第16話

優亜は真姫奈のお小言を華麗にスルーするとホワイトボードにでかでかと文字を書いていく。


「タイトルはズバリ、『青春って誰にでも訪れるって期待していた時期もありました』これで!!」


書かれた文章の難解さに一同は首を傾げた。文章の意味が分からないのではない。優亜の意図が理解できないのだ。


「優亜、ごめんなさい。少し理解する時間をもらえる?1年くらい」


「まきちゃん、それじゃゴールデンウィーク終わっちゃうよー」


真姫奈の渾身のボケとでも受け取ったのか優亜はケラケラと笑っているが、真姫奈は至って真面目なのは見ていればわかる。最早お馴染みとなった噛み合わない二人のやり取り。1年生組は最初の頃、優亜に苦言を呈しイライラを募らせていく真姫奈と叱られてもあっけらかんとしている優亜の様子に喧嘩かと冷や冷やしたものだが1ヶ月も経てば慣れてくるもので、今では景色の一部と化していた。


それはさておき、優亜の提示したゴールデンウィークのテーマ的なものを読み解くには優亜の頭の中をのぞくしかない。 計り知れない優亜の言動は毎度のことだが。


「はぁ、とりあえずどういうことか説明してもらえる?」


疲れた様に溜息をついてから真姫奈は優亜に説明を促した。水と油のようなこの二人がなぜ仲が良いのかは謎だが、真姫奈が苦労しているのはわかった。


「そのままの意味だよ?」


「この中でアレの意味が理解できたって人は手を挙げてもらえる?」


当然手を挙げるものは1人もおらずそれを見た優亜が「えぇー、何でぇ」と不満げな声をあげた。


「青春ってさ。恋とか勉強、スポーツ何でもいいけど自分が頑張ってるときに青春してるなって感じるものじゃん。だから待ってるだけじゃ青春は語れないわけ。だから青春してるって感じられるようにみんなでゴールデンウィークにいっぱい楽しもうってことだよ」


優亜の説明でただの思いつきで書いたと思っていた不可解な文章にそんな真面目な意味が隠されていたという驚愕の事実に閉口する一同。

まわりを見回す優亜に目を合わせてくれる者はおらず、十の視線が泳ぎさまよう。

皆の反応に優亜はむぅーっと頬を膨らませた。


「もしかしてみんな私がふざけてると思ってたでしょー?ひどーい!」


「優亜はいつも説明が足りないのよ。あなたが理解できているからってみんながそうとは限らないでしょ。あなたの思考が読めるわけないのだから」


「えぇー!なんで私おこられてるの!?」


「まぁまぁ。優亜先輩、ゴールデンウィークに賢人会のみんなで活動する理由はわかりました。それで具体的にどんなことをするんですか?」


菫がヒートアップしそうな先輩二人をなんとかなだめ、話の方向性を修正しにかかる。真姫奈もそれを察して大きな大きな溜息をついて不承不承と椅子にもたれかかった。1年と揉め事が苦手な天音はこっそりと胸を撫で下ろした。


「その内容について今から話し合いたいと思います!あっ、その前に」


自ら買ってきたお菓子をテーブルに広げると、もぐもぐとほうばりだした。どこまでもマイペースな優亜の話を真姫奈が引き継いだ。


「はぁ……。それでどんなことをしたいかみんなの意見を聞きたいの。去年は2泊3日でコテージを借りてみんなでバーベキューしたり、川遊びに夜は天体観測もしたわね」


「楽しかったですよね」


「そうそう。だから今年も1年生のみんなにもいっぱい楽しんでほしいな」


余程去年が楽しかったようで天音と菫も今年もイベントができることを心底喜んでいた。1年生組もイベントにはかなり乗り気でいくつか意見が出た。今日ここに来れなかった3人もきっと嫌とは言わないだろう。予定が合うかという心配はあるが強制参加ではないので行けるメンバーでということになる。


菫が出された案をせっせとホワイトボードに書き込んでくれていた。代表の優亜や事実上の補佐役の真姫奈は当然として菫と天音も賢人会の運営に携わっている。円滑なサークル活動のために骨を折る先輩たちには頭が下がる思いである。


「それじゃ今年も2泊3日ということで。やりたいこととか希望がある人は?」


「スパリゾートに行ってみたいです……」


出雲が控えめに手を挙げて恥ずかしそうに呟いたのだ。


「スパリゾートかー。温泉にプール、楽しそう!行くなら新しい水着、買わないと。あっ」


出雲の意見に賛同する姿勢をみせた優亜は水着で何かに気がついたようでニヤニヤと出雲と凛を交互に見て言った。


「いずもちゃんのわがままボディを披露しちゃうってことだよねぇ。りんくんとしぐれくんに、きゃ〜!」


「なっ!!!」


出雲はみるみる赤くなり言葉を詰まらせた。


「にしししっ。りんくんよかったねぇ。わたし、まきちゃん、すみれちゃん、あまねちゃんにいずもちゃんとここにいる5人の水着姿は間違いなく拝めるゼ」


今日集まっている女性陣の名前を指折り数えながら悪戯っぽく笑い、凛を見つめる優亜。

天音は出雲と熟れた林檎のようになっており、菫も浮かべる笑みが何だかぎこちない。真姫奈は憮然としていたが視線が合うと目を逸らされてしまった。何とも居た堪れない気持ちとなる。


「きっとチェルシーちゃんとかほちゃんも脱いだら結構すっごいと思うんだよねぇ。Aは……いないかな。B,C,D,E,Fと、選り取りみどり!これを見放題とはやったな、少年!!」


優亜のサムズアップが何とも憎たらしい。だがここで騒ぎ立てようものならそれこそ優亜の思う壷だ。

そして誰が何とまでは言わないがより一層ザワつく女性陣。


「もう、優亜先輩あんまりからかわないでくださいよ〜」


「そうですよぉ。そんなこと言われたら何だか楽しめなくなっちゃいますよぉ」


ここで何故か追い詰められている凛に追い風が吹いた。いつもは大人しい天音と発端の出雲が抗議の声をあげたのだ。二人から真面目に非難を浴びた優亜は仕方なしに口にチャックをして黙ると

菫と真姫奈の手によって口にガムテープを貼られて完全に発言権を奪われた。


それでも一度芽生えたというか植え付けられた羞恥心というものはそう簡単に消えるわけもなく、凛はこちらに手を振って存在をアピールしてくる優亜以に目を合わせて貰えず何とも居心地の悪い時間を過ごすこととなった。


開き直って性的な眼差しを駆使して穴があくほど見つめてやろうかとも考えたが袋叩きにはあいたくはないのでやめた。それでも刻まれた色は簡単には消せないので悶々とした日々を過ごすことは確定しており、あれがこれなのだ。


(勘弁してくれ………)


心の中でひたすら大きな溜息をついた。

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