第11話 ふたつのランドセル(中編)


 食後のデザートタイム。

 今日はカリンの大好きなカップアイスにした。


 ニコニコしながら食べている。


 言うなら今。いましか……ない。


 生唾を飲み込み意を決する。ゴクリ……!


「じ、実は今日な、学校帰りにカリンの友達とバッタリ会ってな。少し話してきたんだ」


「へえ。そうなんだ」


 それはあまりにも気の抜けた返答だった。


 パクッとして、にぱぁ!

 変わらずにカップアイスを頬張っている。


 意を決して話したはずが、以前と以後でなにも変わらない。


 あれれ……。んんん?


「お、おお。陽菜ちゃんと雫ちゃんな。よく話してたろ?」


「……ああ! 懐かしい名前だね。知ってる知ってる」


 そう言うとまたしてもパクッとして、にぱぁ!


 まるでありふれた日常会話をしているような、そんな雰囲気。


 カップアイスに夢中でわかっていないのか。なんにしてもこれは好機。言うなら早いほうがいい。


 “勝手なことして。お兄ちゃんのバカ!”


 これくらいの覚悟はしている。

 さぁ、カリン。俺のことを叱ってくれ。


 お兄ちゃんな、勝手に出過ぎた真似をしちゃったんだ。


 少し早いが最終フェーズ。手紙を渡すとしようか。

 さすがにこれを見れば事の次第に気付くはず……!



「それでな、手紙を預かって来てるんだ」


 カリンに手紙を渡すと、アイスを食べる手を一旦置いた。

 ダイニングテーブルの上に手紙を広げると、カップアイスを頬張りながら眺めた。


「へえ〜。こういうの懐かしいかも。小学生って感じがすごい伝わってくる……! 可愛いなあ」


 スプーンを咥えながら笑みを浮かべた。


 うんうん。と俺も微笑みたいところだが、言っていることが若干おかしい。


 ……若干? いやいや、明らかにおかしい。


 しかもこれでは会話が終わってしまう。……少しだけ、踏み込むか。


「手紙、なんて書いてあるんだ?」


 書いてある内容は知っている。

 早く学校来てね。とか、一緒に遊びたいよ。とかそういう類のことだ。それに絵がいっぱい書いてある。


 言ってしまえば絵ハガキみたいなものだ。


「うーん。学校来いって書いてあるね」


 そう言うとシュンとした。

 

 その顔を見てハッとするも、カリンの視線は手紙からカップアイスへと移り変わっていた。


 どうやら食べ終わってしまったようだ。


 いやいや。まさかな。そんな、まさかな?


 そのシュンはカップアイスの喪失が原因だとでも言うのか……。そんなまさか!


「良かったらお兄ちゃんのも食べるか?」


 一瞬、笑顔が戻った。……あぁ。察し。


「いい。それはお兄ちゃんのだから」


「今日はもう食べれそうになくてな。カリンが食べてくれないとなると、このアイスは……」


「……なら、食べる!」


 笑顔が完全に舞い戻った。


 先ほどまでの話は何処へと。

 パクッとして、にぱぁ! カリンの笑顔がただただ可愛い、食後のひととき。


 それを眺めて俺もホッコリする。


 ……いや。いやいや。


 なにかがおかしい。

 なにかが……違う。


 その“なにか”はひとつやふたつじゃない。


 会話も反応も、全体的におかしなことばかりだった。


 どうしちゃったんだよ……カリン……。


 もう、学校に通っていたことは遠い過去の記憶だとでも言うのかよ……。



 ──……カリンだけがスマホを持っていない。そのことが、脳裏を駆け巡った。

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