第10話

カランと氷の溶ける音が響いた。いつの間にかグラスの中の氷が水へと変わり、中身のウーロン茶も薄い味と色合いになっていた。


先輩たちも何杯かお酒が進んで心が緩み、テンションが上がっていた。それぞれ先輩後輩で距離を縮めつつ

ある。親睦を深めるという新歓の目的は概ね達成されている。

優亜と出雲。真姫奈と時雨。天音とチェルシー。菫と奏鳳。それぞれの組み合せが互いに話題を見つけ、会話が盛り上がっている。

凛も天音・チェルシー組に混ざらせてもらい、ふたりと恋愛の話で、盛り上がっていた。


「先輩もチェルシーも恋愛経験済みかぁ」


恋愛に興味がないわけではない。仲の良い女の子もいた。だが付き合うまでには至らなかったのは、凛が自分の時間を優先していたことが大きい。


「大学で出会いは沢山あるよ」


「賢人会は絶対当たりだよー」


ふたりは自分たちが恋愛対象として見られる可能性を理解してるのだろうか。ふたりにそんな意図はないが、眼中に無いという表れなのかもしれないと思うと凛の心は少し沈んだ。


「……そうだね」


「それでさっきの話に戻るけど誰がって名指しが難しいならどんな感じの女の子がタイプなのかな?」


これは天音からの質問である。具体的な名前を上げるのははばかられるが、これなら凛も答えやすい。


「明るくて、知的な子ですかね。あとは好きな事を共有できたら完璧ですね」


「好きな事を一緒に楽しめる。それって重要だよね。私もその、スポーツも音楽が好きなので一緒に観戦したり、演奏できたら嬉しい」


「ハイッ!私もフットボールなら大好き!向こうでは週末によくパパと試合観戦にいってた」


「「プレミアの試合を生で(ですか)!?」」


「Oh!ふたりともフットボールファンなの?」


「はい、高校までサッカーをしていたの小さい頃から大好きなんです」


「俺は見る専門なんだけど」


「私の名前と同じフットボールチーム。スタンフォード・ブリッジが私のホーム!天音と凛は?」


「決まっているさ。プレミアならオールド・トラフォード、赤い悪魔〈レッド・デビルズ〉一択さ!」


「わっ、私はガナーズのファンです」


「そっかー!皆、敵だね!」


「そうだな。交渉の余地はなしか……。血で血を洗う戦いもやむなし……」


「今年こそCL圏に入ってみせます!負けません!!」


それぞれ愛するクラブを推して止まぬガチ勢が激しく火花を散らす。

近年の成績を見るに3人が推すクラブはどれも挑戦者だ。現在のイングランドサッカーの頂点に君臨する二強。そして、二強や3人の推しともうひとクラブを加えたビック6。そして中堅も侮り難い群雄割拠の様相を呈するプレミアリーグ。

誰もが自分の推すクラブの優勝を夢見るのだ。







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