげてしまった。


「生も三杯目、頼みましたしね。酔いました?」

少し心配そうに私の顔を見ながら聞いてくる宇垣君。


「いやー、あれぐらいじゃほろ酔い気分♪」

ほんまに丁度良い気分♪

ええ、もう、生中の3杯ぐらい平気のへいざ☆


「相変わらずですね♪」

安心した顔の宇垣君。

声も弾んでる。


「しもた・・また、やってしもた。」

反して私は落ち込み中。


「ええやないですか♪」

弾むその声からは本当にそう思ってくれてるのが分かる。

胸がきゅっとなる。

食べ過ぎから来る“胸焼け”やないでー。

             ・

             ・

             ・

             ・

             ・

二人並んで歩く夜の町。

誰もいない静かな道。

ふと会話が途切れた。

立ち止まる宇垣君。


「どしたん?」

顔を上げて宇垣君の顔を見る。

真剣な表情。

どないしたんやろ・・。

そう思った瞬間・・・、

私の両肩を閉店した店のウィンドウに壁ドン。

そして・・顎クイ。


「え?」

声を出した瞬間、不覚にも無意識に目を閉じてしまった。

重なる唇・・

たった数秒間の無重力体験。


「もう・・やっぱり、おくりおおかみぃー。」

ビックリして気が動転してるけど、何とか戯けて見せた。

どきどきどきどきどきどき・・・。


「すみません・・。でも、怒らないんですね。」

キスする前の真剣な表情とは違い、申し訳なさそうに頭を掻きながら詫びる宇垣君。


「怒って欲しいん?」

自分の心を悟られないように、逆に問い返してみる。

イケてる女は、こういう時はポーカーフェイス・・と思い込んでる私。

ほんまは、どきどきどきどきどきどき・・・。


「いや・・そう言うわけでは・・。」

まだ申し訳なさそうな声。

ほんまに怒ってへんのに。


「なら、ええやん♪」

私は笑顔で応える。

でも、ぎこちない笑顔かもー。


宇垣君の顔を見て、ある事に気付いてバッグの中を探る。

「はい、ティッシュ。」

取りだしたポケットティッシュを差し出す。


「え?」

何のことか分からない宇垣君。


「唇・・ルージュ付いてるから。」

もうべったりと私の引いたルージュが付いてる。

そのままにしてたら、キスしたの丸分かりやん。


「あ、すみません。」

そう言うと、私の渡したティッシュで唇を拭き始めた。


「お店出る前に、折角引き直したのにー。」

そう・・お店を出る前に、お手洗いでわざわざ引き直した。

こんな事になるとは思ってなかった・・けど、これはこれで引き直した甲斐があったんかな。


「何度もすみません。」

まだ私が怒ってると勘違いしてる宇垣君。


「それに。」

笑顔の宇垣君に戻って欲しくて、ネタをかます事にした。


「はい?」

次は何を言われるのかと心配そうな宇垣君。


「キスの味がお好みソースって・・それって、どうなん?何の色気も無いしー。」

少しツンデレしてみた。


「重ね重ねすみません・・。」

笑ってくれると思ったのに、益々申し訳なさそうな声と表情になってしまった。

笑ろてほしいのにー。


「ええけど。」

まだツンデレする私。


でも・・・

「あと・・・期待してもええんかな。」

ボソッと呟く。

“デレ”が出てしまった。

キスまでされたんやから聞いておきたい。

拒否されても構わないから・・。


「はいっ!」

急に元気になって即答する宇垣君。


「ほんまに? 私で?」

その返事が信じられなくて、再確認。


「はい、全然問題ないです。」

またまた、元気に即答。


「そう・・なんや。。」

またボソッと呟く。

まだ完全に納得したわけやないけど・・

心の中で何かが弾けた。


「そういう事なんやったら・・・。えいっ!」

思い切って宇垣君に腕組みっ☆


「ええっ!? どないしはったんですか?」

思った通りビックリする宇垣君。


「えとね・・罰。」

甘えてた声で、20cm上の宇垣君の顔を見つめる。


「罰?」

“何の”といった感じの宇垣君。


「キスした罰。」

まだ宇垣君を見つめながら精一杯の笑顔で応える。

でも、ぎこちないかもー。


「全然、罰になってへんのですけど・・。」

照れてる・・。

その答えから、宇垣君は嫌がってないと分かる。

また、どきどきどきどきどきどき・・・。


「それでもええのっ。」

どきどきを感づかれないように、またツンデレってみる。

そして・・宇垣君の腕にしがみつく。


駅に向かって歩く二人。

私の頭の中は

『MtFの私に初彼かーーーーーーっ♪♪』

と手前勝手な妄想を膨らませつつ、心の中で暖かい何かが始まりそうな予感がしていた。




ー終ー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Crossoverな夜に・・・ 森沢真美 @Mami-Morisawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ