第14話 生姜シロップと生姜糖

 生姜の季節がやってきました。

 新生姜と根生姜、両方がお店に並ぶ季節が。


 とあるお正月。仕事で伺った神社で、自分の本職の仕事が終わり、手が空いたのですよ。そこで参集殿の台所付近で裏方のお手伝いをしていたときのこと。宮司さんが満面の笑みで大量の生姜を持ってきて、唐突に言いました。「ジンジャーエール作りましょう! 神社だけに!」

 ……その日は境内でフリーマーケットが開かれており、出展者の農家の方が立派な根生姜をたくさん売っていらっしゃったんですよね。 


 で、そいつぁ誰が作るんだい?


 ってことで、ちょいと台所をお借りして作ることに。

 以前作り方をいくつか試してみたのですが、どれもそれほど出来上がりに大きな差はなかったので、試作のときを思い出しつつ、一番シンプルなものをご紹介しましょうかね。正月のこれはいろいろバタバタだったので。


【材料】

 生姜 好きなだけ

 砂糖 生姜と同じ重量


 生姜はよく洗って泥を落とし、薄切りにします。

 シロップだけが目的なら、スライサーを使ってごく薄の状態にしていいと思います。生姜糖も欲しいなら、包丁で好みの厚さにしておくことをおすすめしますよ。私は厚さ1~2mmくらいにしています。

 生姜の皮は、そのままでも大丈夫。気になるようなら、生姜を切る前にむいてくださいね。皮つきのほうが香りよく仕上がります。特に新生姜。


 切った生姜を鍋(できれば琺瑯ホーロー引き)に入れ、同量の砂糖を混ぜて一時間くらい放置。浸透圧で生姜から水が染み出すのを待ちます。お急ぎの場合は、最初から水を適当に加えてしまっても大丈夫ですよ。火を入れれば生姜から水が出てきますので、加える水は全体が湿る程度、ほんの少しで充分です。

 水が充分染み出したら、中火にかけます。砂糖が溶けるまでは焦げやすいので、木べらなどでしっかりかき混ぜてくださいね。

 砂糖が溶けて沸騰すると、次第にアクが出てきます。そのアクは、だいたいでいいので取り除いてしまいましょう。


 アクがあらかたとれたら、中火で30分くらい煮込みます。ときどきかき混ぜて、とろみを確認することをおすすめしますよ。粘りが強いようでしたら、水気が多く飛んでしまっている可能性大です。火を弱めるなり水を加えるなりして、飴にしないよう気をつけましょう。シロップにするなら、粘り強いものより少々サラッとしているほうが使い勝手が良さそうです。


 煮込みが終わったら、あら熱がとれるまでそのまま放置します。煮物もそうですが、冷めていくときに味は具材に染み込むものなのでね。逆もまた然り。

 そこまで時間に余裕がないぞという場合は、中身をボウルに移して氷水で急速に冷やすのも可。それも無理な場合は、あきらめて熱いまま次の工程に移ります。


 煮汁は空き瓶やペットボトルなどに移します。茶こしを使って、細かい生姜がシロップに入らないようにすると、喉ごしなめらかです。


 残った生姜は、オーブンペーパーなどに広げて少し乾燥させ、グラニュー糖を適当にまぶして全体にまとわせます。それをべたつかない程度まで乾燥させれば、生姜糖のできあがり。

 生姜糖は少々水分を残したほうが食感がいいです。じわっとジューシーな生姜がまたいいのですよ。しっかり乾燥させちゃうとパサッとしますが長持ちするので、料理に使うならそれもよし。生姜チップス感覚でつまむのもなかなかオツです。

 新生姜は少しマイルドな辛味。根生姜は目の覚める辛味がたまらない! 辛味絶佳からみぜっけい。美味ですよ。


 シロップのほうは、そのまま炭酸水で割ってもそれなりに美味しいジンジャーエールになります。

 ただ辛味が物足りないという方もいらっしゃるかもしれませんね。その場合は生姜の他に唐辛子を一緒に入れて煮込むといいかな。クローブなどのスパイスを一緒に煮込む方もいらっしゃるようです。

 それから、できあがったシロップにお好みでレモン汁を加えても美味です。酸味のありそうな香りなのに、酸味がないので物足りなさを感じることがありましてね。新生姜のシロップは特に、レモン汁を入れるとほんのりピンク色になるので、見た目にも美味しいです。


 シンプルなものであれば料理にも使えるので、私は余計なものを加えないシロップにしています。もし別のものを加えるなら、シロップと生姜糖を分けたあとにシロップの一部だけを鍋に戻し、唐辛子やスパイスを加えてしばらく煮出すかな。生姜糖はやはりシンプルなほうが好きなもので。生姜本体を取り出してから、ほかのものを加えたい。


 さてさて、生姜糖。これがシロップ製作実験の副産物として結構大量にできてしまったもので、なかなか消費しきれなくて。生姜焼きや煮魚にも使ったけれど、まだまだ大量に残っていて。

 そこで試作時は仕事場におやつ代わりに持っていきましてね。それが妙に好評でした。試食した方々の奪い合いがはじまり、一瞬にして全部なくなりました! びっくり。

 のみならず、「また作ってきて!」の声が一向に止まず。特に冬場はめちゃくちゃ喜ばれます。


 

 さて、正月の神社のお話。さきほど受け取った生姜を薄切りしてシロップと生姜糖を作りました。同じくお手伝いにきて台所で一部始終を見ていた方々や宮司を含む神社関係者、それから持ってきてくださっていた農家さんにも、できたてで乾燥させていない生姜糖をご試食いただいたんですよ。

 乾燥させていない、じゅわっと口の中で甘みと辛さと香り広がる生姜糖のうまさたるや……1kg以上あった凄まじい量の生姜糖が、あっという間になくなりましたね。「なにこれ! すごくおいしい! 簡単だからこれは私にも作れそう!」と口々に言いながら召し上がってくださったみなさま。

 作り手冥利に尽きる、嬉しい瞬間でした。


 ということで、最初はシロップの副産物だった生姜糖が、今ではすっかり主役の座を奪いましたぞっと。

 頼まれるたびに作っていくと、今度はシロップがどんどん増えていきます。神社なら問題なく数日で飲んじゃうだろうけれど、うちではとても使いきれない量に……。

 そこにタイミングよく「シロップ欲しい!」という友人が現れましてね。お試しにと500mlちょっとをペットボトルに詰めて渡したら、大喜びで持ち帰ってくれました。

 その友人いわく、炭酸もいいけどビール割り最高! だそうです。お酒を飲める方はぜひお試しを。

 友人がママ友さんたちも振る舞ったら、シロップ大絶賛だったそうで。すでに大量おかわりのおねだりが来ております。嬉しい悲鳴。

 しかし友人が欲しがっている量には、在庫だけでは足りません。追加を作るにも、砂糖の値段が上がり、今度は材料費がああぁ……。

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