二つの金平糖

葛西 秋

二つの金平糖

第1話 雲の日の転入生

 私と梨華は友達だ。


 小学校からの友達だから幼なじみといっていいんだと思う。親友という言葉は使いたくない。生きているエリアが違うし。


 梨華は小学校3年生の時、私のクラスに転入してきた。小山さんはお父さんの仕事の関係で今までイギリスに住んでいたの、みんな仲良くしてあげてね、と担任の若い女の先生が紹介したのを覚えている。小山と書きますが読み方はさやまです、という梨華の自己紹介と担任の言葉が逆だな、とも思った。


 なんてことないTシャツとスカートの、どこにでもいる小学生の女の子の服を着て、でも肩まで伸びた髪が真っすぐで、目がぱっちりしていて可愛い子だった。いつもうるさいだけの男子がみょうに静かで、でも女の子たちから見るとちょっと地味に見えて、微妙なとこだな、と思った。クラスに、特にいろいろめんどくさい女の子たちのグループに受け入れてもらえるかどうかが。


 席はあそこに用意してあるわ、と先生が指さして梨華が座るまでの間、私の興味は窓の外に移っていた。すごくきれいな空。青くて、雲がたくさんあって。今度の誕生日、カメラを買ってもらう約束だけど、うちのあの親はほんとうに買ってくれるのだろうか。当時、私の心を占めていたのはその問題だった。


 だから私の隣の席に梨華が座って、今日の空はとてもきれいだよね、って話しかけてきた時、ちょっと驚いた。最初に話しかける相手を間違ってる。梨華の後ろの席で、半分椅子から腰を浮かせて話しかけようとしていた篠原さんが困った顔をしているのが見えた。どうしようかと思って、でも無視するわけにいかないから、梨華への返事は、空っていうより雲がきれい、と、ちょっとぶっきらぼうなものになった。


 今思うとその時の私の態度は、高校生になって急にきらきらしだした梨華に話しかけられた男子と同じようなものだったと思う。

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